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視点

東京20202021.06.21

「有観客」根拠を聞きたい!!

開会式まで40日となった今夏の東京五輪パラリンピック、政府は「観客を入れての開催」に突き進むことが確実になったようだ。

先日、英国での主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席した菅首相は、バイデン米大統領との個別会談で「安全安心の大会を実現したい」と伝え、大統領からは「あなたを支持する」との返答をもらったと喜色満面に語っていた。首脳宣言の末尾にも開催に向けた支持が付記された。

一時は新型コロナ感染拡大への懸念から「無観客」との声もあった。それがここへきて、首相が強気に転じた要因は明白だ。ワクチンの接種が全国的に進んでいることである。

「有観客開催」に向けての段取りは次のようになるのではないか。「緊急事態宣言の解除」→「五輪組織委、国際オリンピック委(IOC)、東京都などとの協議」→「プロ野球やJリーグなどが実施したイベント制限の上限に準じた観客数の決定」――。

そしてこの間、最大の関心事といえば、「コロナ対策分科会」の専門家諸氏による提言をどのように織り込むかであろう。目下のところ、政府と専門家の感染リスクをめぐる溝は相当に深いようなのだ。

それにつけても、前首相と現首相が口をそろえた「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証としての五輪」はどこへ行ったやら。どうやら、五輪はコロナ感染を抑制、折り合いをつけながらの共存、「ウイズ・コロナ・オリンピック」とならざるを得ないのではないか。

小紙の今号が読者の皆さんの手元に届くころには、おおよその全体像が明らかになっているはずである。

そのとき、首相から聞きたいのは「安全安心な五輪」、「国民の命と健康を守るのが私の責任」という毎度の常套句ではない。「有観客」を決断した根拠である。科学にしっかり耳を傾けての状況と判断の経緯、感染のリスクを最小限にするための具体的な対応策の説明でなければならない。

警備員にワクチン接種を

過日、全警協の総会があった。何人かの参会者と交わした会話の大半が「オリンピックはどうなる?」だった。記憶に残る言葉を2つほど紹介したい。それは期間中のリスク管理の難しさだ。

「わが社では50人ほどの派遣を決めている。開催するにしても、五輪は開いて終わりではない。パラリンピックを含め9月上旬まで続く長丁場の警備を無事に終えるのは至難の業だと思う」。

「政府関係者はワクチンの職域接種が広まれば、五輪に前向きな雰囲気がもっと出ると言うが、雰囲気で判断されてはたまらない。できることなら開会式までに大会に参加する警備員、送迎車両の運転手も含め、大会関係者の全員に2回のワクチン接種ができないだろうか」。 

大会警備JVは、4月下旬からメインスタジアムの国立競技場で関係者や車両の入退場管理と巡回警備を行っている。43会場すべての警備には1万人超の警備員を動員する。

聖火はいま岩手県を南下している(17日)。各地で沿道の立入禁止、点火式だけの縮小などを余儀なくされ、地方警備会社の労苦が思われる。最終リレー地の東京都内に入るのは7月9日だ。五輪本番への道は、万全の対策が施され、みんなが納得するものになっているだろうか。

【六車 護】

労災防止2021.06.11

躊躇せず「安全」求めよう

「ご安全に」――。建設業や製造業の多くの現場で交わされている日常の“あいさつ”だ。

相手の無事を気遣い、安全への注意喚起を図るという思いが込められている。

過去に数多くの労働災害が発生してきたこれら業種では、業界を挙げた労災防止への取り組みが続けられてきた。

機械設備の改善はもとより、現場の作業者が日常的に行うヒヤリ・ハットやKY(危険予知)活動などの取り組みは、安全が企業や業界の“文化”として根付きつつあることを感じさせる。

高所の足場作業など数多くの危険作業が日常的に行われている建設業では、1989(平成元)年に1017人が仕事中に亡くなっている。それが2020(令和2)年には258人まで減少した。

建設業の何が変わったのか――。それは建設現場を見れば一目瞭然だ。かつては多く見られた粗末な狭い足場は姿を消し、頑丈な手すりと十分な広さの作業床のある足場に代わった。そればかりか、足場を不要とする工法さえも開発されている。「現場から危険の芽を摘み取ろう」という関係者の努力が仕事のやり方までも変えたのだ。警備業も見習いたい。いや、そうありたいものだ。

警備業では20年、仕事中に亡くなったのは28人、前年より7人増加した。過去10年をみても増減を繰り返し、ほぼ30人前後で推移している。

「建設業の258人に比べれば圧倒的に少ない」との意見もあるが、建設業の従事者数は全国の警備員数約57万人の10倍弱の約500万人。労災の発生率では建設業よりも高いことを直視しなければならない。

熱中症、コロナ対策も不可欠

7月1日から全国安全週間が始まる。6月はその準備期間だ。週間を機に、警備業各社では自社の安全管理の再確認と職場の安全機運の醸成に努めてほしい。

加えて、これからの季節は「熱中症」への対策も欠かせない。

警備業は20年に全国で82人が熱中症で死亡または4日以上の休業を強いられた。全業種の中でも“ワースト4”の熱中症多発業種だ。しかも昨年は、炎天下で業務に当たる警備員に水や塩分を与えなかったとして、労働基準監督署が警備業者を送検するという事態まで発生した。熱中症を原因とする送検は全国的にも珍しく、数年前に1件あったのみ。それも警備業だった。

夏季の警備業務での熱中症リスクは以前から指摘されている。都道府県警備業協会でも熱中症予防をテーマとした研修会などを開催してきたが、企業での対策が伴っていなかったことが露見した。

さらに新たな対策として新型コロナへの備えも必要だ。昨年は警備業では3人が、仕事中にコロナに感染したとして労災が認められた。緊急事態宣言やまん延防止重点措置の相次ぐ延長など終息が見通せない中、感染予防への取り組みも最重要課題だ。

「安全な職場環境が質の高い仕事を生む」は全ての業種に共通する。警備業の場合、警備員の日常の職場は顧客・発注者が管理する現場のため改善を申し出るのに躊(ちゅう)躇(ちょ)する気持ちも理解できる。しかし、「自分たちの安全も守れない警備会社に他人の安全・安心が守れるはずがない」と揶揄される前に、積極的に安全な職場を追求してほしい。

【休徳克幸】

営業強化2021.06.01

「提案型」で受注増やそう

新型コロナウイルスが世界に甚大な被害を与えて、1年半近くが経過した。政府は9都道府県に出している緊急事態宣言の期限延長を検討するなど、いまだに感染終息のめどは立っていない。

経済活動は、感染拡大で深刻な打撃を受けた。警備業ではイベントの中止や経費削減による警備料金の見直し、企業の拠点集約・店舗の統廃合などが影響、昨年度の業績は多くの警備会社で悪化した。花火大会など今夏のイベントの多くは中止を決めており、まだ当分は厳しい状況が続く。

そうした中、警備業界では「with コロナ」や「after コロナ」の企業戦略の一つとして、「営業力強化」への関心が高まっている。業績回復に向けて少しでも多くの業務を受注するためだ。社会になくてはならないエッセンシャルワーカーとして、最低限の社会インフラ維持に必要不可欠な業務を受注し今後の業績を安定させる狙いがある。

これまで警備業の営業スタイルは、取引先からの紹介やホームページへの業務依頼などを待つ「受け身型」も多く見受けられた。請負業として根強い「受け身型」の受注を打ち破る突破口となるのは「提案型」の営業だ。ユーザーの「困りごと」を解決するためのプランニングやコンサルティングを行い具体策を示す提案型営業は、その先にある「警備業務の受注」につながりやすい。

先日、話を聞いたある警備会社の経営者は、「私は10年以上前にプランニングとコンサルティングの重要性に気付き、これからの営業の“核”になると確信しました。警備業が次のステージへ向かい新たな領域を切り開いていくためには『攻めの営業』が不可欠と思います」と語った。

一方、別の経営者はユニークな営業活動を行っている。ある商業施設の警備業務を受注したところ警備員の接客態度が評判を呼び、同施設の清掃部門から「接遇を向上させる秘訣」について相談を受けた。経営者が効果的なスタッフの育成方法などをアドバイスしているうちに清掃業務も依頼され、業務の幅を広げて他社との差別化を図ることができた。経営者は「警備業で得たノウハウは他の業務でも活かせます。そして成功体験をした社員は誇りと自信を持ち、次のプロジェクトにトライできるのです」と話す。

警備業の新たな領域の開拓を目指し、全国警備業協会は11年前に資格認定制度「セキュリティ・プランナー」とその上位資格「セキュリティ・コンサルタント」を創設した。両資格ともに1号警備から4号警備まですべての警備業務に精通する必要があり、防犯・防災対策に関する高度な知識・能力が求められる。

全警協は今年度の第1回「セキュリティ・プランナー講習」を6月1日から3日間、「研修センターふじの」で行っている。これまでに多くの営業担当者が両資格を取得してセキュリティーに関する幅広い知識を身に付け、提案型営業に活用してきた。講習で学ぶ警備業務の効率化による生産性向上は、「働き方改革の推進」にもつながるものだ。

警備会社にとって営業力を高めることは、警備業務の資質向上と同様に重要なことだ。コロナ禍でのピンチをチャンスに変えるため、今こそ各社で営業力強化に取り組んでもらいたい。

【瀬戸雅彦】