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視点

女性活躍2022.05.21

「部会」発足へ後押しを

コロナ禍3年目の春が過ぎる。予断を許さない状況は続いているが、イベント開催の人数制限は緩和され、ゴールデンウィークには移動制限もなく観光地はにぎわった。「ウィズコロナ」の中で社会・経済活動が回復に向かえば警備業の需要は増すが、慢性的な警備員不足の深刻化が心配だ。

女性警備員の雇用拡大を急ぎたい。総務省が毎月行う「労働力調査」によると、2021年の完全失業者(仕事を探している無職の人)は月平均で193万人(前年比2万人増)、うち女性は77万人(同1万人増)にのぼった。女性警備員の総数は約4万人。意欲ある優秀な人材をより多く獲得することは、社業・業界の発展に結び付く。警備業界が「女性活躍推進」を打ち出し、採用と定着促進に積極的な警備会社があると周知を図ることで、職業の選択肢に警備員を加える女性は増えるに違いない。

都道府県警備業協会の女性部会は、警備業の女性活躍推進の旗印といえる。大阪警協「ひまわり会」、東京警協「すみれ会」、福岡警協「あやめ会」、岐阜警協「いちいの会」(設立順)はそれぞれ、女性警備員の確保、定着、スキルアップをテーマとする各種研修会、現場の声を集めるアンケートや意見交換会、ユーチューブのPR動画制作などを行って、会員企業の女性活躍を後押ししてきた。

全国警備業協会が17年に制定した女性警備員の愛称「警備なでしこ」は、女性部会の合同会議から生まれた。女性部会は青年部会とともに警備業界のさらなる発展、活性化に貢献することが期待されている。

現在、青年部会の設置は31都道府県警協に広がり年内も複数県で予定される。一方、女性部会は18年の「いちいの会」の後、発足が止まっている。

青年部会が続々と発足した背景には、協会会長をはじめとする関係者のバックアップがあった。女性部会も同様に、協会関係者の力強い応援あってこそスタートできる。併せて、会員の女性経営者・経営幹部が積極的に参加を表明して実務を担うことが大切になる。協会関係者の後押しと女性経営者・経営幹部の意欲が相まって、発足に向けた協会内の気運が高まるのではないか。

警備業界は長年にわたり経験豊富な男性陣が舵を取って大きく成長を遂げてきた。物事に多様性が求められる時代に、女性の意見、目線や発想を今まで以上に取り入れた協会活動――女性部会が企画・運営する研修会などを通じ、女性警備員の活躍推進を後押しすることは重要である。

警協内に「新部会」が発足するまでには準備期間が必要だ。東京警協の場合は、当初「女性経営者グループ」として立ち上げ、半年にわたり協会役員、事務局との会合を重ねて活動のテーマや方法などを討議した後、定時総会で女性部会として承認された。一部の青年部会も、最初は部会でなく委員会などから活動をスタートした。

各警協の女性部会や発足準備中の女性グループが連携して、警備業界の認知度向上を図るキャンペーンのアイデア、例えば警備なでしこに続く「愛称第2弾」などを話し合うなら業界の女性活躍の動きは、より活発になることだろう。

長期化したコロナ禍の閉塞感を打ち破る警備業界の活力として「女性パワー」が一層盛り上がってほしい。

【都築孝史】

体感治安2022.05.01

犯罪抑止に寄与する警備

「あなたは、ここ10年で日本の治安は、良くなったと思いますか。それとも、悪くなったと思いますか」――官公庁が「治安に関する世論調査」を行うときの質問である。

警察庁が春に公表したインターネットによるアンケート調査は「悪くなった」との回答が64%に達した。内閣府の郵送方式でも「悪くなった」が54.5%を占めた。ともに前年に比べて治安悪化を感じる人が増える結果となった。

「悪くなった」と答えた人の80%近くが「無差別殺傷事件」を思い浮かべたという。調査の対象となった人々は、その年の夏と秋の小田急線と京王線の電車内で男が刃物を振り回し、放火した事件が脳裏に浮かんだとみられる。

昨年暮れには大阪北新地で凄惨極まりないクリニック放火殺人があった。仮定ではあるが、事件が調査に反映されていたならどうだったろう。「悪くなった」の数値は、ワンランク跳ね上がったことは容易に想像できる。

3年前の京都アニメーション放火殺人事件がよみがえる。日本で起きた事件としては、過去に例を見ない大惨事だった。北新地は京都を模倣した連鎖の犯行だったのだろうか。今年に入ってからも東大前で少年が大学入学共通テストの受験生ら3人を刺傷した。

昨年の刑法犯の認知件数は56万余件で戦後の最少を更新した。2002年のピーク時には285万余件だったことを思えば隔世の感である。統計上は治安が改善されていると言えるだろう。ただし、「体感治安」はいかがだろう。

同語は人々が漠然とではあるが感覚的、主観的に感じている治安の情勢を言うもの。警察関係者は、「我々にとって国民の治安への不安を解消することは大きな使命だ。自治体、警備業界とタイアップして体感治安の向上を目指したい」と折に触れて語っている。

大阪北新地であった事件の直後のこと。筆者は警備業経営者と、“仮にだけど”と注釈をつけて話したものだった。放火殺人の現場となったビル4階のエレベーター前、もしくはクリニックの入り口近くで制服の施設警備員が常駐警備していたならどうなったか?と。2人の思いは次のようなことで一致した。

――エレベーターを出た犯人は、狭い空間で制服姿の警備員の姿を目にすれば、おそらく、躊躇して犯行には及ばなかったのではないか。あるいは、警備員はガソリン缶を手にした男を見逃すことなく対処したに違いない――警備員が存在することによる事件発生の抑止と防止だ。

警備で不審者が消えた

私事を少し書きたい。過労死訴訟の第一人者で知られる川人博弁護士との警備にまつわる話である。旧知の間柄の川人さんから依頼があったのは数年前のこと。

曰く、大きな訴訟を抱えている。このところ身元の知れない男がビルのエレベーターホールや事務所のある2階を徘徊しているように感じる。念のために警備員さんに警備をしてもらいたいのだがどうだろう、というもの。

こちら、一も二もなく引き受けて警備会社の役員氏に連絡した。「都内の弁護士事務所が警備をやってほしいと言っている。優秀な警備員を派遣してもらいたい」。

常駐警備が始まると男の姿を見かけることはなくなった。警備は安全を確実にするため間隔を置いて随時、約2年間続けられた。

考えてみれば、警備業の犯罪抑止の効果は数値で計ることはできない。日々、それぞれの業務で国民の安心安全を担っている。業界には更なる体感治安の向上に寄与してほしい。

【六車 護】