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視点

健康経営2021.03.21

警備員を大切にする

新型コロナはいまだに収束が見えない。警備現場では感染予防策の再徹底を図る日々が続く。交通誘導警備業務、施設警備業務などの勤務形態で多く見られる現場直行・直帰の警備員には、管理職が出退勤時の報告などで体調を確認することが大切だ。

警備員の健康管理は、感染予防にとどまらず、労働災害事故を防ぐ上でも重要だ。体調に異変を感じたら速やかに申告する、規則的な食事と睡眠時間の確保といった健康意識を一人ひとりがより高めることが必要になる。

社員の健康は、経営資源の一つ――そう捉えて会社全体で心身の健康増進を図る取り組みは「健康経営」と呼ばれる。各種の要件を満たして健康経営を実践する企業は、経済産業省から「健康経営優良法人」の認定を受けることができる。今年の発表が3月4日に行われ、大規模法人・中小規模法人の部門で、複数の警備会社が認定を受けた。

今回、中小規模法人部門の上位500(ブライト500)に入った警備業者は7社だ。このうち、美警(北海道釧路市、三上葉月社長)は、社員が125人で半数が60歳以上を占める。昨年、コロナ対策を徹底するとともに、次のような取り組みを行ったという。

定期健康診断は、以前は結果を本人に渡すだけだったが、新たに釧路市役所の健康推進課の無料サービスを利用し、一人ひとりの診断結果について分析してもらった。市の保健師と連携し、社員それぞれの“健康カルテ”を作成した。血圧、血糖値、既往症、食事の偏りなどの留意点について、担当者はオンラインも交えて警備員一人ずつと面談した。2次検診が必要との結果が出た人には受診するよう促し、治療につながった。

全社員が共通して健康について改めて意識するようになったことで、職場は活性化しているという。警備員からは「一人暮らしなので食事や生活習慣を気遣ってもらえることに感謝しています」などの感想が寄せられている。

会社一丸となって健康意識を高めることは、企業が社員の心身を大切にする証しとなる。警備業界は数年来、人手不足や働き方改革への対応を背景に、警備員を今まで以上に大切するため処遇改善、職場環境の改善、福利厚生充実などを掲げて取り組んできた。コロナ禍による厳しい環境の中でも警備員を大切にする取り組みを停滞させず、さらに実践してほしい。

健康経営は多様な方法があり、工夫すれば新たな経費をかけなくても可能だ。ゴリラガードギャランティ(仙台市、千葉英明社長)は、社員が勤務時間中に医療機関を受診することを認めて、通院しやすい環境を作る。週に2回、内勤者だけでなく警備員も参加して社内のホールで30分間の本格的なエクササイズを行い運動不足を解消する。健康増進は、業務の質の向上にも通じるという。

健康経営優良法人に認定された企業は、ロゴマークを自社ホームページや求人広告などに使用して、アピールを図ることができる。認定は年度ごとに行われ、継続的に取り組みを強化することが求められるハードルの高い制度だ。認定を受ける警備会社が増えていけば、警備業界のイメージアップに結び付くに違いない。

警備員のため新たな取り組みの輪が広がることは、コロナ禍を乗り越える活力につながる。

【都築孝史】

2021.03.11

目に浮かぶ壊滅的な惨状

手元の資料の中に7年前から取り置いている短い文面のコピーがあります。被災地の女性が発信したネットのブログです。こう記されています。

「多くの人が<風化させないように>と言ってくれるけれど、それは震災も、津波も、原発事故も、過去のことになっているからでしょう。風化するということは、忘れることができる地点に立って初めて始まることです。東北の被災地では、まだ<風化する>段階ではありません」(全文)――。

心に秘めた苦悩の心情がひしひしと伝わってくる一文ではないでしょうか。私自身を振り返れば、日々過ぎる日常の年月の中で、年年歳歳、「3・11」の内なる記憶が薄れていることに気付くのです。コピーは、そんな己を戒めるものともなっているのです。

「3・11」の翌年、2012年2月。全国の警備業界の有志52社が発起人・出資者となって「警備保障タイムズ」が設立されました。我が国に警備業が誕生して50年の節目でした。少しの縁あって新聞作りを一から任された私は、即座に思い至りました。国民の安全と安心を担う警備業界の専門紙なら、月3回発行の創刊号は、震災から1年後の「3月11日」をおいてほかにない、と。

以来、「3・11特集号」の紙面作りに取り掛かるとき、私には習い性があります。先のコピーに目を通すこと。それと、今でも忘れることが出来ない2つの光景と体験を思い出すことです。

1つは、震災の年の5月中旬。居住する大田区が募集した4日間の被災地ボランティア活動に参加しました。バスで向かった一行は女性3人を含む25人。行く先は、津波被害で1100余人が亡くなった宮城県東松島市です。

活動地域は同市の赤井地区、海岸から離れてはいたのですが、1メートルを超える波が寄せました。主な作業は屋内や周辺に堆積したヘドロの除去です。驚愕の情景を目にしたのは途中でバスの車窓から目にしたJR野蒜(のびる)駅周辺の壊滅的な惨状でした。

同地区は背後に小高い山が連なり、10メートル超の津波が山裾まで襲ったのです。小学校を含む家屋はすべて倒壊、仙石線のレールは浮き上がってねじれ、2両の電車が横倒しのまま放置されていたのです。人影は未だに不明の人たちを捜索する警察官、自衛隊員、消防隊員ばかりでした。

2つ目は、小紙の創刊日を「3・11」と決めた12年の3月初め。発行号で<あれから1年 福島 警備の現場を行く>のルポ取材で足を踏み入れた福島県富岡町の東電第2原発周辺20キロ圏内の避難区域です。そこは大津波に蹂躙され倒壊した家屋が広がる荒涼としたゴーストタウンでした。

鳴り続けた線量計

化学防護服(通称、タイベックスーツ)に身を包んでいたとはいえ、携行した放射能線量計は間断なくピッピ、ピッピと鳴り続け、数値は通常の5倍を超える1.74マイクロシーベルト/時を感知していたのです。

現地の案内と説明は福島県警協専務理事の高木信明さん。ALSOK福島提供の「通行証」付き車両の運転は同社の警備主任・石井健司さん。福島は昔、私が全国紙記者として“サツ廻り”を開始した初任地という縁もあって、お二人は同行を快く引き受けてくれたのでした。

「東日本大震災」の10周年は、「コロナ禍」の収束が見出せない中で迎えました。東北の被災地に明日が見える本当の持続可能な復興支援は行き届いているでしょうか。「コロナ禍」でも政府の危機管理と危機対応は、心もとないことばかりではないでしょうか。確かな検証と今後の対策が求められていると強く感じる10回目の今日なのです。

                    ◇

小紙は今回の「3・11号」で創刊9周年を迎え、発行号数は298号の紙齢を重ねました。これも皆さまのご支援とご協力あればこそ積み重ねることができた「紙史」であります。衷心より感謝申し上げます。同人一同は、これからも警備業界の更なる発展の一助となりますよう、社会の変転に鋭敏な感覚で対応し、役立つ情報の発信に力を尽くす所存です。

【六車 護】

コロナ禍2021.03.01

値下げ要求には「NO」を

新型コロナ感染拡大で打撃を受けた経済は、回復が見通せない。政府が2月15日に発表した、2020年のGDP成長率はマイナス4.8パーセントで09年以来11年ぶりマイナスに転じた。後半はプラス成長だったが、けん引役となった個人消費も「GoTo」の中止と緊急事態宣言の再発出で再び冷え込んでいる。

警備業では、昨年春からのイベント警備と航空保安検査は需要が落ち込んだままだ。

さらには、これまでは比較的ダメージが少なかったオフィスビルや商業施設の常駐警備でも心配な動きが見られる。契約先が4月から始まる新年度から、大幅な値下げを要請しているというのだ。テレワークの普及や業績悪化による業務縮小でオフィスを移転する企業が増えており、空室が増えたビルオーナーは賃料収入が減り苦境に立たされている。警備料金を抑え経費削減を図る狙いである。

値下げを要請された首都圏のある警備会社の経営者は、「契約先も経営が苦しいのは理解しているが、『働き方改革』への対応や警備員確保のためには、値下げを受け入れることは難しい。回答は保留させてもらっている」と苦しげに現状を語っている。

契約先あってこその警備業ではあるが、警備計画に基づいた人数の警備員による業務を行っている以上、現在の料金は採算ラインぎりぎりの数字である。仮に応じてしまった場合、その業務は損失となり、警備会社の経営に影響を及ぼしてしまう。それが原因となって警備員が確保できなくなれば、業務を行えずかえって契約先に迷惑をかけてしまう。そのためには現在の厳しい経済情勢にあっても、値下げ要求には安易に応じるべきではない。

警備会社の営業担当者は、顧客のためにも料金維持が必要であることを粘り強く訴え、勇気を持って値下げに対して「NO」と言おう。

それでも契約先が難色を示す場合は、不法侵入や侵入盗、出火などの施設内でのトラブルをまとめた事故報告書を参考に、警備員の人数や警備内容の見直しを提案。人数が減るため売り上げは減少するが、一人ひとりの業務量は増えることから、警備員の労務単価アップを求め、できるだけ売り上げの減少を抑えるのだ。

社会のために安定経営

コロナ禍は、警備業が国を維持する社会インフラに必要不可欠な「エッセンシャル・ワーク」であることを広く再認識させる契機となった。警備業関係者は、感染拡大防止のための検温業務や3密を避けるための雑踏整理に取り組んだ。とりわけコロナ対応病棟での警備業務や感染者療養施設の運営を経験した企業は、社会の安全・安心確保に貢献しているとの思いを強くしたはずである。

感染収束後には、政府が誘致に力を入れている「MICE」(国際的な学術会議や展示会)や世界的なスポーツイベントが再開され、国内外の人の交流も活発になり警備需要も回復するだろう。その際に「警備員が足りない」「必要な資機材を購入する資金がない」といった理由で業務を断らないよう、警備会社は人材や経営体力を備えておく必要がある。

経営者や営業担当者は、会社の安定経営は社会の安心につながることを強く認識し、誇りを持って契約先と料金交渉に臨んでほしい。

【長嶺義隆】