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視点

模範警備員2022.11.21

「良好な職場」が活躍生む

全国警備業協会創立50周年記念式典が行われ、「人命救助、初期消火、容疑者の確保等の顕著な功労があった模範となる警備員」13人(10件)が会長表彰を受けた。

この表彰は例年「警備の日」全国大会で行われるもので7回目を数える。模範警備員は、警察、消防、自治体などの表彰を受けた全国の警備員の中から特に選ばれた人たちである。

今回の表彰者のうち、千葉県内の物流施設で警備をしていた警備員2人は、守衛室前の県道を逆走する車を発見。中央分離帯をこすり速度の落ちた車に駆け寄った1人がドアを開けブレーキを踏み、もう1人は大型車が多く通行するなかで交通誘導を行って二次災害を防いだ。運転者は熱中症で意識もうろうの状態だった。

名古屋港の埠頭で業務中だった警備員は、ワゴン車が海に落下するのを目撃。運転者に浮き輪を投げたが、つかむことができず溺れる姿を見て、制服を脱ぐと冬の海に飛び込んで救った。他の表彰者も緊迫した局面で消火活動や人命救助を実践した。

エッセンシャルワーカー・警備員の活躍事例は、警備業に対する社会の評価やイメージを高めるものだ。全警協ウェブサイトに掲載されている毎年の模範警備員の功労内容をより多くの人々に知ってもらいたいと思う。

本紙は会長表彰された模範警備員の方々に毎年インタビューを行っている。皆さんに共通していたのは、心肺蘇生法や消火器操作、護身術などの手厚い教育訓練を重ね自信を持っていること、非常事態にあって社内に連絡し情報共有したうえで的確に行動したことである。上司や同僚と信頼を寄せ合っていることも伝わってきた。充実した教育と良好な職場環境から警備員の活躍が生まれているのだ。

警備員は他人の生命を守ると同時に自分自身の安全も確保する必要がある。長時間勤務で疲労が蓄積すれば、いざという時、判断力も身体の動きも鈍りかねない。退勤から翌日の出勤まで一定時間の「勤務間インターバル」を保って睡眠・休息をとることは必須となる。体調不良の際には無理せず交代できるバックアップ体制も重要だ。ユーザーとの契約外の“付帯業務”などはあってはならない。労働環境の整備は、活躍の源となるものだ。

功労表彰を受ける機会にこそ恵まれなくても数多くの警備員が資格を取得し、技能を磨いている。警備業誕生から60年余り、警備業法の施行と全警協創立から半世紀にわたる業界発展は、警備員一人ひとりが持ち場の安全を守った積み重ねといえるだろう。

警備員のために全警協・都道府県警協はこれまで、社会保険の加入促進、「自主行動計画」推進による適正料金の確保など処遇改善に向けた取り組みを重ねてきた。経営者が今まで以上に警備員を大切にする――これによって活躍は広がり、「警備員になりたい」と志望する若者も増えるのではないか。

技術革新は加速し警備業もDX化が進んでいる。AIなどの技術が導入されても「非常時に的確に行動できる警備員」を育成する取り組みは続いていく。警備業界がさらなる発展を遂げ、警備員の社会的地位が向上し、一層の敬意や親しみを持たれる存在となることを願っている。

【都築孝史】

労働災害死2022.11.11

悲しいことはもう最後に

2週間前のこと。岐阜県の国道で夜間通行規制中の警備員が死亡する交通事故があった。

相手の過失による、いわゆる“もらい事故”だった(本紙11月1日号・2面既報)。会社の大切な人材を亡くしたセキュリティーの取締役社長、幾田昌美さんから手記が送られてきた。

そこには万全の準備をしながら防げなかった事故死への痛恨の思い、警備業経営者に警備員が心身ともに健康で安心して働ける職場づくりに全力を挙げてほしいとの願いが綴られていた。紹介したい。

亡くなった警備員の大西俊博君は43歳でした。在籍20年、交通誘導業務2級を取得し、本当に現場のリーダーでした。一緒に勤務する隊員の体調に気を配り、暑い日には冷たい飲料水を配布、寒い日には待機所を温かくするなど、社内の衛生委員も務めてくれていました。

当夜は工事の予告看板を1.5キロメートル先から設置、工事現場を照らすバルーンライト、侵入車両停止装置を備えました。警備員はライト付きヘルメット、夜光ベストの着用など、すべてを完備していました。現場では改めてKY(危険予知)活動を実施したのです。

幸いにも軽症だった警備員によると、中型トラックが時速80キロほどで蛇行しながら規制内に突っ込み、看板をなぎ倒し、彼を跳ねたということでした。同僚は悲しみをこらえて言いました。「もう30秒、もう1メートル違っていたら自分が死んでいたでしょう」

現場に残された荷物の中には、警備の資料、予備の誘導灯のほかに、手作りのお弁当、むいたリンゴ、ポットに入った暖かい飲み物が入っていました。これらを病院でご家族にお返ししたとき、お母さまは「お弁当、まだ食べてくれていなかったんだね」と小さな声を絞り出して涙を流されました。

私は翌日の朝礼で警備員全員に事故の内容を伝え、より一層の注意喚起と事故防止を指示しました。すると、一人の警備員が歩み寄り、悲しげな眼で私をじっと見つめて言いました。「明日は我が身……夜の国道警備は何が起こってもおかしくありませんよ」と。私は返す言葉がありませんでした。

日ごろから、命の代わりはないよ、しっかり準備して、事故に遭わないよう気をつけましょうと警備員に声を掛けていました。でも実際に一つの大切な命が亡くなったとき、今までやってきたことは何だったのかを強く思い知らされました。

「明日は我が身」、この言葉を胸にしっかりと刻み、事故防止を更に突き詰めていく所存です。彼の死を無駄にすることは絶対にあってはならないのです。悲しいことはもう最後にと自分に言い聞かせています。“もらい事故だから”の言葉で済まされることではありません。

警備業界、とりわけ2号警備は、暑さ、寒さの中、常に身を危険にさらしながら働く警備員の方々に支えられています。私は今回、自社に降り掛かった哀しみの事故で、「もう30秒」「もう1メートル」で警備員の生死が分かれることを身をもって知りました。

経営トップの皆さん、今一度、警備員の置かれている現場を自身の眼で見て、さらに何ができるかを考えていただきたいと思います。これ以上、尊い命が失われることがないよう、願ってやみません。

全国警備業協会の調べでは警備業で昨年、労働災害での死亡者は28人だった。今年は16人を数えている(10月7日現在、厚労省)。調査を始めた昭和61年からの累計は800人を超えた。被害者の多くが交通誘導業務を担当していた警備員だという。

【六車 護】

適正取引2022.11.01

やめようダンピング

11月は「下請取引適正化推進月間」だ。今年の月間キャンペーン標語は「適正な 価格転嫁で 未来を築く」。

大企業や元請企業による中小企業や下請企業への不公正・不合理な取引は今も多く存在するといわれる。特に警備業や建設業などの「請負業」は、製品などの販売とは異なり発注者や元請から“仕事自体をいただく”という立場の弱さから「請け負け」とも称される。「買いたたき」「指値受注」「代金(料金)減額」などを経験した警備会社も多いのではないか。

このような不適正な取引を是正し、発注者・元請と受注者・下請がよきパートナーとなって労務費や原材料費などの上昇分を価格・料金に転嫁、成長と分配の好循環を実現しようという取り組みが国を中心に進められている。

昨年12月、政府は全国警備業協会・中山泰男会長などを招いた会合で「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を提示、警備業の苦境に耳を傾けた。今年7月には下請中小企業振興法の「振興基準」を改正、下請に対する威圧的交渉の禁止や年1回以上の価格協議などを盛り込むなど、適正取引実現へ向けた機運は高まっている。

わが警備業界では、全警協が2018年に警察庁などの協力を得て「適正取引推進等に向けた自主行動計画」を策定。その後も各社の取り組み状況の“フォローアップ調査”を行うとともに、関係法令や行政施策などの動向を踏まえ3回にわたる計画の見直しを行った。今年9月には近年の政府施策や法改正などを受けて4回目の改訂を行うなど、適正取引実現へ向けた環境整備も整いつつある。

特に政府が推し進める「パートナーシップ」は、警備業にとっても心強い“追い風”。今こそ警備業界が一丸となって「自主行動計画」を実践、適正取引を実現させる時だ。

絶えない“悪い噂”

適正取引の機運醸成が図られる一方で「普段は不適正取引を批判している企業が、県境を越えると採算を度外視したダンピング。他社の経営を脅かしている」という悪い噂は今でも耳にする。

ダンピングを行う側からすれば、「新規顧客の獲得」「市場の原理」などの“言い分”もあるだろう。しかし、“顧客を奪われた”側にしてみれば「得意先を守るため」に、さらなるダンピングにつながることは明らかだ。放置すれば、業界と各社が長年にわたり築き上げてきた適正料金実現へ向けた取り組みが一瞬にして水泡に帰す。

「自主行動計画」の改訂と機を同じくして、全警協は2015年に策定した経営者の行動指針「警備業経営者のための倫理要綱」も改訂した。同要綱には「ダンピングを行わない」「経営者自らのモラル向上に努める」などが明記された。

警備業経営者には、適正料金実現の担い手として、ダンピングに手を染めることなく、警備品質の向上などを背景に料金引き上げに率先して取り組んでほしい。そうすることによって警備業界全体の料金、ひいては警備員の処遇の底上げにつながるに違いない。

適正取引を阻害するのは、横暴な発注者・元請だけではない。経営者自身の心の内にも潜んでいる。経営各氏には倫理要綱を胸に“王道”を歩んでほしい。

【休徳克幸】