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視点

資格不正2022.02.21

改めて「警備業は教育産業」

宮城県警は昨秋、仙台市内の警備会社の役員など5人を逮捕・送検した。いずれも警備業法に規定する「警備員指導教育責任者(指教責)」に関する違反の容疑だ。

違反は大きく二つ。一つは施設警備業務に従事していた関連会社の警備員に、交通誘導警備業務に従事した経験がないにもかかわらず、会社ぐるみで虚偽の交通誘導警備業務の「従事証明書」を作成。同証明書を警察に提出して同警備業務の指教責の資格を取得したというもの。もう一つは、県内外の複数の営業所に、指教責を専任で配置していなかった容疑だ。

虚偽の「警備業務従事証明書」の提出による資格の不正取得は、刑法の「免状不実記載」容疑として役員ら2人の逮捕につながった。資格を不正取得した警備員は、警備業法違反の疑いで送検されるとともに、いずれ資格の「返納命令」が言い渡される見込みだ。

事態を受け県警と宮城県警備業協会は合同で、年末の繁忙期にもかかわらず12月24日に加盟社の経営者や指教責など約120人を集め「緊急研修会」を開催した。席上、県警担当者は「警備員指導教育責任者は警備業の根幹」と述べ、「場合によっては警備業の認定取り消しもあり得る」と強く警告した。

昨夏の東京2020では、海外メディアの多くが大会警備に従事する警備員を称賛した。わが国警備員と警備業の質の高さを世界に知らしめる絶好の機会となった。

今回の不祥事は、全国の警備業関係者の高まった士気に冷や水を浴びせることとなったのはもちろんのこと、大会を機に醸成された警備業に対する社会の評価にも影を落とした。

重要な「指教責」の役割

警備業のあり方を規定する警備業法は、建設業法など他の“業法”に比べて教育に関する規定が大きな比率を占める。警備業の現場では、同規定に基づいてさまざまな教育が行われており、「警備業は教育産業」と言われる所以でもある。その中心となるのが警備員指導教育責任者であることは言うまでもない。

警備業法では、同責任者に新任・現任の両警備員教育の計画立案や実施・指導、記録の作成、さらには指導・教育について経営者への助言など多岐にわたる役割を規定している。警備業務の最前線となる営業所には、同責任者の“専任”での選任までも求めている。いずれも質の高い警備業務を顧客に提供するためであり、この警備業の基本原則を軽視・逸脱した今回の事件は言語道断と言わざるを得ない。

今回の事件の背景には「コロナ禍で減少した従来の警備業務の穴を埋めるため、他の警備業務分野にも進出・転換したい」「慢性的な人手不足などで十分な資格者を育成・確保できない」――などがあったことが推察できる。いかなる理由があろうとも、法違反は許されることではないが、今回の事件は他の警備会社にも起こり得ることであり、改めて警備各社の法令順守が問われている。

警備業界では「適正警備料金の獲得」が言い続けられている。そのために不可欠なのは、警備員一人ひとりが提供する質の高い警備業務である。それを実現する唯一の担い手が警備員指導教育責任者であることを忘れてはならない。

【休徳克幸】

成長と分配2022.02.11

目指そう年収400万円

オミクロン株が各地で猛威をふるっている。緊急事態宣言の発出も議論されるなか、警備業は安全安心を守るエッセンシャルワーカーとして業務の継続が求められている。

社会の根幹を支える重要な職業でありながら、警備員の多くはそれに見合う報酬を得られていない。警備員の月給は職業安定所が分類した145職種中135位と極めて低いのが実状だ。全警協の中山泰男会長は昨年末、官邸で開かれた「価格転嫁の円滑化会議」で、岸田首相ら関係閣僚に向けて警備業の最重要課題は「警備員の低賃金」と訴えた。

賃上げを実現するには、経営基盤の強化を図る必要がある。全警協・基本問題諮問委員会5テーマの一つ「経営基盤の強化、単価引き上げ策」部会(佐々木誠部会長)は昨夏、アクションプラン案を発表した。その報告書には「経営基盤強化サイクル」と題した資料が添付されていた。経営基盤強化のセオリー(理論)を可視化した労作だった。

そこでは、経営者がモラル(倫理)を守った再配分を行うことがサイクルのスタートに設定されていた。企業が可能な範囲で適正賃金を設定し、募集をかけて優秀な人材を確保する。学習能力が高く教育効果があがることから、高品質の警備が提供可能となる。業務の質に見合った高単価で請求して適正料金を確保できる。原資を得た企業は警備員に対し更に高額の再配分を行う――という流れでサイクルは繰り返される。重要なポイントは「経営者のモラル」「優秀な人材」の2つだ。

岸田政権は経済成長の恩恵を中間層に分配、消費を盛り上げて更なる経済成長につなげるという「成長と分配の好循環」を目指そうとしている。そのために下請け企業にしわ寄せがいかないよう監視を強めたり、賃金を上げる企業への減税を行う取り組みが国策として始められた。

国土交通省は4月からの入札で賃上げした企業に対し総合評価による加算点に5%以上追加することを決めた。財務省は賃上げを増加させた企業の税額控除を拡大し、中小企業では1.5%以上の賃上げで現行の25%から40%の控除に引き上げる。厚生労働省はコロナ下で賃上げを行った会社に業務改善助成金の特例コースを新設するなど、各省庁で取り組みは広がっている。こうした流れにのってチャンスをつかもう。

「経営基盤の強化、単価引き上げ策部会」委員である松尾浩三氏(岡山警協会長)は、本紙1月21日号「トップメッセージ」で警備員の年収について「400万円以上」という目標を示した。この金額には2つの理由があるそうだ。国税庁によると日本の全産業の平均年収が400万円台。そして銀行から住宅ローンの借り入れができ、家族と安定した暮らしをおくることができる最低年収が400万円なのだという。警備員の現在の平均年収とは残念ながら100万円以上の開きがある。

警備業の平均賃金が他の業種と並び、多くの警備員が充実した人生を過ごすことができるようになるまで、業界の人手不足問題はなくならない。未来ある若い人たちが人生設計も立てられない仕事に就くはずがないからだ。今こそ国の取り組みを活用しながら「経営基盤強化サイクル」を実践し、各社で「警備員の年収400万円」を実現してもらいたい。

【瀬戸雅彦】

東電「評価委」2022.02.01

原発警備員の地位守ろう

あと2か月ほどで東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故から11年が経過する。福島県の内堀雅雄知事は年頭の会見で「復興は途上。帰還困難区域全域の避難指示解除は困難」と述べた。昨年12月時点でいまだ2万7000人を超す県外避難者も含め、原発被害の影響で故郷を追われた多くの人々を忘れてはならない。

昨年末に東京電力ホールディングスが発表した「核セキュリティー専門家評価委員会」の設置は、福島原発の事故のあと、新潟県の柏崎刈羽原発で繰り返された不適切な事案が理由だ。「核」を取り扱う事業者として許されないリスク管理面の緩みが確認されたためで、それを正すことを目的に第三者の視点から評価を仰ぐことになった。

同評価委は今後、プロの目線での評価に加え、現場からの聞き取り結果などを小早川智明東電社長に半年ごとに報告するという。

核セキュリティーとは「核物質、その他の放射性物質、その関連施設およびその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為または故意の違反行為の防止、探知および対応」のことで、テロリストなどによる核物質や放射線源の悪用を防ぐために各国が連携して取り組む対策全般の概念。その幅広い知見を持つことがメンバーの条件で、そのうちの一人に全国警備業協会の黒木慶英専務理事が選ばれた。

警察庁出身の黒木氏は警備畑を長く務め「重大テロ対策官」として原子力発電所の警備を担当した経験がある。内閣官房時代は「自然災害以外の事故災害」と「テロ防止」を担当し、ちょうどそのとき発生したのが茨城県東海村の放射性物質加工施設で起きた「臨界事故」だった。被ばくによる死者が出た当時の現場の状況を熟知する一人だ。

東電自ら認める柏崎刈羽原発で繰り返された不祥事には、核物質防護設備の機能が一部失われ、不正な侵入を許しかねない状態となったことや、安全対策工事が未完了のまま一時放置状態となっていたことなどがある。

黒木氏が選ばれた理由の一つとみられるのは、他人のIDカードを使った社員に「中央制御室」への入室を許してしまったケースだ。現場には2人の警備員がいたが、社員に対する行き過ぎた遠慮意識が重要施設に不正な入室を許した最大の理由とされている。

警備員の不手際が招いた事態のように聞こえる一方、警備員に対する日ごろの社員の態度が関係しているとの声も聞かれる。なかには警備員に罵声を浴びせる社員もいるといい、そうしたことの積み重ねが今回のような不適切事例を招いた可能性もある。

昨年開かれた東京オリンピック・パラリンピックで世界のメディアが日本の警備員の働きぶりを称賛したのは記憶に新しい。エッセンシャルワーカーとして警備業界で働くことを誇りと思える大きな契機になったはずだ。その一方で、東電の事例のように警備員を軽んじるような風潮が残るようでは、高まったかに見えた業界全体の上昇機運が削がれかねない。

黒木氏には是非とも、現場の警備員が日ごろ抱いている正直な気持ちを引き出し、彼らの立場に立った発言を期待したい。警備現場の実態を知らせ、業界に対する理解を促せれば、ゆくゆくは警備業界全体の地位向上につながっていくのではないだろうか。

【福本晃士】