警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

健康経営 労災防ぎ、定着につなげる2019.5.21

さまざまな業種で「健康経営」を掲げる企業が増えている。社員の健康を経営資源と捉えて、体調管理や健康づくりを進め、業績や企業価値の向上を目指す取り組みだ。

特に優良な健康経営を実践する企業は、申請に基づき経済産業省と日本健康会議による審査が行われ、年度ごとに「健康経営優良法人」に認定される。今年度の大規模法人部門(サービス業は従業員101人以上、製造業は同301人以上など)で認定されたのは820の法人で、昨年の544法人から1.5倍に増えた。警備会社はALSOK、東洋テックが認定された。

中小規模法人部門(サービス業は同100人以下または資本金5千万円以下など)の認定は2503、警備会社は数社含まれる。昨年の775法人から3倍以上の増加だ。健康経営が普及に向かう背景には、企業が働き方改革の一環として社員の心身を大切にする職場環境をつくり、人材確保と定着につなげる目的がある。

この中小規模法人部門で昨年度と今年度、2年連続して認定を受けたのは、福島県内で地域密着の警備業務を行う「大関警備」(鴫原(しぎはら)和義代表取締役)だ。今年度の申請時の社員は90人。社会保険加入100パーセントを果たしたことをきっかけに、全国健康保険協会(協会けんぽ)福島支部の「健康事業所宣言」に参加して、社員の健康増進に着手した。

同社は、健康診断の結果、高血圧の人が多いこと、血糖値や喫煙率が高いことを“課題”と捉えた。「健康なら長く勤めてもらうことができる。社員の健康維持のために、やれることをやろう」と業務の改善を進めてきた。

年次有給休暇の取得を推進し、通院しやすい環境を整えた。警備員が休暇と健康保険を利用して定期的に通院して血圧の薬を飲むようになり、社内の血圧の平均値は着実に下がった。有休を付与するために人件費の増加額を予算化するとともに、休むことで他の隊員に負担がかからないようシフトの調整を工夫した。

併せて、現任教育では管理栄養士を講師に招き、高血圧・糖尿病対策として食生活の注意点を説明した。コンビニ弁当などが多くなりがちな独身の人には、栄養が偏らない惣菜の選び方をアドバイスしている。元検視官が“喫煙する人の肺はどんな状態か”を解説するなどして、社員に禁煙を促した。「この会社で働いて健康になれた」という感謝の声が寄せられる。

健康経営のメリットとして、社員一人ひとりの健康意識を高めることで長期間の病欠や労災事故のリスクを予防することが挙げられる。警備員が生活習慣病対策や疾病の早期発見に敏感になり、十分な睡眠の確保、規則正しい食事を心掛ける。毎日の体調管理は、事故を招くヒューマンエラー、熱中症を防ぐ上で欠かすことはできない。

健康面でのサポートは、働く人を大事にする経営者の思いを具現化するものだ。警備員の心身の健康維持、処遇改善、より良い職場環境づくりを同時に進めることは、求職者や顧客に対するイメージアップにもつながる。

警備業界は、最新技術を取り入れて進化を続け、大規模警備はもとより交通誘導警備、万引対策などにもAI導入の動きが広がっている。同時に、これまで以上に警備員を大切にする取り組みの実践も広げていく時だ。 

【都築孝史】

令和元年 業界の新時代築く好機2019.5.1

「令和」の幕が開いた。改元の持つ意味を一面観で言わせてもらうなら、それは、歴史を区切って凝縮、次代を予見するとき、実に役に立つものだと感じ入っている。

元号が改まった今日、節目を刻んだ新しい時代を迎え、これから警備業はどのような道を歩むのか。思いを巡らせた。

昭和はさらに遠くなった。高度経済成長の途上にあった39年秋のこと、日本は「東京五輪」で沸き立った。

会社を設立して間もない日本警備保障(現セコム)は100人そこそこの人員で選手村などを警備した。

以来、平成の「冬の長野」を挟んで、来年は2度目となる夏の五輪の開催だ。警備員総数は1万4000人を見込む。導入される機材は警戒監視のドローン、人工知能(AI)を利用した手荷物検査機など最新のセキュリティ機器が目白押しだ。隔世の感、ひとしおである。

警備業の最新の概況を記したい。警備会社は9548社、警備員数は55万2405人、売上高の総額は3兆4761億円(警察庁まとめ)。警備業界は昭和、平成の歳月を経て、かくも一大発展を遂げたのだ。

令和の五輪とパラリンピックは、2つの時代のそれとは比べるべくもないスケールで展開される。警備業界は進化した証を内外に示して「日本の警備業ここにあり」を発信する好機と捉えなければならない。

「4年に一度」ではない。「一生に一度」と言ってよい東京五輪の大舞台は、警備業界にとって更なる飛躍を遂げる千載一遇のステージなのである。「令和の時代」は、そのスタート地点において、五輪とパラリンピックの警備という格好の舞台が巡ってきたのだ。

心通わせ課題の克服を

その一方で気になることがある。五輪警備に参画しない警備会社は、どんな思いでいるのか。とりわけ、警備員数が20人に満たない小規模会社である。その数は5092社、全体の53.3パーセントを占める。推察するのは容易い。「自分たちには全く関係のない別世界の出来事」であろう。

全警協は昨年、適正取引の推進に向けた「自主行動計画」を策定した。その中で7つの項目を列挙して現状の問題点を掲げた。人手不足・有効求人倍率が高い。給与額が低い。労働災害が減少しない。社保の加入率が低い。イメージが悪い。定着率が低い。労働時間が長い――である。

改善を促す先には、すべてとは言わないが、小規模警備会社が多くを占めていたことは明らかだ。年月を積み重ねても、旧態依然として変わらないもの。それは遅々として進展しない「処遇の改善」、すなわち「警備員ファースト」への意識改革の低さである。

大会組織委は五輪警備のJV方式を取り入れた時給額を3440円に設定しているという。小規模経営者にとっては、まさしく高嶺の花に違いない。しかし、長い目で見れば、徐々にではあるが、全国の警備料金のアップに波及効果をあらわすのではないか。

新時代の一大イベントを契機として、自ら課題克服のテーマを見出し、業界の一員として心を通わせることだ。その先にこそ、健全な警備業の姿が見えてくる。ただし、7つの課題が解決されたのち、という条件が付く。

知恵と工夫の改革をないがしろにして、我関せずでいる限り、令和の時代は、深刻な人手不足に代表される苦難の道が続くのではないか。自分のことだけを考える者は、やがては自分を滅ぼすことになる。

【六車 護】