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視点

災害対策2024.02.21

平常時から備え進めよう

元日の団らんを襲った「能登半島地震」発生から間もなく2か月が経つ。警備業界は石川警協会員を中心に建造物・道路の復旧工事や廃棄物処理に伴う交通誘導警備業務などを行っている。

高さ5メートルの津波が沿岸部に押し寄せたのは、揺れからわずか5分後のことだった。震源地が陸地に近い活断層だったため、津波の到達が極めて早かった。注目されているのは震源地に近い珠洲市の沿岸・下出地区で津波の犠牲者が出なかったことだ。

下出地区では東日本大震災を機に「いざとなったら集会所」を合い言葉として避難訓練を毎年続けてきた。住民は訓練のとおり荷物を持たず、高台にある集会所に向かって難を逃れた。平常時にこそ、災害に備えなければならないことを改めて感じさせた。

警備業の災害対策はどうだったか。北陸から東海までの6県協会で構成する中部地区連の対応は早かった。年明けにもかかわらず緊急援助隊を短期間で結成。1月6日には七尾市の避難施設で警戒パトロールを開始した。小塚喜城会長は「6県協会の日頃の意思疎通、災害支援協力隊の定期的な訓練と装備資機材の点検などが功を奏した」と述べた。地区連による初動対応は初のケースであり、ここでも平常時の備えが活きた。

気にかかったのは業務中の警備員が、津波警報の発令で直ちに避難行動をとれたかだ。南海トラフ大地震では10メートル超の大津波が20分で沿岸に達すると予想されている。緊急時に命を守る行動をとるよう、全警協策定「安全確保のためのガイドライン」の周知が求められる。

犠牲になった人の多くは、建物倒壊が原因であることがわかった。各警備会社には社屋の耐震化をはじめ、従業員の避難計画や安否確認の連絡網の整備など、BCP(事業継続計画)の策定が急がれる。BCPは全警協策定の例を参考に、各社の実情に合わせて作成することが大切だ。

能登半島地震から間もない1月末、神奈川警協は県と有償出動の災害支援協定を結んだ。神奈川警協・岩野経人会長は全警協「警備業の災害時の役割明確化」の取り組みから有償協定の必要性を感じた。協会役員や県と協議を重ね、2年の歳月をかけて協定書を策定し締結に至った。

この協定書は全警協の「ひな形」を基に独自の方針を盛り込んである。業務内容として「通学ルートにおける児童の誘導」を含めたのは会員が地域で行っている児童見守りの防犯活動を活かせるからだ。県の出動要請は迅速性を考慮して「口頭でもよい」とし文書は後に提出することとした。

県との協議の中で活動のシミュレーションも立てた。災害支援隊150人は発災後に出動し、隊員10人が3日間ずつ防犯パトロールを無償で実施、1か月目から協定に基づく有償出動に切り替える具体的な計画だ。

阪神淡路大震災後に各警協が自治体や警察と結んだ協定の多くは費用負担や業務内容が明確ではない。長期にわたり業務を請け負うことができる内容に早急に見直す必要がある。

昨年から各地で地震が頻発している。さらに夏の豪雨や酷暑など、国民は今年も自然災害と向き合わなければならない。警備業は自らの安全確保と災害支援のため、業界をあげて平常時から備えを進めてほしい。

【瀬戸雅彦】

シニア活躍2024.02.11

「リスキリング」で資格取得

還暦を過ぎて警備員として働く人たちが、能力を遺憾なく発揮できる職場づくりをさらに進めよう――。全国警備業協会(中山泰男会長)は「警備業高齢者の活躍に向けたガイドライン」を昨年11月に策定した。助成金などの資料も含めA4サイズで47ページ、全警協サイトからダウンロードできる。加盟員に概要版のリーフレットを送付し、ウェブセミナーを開催するなど普及を図っている。

同ガイドラインは、えびす淑子・立正大学経済学部教授を座長とする警備業高齢者雇用推進委員会がまとめた。加盟企業1000社と従業員4000人を対象に行ったアンケート、ヒアリングの結果を踏まえたものだ。シニア層が意欲的に業務に励めるよう「高齢者と企業の意向のすり合わせ」「日常的な健康管理の強化」「安全衛生教育マニュアル活用」など6つの指針について解説している。

指針の一つ「高齢者のモチベーション向上」の中に「警備員の能力を高めるためのリスキリング支援」という項目がある。リスキリング(学び直し)は、職業能力の再開発、業務で役立つ知識やスキルを新たに獲得することを意味し、人材活用のキーワードとして注目されている。

ガイドラインでは、リスキリングとして警備業務検定など各種の資格取得を推奨するとともに、「取得者に対しては手当の支給や表彰制度などメリットが感じられる社内制度を整備し、高齢者のモチベーションを高めていくことが大切」と説明している。

交通誘導警備を手掛ける警備会社は、資格者配置路線で業務を行うため検定合格警備員の育成は切実な課題だ。慢性的な人材不足の中、かなり年配の警備員が社内の「送り出し教育」を受けることなく特別講習に臨み、大旗による車両誘導、護身術などの実技がおぼつかない場合もあるという。

記憶力や体力面では若者に及ばなくとも丁寧な教育によってスキルをより高めることはできる。ある中小企業の教育担当者は、年長の警備員に送り出し教育を行う際のポイントとして「実技では一連の動作をステップに区切って、段階的に身に付けてもらうなどの工夫をしている。相手は“人生の先輩”でありプライドを傷つけないように指導します。小さなことでもほめられると自信につながるものです」と話した。

同ガイドラインは、年長者と若手の社員がコミュニケーションを深める機会づくり、熱中症予防策、「健康経営優良法人」認定などについても説明している。発注者から“65歳以下の警備員を出してほしい”と求められた場合、高齢者の活躍できる場を確保するため警備会社は発注者と対話し理解を得るよう呼び掛けている。

シニア警備員が今まで以上に力を発揮するためには、働く人を大切にしようとする経営者の心配りが必要不可欠であることがガイドラインから伝わってくる。

警備員は60歳以上が46.1%を占める(2022年末)。超高齢社会の中で、職場の環境整備を進める警備会社が増えれば「シニアがいきいきと働ける業界」との認知が広がるはずだ。他業種の手本となって警備業のイメージアップにつながるのではないか。

人生経験豊富な警備員が、会社から大切にされて意気に感じ、自社に貢献することで会社・業界の一層の発展につながってほしい。

【都築孝史】

闇バイト2024.02.01

ポスターに込めた注意喚起

「楽をして大金を稼げるアルバイトは存在しません」「応募してしまうと、詐欺の受け子や出し子、強盗の実行犯など、犯罪組織の手先として利用され、犯罪者となってしまいます」――。この文言は、「闇バイト」への注意を若者に呼び掛けたいと、埼玉県警備業協会青年部会が作製したポスターに書かれている。B2判のポスターは埼玉県内にキャンパスがある大学や、「学校警察連絡協議会」を通じて県内全ての高校に配布された。全国の警協の先駆けとして行ったものだ。

若者を狙った闇バイトは社会問題になっている。犯行グループはSNSやコミュニティサイトを使い、高額報酬をうたってアルバイトの募集をかける。遊ぶ金欲しさなどで安易に応募すると、匿名性の高いアプリを使ったやりとりを経て、特殊詐欺や強盗などの犯罪に実行役として加担。やめたいと思っても、応募時に登録した個人情報によって脅迫され、逮捕されるまで抜け出せないという。

警察庁は広報啓発活動として、ホームページに「犯罪実行者募集の実態〜少年を使い捨てにする闇バイトの現実〜」を掲載している。その中では「身分証明書を送るように言われ、保険証と一緒に顔写真を送信してしまった」「警察に捕まるリスクが大きいと思って断ると、『自宅に押しかける。母親を狙う』と脅され、仕方なく受け子をやった」「犯行グループから『報酬は後でまとめて払う』と聞いていたが、支払われることはないまま逮捕された」など多数のケースが紹介されており、危険な犯罪だ。

埼玉警協青年部会は2022年夏に発足した。警備業の課題を抽出して対処するとし、将来を担う人材の育成や業界のPRに取り組むことを掲げた。

今回のポスター作製はその一環と言える。生活安全産業に携わる事業者として、若者が闇バイトに巻き込まれることを防ぐとともに、警備業の存在、社会貢献活動を広く知ってもらう契機にしたいと考えたものだ。

作製に当たっては闇バイトの実態について調べ、デザイナーにたたき台を依頼し、埼玉県警察と協議を重ねたという。

完成したポスターには、犯行グループのイメージや闇バイト関連の文字を入力したスマートフォンの画像が配置されている。背景色が黒になっていることで闇バイトの怖さがストレートに伝わってくる。メッセージにインパクトがあり、「作り手」の願いが分かる。

昨年末、配布先の一つとなった大東文化大学・東松山キャンパスでの掲示作業を取材した。ポスターは、多くの学生が利用するというフリースペース内の掲示板などに貼られた。長谷川功一青年部会長は「安全安心の環境づくりに少しでも貢献したい。警備業に関心を持つきっかけにもなってくれたら」と話していた。

取り組みは、関東地区警備業協会連合会・青年部会の初年度事業「関東圏一斉防犯啓蒙活動」の一環でもある。

警備員における若年層の減少が「警備業の概況」(警察庁公表)で明らかになっている。埼玉警協青年部会は今回、現代の犯罪から若者を守る一助になればと活動に取り組んだ。併せて、活動を通じて警備業への関心を高め、アルバイトや就職先の選択肢に警備の仕事が入ってくれればと考えた。青年部会の次なる一手にも期待したい。

【伊部正之】