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視点

熱中症2020.07.21

予防に費用惜しむな

熱中症への警戒が必要な季節となった。昨年の警備業での休業4日以上の熱中症にかかった人は73人で、そのうち4人が亡くなっている。記録的な猛暑だった2018年の死傷者は110人だった。この夏の気温は平年よりも高くなると予想されており、注意が必要だ。

今年は新型コロナウイルス感染症予防のため警備員はマスクを着用して業務に当っており、呼吸がしづらくなり、心拍数や呼吸数が上昇して体に負担がかかることで罹患する危険性が高い。全国警備業協会が策定した「警備業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」では、屋外で人との距離が2メートル以上確保できる場合はマスクを外すことを認めた。警備会社の安全衛生担当者はガイドラインを参考にして、警備員に適切なマスクの使用を指示してもらいたい。

行政が提供する情報も対策に活用してほしい。環境省と気象庁は7月から、熱中症の危険性が極めて高いと予測される日の前日に“注意報”を発出する「熱中症警戒アラート」の運用を始めた。現在までに発出はないが、甚大な災害を引き起こした梅雨が明けた後は、酷暑が控えている。アラートが出された場合は上番や下番の連絡時に警備員へ注意を促し、水分や保冷剤の所持を再確認することが望ましい。

予防に積極的に取り組む警備会社の事例を紹介したい。東京都新宿区の警備会社「アルク」は昨年、800人いる警備員の制服とヘルメットを通気性の良いものに刷新して熱中症の発生をゼロにした。今年は新たに、6月からチェックシートを使って警備員の体調を管理して発症を防ぐ取り組みを始めた。警備員に回答してもらい、熱中症にかかる可能性があると判断した場合は注意を促して未然防止に努めている。

同社の安全衛生担当者によると、これらの対策には費用や手間がかかるが、社内で実行にためらいの声はなかったという。

加えて、昨年の警備業法施行規則一部改正で新任教育内容の自由度が高まったことを利用して、熱中症を含む安全衛生の科目を設けた。受講者は健康管理や安全確保に力を入れている会社だと評価して、採用や定着率が上昇するという効果があった。

義務違反で書類送検も

熱中症を出さないことは自社の経営を円滑に行うことにもつながる。警備員が建設工事現場で熱中症にかかって救急車で運ばれると、現場がストップして工事に支障を及ぼすことになる。商業施設やオフィスビルの場合でも現場に混乱を招いてしまう。そうなると発注主からの信用を失いかねない。

警備会社は社会に安全・安心を提供することが業務であり、その前提として警備員自身の安全確保が責務であることは言うまでもない。予防策を講じずに熱中症が発生すると会社が安全配慮義務違反に問われ社会的制裁を受ける場合もある。

少し古い事例だが、2013年には兵庫県で警備員が熱中症により死亡した労災事故で、尼崎労働基準監督署は塩分や飲料水などを採らせる対策を怠ったとして、会社と同社代表を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検した。同様の過ちを繰り返さないために、必要な費用を惜しまずに取り組んでほしい。 

【長嶺義隆】

変化に素早く対応を2020.7.11

ウィズ・コロナ

一旦は収束へ向かうと思われた新型コロナウイルス感染症だが、依然予断を許さない状況が続いている。特に東京では連日100人を超える感染者が発生、一部では感染“第2波”の指摘もあり、再度の「緊急事態宣言」発令を予想する声さえ聞こえる。

今年に入ってから、感染が急拡大した新型コロナ。政府が東京など7都府県に初の緊急事態宣言を出したのは、ほんの3か月前の4月7日のことだ。同月16日には、同宣言の対象地域を全国に拡大、これにより各地で県境を越えての移動や各種イベント・行事の自粛・中止が相次ぎ、わが国経済は急速に冷え込んだ。

多くの国民や企業の社会経済的犠牲により感染拡大は減速し、5月14日には39県の、同月25日には残る8都道府県の緊急事態宣言が解除されたのだが…。

その間、新型コロナは警備業にも暗い影を落とした。特にイベント警備を主業務とする警備会社への打撃は今も深刻だ。

当初は、影響が少ないと思われていた交通誘導警備においても、全国の公共工事の現場で工事中止が相次いだ。

事態を受けて都道府県警備業協会の中には、新型コロナで疲弊する会員支援のために会費減免の動きも広がった。全国警備業協会も6月の総会において3か月限定の会費半額を決議した。

先の見通せない「コロナ禍」。多くの警備会社で今後の企業活動のあり方が模索されていた5月14日、全警協は「新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を策定、感染防止を図りながら企業活動を行うための具体的な取り組みを示した。他の多くの業界でも業務特性などを加味、独自のガイドラインを策定している。

同月29日には全警協はこの一部を改訂、警備業で多発する熱中症の予防対策も盛り込むなど、より現場の実態に即したものとした。

多くの警備会社では、これに基づいた各種対策を実施、警備員や内勤従業員の感染防止に取り組んでいる。なかには、ガイドラインへの取り組みが顧客の感染防止にも効果があることをホームページなどでPR、営業に活用する警備会社もある。

さらには、通常の警備業務の“オプション”として検温や消毒を行い始めた会社や、最近見かけるサーマルカメラ(AI搭載の体表面の温度測定カメラ)と警備員をセットで派遣する会社も登場するなど、新たな警備業務も生まれつつある。

コロナ禍の警備業

ある警協会長は今年の総会あいさつで「感染防止対策を事業形態に組み込み、糧を得る手段として確立する発想も必要」と述べた。まさにこれからの警備業の方向性を示唆している。

世界を見渡せば、新型コロナの収束は程遠いことがよく分かる。感染防止対策を講じながら、日常の社会経済活動を続けていく「新たな生活様式」は、新型コロナと共に生きていかざるを得ない“ウィズ・コロナ”時代の日常となりつつある。

「生活安全産業」として国民生活に寄り添う警備業は、そんな時代の変化に素早く対応していかなければならない。その取り組みの中にこそ、コロナ危機を“チャンス”へ変えていくヒントがあるに違いない。

【休徳克幸】

コロナ禍の夏2020.07.01

熱中症防ぎ、豪雨に備えを

コロナ禍で迎える初めての本格的な夏がやってきた。気象庁の3か月予報によると、今夏の7、8月は東日本や西日本などで平年より気温が高く、35℃以上の猛暑日が各地であるという。

新型コロナウイルスは、猛威を振るう「猖獗(しょうけつ)」の状況は一応ながら沈静化したと見受けられるが、終息への到達は道半ばである。

5月中旬から各地で開かれた都道府県警協の総会は、6月末で終わった。すべての会長が発言の冒頭でコロナ禍に言及した。いくつかをつなぎ合わせると次のようになる。

これからも第2波・第3波の再流行に対する持続的な警戒が必要だ。警備業は生活安全産業としての使命がある。適正な警備業務を推進し、新たな時代に向けて一層の業界発展を目指さなければならない。警備員は会社の財産であり、健康管理と雇用の安定に向けた対策が求められる。より働きやすい職場環境づくりを進め、労災事故の防止に万全を期さなければならない」――。

そのとおりである。そして今、夏本番の7月入り。警備業は残念ながら「熱中症多発業種」に含まれる。経営者各位には、コロナ禍で苦労が続いて息つく間もなく、熱中症予防への対応を迫られことになったのだ。2つの災禍を防ぐ「対策の両立」である。

全警協は先ごろ、各協会に対して、厚労省が示した「熱中症予防行動」を加盟員へ周知するように文書で依頼した。その中で目を引いたのが、高温多湿下での屋外勤務では「適宜マスクをはずしましょう」と呼び掛ける項目だった(6月11日号既報)。

経営者は月代わりの今を好機ととらえ、熱中症予防の行動ポイントを全社あげて周知徹底、改めて意識の共有に取り組んでほしい。それは新しい就業様式の導入の一つとして、会社の“財産”である警備員を守るという思いの発露に他ならない。

警備員守る投資も

悪評を振りまいただけの「アベノマスク」はどこへやら。この夏は、山形県のニット製造の家内工業が考案した「冷やしマスク」が大好評、国内だけでなく海外からも注文が殺到しているという。さらには衣料品大手、スポーツ用品メーカーまでもが、通気性や速乾性に優れた生地を使った新型マスクの販売を始めたと聞く。

マスクだけではない。本紙で馴染みの警備服の製造メーカー、ベストと金星は、「汗をかけばかくほど涼しい!」、「暑さに負けない!」をキャッチコピーに警備用の空調服や涼感服の新製品を相次いで販売している。これらの装備品の購入は、警備員を大切にするための投資とみれば安いものであろう。

コロナと熱中症とともに、危惧される3つ目が豪雨災害である。つい先週のこと。九州北部は活発な梅雨前線の影響で、局地的に猛烈な雨に見舞われた。6月25日には長崎、佐賀の両県で約25万人に避難指示と勧告が出た。避難所では、自治体職員がコロナウイルスの感染防止のために体温計や消毒液などを備えるのに大わらわだったようだ。

ここ2、3年だけでも、一昨年は7月の西日本豪雨、昨年は10月の台風19号など、大きな被害を受けた豪雨と台風災害が毎年のように相次いでいる。

警備業界は自然災害に際して、頃合いを見はからい、空き巣被害を防ぐための防犯パトロールをボランティア活動として行った。自治体の急遽の警備要請にも警備員を動員してきた。これまでに参加した協会は、広島、茨城、岡山、愛媛、長野など。地域に寄り添う警備業の面目躍如だったのだ。

自然災害の発生は、ないことを願うばかりだが、今年はコロナウイルスという大敵の存在が厄介だ。くれぐれも万全な準備と細心の注意を心掛けてもらいたいものである。

【六車 護】