視点
豪雨災害2023.07.21
警備員守る「安全3原則」
7月に入り、豪雨が日本列島を襲った。九州と中国地区では川の氾濫や土石流などで死傷者が出た。近年、梅雨の終わりが近づく頃に大雨となり、甚大な被害が出るケースが多い。地球温暖化により海面からの水蒸気が増し、線状降水帯が形成されて雨量が増加している。
思い出されるのは5年前の7月、中国・四国地区を中心に未曾有の被害をもたらした「西日本豪雨」だ。浸水や土砂災害で200人超もの犠牲者が出た。岡山県総社市では交通誘導警備業務に従事中の警備員が濁流に流され2人が亡くなった。この事故を風化させず、業界全体で警備員を守る対策を徹底させなければならない。
全国警備業協会は昨年9月、「自然災害発生時における警備員の安全確保のためのガイドライン」を作成した。災害時の労災事故防止を目的とするガイドラインの骨子となるのは、警備員と警備業者に向けた「安全3原則」だ。そこに記されている内容はこうだ。
▽警備員は被災の危険が切迫していると判断した場合、避難その他の安全確保行動をとる▽警備業者は警備員が被災する危険が切迫していると判断した場合、避難その他の安全確保行動をとるよう指示する▽地方自治体より緊急安全確保が発令された場合、警備員は避難その他の安全確保行動をとる(警備業者は警備員に対してその旨を指示する)
つまり発注元の許可を待たず「自らの命は自らが守る意識」を持つことが大切なのだ。市区町村から発令される警戒レベル指標で、レベル4(避難指示)が出た場合、警備員・警備業者は必ず現場や周囲の状況を確認し、危険が差し迫っていると判断した場合は安全な場所へ避難する。レベル5(緊急安全確保)のときは必ず安全な場所へ避難してほしい。
ガイドラインは全警協の公式サイトでも確認できる。平時から警備業界だけでなく警備業務の発注者側の業界団体にも伝え、理解を得ておく必要がある。
全警協は昨年9月、各都道府県協会が都道府県や警察本部と締結している災害支援協定を実効性のある内容にした「ひな形」も作成した。
ポイントは「業務内容は警備業法に定めるものに限定」「費用負担は都道府県または受益者」「警備員の負傷に関する補償は労災関係法令を適用」などを明記していることだ。作業部会長を務めた松尾浩三氏(岡山警協会長)が西日本豪雨発生時に岡山県警からの要請で業界初の有償出動を行った際の経験が落とし込まれてある。
阪神淡路大震災発生後に警備業協会が警察本部や自治体と締結した災害支援協定は実効性に乏しく、全警協のひな形をもとに改定する必要がある。広島・岡山・大阪の3警協はすでに再締結を果たしており、神奈川警協が今年度中の実現を目指している。
全警協は今後、「警備業者のBCP(事業継続計画)」のひな形も作成する予定で、被災時にも社会に必要不可欠な警備業にとって参考になるはずだ。
気象庁の長期予報によれば、東日本と西日本の7月〜9月の降水量は「平年並みか多い」とのこと。しかし集中豪雨は8月も発生する可能性が高いことから十分な警戒と備えが必要だ。
【瀬戸雅彦】
健康経営2023.07.11
警備員を大切にする
新型コロナは、インフルエンザと同じ「5類感染症」に引き下げられ、人流は回復に向かっている。夏本番を迎え、イベントの安全確保、外国人観光客への対応など警備業は忙しさを増すだろう。
この3年余り、業務前の検温や体調確認が日課となり、管理職は警備員の健康状態把握に努めてきた。心身が健やかであることは、良質な業務を行う基盤となる。食事や睡眠が十分でないと熱中症などの労働災害を招く恐れがある。警備員が健康意識を高め体調管理に留意するよう、会社はバックアップすることが欠かせない。
「健康経営」は、従業員の健康管理を経営課題として捉え、健康増進を図る取り組みだ。経済産業省と日本健康会議は毎年3月に「健康経営優良法人」を発表している。企業が申請し審査を受け、有効期間は1年間。2023年度の「大規模法人部門」で認定されたのは、複数の大手警備会社を含む2676法人(前年比377増)だ。
「中小規模法人部門」は1万4012法人(同1757増)で、このうち警備会社は45社以上を数える。中小部門の上位500法人「ブライト500」に輝いた警備業者は、美警(北海道)、津軽警備保障(青森)、南双サービス(福島)、エム・エス・ディ(長野)、豊田東海警備(愛知)、日本信託警備(愛知)、セクテック(岐阜)、アダムスセキュリティ(滋賀)、東洋テック姫路(兵庫)、リライアンス・セキュリティー(広島)、ATUホールディングス(福岡)などだ。
取り組みの一部を紹介したい。美警は、釧路市の行政サービスを活用し社員全員の「健康カルテ」を作成。血圧や血糖値などの留意点について面談を行って、バランス良い食事の推奨などで健康意識を高めている。女性特有の疾病の検診費用を負担し、福利厚生の一環として女性警備員の日焼け対策、肌のケアを応援する「美活手当」も支給する。
各社は、それぞれ「インフルエンザ予防接種の費用負担」「健康診断で『再検査』の受診100%」「立ち仕事が多い警備員のため鍼灸院の費用負担」「全従業員の禁煙達成」などを行って社内の健康づくりを促進している。健康経営は、社員を大切にする企業の「旗印」となる。
コロナ禍では多くの警備会社が最前線の警備員をサポートしてきた。一時品薄となったマスクの調達など物資の支給、特別報奨金など、警備員を大切にする経営者の思いがにじむ施策は多々あった。
アフターコロナを迎え“健康管理は個人の問題”と割り切ることなく、今まで以上に多くの企業が警備員の心身に対する支援を推進ほしい。持病で通院する警備員のシフト調整、メンタルヘルスのための相談窓口設置など、取り組むべきことはさまざま。健康づくりの一歩を進めたい。
健康経営優良法人の認定企業は、ロゴマークをホームページや求人広告などに掲載することができる。日本信託警備は「健康経営優良法人ブライト500」のロゴ入りTシャツを作成し、社員が着て6月に行われた地元のリレーマラソン大会に参加、当日の様子をユーチューブで配信している。こうした活動が広がれば、企業はもとより警備業界のイメージアップにつながるのではないか。
資格取得などのスキルアップと並行した健康の増進は、警備会社の体力を強化するに違いない。
【都築孝史】
業界改革2023.07.01
中小会社に寄り添って
これからの警備業はどうあるべきか。警備員が100人に満たない小規模会社の現状と課題、問題点を聞き取り、検証して対策を講じることこそ肝要ではないか――。
先ごろあった全警協の総会での理事会(非公開)における一人の役員の問題提起が共感を呼んでいる。
出席者によると、その場面はこんな感じだったという。議題が一段落したところで中山泰男会長は役員の名を挙げ「Iさん、今日のテーマ以外でも結構です。思うところを述べてもらいたい」と発言を求めたのだ。
中山会長は昨今の会合で、業界が一丸となって適正価格を引き上げ、警備員の処遇改善に取り組むことを何度も繰り返し訴えている。直近では、もう一つ、警備の立ち位置を著しく低下させる数値に言及することが常となった。それは厚労省調べによる警備員の平均賃金が調査対象145職種で140番目に下がったという憂える現実の指摘だ。
中山会長にしてみれば、その役員が意味を伴った思考の持ち主であることを知っていて、難局を打開するヒントを語ってほしいとの指名だったように思われる。この話を耳にした筆者は後日、I氏に発言の内容を聞いた。あらましは次のようなものだった。
――「今日、この理事会にお集まりになったのは、大部分が大手警備会社の経営者の皆さんです。全国の警備業界を見渡すと、警備員数が100人に満たない中小会社が90%を占めています。さらに言えば、警備員5人以下が20数%という数字もあります。ほとんどが2号警備会社です。
適正取引に向けた自主行動計画を活用し、適正価格の引き上げを呼び掛けても、小規模警備会社では直ちに対応して結果を出すことは難しいと思われます。ましてや、デジタル化によるテクノロジーの導入を言われても、何から手を付けてよいのか戸惑っているのではないでしょうか。
ここは、業界の底辺を支える90%の中小警備会社が、どのような問題を抱えているのか。今後にどのような不安があるのか。意見をじっくりと聞く場を設けて、中小会社に寄り添った具体的な方策を示すことも検討してはいかがでしょう」――。
「PT」の出番だ
I氏の提言で即座に思い浮かんだのは、全警協が近々に発足させる広報活動を担う「プロジェクトチーム(PT)」だ。今年度の重点テーマと位置付ける取り組みで、推進のエンジン役となるのが青年部会である。現在、都道府県警協の青年部会は39部会を数えるまでになった。
部会のメンバーには、父祖から業務を引き継ぎ、あるいは自ら起業して警備員が100人に満たない規模で健全経営を目指して額に汗している経営者がいる。90%に含まれる中小警備会社のオーナーである。
青年部会の柔軟な発想と思考で、人材確保のノウハウ、悪質なダンピングの排除策など、彼らが抱える課題や問題点を汲み取り、警備業全体の底上げの実現に向けて具体的に取り組む役割を担ってほしいということである。
私見を言わせてもらうなら、都道府県警備協会との意思疎通と協力が欠かせない。とりわけ事務方トップの専務理事とは忌憚のない意見交換が必要であろう。時々の節目では、その道の先輩諸氏の意見を聴くことも肝心なことだ。
警備業界の底辺を支える心ある小規模会社の充実こそ、業界改革の礎となる。若者が魅力を感じる警備業に向けて、知恵を出し合ってもらいたいと願っている。
【六車 護】