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視点

社会保険2019.11.21

適用企業拡大に備える

検定資格を持たない交通誘導警備員の社会保険への加入率は58パーセント――。これは国土交通省が昨年10月、公共事業労務費調査の際に実施した、雇用・健康・厚生年金の3保険全てに加入する労働者個人単位の加入状況だ。

検定合格警備員は86パーセントと、労務費調査対象の全職種平均87パーセントとほぼ肩を並べたが、検定資格を持たない警備員の加入率は全職種中で最低だった。

「検定資格を持たない警備員は、短時間しか働かない人や70歳以上など厚生年金などの社会保険加入の必要のない人が多い」という見方もある。それを割り引いても、この「58パーセント」という数字を目の当たりにすると、警備業の社保加入は“道半ば”と感じてしまうのは筆者だけではないだろう。税金を原資とする公共工事で、無保険の多くの警備員が働いていることを社会はどう見るだろうか。

「平成29年問題」などと言われた、国交省からの社保加入への強い要請。建設業に端を発した同問題は、特に公共工事に携わる警備業にも深刻な課題として突き付けられた。全国警備業協会をはじめとする業界を挙げた取り組みが行われたのは記憶に新しい。

国交省は一方で、社保加入促進と同時に公共工事設計労務単価を大幅に引き上げてきた。社保加入の原資とするためだ。

多くの下請け建設会社は、元請け建設会社(ゼネコン)との交渉の末に工事請負代金のアップを勝ち取り、高い社保加入率を実現しつつある。全国には、この潮流と深刻な警備員不足を背景に、社保の原資となる「適正な警備料金」を手にした警備会社も多い。

「社保の要らないアルバイトや高齢者」で仕事が成り立っていた時代は、とうの昔に終わったことを、経営者は再認識しなければならない。

料金値上げに追い風

社保を巡っては、新たな動きも見られる。政府による社保適用企業の拡大方針だ。

現在、週20時間以上働いて月額約9万円以上の収入のある人などで社保加入が義務付けられているのは、501人以上の大企業で働く人のみ。この企業規模を50人程度まで拡大しようという議論が始まった。

中小企業が大半を占める警備業では、現行制度によって社保加入が適用除外となっている相当数の警備員が存在する。いずれ、これら警備員を社保に加入させることが中小警備会社には義務付けられる。立入調査など厚生年金の徴収事務を行う日本年金機構の権限強化は、これより先に行われる。

社保適用の拡大は、企業には保険料負担増をもたらす。一方で、働く人には老後の生活の安定、求職者には「人を大切にする会社」をアピールする。

社保を企業発展のための“必要経費”と捉えて積極的な取り組みを行うのか、単なる経営コストと見るのか――。その取るべき道は、これまで地道に社保に取り組み、多くの優秀な人材を獲得して社業を発展させてきた多くの会社を見れば一目瞭然だ。

幸いにも今春からスタートした働き方改革や全業種に共通する人手不足は、社保加入の原資となる料金値上げのための“追い風”となっている。

近い将来やって来る社保の新たな波。その備えを急がなければならない。

【休徳克幸】

災害列島2019.11.11

警備員の安全、再優先に

東日本を襲った2つの台風は、大きな爪痕を残した。

台風15号は、9月9日に東京湾を抜けて千葉市に上陸し、1都6県に甚大な被害をもたらした。1か月後の10月12日には、伊豆半島に上陸した19号が大型で猛烈な勢力を保ったまま北上。関東・甲信・東北地方に記録的な豪雨災害を起こし、71河川の堤防が決壊、90人もの尊い命が失われた。

昨年は、7月に西日本を中心に記録的な大雨を降らせた「平成30年豪雨」があった。岡山県内で車両規制業務中の警備員2人が増水した濁流に呑まれ命を落としたことは、まだ記憶に新しい。さらに、6月に大阪府北部、9月には北海道胆振東部で震災が発生し、大きな被害が出た。大規模な自然災害は、日本のどこで起こるか予測が難しく、まさしく“災害列島・日本”といえる。

台風や活発な前線によって風雨が強まることで、通常では起こり得ない事故が発生しやすくなる。今年8月には、滋賀県内の大型量販店で、警備員が台風による強風のため突然閉まったドアに指をはさまれ大ケガを負った。女性警備員が空港で風にあおられ、転倒して後頭部を打つ事故も発生している。 

全国警備業協会が加盟会員を対象に行った2018年度の労働災害実態調査で、事故件数・被災者数とも過去最多との結果が出た。経営者はこの事実を肝に銘じ、今まで以上に警備員の安全を最優先に考えてもらいたい。

経営者は、警備現場ごとに起こる可能性がある事態を想定し、前もって警備員に注意を促すことが求められる。悪天候により警備員自身に危険が及ぶと判断した際には直ちに業務を中断し、安全な場所に避難することを周知する。こうした緊急時の対処に関してはあらかじめ契約書の中に明示し、発注元の理解を得ておく必要がある。

警備員の安全のために、最新機器を活用することも有用だ。防犯カメラの開発・製造を行うプロテックは、社会貢献の一環として5年前に広島市内で発生した土砂災害をはじめ、被災地に太陽光で稼働する録画一体型防犯カメラ「どこでも安視ん君」を無償提供し、空き巣犯罪の抑止に貢献してきた。 

同社はさらに今年の夏、河川の水位を検知し危険水域を超えると通報する災害監視カメラ「見張り亀ら〜」の販売を開始した。屋内の安全な場所で状況確認ができるため人が豪雨の中で河川に近づく必要がない。リアルタイムに水位を確認できることから、河川近くで交通誘導業務などを行う警備員にとって重要な情報となる。

台風による復旧・復興作業はこれから長期間続き、多くの地域で年をまたぐことが予想されている。冠水や大雨により地盤が弱くなっている被災地では、警備業務中に土砂崩れなどに遭わないよう、経営者は二次災害の防止に努めてほしい。

人手不足が深刻化している警備業界は通常業務に加え、今後は災害への対応が一層求められている。来夏に開催され世界の注目を集める「東京2020」は、豪雨や台風が発生する時期と重なる。警備業は、日頃からあらゆる状況をシミュレーションし体制や手順など災害対策を確立して、不測の事態に迅速に対応できる準備を確立しておかなければならない。

【瀬戸雅彦】

新卒採用2019.11.01

〝生え抜き〟を育てよう

「11月1日は警備の日」を広くPRする各警備業協会の活動が今年も10月中から各地で始まっている。警備業への理解を促進してイメージアップを図り、人材確保につなげる記念日だ。

人材確保対策として、若者の雇用拡大がある。30歳未満の警備員の割合は、全体の1割に満たない。警察庁の「警備業の概況」(平成30年末)によれば警備員55万4517人のうち、30歳未満は5万4837人。シニア層、シルバー層が人生経験を生かせるのが警備業だが、企業・業界の発展に向けて、より多くの若者が入職することが望まれる。

若者を確保する方法は新卒採用が一般的だ。高校・大学を卒業したばかりの新人は、転職者と違って他の企業の色に染まっていない。自社の企業理念を理解して実践する“生え抜き”の幹部候補として育てることができる。

新卒採用は超売り手市場だ。高校生の採用活動では、企業の担当者が各学校を訪問し、自社の業務内容などを就職担当の教師に説明する。公立高校は就職担当の教師が毎年変わることが多く、企業は毎年、社業について一から説明し、信頼を得るため何度も学校に足を運ぶ。この時、業務の説明だけでなく、警備員は国家資格の検定を取得して自分のステータスを上げられること、労働災害事故の防止に業界一丸で取り組んでいることなどを担当教師に伝えて、警備業への理解を深めてもらうことが大切になる。

最近は、これまで人材確保は転職者の「中途採用」しか行っていなかった会社が、新卒採用に乗り出すケースが増えている。永続的な発展のために次世代の経営者だけでなく、次世代の幹部候補や現場リーダーとなる社員を育てる必要があるためだ。

青森県内で地域密着の警備業務を行っている「津軽警備保障」は今年、初めて高校生の新卒採用に取り組んだ。8月に会社説明会を開き、試験・面接を経て、10月に4人が内定した。

初めての新卒採用活動を前に同社は、ある制度を社内に取り入れた。それは新人の育成と定着を図る「ブラザー(シスター)制度」だ。新人に対し、年の近い先輩社員がブラザーとして付いて、業務の指導だけでなく気遣う言葉を掛けたり、気軽に相談に乗るなどしてメンタル面もフォローする。新人を育てながら離職の防止につなげる取り組みだ。

“良きブラザー”となるために社員は、昨年から社内研修を受けて新卒者への接し方や育成の心構えなどを身につけた。教育担当者だけでなく社員全員で、新人を迎え入れる環境づくりを進めてきたのだ。

就業経験のない新人は、発注業者への言葉遣い、ビジネスマナーなどを教える手間がかかる。しかし企業が、長い目で人材を育てようとする意識をより高めて、新卒採用の動きが業界に広がっていくなら、警備現場に若い人がさらに増えて活気づく。また、若者らしい率直な意見や着眼点は、若者が多く集まる施設やイベントの警備の中で役立つはずだ。高齢者が目立つという長年の業界イメージも変わり、若い求職者の確保につながるに違いない。

各地で展開する「警備の日」PR活動を通して、1人でも多くの若者が警備の職業に関心を持ち、就業に結びついてほしい。

【都築孝史】