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視点

続く人手不足2020.01.21

原資確保、業界は一枚岩で

新年「賀詞交歓会」が、各都道府県協会で開催されている。会長や来賓のあいさつでは、半年余に迫った「東京2020大会」の話題が多く語られている。世界が注目する国際イベントを成功させることは日本の警備業の使命であり、社会にアピールして業界の発展につなげる絶好のチャンスだ。

大会警備JVでは、競技会場の警備員はおおむね定員数を確保できたものの、最寄り駅から会場までのラストマイルや大会関係の駐車場、パブリックビューイングなど会場以外の警備需要が拡大していることから、警備員はまだ不足している状況だという。

大会警備に限らず通常業務でも警備業は慢性的な人手不足が続いており、回復の兆しがない。少子高齢化による生産年齢人口の減少は全産業で大きな課題だが、警備業の場合は労働環境の改善が進まないことが問題となっている。もし各社がこのまま何の対策もとらなければ、業界規模は縮小していくことは明白だ。

他の業種に目を向けると、建設業では国土交通省が「新3K(給料、休日、希望)」のスローガンを提唱し、労働環境の改善を進めている。適正な給与と休日が約束され希望が持てる業界にしていかなければ、若い世代から職業として選択されることはない。そのために何より重要なことは、各社が十分な原資を確保して経営基盤を強化することだ。

4月からは「働き方改革・第2弾」が施行されることから、原資の確保は一層重要になった。中小規模の全ての企業に「時間外労働の上限規制」、大企業は今年4月から中小企業は来年4月から正社員と非正規雇用者で待遇差を設けることが禁止される「同一労働同一賃金」への対応が求められる。2025年まで段階的に始まる「社会保険の短時間労働者への適用」など、これから各社に労働条件の大幅な見直しが迫られる。

全員で「同じ絵」を見る

昨秋、日本中を沸かせたラグビーW杯。トップリーグ開幕戦は各競技会場ともファンで埋まり、ラグビー人気が継続している。W杯での日本代表の活躍には「ON THE SAME PAGE(同じ絵を見る)」の共通認識があった。それは戦術をメンバー全員が同じ判断で対応することでチームが最大の力を発揮できるというもの。血のにじむような練習の繰り返しと、殴り合いも辞さない本音の話し合いの末に根付いたという。

警備業も一枚岩となり同じ絵を見て実行する必要がある。1社では微力でも多くの企業が同じ取り組みを進めることで大きな力となる。まずは各社が積算根拠など「警備料金の正しい基礎知識」を得ることだ。その上で全警協が策定した標準見積書や自主行動計画を効果的に活用し適正金額を確保する。それを原資に警備員の賃金アップなど処遇改善を図り、人材確保と定着につなげる取り組みを一丸となって行ってほしい。

警察庁が昨年8月に実施した教育時間短縮など警備業法施行規則の改正は、教育の自由度が増した分、各社に内容の創意工夫が求められている。令和の時代に入り、警察庁は警備業に対して規制から育成に少しずつシフトし始めた。各社は他力本願になることなく自分の足で立ち、知恵を出し合い力を結集して、課題解決に取り組むときだ。

【瀬戸雅彦】

謹賀新年2020.01.01

日本の警備ここにあり

旧年中は、取材・購読・広告出稿など大変お世話になりました。衷心より感謝いたします。

新しい年は、いよいよ〈東京2020〉です。警備に携わる皆さまにとって、さらなる飛躍の舞台となる千載一遇のチャンスでありましょう。

「日本の警備ここにあり」――英知を結集して警備の成功を祈るや切です。

小紙は今春の「3・11号」で創刊8周年を迎えます。これも皆さまのご支援とご協力があってこそ積み重ねることができた「紙史の佳節」であります。

これからも同人一同は、警備業界発展の一助となりますよう、鋭敏な感覚で情報の発信に力を尽くす所存です。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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近ごろ、あちこちで「ワンチーム」という一語を耳にする。警備業界で言えば〈東京2020〉とリンクして「“ワンチーム”で大会を成功させよう」といった言いようだ。

会場の内外だけでなく、聖火リレーの沿道なども含め全員が心を一つに東京オリンピック・パラリンピックの警備をやり遂げようという決意の呼びかけである。ストンと胃の腑(ふ)に落ちて分かりやすく、その意気を簡潔に言い表して妙である。

この「ワンチーム」、説明するまでもないだろう。昨秋のW杯ラグビーで快進撃を演じた日本代表チームがスローガンに掲げた「ONE TEAM」だ。年末には新語・流行語の「年間大賞」に選ばれ一段と多くの人たちが知るところとなった。

信頼のオフロードパス

代表チームが史上初の8強入りを果たしたスコットランド戦の記憶は今でも鮮明だ。とりわけ、しびれたのは、前半の相手ゴール近くでの攻防。フォワード、バックス一体となって「オフロードパス」を3連続で決め、勝利をたぐり寄せたトライ・シーンだ。

オフロードパスは、タックルを受けて倒れながら、ときには背面に片手でボールを返し、パスをつないで攻める高度なテクニックである。パスが相手に奪われると、チャンスは一転、ピンチとなるリスクを併せ持っている。

それでも彼らは敢然と挑んだ。そこには「ここでオフロードパスを出せば、必ずサポートする仲間が後ろに続いている」という確固とした信頼と結束があった。いわば、代表チームが「ワンチーム」を実際に表現した象徴的なプレーだったのである。

ゴールに飛び込んだのが“笑わない男”で名をあげた稲垣選手だったこともよかった。彼はスクラムや密集での地味な仕事が本職のプロップで、代表になってから初めてのトライだったのだ。フィフティーンは各ゲームで何発も必殺のオフロードパスを決めた。

のちに知ったのだが、前任監督のエディーさんは、オフロードパスはリスクが高いとの判断で“禁じ手”にしていた。バトンを引き継いだジェイミー監督は、もう一段のチーム力アップを目指す戦略にオフロードパスを導入した。代表選手たちは一人として異論をはさまず受け入れたという。

チーム31人の中には7か国15人の海外出身選手がいた。アウトロー的な選手もいたであろう。それが、一つにまとまったバックボーンは何だったのだろうか。それは、選手たちが個々に持つ「自立の精神」を発揮したのではないかということに思い至った。

それぞれが自ら勝ちたいという欲求のためには何をするべきか、それぞれが自ら決めて、連携練習を積み重ねてたどり着いたたまものだったのだろう。「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」というラグビーの格言を具現する行動だったのだ。

さて、〈東京2020〉である。警備業の「ワンチーム」は、どのような“レガシー”を後世に残せるのか。すべての組織や集団に「ワンチーム」を普遍化して求めるのは難しいことを承知のうえでのこと。高みを目指し挑戦して欲しい。成果を待ちたい。

【六車 護】