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視点

事業計画2020.6.21

議論始まる「新時代の警備」

全国警備業協会の総会は、新型コロナ対応のため少人数、時間短縮という異例の開催となった。総会のポイントは大きく2つある。

第1は「会費の減免」を決議したことだ。新型コロナ拡大の影響で収入が減少し、業績が悪化した都道府県協会と加盟員を支援するための措置だ。減免額は1社あたり6000円、加盟社全体では合計約4100万円にのぼる。

全警協はこれまでも、東日本大震災発生時に復旧・復興を目的に、被災県の会費を免除するなど支援措置をとってきた。しかし今回のように全国一律の会費免除は初めてのことだ。

免除された会費の使い方については、都道府県協会に一任されている。使用例として、感染予防ガイドラインに沿った対策に使う備品購入などが示されている。地域の事情に合わせて熟考し、有効に活用してもらいたい。

総会ポイントの第2は「基本問題諮問委員会の開催」だ。昨年度から事業計画にあがっていた同委員会が7月からスタートする。新型コロナ感染は予断を許さない状況が続くが、警備業は「感染予防対策ガイドライン」に沿った健康管理を徹底させながら、終息後の警備の在り方を準備しておく必要がある。委員会は重要な課題に絞って議論を行い指針を策定する。

テーマは1回目の会合で検討されるが、人手不足など喫緊の課題とともに、外国人労働、ICTなどテクノロジーの活用、サイバーセキュリティー対策、災害時における警備業の役割――など「新時代の警備」にも焦点があてられることになるだろう。委員会は4半期ごとに開催し1年間協議を重ねる。

委員は、全国9地区にわたり実務経験が豊富な14人が選ばれた。注目したいのは県協会の青年部会長4人がメンバーとして選ばれていることだ。既成の枠にとらわれない柔軟な発想による斬新な意見を期待したい。

全警協が基本問題諮問委員会を開催するのは今回で2回目となる。前回は警備関係者・有識者13人が2016年5月から約1年間、主に警備員不足対策と業界の社会的地位の向上を主なテーマに話し合った。その成果は「最終報告書」としてまとめられた。

一方、2017年9月から半年間議論を重ねた「人口減少時代における警備業務の在り方に関する有識者検討会」も有意義な会合だった。少子高齢化で警備員不足が進む将来、警備業はどうあるべきかをメインテーマに、先進技術による警備業務の生産性向上や警備員教育・検定の合理化などについて意見を交わし結果を「報告書」に集約した。

これら2つの報告書は現在、全警協の取り組みの“礎(いしずえ)”となっている。新たにスタートする「基本問題諮問委員会」は、コロナ後の世界や一年延期となった東京五輪・パラリンピック警備に活かせるような先進的な内容を目指し実行されることを願いたい。

総会では事業計画として、加盟員が適正な警備料金を確保するための根拠やノウハウを紹介したハンドブック「警備料金の基礎知識(仮称)」の策定・普及も示された。一昨年に加盟員に配布され成果をあげている「適正取引推進に向けた自主行動計画」と併用することで、適正料金の確保に一層大きな効果を生みそうだ。経営基盤を固め、各社の課題解決につなげてほしい。

【瀬戸雅彦】

講習中止2020.06.11

「資格目指す歩み」止めぬ

 

警備業界がコロナ禍で受けた打撃は、イベントをはじめとする業務のキャンセルにとどまらない。警備員が各種の警備業務において国家資格の取得を目指して受講する「特別講習」の中止・延期は、資格者の増員を図る警備会社に痛手となった。

特に交通誘導警備の講習中止は、切実な問題だ。近年、資格者の配置が法で義務付けられる国道などの「指定路線」が全国的に増加した。指定路線での警備業務に対応するために資格者の増員は必須となっている。

首都圏で交通誘導警備を行う中小企業の幹部は「業務の発注があっても資格者を配置する日程の調整ができなければ、せっかくの受注を断るしかない」と焦りをにじませる。

今後、中止分の振り替えの講習が行われても、自社の業務があるため1回に受講できる社員の数は限られ、資格者を一度に増やすことはできない悩ましさがある。毎回3人ずつなどの予定を立てて、資格者を段階的に増やしていくしかないのだ。

警備員にとって資格取得は、知識・技能を高めることに加えて、「資格手当」などで昇給に結び付くものだ。受講者は、講習に向けて勤務の合間を縫って勉強を続けてきた。資格取得と昇給の機会が先送りとなったのは由々しいことである。

ある警備会社に勤務する特別講習講師は「受講する人は、中止・延期によって意欲を失うことなく、『自分を磨いて準備する時間が増えた』と前向きに考えてほしい」とエールを贈る。検定合格を目指して、これまで重ねてきた努力の歩みを止めないことが大切になる。

特別講習は、受講者の努力に加えて、受講者の会社が行う「送り出し教育」、そして特別講習講師の熱意あふれる取り組み――3つの要素によって合格率が上昇するという。

送り出し教育は、受講者が自社の上司や先輩から受ける座学と訓練だ。これを受けることで知識を再確認し実技を身に付け、自信を持って講習に臨むことができる。今、警備各社は新型コロナ感染予防対策の継続や、警備業務の予定変更などに追われている。こうした中にあっても、管理職は受講者を激励し、十分な送り出し教育を行って“自社の代表”としてバックアップする取り組みが不可欠となる。

受注を勝ち取るために

警備業がコロナ禍を克服していく道のりは、容易には見通せない。経済活動再開の動きが広がることで、警備業の需要も回復に向かう。しかし、多くのユーザーが打撃を受けた中で、以前に比べて警備業務の発注が減少することは避けられそうにない。厳しい経済情勢のもとで企業が受注を勝ち取るために、資格者を筆頭に優秀な人材をより多く育成して、ユーザーの高い評価と信頼を獲得する取り組みが一層重要になる。

需要が減少すれば数年にわたって慢性的に続いてきた警備員不足の状況が変化することになる。警備員は、資格取得を通じて「自分の存在価値」をより高め、かけがえのない存在となって活躍の場を広げていく時だ。

経営側と現場の警備員が業務品質の向上を目指して取り組む先に、災禍を乗り越える活路が開かれるに違いない。

【都築孝史】

コロナ危機2020.06.01

警備料金維持に努めよう

政府は5月25日、東京など首都圏の1都3県と北海道への新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を解除した。段階的に通常の生活や経済社会活動が回復する。

しかし警備業は、これからかつてない試練の時を迎えることとなる。これまでもイベントや建設工事の中止の影響を受けて業務のキャンセルが相次ぎ、大きなダメージを受けてきた。株式上場している警備会社の今期業績予想は、そのことを裏付けるように厳しい見通しとなっている。東洋テックやセコムは今期の営業利益を前期から大幅減と発表。その要因を、既契約先からの値下げ要請や契約の解約、新規契約数の減少が予想されるからだとしている。

思い出されるのは2008年のリーマン・ショックだ。09年3月期の上場警備会社の決算を見ると、2桁の減益が目立った。それらの企業の決算短信には、景況感の悪化により厳しい状況で推移したと記載されていた。

今後、警備会社にとって最も危惧されるのは発注主からの大幅な警備業務料金の値下げ要請だ。全国警備業協会が2018年に策定した「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」には警備会社への聞き取り例として、リーマン・ショックのような経済危機では発注主から「協力依頼」と称して大幅な値引き要請があり、それを受け入れた結果、景気が回復しても警備業務料金が据え置かれたとある。

同様の事例は多くの警備会社から聞かれる。更に警備会社によるダンピング受注も横行し、これをきっかけに経営体力が弱体化。警備員の給与水準が低下したことが尾を引き、現在に至る人手不足の一因となっている警備会社が多いという。

もちろん発注主も新型コロナの影響を受けており、厳しい舵取りを迫られている。中小のビル運営会社はテナントの倒産や値下げ要請などにより、苦境に立たされているケースが多い。宿泊客が激減しているホテルも同様だ。仕事を発注する企業の経営が立ち行かなくなれば、受注側にも影響を及ぼす。受発注者は十分な協議を行い、お互いが生き残るための努力が必要だ。

発注主へ丁寧に説明

だからといって警備会社は大幅値下げ要請の受諾やダンピング受注をすれば、リーマン・ショック時の二の舞になってしまう。大事な警備員を守るためにも、経営者自らが先頭に立って発注主との協議に当たり、適正な警備料金の維持に努めるべきである。

協議では経営者や営業担当者は、発注主に納得してもらうために必要経費の内訳など十分な論拠や資料を用意するほか、交渉スキルを磨いた上で粘り強く交渉するべきである。

例えば中小の警備会社にも4月から「働き方改革」による時間外労働上限規制が適用され、必要経費がこれまで以上に増えることや、更には来年からは同一労働同一賃金が始まり厳しい経営を迫られると丁寧に説明することだ。

それでも大幅な値下げを要求された場合は下請法に違反する恐れがあると指摘するなどして、応じられないという態度を示すべきである。仕事を失うことになるかもしれないが、安易な値下げは自らを苦境に追い込む結果となる。経済の状況は不透明で不安も多いだろうが、ここは踏ん張りどころだ。

【長嶺義隆】