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視点

記憶の年2021.12.21

〝次の50年〟への弾みに

「エッセンシャルワーカー」「東京2020」――。この一年、警備業で多く語られた言葉である。

人の営みに、その後の人生を大きく左右するさまざまな“節目”があるように、警備業にとっても今年は、さらなる飛躍の弾みとなるであろう「記憶に残る年」になったに違いない。

1年延期や無観客など異例づくめの開催となった東京2020では、普段は競い合う大手2社の協力により、五輪史上初の民間警備553社による「オールジャパン」のJVが編成され、警察などとともに大会の安全を支えた。その成功は新たな“ビジネスモデル”として今後の大規模警備に生かされるだろう。

大会を終え全国警備業協会の中山泰男会長は、大会警備や労務管理でのITシステムのフル活用や適正な契約締結・単価獲得など「3つのレガシー」を挙げた。今後の課題は、全国の警備業にこのレガシーを広め、そして根付かせることである。

コロナ禍では、社会経済活動の持続に不可欠な仕事として、全国的に感染が広がる中にあっても、多くの警備員がマスクやフェースシールドを着用しながら業務を行った。PCR検査場やワクチン接種会場では、交通誘導警備や来場者の案内・誘導を行う警備員の姿を多くの国民が目にした。変異株「オミクロン株」などによる感染第6波も懸念されるが、今後も警備業の役割は変わらない。

警備業法施行から50年

明けて2022年は、1972(昭和47)年に警備業法が施行されてから50年を迎える。同じ年に設立された全警協は来秋、設立記念行事を計画している。

警備業の草創期、業務を巡り相次いだ不祥事を受けて「規制法」として警備業法は制定された。

50年の時を経て、今や警備業は「生活安全産業」として成長・発展、国民生活に欠かせない存在となった。国は社会安全の“パートナー”として警備業を位置付けている。

それを支えてきたのは、愚直なまでに「適正業務」の遂行を目指してきた多くの警備業経営者と、それを現場で支えてきた警備員たちである。

とりわけ現場警備員は、立ち居振る舞いや仕事への姿勢など、東京2020で多くの海外メディアから賞賛の声が相次いだように、わが国警備業の質の高さを世界に知らしめた。50年間の警備業を挙げた取り組みが結実したとも言えよう。

一方で、発生率では全業種中ワーストクラスの労働災害、月収で10万円・年収で100万円低いとも指摘される賃金水準など、現在も多くの警備員が置かれている雇用労働条件や労働環境は、必ずしも誇れるものではない。ましてや個々の警備員の使命感や自己犠牲に頼るようでは産業の未来はない。

AIやITなどがいくら進展しようとも、警備現場を支えるのは警備員一人ひとりであることが東京2020でも改めて証明された。優秀な警備人材の確保と育成は今後も警備会社、ひいては業界全体の課題であり、原資となる適正警備料金の獲得は必須条件だ。

全ての警備員が生きがいを持って安心して働き続けられる職場や業界をつくる。それが「次の警備業50年」へ向けたテーマだ。

【休徳克幸】

職場見学2021.12.11

長く働いてもらうために

交通誘導を中心に多くの警備現場は中途採用の警備員が支えている。ところが、入社後間もなくして離職する人が少なくないとの声を聞く。中高年は扶養家族がいる場合も多く、長く働いてもらえると考えがちだが実態は違うようだ。

東北地方の警備会社は、「採用後すぐに退職してしまう中途採用の警備員が減らないのが悩みの種だ」と語る。顕著なのが施設警備で、同社では中途採用した施設警備員の2〜3割が1〜2週間で職場を去るという。

施設警備員は肉体労働というわけではないため楽なイメージを抱いて入社する人もいるが、実際には巡回で歩き回ったりするため一定の体力は必要だ。常に警戒を怠らないことも求められるため、現場に入る前に警備員の責任を十分理解していない人は重圧に耐えられなくなることもある。

同社では、面接や初任者研修でできるだけ実態を話すよう努めたり、現場の隊長が面接官となって臨場感のある説明を行うようにしている。しかし、口頭では全てを伝えきれないため結果として中途採用者が持つイメージと現場の実態にギャップが生じ、早期退職につながってしまうと思われる。

早期退職の防止策を検討している警備会社は多いが、なかなか妙案は見当たらない。こうした中、面接前に職場見学を行い理解を深めてもらう取り組みが増えてきた。

名古屋市の城南警備保障(村木伸一社長)は、今夏から中途採用者向けに交通誘導警備の職場見学を開始した。早期退職を防ぎ、定着率を高めることが狙いで、面接前の希望者に対し2か所の職場見学を行っている。

警備員の後方など業務に支障がなく可能な限り現場に近いところで見学し、警備員の動き方などを詳しく説明している。同社では「質疑応答も含め職場見学で業務への疑問はほぼゼロになる。実態に近いイメージを抱くことができ、警備という仕事への責任感も芽生えてくる」と分析する。交通誘導警備は一般の人が目にする機会が多く、現場をイメージしやすい利点もある。

雇用環境を整えて

効果が出始めている職場見学だが、警備業に対する理解が深まったからといって無条件によい結果を得られるわけではない。

10月14日に福島県会津若松市で行った警備業向け職場見学バスツアーには、求職者約10人が参加し仕事に興味を示した人もいたが最終的な応募者はゼロだった。

同26日に福島市で福島県警備業協会主催のセキュリティ・ジョブ・フェアを取材した折のこと、参加者の1人が「フェアに参加したが警備は第1志望ではない。本命は別にある」と語っていた。盛夏・厳冬の屋外で行う交通誘導警備の厳しさと対価を総合的に判断したのだろう。

警備会社は職場見学で理解を深めてもらうだけでなく、雇用環境全体を整えて求職者に判断してもらわないといけない。収入や勤務シフトは求職者が納得できる内容であることが大前提となる。

新型コロナウイルスの新規感染者が大幅に減り、求職者は休業状態だった飲食業やイベント業などにも目を向け始めた。人材獲得競争の激化が予想される中、求職者に「働きたい」と思わせるような取り組みを進めることが警備業界に課せられた使命であろう。

【豊島佳夫】

DX社会2021.12.01

業界一体で進めよう

自動運転や将棋など「AI(人工知能)」が話題にのぼる機会が増えた。警備業界でもAIを活用したシステムが登場し、社会の関心を集めている。

中でも監視カメラの進化はめざましく、AIを使った画像解析技術は日進月歩だ。従来の監視カメラでは録画画像を人が目視で確認していたが、AIなら確認と分析を短時間で正確にこなせる。人の細かい動きをAIに学習させてカメラ映像から万引きなどの不審行動を発見するシステムも実用化されている。都市部ではオフィスビルや商業施設のフロアを監視・巡回する“警備ロボット”も目にするようになった。

AIの導入は、交通誘導警備でも始まっている。国土交通省は建設現場の生産性を高める新技術の導入を進めており、その一環として革新的技術を公募するプロジェクトを立ち上げ今夏、2社の交通規制システムを選定。片側交互通行の工事現場でカメラ映像をAIが画像解析し、信号機や電光掲示板で車両規制するシステムが試行を開始した。

AIなど先進技術の導入を推進する目的は、デジタル技術でよりよい暮らしをめざす「DX(デジタルトランスフォーメーション)社会」の実現だ。警備業務はDX化が進むことで「人と機械が協力し合う」時代に入っていく。工事現場には警備員のほかに、システムの運用や保守を担うオペレーター(操縦者)が必要になることが予想されている。

一方で課題もある。建設会社自らがシステムを用いて交通誘導を行う「自家警備」への懸念だ。道路工事の際に公安委員会に申請する「道路使用許可」の内容について見直すなど、法整備などの対策が必要になる。

警備業のDX化はこうした課題を一つずつ解決しながら、業界が一体となって進めることが大事だ。そのメリットは大きく、手間と時間をかけない「業務の効率化」、省人化による「人手不足の緩和」、付加価値で「適正料金の確保」――など警備業の積年の課題解決につながっていく。 

その道のりは険しいであろう。全警協が策定した「アクションプラン案」5テーマの一つ「ICT・テクノロジー活用」部会(豊島貴子部会長)は、警備会社1100社を対象にウェブ調査を実施した。約9割を占める「従業員100人未満の会社」の多くはICT(情報通信技術)に必要性を感じていない、ICTに詳しい人材がいない、などの実態が浮き彫りとなった。

各社がICTを導入しない理由として、原資不足や人手不足などの課題対策を優先させていることがあるが、「経営者のモラル」や「警備員の質」にも要因があることがわかった。豊島部会長は「全警協・都道府県協会・警備員特別講習事業センターが連携してデジタル化を主導するとともに、加盟員がデジタル環境を整えられるように支援する」などの取り組みをアクションプラン案に示した。今後は全警協の総務委員会が中心となり、具体的な実行に移す「第2フェーズ」に入る。

まもなく発生から2年が経つ「コロナ禍」は、国内の感染者数は激減しているが、一部の国では新たな変異ウイルス「オミクロン株」が確認された。懸念される「第6波」に備え、各社はリモートでコミュニケーションをとる環境整備など、ICT化に取り組んでほしい。

【瀬戸雅彦】