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視点

死亡労災2023.08.21

「情報」「適切な対策」共有を

警備員が犠牲になる労働災害が後を絶たない。厚生労働省の速報では、警備業の労災死者が今年1月から6月までの半年間で8人となっている。だが、6月以降、後退してきたダンプカーやトラックなどの車両と警備員が接触する事故が鳥取、岩手、神奈川、東京、北海道で相次いで発生し、少なくとも5人が亡くなるという危機的な状況だ。

2022年の全業種における労災死者数は、過去最少の774人(前年比4人減、コロナ関連を除く)だった。一方、警備業の労災死者数は25人で21年と同数。また、今年6月末時点の8人は、前年同月より2人多い。

なぜ、後退車両と警備員の接触という類似の事故が相次ぐのか。安全対策は適切だったのか、他地域で発生した情報を共有していないのか、構造的な問題が別にあったのか、疑問は尽きない。

労働災害の教訓として知られている「ハインリッヒの法則」では、表面化した1件の重大な労働災害の背後には、多数の軽微な事象が起きているという。具体的には、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故、300件の事故に至らない“ヒヤリハット”が潜んでいるとされる。膨大な事例の蓄積によって導き出された経験則だ。この法則の要諦は、日ごろ身近で起きている300の異常を軽視せず、情報を把握し、適切な対策を講じて共有していくことだ。

一方、7月1日から7日は全国安全週間で、全国警備業協会も同月6日に「警備業全国安全衛生大会」を開いた。中山泰男会長が「憂慮すべき状況」と警鐘を鳴らした。その4日後、北海道で今年3度目となる後退車両と警備員の接触による死亡事故が発生した。北海道では「死亡労災撲滅緊急決起集会」(5面参照)が開かれたが、類似事故の情報が現場に浸透していれば、再発は防げたのではないかと悔やまれる。

全警協の大会宣言の一節には <死亡事故、重篤事故の多くが暴走車両に突入されるなど警備員に回避を期待する事が困難な事故であるが、反面周囲の警戒、観察の不徹底などに起因する事故もあり、経営幹部や警備員の努力によって回避可能な事故も少なくない> とあるが、最近発生した死亡事故の大半は「暴走車両の突入」ではない。だとすれば「経営幹部や警備員の努力で回避可能」な事故だったのではないか。

事故発生の“スキ”を作らないためにはまず、毎朝の送り出しでの注意喚起による情報共有はもちろん、工事現場での運転者や作業関係者との対話といった基本の徹底が肝要だ。警備業界単独ではなく、建設・運輸など関係業界と共同で安全対策に取り組む必要もあるのではないか。各警備員からその日起きた“ヒヤリハット”を報告させ、重大事故のシグナルを共有することも対策となる。

現場の人手不足が深刻化する中、労災を減らすことは、生活安全産業である警備業の社会的な信頼向上の観点からも重要な課題だ。AIを活用した交通誘導警備を導入すれば一定の省人化や安全性向上につながるが、「安全対策は機械任せでよい」とか「警備員をさらに減らすことができる」といった便法に使われて警備業界が衰退すれば本末転倒だ。

人が資源の警備業の経営者には、賃金の引き上げと並行して、警備員の安全に要する代価も警備料金に計上し、魅力的な業界を実現してほしい。

【木村啓司】

警備概況2023.08.01

警備員8千人減の意味

警備員8000人減少――。警察庁が公表した2022年12月末現在の「警備業概況」で、警備業のショッキングな現状が明らかとなった。

警備の現場でも目覚ましい技術革新が見られるが、最後の拠り所は「人」。それを支える警備員の減少は、今後の警備業の発展に暗い影を落とす。

全国の警備員数は20年から3年連続で58万人を上回ったものの、22年の前年比約8000人減は、過去20年間で最大の落ち込みだ。

一方で、警備会社は前年より165社増の1万524社。過去最多を更新した。今後、警備各社の人材獲得競争にも一層の拍車がかかることが予想される。

警備員減少の波紋は広がっている。

7月21日に開かれた近畿地区警備業協会連合会の総会で、宇多雅詩会長(京都警協会長)は「ここ数年、コロナ禍でさえ警備員数は増え続けていた。減少に転じたことは少なからず問題をはらんでいる」と指摘。続けて「社会全体で労働力不足の中、警備員が減少したことは、働く人が就職先として警備業を選ばない、選ばれない業種になっている」と厳しい見方を示した。

特に再来年、大阪・関西万博を控える近畿地区では今後、会場整備に伴う交通誘導警備、開催期間中はパビリオンの施設警備や主要交通拠点での交通誘導警備など警備需要増大が見込まれる。

21年に開催された東京五輪を控えた19年は前年比で警備員が1万6000人、20年は同1万7000人増加していただけに、近畿地区の警備業界の悩みも深刻だ。万博では全国の警備業からの支援もあるだろうが、近畿2府4県の警備業への期待と、担う役割は大きい。その期待に応えられなければ、警備業の存在価値が問われかねない。

急ごう処遇改善

警備員減少の理由は、宇多会長が指摘するように「働く人が警備業を選ばない」「警備業が選ばれない業種になりつつある」――に尽きる。その背景にあるのが警備員の処遇の問題だ。

全国警備業協会の中山泰男会長が、会合で繰り返す「警備業の平均賃金が145職種中135番目から140番目に下がった」が、それを物語っている。

警備員の処遇改善の原資となる適正警備料金をめぐっては、政府による中小企業の価格転嫁推奨や「価格交渉月間」の制定、全警協など業界団体が作成した「自主行動計画」の支援など、心強い追い風がある。全国の警備業経営者には、これら“ツール”を駆使して警備員の賃上げや処遇改善に取り組んでほしい。

一方で、警備業概況によれば、警備員数50人未満の警備会社は全体の約8割、100人未満は約9割。これら中小警備会社による取引先との価格交渉が、いかに困難かは想像に難くない。全警協や都道府県警備業協会による積極的な警備業取引先団体への働き掛けは欠かせない。

「景気が悪くなれば、いずれ警備員は増える」との意見もあるが、警備業の現状を俯瞰するに、今回の警備員数減少を「一時的な現象」と楽観視はできない。全警協・中山会長指摘の「今後数年もしくは2〜3年の間に手を打たなければ手遅れになる」が現実のものとなろうとしている。

【休徳克幸】