警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

最低賃金2021.05.21

本腰で「料金値上げ」へ

間もなく厚生労働省の審議会で今年の最低賃金(時給)をいくらにするかの議論が始まる。政権は昨年とは打って変わって「引き上げ」の意思を固めた。警備業界は最賃引き上げを人材獲得のテコとし、賃上げ原資に不可欠な料金の値上げ要請を本腰で行うことが求められる。

「コロナ禍」で経済危機に見舞われた昨年のように、政権が「据え置き」ムードに陥らない理由は衆院選だ。今春の国政選挙で政権与党は3連敗したため巻き返しに出るのは必至。コロナ疲れの国民感情に「最賃引き上げ」成果をアピールするに違いない。

最賃は一人でも人を雇う事業者に義務付けられた法定の金額で、1円でも下回れば法違反だ。50万円以下の罰金もあるため、企業としては金額をチェックすることが欠かせない。現在の全国平均は902円で、東京(1013円)と神奈川(1012円)はすでに「1000円」に乗せた。「もう十分」との声がある一方、OECDの最賃導入29カ国中25位というデータもある。

現在の水準を当てはめた場合、最も高い東京でも1日8時間、月21日の稼働で1か月の手取りはわずか13、4万円。年換算で200万円にも届かず、そのような低賃金で質の高い労働など求められるはずがない。

企業も可能な範囲の賃上げで働き手に報いたいが、そのために欠かせないのが収益を増やすこと。それが大前提でなければ他産業との人材獲得競争を勝ち抜くのは難しいだろう。

法で支払いが義務付けられた最賃の場合、上昇したコストを賄うための経営手腕が問われる。警備業で言えば、長らく「不可欠」と位置付けられながら、業界全体としてはなかなか実を結ばない「料金値上げ」の一点に尽きよう。

「特定最賃」という制度

料金の値上げを求めても、「他社に発注するよ」と言われてしまえばそれまでだ。だがそこで諦めてしまっていては、よほど景気が好転するような収益環境の改善がなければ一歩も前に進めないことになる。

そこで、あまり知られていない「特定最賃」という制度を知っておいても損はない。

毎年、原則として引き上げられる一般的な最賃が「お上が決めるもの」であるのが実態だとすれば、特定地域の特定の業界が自発的・主体的に設定するのが特定最賃。設定することに賛同する業界労使を一定数獲得し、行政の認定を受ける必要があるなど手間のかかる制度ではある。しかし、いざ設定できれば人材獲得面で他業種より優位に立てるツールでもあるのだ。

通常の最賃より高いことが特定最賃を設定する条件で、高く設定する分にはいくら高くても構わない。同じ地域の同じ業界に「これより安い時給の会社はない」ことを示す金額が特定最賃であり、「攻めの最賃」とも言える。一般の最賃より金額面で優れていることを求職者にアピールできる点がメリットだが、その状態を保ち続ける努力もいる。

現在、全国で230件ほど特定最賃は設定されている。機械金属系の製造業に多い一方、警備業はまだ一つもない。人材が集う魅力的な業界を作り上げていくために、特定最賃のような制度の活用も考えるべきだ。

【福本晃士】

女性活躍2021.05.01

〝働きやすさ〟整えよう

「女性活躍」を掲げる警備会社の取り組みが広がっている。女性の採用拡大や管理職登用、雇用環境の整備などを進めるものだ。

女性活躍推進法に基づいて企業には「一般事業主行動計画」の策定が義務付けられている。社員数301人以上の企業は、女性活躍に向けた取り組み目標や期間などを労働局へ届け出なければならない。来年4月からは101人以上の企業も対象となる(現行は努力義務)。企業それぞれの目標、どのような方法で取り組むかが問われる。

本紙調べ(2月21日号既報)によると、今春入社の新卒女性は、セコムが120人で新卒者の3割を占めた。ALSOKは前年より43人増えて144人、セノンは男性の1.5倍で150人を数える。労働力の確保と合わせ、女性の感性を企業の成長戦略に取り込み、女性の活躍を促すことが目的だ。

警備業で女性の職域は、女性客の手荷物検査や身体検査を行う空港の保安警備に加えて機械警備、貴重品運搬警備にも広がりつつある。

さらに女性活躍を進める上で定着促進が求められる。「警備業の概況(2019年12月末)」によれば、女性警備員は全体の6.5パーセントで3万6973人。このうち「30歳未満」は1万383人を数える。しかし「30〜39歳」は4931人で、30歳未満の半数に満たない。一方、男性の30〜39歳は、30歳未満より約8000人多い5万4614人だ。結婚や出産、子育てを迎えた時期に警備業から離れていく女性の多さが読み取れる。

子育て中の女性のための企業の環境整備としては、短時間勤務制度の導入がある。就学前や小学校低学年の子供を育てている社員の勤務時間を短縮することで、仕事と家庭の両立を支援するものだ。子供の誕生日に特別休暇を付与して社員と家族を気遣う警備会社もある。

三沢警備保障(青森県三沢市、佐々木仁社長)は、出産や育児に対応できるよう社内に相談窓口を置いた。社員130人で女性は15人、うち10人が施設警備や交通誘導警備に従事する。女性社員のために設置した窓口だが、最初の相談者は、貴重品運搬警備を行う30代の男性社員だった。半年後に3人目の子供が生まれ、妻に負担がかかることから2か月間の育児休暇を希望した。中途採用した社員を配属して勤務シフトを調整し、男性はこの4月から休暇を取得している。

佐々木文仁副社長は「子育てや介護などを抱える社員のため、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を図る取り組みが大切と考えます。男性の積極的な育児参加が求められる時代に、社員も家族も安心できる職場環境づくりを進めていきたい」と語った。

女性が長く働き続けることのできる環境を整えることは、男性にとっても働きやすい環境づくりとなる。それは自社への愛着や業務に対する一層の意欲向上、定着促進に結び付くに違いない。

顧客のニーズは多様化し、安全の確保とともにソフトできめ細かい対応が求められる。老若男女に接する警備に女性の目線を生かし、顧客満足をより高めていくことが必要になる。“男性も女性も活躍する警備業”を推進する時だ。

【都築孝史】