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視点

体感治安2022.05.01

犯罪抑止に寄与する警備

「あなたは、ここ10年で日本の治安は、良くなったと思いますか。それとも、悪くなったと思いますか」――官公庁が「治安に関する世論調査」を行うときの質問である。

警察庁が春に公表したインターネットによるアンケート調査は「悪くなった」との回答が64%に達した。内閣府の郵送方式でも「悪くなった」が54.5%を占めた。ともに前年に比べて治安悪化を感じる人が増える結果となった。

「悪くなった」と答えた人の80%近くが「無差別殺傷事件」を思い浮かべたという。調査の対象となった人々は、その年の夏と秋の小田急線と京王線の電車内で男が刃物を振り回し、放火した事件が脳裏に浮かんだとみられる。

昨年暮れには大阪北新地で凄惨極まりないクリニック放火殺人があった。仮定ではあるが、事件が調査に反映されていたならどうだったろう。「悪くなった」の数値は、ワンランク跳ね上がったことは容易に想像できる。

3年前の京都アニメーション放火殺人事件がよみがえる。日本で起きた事件としては、過去に例を見ない大惨事だった。北新地は京都を模倣した連鎖の犯行だったのだろうか。今年に入ってからも東大前で少年が大学入学共通テストの受験生ら3人を刺傷した。

昨年の刑法犯の認知件数は56万余件で戦後の最少を更新した。2002年のピーク時には285万余件だったことを思えば隔世の感である。統計上は治安が改善されていると言えるだろう。ただし、「体感治安」はいかがだろう。

同語は人々が漠然とではあるが感覚的、主観的に感じている治安の情勢を言うもの。警察関係者は、「我々にとって国民の治安への不安を解消することは大きな使命だ。自治体、警備業界とタイアップして体感治安の向上を目指したい」と折に触れて語っている。

大阪北新地であった事件の直後のこと。筆者は警備業経営者と、“仮にだけど”と注釈をつけて話したものだった。放火殺人の現場となったビル4階のエレベーター前、もしくはクリニックの入り口近くで制服の施設警備員が常駐警備していたならどうなったか?と。2人の思いは次のようなことで一致した。

――エレベーターを出た犯人は、狭い空間で制服姿の警備員の姿を目にすれば、おそらく、躊躇して犯行には及ばなかったのではないか。あるいは、警備員はガソリン缶を手にした男を見逃すことなく対処したに違いない――警備員が存在することによる事件発生の抑止と防止だ。

警備で不審者が消えた

私事を少し書きたい。過労死訴訟の第一人者で知られる川人博弁護士との警備にまつわる話である。旧知の間柄の川人さんから依頼があったのは数年前のこと。

曰く、大きな訴訟を抱えている。このところ身元の知れない男がビルのエレベーターホールや事務所のある2階を徘徊しているように感じる。念のために警備員さんに警備をしてもらいたいのだがどうだろう、というもの。

こちら、一も二もなく引き受けて警備会社の役員氏に連絡した。「都内の弁護士事務所が警備をやってほしいと言っている。優秀な警備員を派遣してもらいたい」。

常駐警備が始まると男の姿を見かけることはなくなった。警備は安全を確実にするため間隔を置いて随時、約2年間続けられた。

考えてみれば、警備業の犯罪抑止の効果は数値で計ることはできない。日々、それぞれの業務で国民の安心安全を担っている。業界には更なる体感治安の向上に寄与してほしい。

【六車 護】