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視点

SDGs2020.09.21

社会貢献が事業発展に

地球環境を守り、貧困をなくし、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにする――。これらを含めた17の目標を2030年までに達成して、存在し続けられる社会をつくろうと呼び掛けた「持続可能な開発目標」(SDGs=Sustainable Development Goals)が国連総会で加盟国の全会一致により採択されたのは5年前の9月25日だ。今年、わが国ではコロナ禍が経済に打撃を与えた。企業は健全な社会があってこそ事業を行うことができると実感させられ、改めてSDGsに注目している。

日本では2016年5月、首相官邸に全国務大臣を構成員とする推進本部が置かれ、官庁横断で取り組みを開始。防災の国際会議を日本で開き震災などの経験を伝えたり、途上国での女性教育支援を行うなどしている。経済界では各業界を代表するような大手企業が趣旨に賛同し、現在では規模の大小を問わず多くの企業が目標達成に向けて活動している。警備業ではセコムとALSOKがいち早く経営方針に採り入れた。

中小・小規模の警備会社からは「この活動は大切なことだと思うが、どのように行動すればいいのか分からない」や「新たな取り組みを始めるための資金や人の余裕がない」といった声が聞こえるが、難しく考える必要はない。

例えばALSOKは信頼される警備サービスを提供することがSDGsの目標である「平和と公正をすべての人に」や「住み続けられるまちづくりを」に結び付くとしている。日常の事業を行うことが、より良い社会づくりにつながるという考えだ。この考え方は全ての警備会社に当てはまるため、規模の大小に関わらず無理なく取り組むことができる。警備業協会や防犯協会のメンバーとして各社が参加している防犯パトロールや子供の見守り活動も、同様に当てはまるだろう。

SDGsに取り組むことは社会全体のためだけではなく、直接的に自社の経営を助けることにもなる。環境省は今年2月に公表した企業向けの手引書「持続可能な開発目標活用ガイド」(第2版)で、目標達成に向けて取り組むことは生存戦略になると説明している。銀行がSDGsに取り組む企業向けに融資や私募債の引き受けを行っている例を紹介した。私募債引き受けは都市銀行から地方銀行、さらには信用金庫まで広く行っており、長崎県大村市の中央綜合警備保障や仙台市のブルースカイなどで実行されている。

投資の判断基準に

手引書では「環境課題や社会課題に配慮していないと儲けられない、そんな時代が来ようとしている」とまで述べている。いずれは取り組み内容が官公庁への入札や企業間取引における判断材料として重視されるかもしれない。すでに年金の資産運用団体は投資先を選ぶ際の重要な判断基準にしている。

警備業各社は従業員に事業がどのように社会に貢献するかを理解してもらうためや、金融機関に説明できるように、自らの事業活動がどのようにSDGsに結び付くのかを書類にまとめておくことが望ましい。

事業を通じて社会に貢献しながら発展を続ける。そんな企業は世の中から必要とされ、存在し続けるだろう。そのための手段としてSDGsに取り組んでほしい。 

【長嶺義隆】

同一労働同一賃金2020.09.11

待遇整備は急務だ

最高裁は今月、正社員とアルバイトなど非正規社員との“不合理”な待遇差についての判断を示す。雇用形態を理由とした、年末年始勤務手当や夏期・冬期休暇、賞与、退職金など多岐にわたる待遇差の是正を求めた5件の訴訟への対応である。2審の高裁判決を見直すための手続きとして行う「弁論」を開く。

雇用形態による不合理な待遇差解消を目指す「同一労働同一賃金」を定めたパートタイム・有期雇用労働法。同法の施行に当たり厚生労働省は、不合理な待遇差についての考え方や事例をガイドラインで示した。しかし、各種待遇に対する考え方は企業によりさまざまで、待遇差の是非についての最終的な判断は司法の場に委ねるとしている。最高裁による新たな司法判断は、4月から大企業に、来春からは中小企業にも適用される同一労働同一賃金にも大きな影響を及ぼすことが予想される。

警備業にとっても他人事ではない。

受注産業であり、しかも時季によって業務の繁閑が大きい警備業では、年度末など一時的な業務量の増大にアルバイトなど多くの非正規雇用の警備員で対応してきた。今も全国で多くのアルバイト警備員が会社の貴重な戦力として活躍している。そればかりか、今後もコロナ禍により他業種で失職・収入減となった人をはじめ、厚労省の「副業・兼業」の普及促進や年金受給年齢引き上げなどにより、アルバイト警備員の増加が見込まれる。受け入れのための待遇整備は急務だ。

パートタイム・有期雇用労働法には、労働基準法のような懲役や罰金などの罰則はない。しかし、待遇差が不合理と判断された場合には、その部分の労働条件の定めは無効となる。加えて“不法行為”として正社員との待遇の差額を損害賠償請求される可能性もある。資格手当や通勤手当、賞与などアルバイト警備員と正社員警備員との不合理な待遇差の解消は待ったなしなのだ。

働き方改革の最終段階

今回の最高裁判断で改めて注目されつつある同一労働同一賃金は、既に全ての企業への適用が行われている「時間外労働(残業)の上限規制」や「年次有給休暇の5日間取得(付与)義務」など一連の「働き方改革」の一環でもある。同改革の目的は、急速に進む労働人口減少への対応に他ならない。いずれも企業には大きな負担を強いるが、国は企業に“生産性向上”の実現で乗り切ることを求めている。

生産性向上を後押しする警備機器の進展は目覚ましい。しかし、依然として労働集約型産業としてマンパワーに頼らざるを得ないのが警備業の現状である以上、働き方改革は今も、これからも避けて通れない課題である。

コロナ禍により、ひと頃の人手不足は落ち着いているが、ひとたびコロナが収束すれば人手不足が再燃することは容易に想像がつく。その時に全国のアルバイト警備員が、会社や警備業界に愛想を尽かすことがないよう、今から対策を講じていく必要がある。

働き方改革は魅力ある会社や業界づくりでもある。残業の上限規制や年休取得(付与)義務などと同様に、同一労働同一賃金への早急な取り組みが求められている。

【休徳克幸】

防災の日2020.9.1

「複眼」で幅広い検討を

新型コロナウイルスとの戦いは先の見えない長期戦――異常な事態が常態化する中、だれもが一様に抱く思いではないか。

そもそも、このウイルス、未だにはっきりとした正体がわからない。門外漢の私など、目に見えないところで姿を変え、人類をあざ笑うかのように変幻自在に進化しているのではないかと懐疑する。

果たして、コロナ禍の終止符は、いつ打たれるのだろう。その日は、新しい特効薬とワクチンを開発して普及させるまで待たなければならないのか。世界の感染症研究者が英知を結集、この戦いに勝利するときが一日でも早いことを祈る日々である。

このところ少しではあるが、日差しの強さが弱まり季節の変り目を感じさせる。秋の訪れは台風シーズンの到来でもある。猛暑の一難が去ってまた一難。心配されるのは、コロナ禍が続く中での大雨風水害の発生であろう。

河川の氾濫と浸水、土砂災害などで、危険地域からの避難を余儀なくされた人々が向かう避難先での新型コロナウイルスの集団感染が危惧される。避難所はパニックに陥るだろうことは想像に難くない。

各地の行政組織は、コロナ禍で避難所の過密がもたらす衛生面や防犯面での不安など、避難居住環境の改善に取り組んでいるようだ。しかしながら、今回のコロナ危機下での防災対策の難しさは、前例のない状況で対応を迫られるところにある。

警備業の災害支援について小紙は、先号の「特集ワイド」で防犯パトロールなどの支援活動、行政組織と結んだ支援協定を《警備業の支援の歩み》としてまとめた。今では、全国すべての協会が協定を締結し、活動はボランティアから有償へと広がりをみせている。

さらに近年は、協定を見直す動きもある。警備業務の従事場所を災害発生の事情に応じて指定するのもその一つ。さらに警備員の配置について検定資格者を明記、行政組織との役割分担、補償内容の明確化などを検討している。いずれも現実的で具体的な対応へ向けての取り組みだ。

「コロナ後」を見据えて

これまで警備業の災害支援は、寸断された道路での交通規制、災害発生地の防犯パトロールなどを担ってきた。これらの業務は、ことが起こった後の対応であり、ややもすると、警察、消防、自衛隊による災害活動の補助的な役割だった。

これからの警備業の災害支援は、被害を最小限に止める「防災支援」全般への参画が求められる時代を迎えたように思われる。行政組織と速やかに連絡が可能な体制を整え、一致協力した機動性を備えた活動だ。

例えばの話、「想定外」の大雨の中、避難所への誘導と安全を確保する避難所警備の緊急要請がなされるかもしれない。

求められるのは、前例にこだわることなく、多様な視点、言い換えるなら『複眼』の発想で広く検討し、出来ることから実行する準備をしておくことであろう。警備員の安全が最優先事項であることは言うまでもない。

警備業は社会に不可欠なエッセンシャルワーカーとしての地歩を確かなものにしなければならない。「備えあれば憂いなし」、そんな状況をみんなで知恵を絞って構築していきたい。

そこで発案され、実行された取り組みの経験は、きっと「コロナ後」にも活用できるだろう。

【六車 護】