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視点

倫理要綱2022.12.21

かつてない決意で実践を

今年も残りわずか。警備業界の1年を振り返れば、全国警備業協会をはじめ各警協の「50周年記念式典」が思い出される。会場で“井戸を掘った”人たちと交わした草創期の回顧は、笑える失敗談も交えて愉快だった。しかし、これからの業界に目を向けたとき、筆者が強いインパクトを感じたのは、全警協が今秋に発表した「倫理要綱」と「適正取引推進に向けた自主行動計画」の改訂だ。加えて「適正取引・適正料金で処遇UP!!」という新規のスローガンも制定した。

「倫理要綱」は2015年、「自主行動計画」は18年に制定されたもの。改訂版の文頭には、いずれも<<警備業経営者のための>>という一言が付されている。目指すところは、経営者諸氏の意識改革と行動を促すためであることは明らかだ。

3つの取り組みは、それぞれの形をとっているが、言わんとする要素は互いに結びついていて、本質は三位一体のワンセットとして受けとめると分かりやすい。

とりわけ目を引いたのは、「倫理要綱」の2項目にある<経営基盤の強化とモラルの向上>だった。こう記している。

「経営者は、適正取引推進に向けて自主行動計画を確実に実践、公正な競争による適正な警備料金を確保し、これを原資とし警備員の処遇改善や職場環境の改善、ICT・テクノロジーの活用による警備業務の生産性の向上に努める」。その上で、段落を変え「経営者は、悪質なダンピングを行わないことはもとより、自らのモラルの向上に努める」と初めてダンピング(不当廉売)の禁止を明記したのだ。

警備業界は新しい半世紀へ一歩を踏み出した。国民生活に欠かせない存在となった地歩を更に固めるときである。そんな今、倫理要綱の改訂版で、人として守るべき「人倫の道」を改めて説かなければならない体質が存在することは悲しい現実だった。

信頼が生んだ料金アップ

この1年間、当欄コラムでは機会あるごとに、自主行動計画の実践、適正取引の推進、警備員の処遇改善を呼び掛けてきた。その回数は年間発行33号のうち、関連記事を含め8回を数えた。本文の中央に掲げた見出しは次のようなものだ。

「適正取引へ周知は不可欠」「業界こぞって料金交渉を」「目指そう年収400万円」「生涯を託せる警備業に」「料金引き上げ積極的に」などである。

ダンピングについても言及した。「2年続きの3.5兆円割れ」の上段カットは<ダンピング>だった。そして、見出しにズバリと核心をつく「やめようダンピング」を掲げた号もあった。

筆者がこれまでに知己を得た経営者の多くは、優秀な人材を育成、適正業務に見合う適正な警備料金を得て、警備員の処遇改善を推進することは、経営者としてやるべき当然のことですよと語ったものだった。

その一人からこんな話を聞いた。公共港湾交通警備の年度契約更改に臨むと、発注サイドの担当者は、警備料金のアップを申し出てくれたという。理由を尋ねると「期待以上のきちんとした仕事をやってもらっている。警備員の処遇改善と若者の雇用には資金が必要でしょう」という答えが返ってきたのだ。信頼関係のたまものであろう。

新規のスローガンは警備業の姿勢を対外的にPRする格好の材料となる。全警協はスタッフ全員の名刺に文言を赤字印刷する作業を進めている。この取り組み、経営者の皆さんが後に続いてほしい。明ける年は「適正取引・適正料金・処遇UP!!」の実現に向けて、かつてない決意で取り組んでもらいたい。

【六車 護】

デジタル化2022.12.11

警備業も対応待ったなし

「デジタル化」の大波が警備業の目前にも迫っている――。政府が昨年11月に岸田文雄首相を会長に設置した「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」を発生源とする“荒波”だ。

コロナ禍により医療・教育現場などで日本のデジタル化の遅れが改めて浮き彫りとなったが、政府は経済成長停滞の最大要因はデジタル化の遅れにあると指摘する。また、少子高齢化による人口減少で今後、あらゆる産業・現場で人手不足が進むことが予想されていることから、現行の行政によるアナログ的な規制を見直し、デジタル化を図ることで経済成長を実現したい考えだ。

デジタル化の経済効果として政府は、中小企業のAI導入で約11兆円、行政コスト20%削減で約1.3兆円を見込む。人手不足を解消して生産性を高め、所得の向上にもつなげるとしている。

デジタル臨調は「デジタル化を阻害しているのは、法令をはじめとする社会制度やルールの規制だ」とし、昨年12月に策定した「デジタル完結・自動化原則」など5項目からなる“デジタル原則”に沿って現行法令を点検・見直した。その結果、法令を「対面講習規制」「常駐・専任規制」など7つの規制に分類し、これらを「アナログ規制」としてデジタル化していく方針だ。

同方針を受けデジタル庁は、各府省庁所管の法律・政令・省令の中からアナログ規制のある約9000条項を抽出、うち99%を見直す方針を明らかにした。同規制には、警備業法も含まれ、同法第6条(認定証の掲示)や第22条第1項(警備員指導教育責任者の専任)、第23条第3項(特別講習)なども対象とされている。これを受け全国警備業協会(中山泰男会長)は、近く“ワーキンググループ”を設置、対応を検討していく方針だ。

管制もいずれ様変わり

全警協の基本問題諮問委員会(成長戦略検討委)の作業部会の一つ「ICT・テクノロジー活用部会」(部会長=豊島貴子山口警協会長)が調査した警備業界のデジタル化の現状によれば、特に中小警備会社での対応の遅れが目立った。都道府県警備業協会においても、会員との連絡手段に今もファックスを中心に用いているケースも多い。

一方で、埼玉県警備業協会(炭谷勝会長)は会員との連絡手段をeメール中心に移行。これまで“現金主義”だった経理業務にも「ネットバンキング」などを活用、経費削減と省力化に効果を上げているという。

また、最近の本紙記事下広告にもあるように、警備業の勤怠管理や教育分野でもICTやAIなどの技術を用いたシステム・商品が相次いで登場している。これまで電話とホワイトボードが欠かせなかった管制業務もいずれ様変わりするだろう。

政府主導で進められるデジタル化への歩みは、デジタル相と規制改革担当相、関係省庁大臣の三者による折衝「2+1(ツー・プラス・ワン)」会議に移行するなど、新たな段階に入りつつある。デジタル臨調が当初掲げていた規制見直し期間3年間も、2024年6月までの2年間に前倒しした。

時流を受け入れデジタル化に積極的に取り組むのか、環境変化に対応できずにアナログのままでいるのか、選択肢は明らかだ。

【休徳克幸】

雑踏事故2022.12.01

安全確保、意識共有を

韓国ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で158人もの命が失われた傷ましい雑踏事故から1か月が経った。大規模な“群衆雪崩”が起きた要因の一つに、警備体制が手薄だったことが挙げられている。

10万人超もの人出に対し、雑踏警備に配備された警察官はわずか130余人と報じられた。前日も同じエリアが混雑し危険は事前に想定できたことから、警備計画に問題があったことが指摘されている。

思い出されるのは2001年、兵庫県明石市内で発生し11人の死者、229人の負傷者を出した「明石歩道橋事故」だ。花火大会が終了しJR朝霧駅に向かう帰宅客と、出店がある海岸へ向かう見物客が歩道橋に集中。事故のあと、市と県警本部、警備会社よる警備計画が十分でなかったことが明らかになった。この歩道橋事故を機に雑踏警備の重要性は再認識された。警備業の検定資格は05年の警備業法改正に伴い「雑踏警備1・2級」が新たに加わった。

兵庫県警は02年、事故の再発防止のために「雑踏警備の手引き」を作成した。雑踏警備の実例や特長、ノウハウなどを107頁にわたってまとめたマニュアルだ。 

その内容をみると、群衆が開門と同時に先を争って走り出す通称“バッファロー現象”による転倒事故を防ぐため、先頭部を押さえながら誘導する「先頭誘導」、多数の待ち客を分断させて後方から来る群集の圧力を緩和させる“いかだ流し”と呼ばれる「分断誘導」など、雑踏の誘導方法が紹介されている。

これらの要領は今では警備業に定着し、今後は群衆事故が起こりにくいと考えられていた。しかし今年8月に京都府亀岡市内で開催された「亀岡花火大会」は一歩間違えば危険な状況となった。JRの線路内に人が立ち入ったことで列車が混雑し、会場最寄り駅に人があふれた。駅から会場に向かう歩道橋は混雑して危険な状況になりかけたが、担当警備業者の適切な分断誘導により負傷者は出なかった。雑踏警備には周到な準備と臨機応変な対応が求められることを改めて知らされた。

近年、大型イベントでは警備費が増大する傾向にあり、主催者側は頭を抱えているという。しかし安全を確保するためには質の高い警備、十分な警備員数が必要であり、予期せぬ事態に備えて緊急要員「遊撃隊」の準備も必要だ。

「安い料金で警備業者に発注することは事故につながりやすい」と考える自治体もある。姫路市は20年、兵庫警協に「雑踏警備料金の基準を教えてほしい」と要請。兵庫警協は梶岡繁樹副会長をリーダーに検討委員会を設置し「雑踏警備業務警備委託費の考え方」と題した資料を作成、提出した。

この資料は国交省の「土木工事費積算基準」と兵庫県警の「雑踏警備の手引き」、全警協の「屋外イベント安全ノート」を参考に、雑踏警備で初めて積算要領・積算基準をまとめた労作だった。警備業は発注元に積算の根拠を示して適正料金を確保し、安全を提供する姿勢が求められる。

コロナ禍は依然として先が見えず、安定期と拡大期を繰り返している。ワクチン接種が進み重症化リスクが減少したことで人が集まる機会が増えた。警備業は韓国の事故を“対岸の火事”とせず、業界全体で意識を共有し、雑踏の安全確保に全力で努めてほしい。

【瀬戸雅彦】