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視点

テロ防止2021.09.21

「違和感」に素早く対応

「1年延期」「コロナ禍」「無観客」――。五輪史上、異例ずくめの「東京2020」が終了した。危惧されたテロなど不特定多数を狙った重大犯罪は発生せず、一定の安全安心を確保できたと言えそうだ。

国際的渡航制限で海外からの観客がゼロだったため、テロをはじめとする重大な犯罪が起きなかったのかもしれない。しかし、不特定多数を標的にした犯罪は必ずしも外国人が起こすのではなく、過去二、三十年をざっと振り返っても「地下鉄サリン事件」(1995年)「秋葉原無差別殺傷事件」(08年)など、日本人による犯行も少なくない。

決してリスクがなかったのではなく、国を挙げた警戒態勢が十分機能したことが重大犯罪を防げた最大要因だろう。一方で、警備業界が今大会に向けて自発的に実施してきた研修会などの存在も忘れるべきでない。たとえば群馬警協は、安全衛生大会のメイン講師に日本中毒情報センターのメディカルディレクターである奥村徹理事を招き、警備員によるテロ対策を学んだ。その時の教えを実践した警備員もいたことは想像に難しくない。

「地下鉄サリン事件」当時、自ら被災者対応に当たった経験を持つ奥村氏は、「サリンなど化学剤のテロに遭遇した場合、津波発生時に『高台』へ逃げるように『風上』へ避難」「『不審物』や『不審者』の発見が重要。いつもと異なる『違和感』を覚えたら即座に通報する。そのことで、迅速な初動対応につながる」などと講演で指摘した。今後の警備業務でも十分生かせる内容だ。

千葉警協は、都道府県警協の中では珍しい「実技」付きの「テロ対策研修会」を実施してきた。今年6月にかけ100人が受講を済ませた研修会の内容は、テロの国際情勢や警備員が行うテロ対応、テロ事件の適用法令などを学ぶ「座学」と、X線手荷物検査や開披検査、携帯型や固定式の金属探知機の操作法を実機を使って体得する「実技」で構成する。座学は10問30分の「考査」を行い受講者の理解度を確かめるなど、徹底して行った。

それら研修などを通じてテロ防止の理解や一定能力の獲得につながったのは間違いない。今後普段の業務に戻っても、奥村氏が教えた「違和感」に対する対処法や千葉警協での実技の実践でテロの未然防止が一定程度期待できる。警備員の現場目線としてぜひ身に着けてほしい。

ところが、それら価値ある実績を残した群馬と千葉の両警協とも今後の継続については「未定」としている。引き続いた開催に対するニーズが見込めないためだといい、平時こそテロ対策を学ぶべきという理解が個々の警備会社にはまだまだ浸透していないようなのだ。テロなど重大犯罪を想定した危機管理意識を、とりわけ警備業界で今後も保てるのか不安と言わざるを得ない。

米軍のアフガン撤退で国際的不安要因が以前より増したように見え、この先コロナ禍が終息し、再び国境をまたぐ人の流れが活発化すれば、テロなどのリスクは当然高まるはずだ。

国全体の警備体制強化はもとより、東京2020に向けてせっかく高まった警備員のテロに対する危機意識を持続させることも必要である。「不審」に気づける能力を平時の段階から培っておきたい。

【福本晃士】

講習延期2021.09.11

技能磨き処遇改善へ

都道府県警備業協会が8月下旬から9月末に予定していた各警備業務の特別講習は、新型コロナの感染爆発を受けて計13講習が中止・延期された。

警備業務検定の資格者を増やす取り組みは、社業発展に欠かせない。交通誘導警備の場合、配置路線の業務を受注するうえで資格者増員は急務だ。

交通誘導警備では近年、各地で配置路線が拡充されたことによって「警備会社が育成した資格者に対価を払う」という認識は、以前よりもユーザーに浸透してきたとの声が聞かれる。

それでも今年度の公共工事設計労務単価は「警備員A」(交通誘導警備業務1級または2級の検定合格警備員)が1万4364円で、資格者でない「警備員B」は1万2562円(ともに加重平均値)だ。警備員Aでさえ、建設現場で軽易な清掃などを行う「軽作業員」を下回るという現実が横たわっている。スキルを持つ資格者が給与面の不満から離職してしまう例は、いまだにあるという。一方、資格者優遇を掲げて人材確保を図る企業もある。

労務単価は、毎年10月に行われる公共事業労務費調査での企業の賃金支払い実態などに応じて決められる。コロナ禍の終息が見通せない状況にあっても、より多くの経営者が賃金アップを実践、警備員の処遇改善を図らなければならない。

スキルアップに努め、社業の質の向上に貢献する資格者が、今まで以上に報われる警備業界を目指すことが問われている。

警備員の技能を磨く取り組みは、検定合格がゴールではない。資格を得た後、さらなる努力を重ねることが大切になる。

ある経営者は「資格を持っていても“ただ立っている”印象の警備員と、資格は持っていないが臨機応変に対応できる警備員、ユーザーはどちらを求めるか。顧客満足のためには、企業が教育・研修に投資して資格者一人ひとりをさらに磨き上げていく取り組みが重要と思う」と話した。

警備技能に加えて、さまざまな相手や現場の状況に的確に対応できるスキルを高めることが、ユーザーの評価を勝ち取ることに結び付くのだ。技能に秀でた警備員の育成と、待遇に満足して自社に愛着を持ち長く定着できる環境づくりが企業に求められている。

「送り出し教育」手厚く

昨年来、特別講習が延期を余儀なくされた時に、各地の特別講習講師は「準備する時間、自分を磨く時間が増えたと前向きに捉えて勉強してほしい」と受講者に呼び掛けた。警備会社もまた、受講者に対する「送り出し教育」を、より手厚く行うことができる。努力の継続こそ好結果につながるものだ。

しかし、講習が数か月先に延期された場合、自社業務の繁忙期と重なるなどして受講できないケースがある。国家資格の検定取得は警備員にとって、自分のステータスを高め、資格手当などで昇給につながる重要な目標だ。仮に受講の機会が延びたとしても、意欲を失うことなく目標を見据え、取り組み続けることができるよう会社は改めて受講者を応援してほしい。

資格者は、より一層の努力を重ねる。警備会社は、資格者の待遇改善への取り組みを続ける。この両輪によって、企業も業界も着実に前へ進むことができるに違いない。

【都築孝史】

祭典閉幕2021.09.01

スポーツの力、警備の遺産

「東京2020」が間もなく幕を閉じる。新型コロナが世界で猛威をふるい、中止を求める声が少なくない中、オリンピックとパラリンピックは大半が無観客で強行された。

筆者にとっては、三つの想いが交錯したスポーツの祭典だった。

先ず以って、開催の是非を脇に置いて、若いアスリートたちの健闘に拍手を送りたい。

人間の持つ限界ぎりぎりの能力を発揮するために心血を注いだパフォーマンスの数々。映し出すテレビから眼が離せなかった。パラアスリートは感染拡大に不安もあっただろうに、鍛え上げられた技術の高さを感動的に演じてくれた。

戦い終わって、ライバルをたたえ、周囲に感謝する姿も共感を呼んだはずだ。「スポーツの力」を改めて感じ取った人たちは多かったのではないか。

忘れ難いワンシーンがある。10代の選手たちが躍動したスケートボードだ。何気なく見ていた画面に、日本の女子選手が演技を失敗して頭を抱え込む場面が映し出された。すると、外国選手の数人が笑顔で選手のもとに駆け寄って抱き上げたのだ。

彼女たちの心情をおしはかった。「みなさん、この娘(こ)はミスをしたけれど、一生懸命がんばりました。拍手してください」。日本人選手は涙を振り払って笑っていた。

この種目、私は当初、「何なの、これ? オリンピックでやる競技なの?」と馴染めるものではなかった。それが、この映像を目にして、初めて正式種目となったスケートボードという都市型スポーツに興味をひかれることになったのだ。

これまでの五輪は、ややもすれば国を背負って戦うというスタンスを感じていた。しかし、“スケボー”には、若者たちが競いながらも、国境の垣根を越えて、世界の仲間として心を通わせる姿があった。

海外メディアが称賛

二つ目は、祭典の安全のために労苦をいとわず下支えした警備員に敬意を表したい。本紙は8月21日号1面で、海外メディアが日本の警備員に寄せた感想を紹介した。多くが称賛の声だった。再録すると――

「さまざまな場所にいてくれて、何でも教えてくれるフレンドリーな人たち。仕事はとても効率的だわ。着ている警備ウェアも明るくていい」

「連日の猛暑の中、仕事に忠実で本当に驚いた。警備員の礼儀正しさにも感銘を受けた。真のヒーローは彼らだ」

「こんなに暑い屋外で働けるとは、一体どのような訓練をしたのだ?」――。

ロンドン、リオ大会では民間警備の失敗事例が伝えられた。海外メディアの中には、過去の五輪警備を身近に知る人もいたはずだ。彼らの眼に日本の警備員の姿は、見たことのない新鮮な驚きとして映ったのだろう。

2社の経営者に話を聞いた。持場はビーチバレー会場と空港だった。仙台市に本社を置く一人は「準備には費用が掛かったけど、念には念を入れてやりましたよ。社員は頑張ってくれました。誇らしい思いです。会社の遺産として今後に生かしたい」と言った。

本稿を締めくくるにあたっての三つ目は、「コロナ失政」と「主催者の迷走」だ。共通して浮き彫りになったのは、責任の所在を明確にしないまま、説明せず、説得する言葉を語らず、異形の大規模イベントを強引に推し進めたことである。

検証すべきこと、説明しなければならないことは山積している。誘致で掲げた「復興五輪」はどこへやら。前首相と現首相は、ひたすら「コロナに打ち勝った証し」と言い続けて旗を振った。もうひとつのフレーズ「倹約五輪」に至っては、成果のかけらもなかった。

言いたいことは、アスリートの活躍の陰に隠れて、問題にふたをすることがあってはならないということである。将来へのレガシー(遺産)とは、そういうことではないかと思う。記憶に留めておきたい。

【六車 護】