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視点

マスク不足2020.04.21

「3密」危機抱える警備業

「アベノマスク」とやゆされる布マスクの支給が始まった。政府は確保や郵送に必要な経費を含め466億円を投じて、全世帯に2枚ずつを配布する。

交通誘導警備ではこれまで工事現場や幹線道路などで、舞い上がる粉塵やほこりを吸い込まないようマスクを活用してきた。施設警備では警備員のマスク着用について、顔が隠れることや見栄えの問題から賛否両論があった。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず緊急事態宣言の対象が全国に広がったことで、マスクは全ての警備員にとって必需品となった。

新型コロナは密集・密閉・密接の「3密」がそろう場所で感染リスクが高まる。政府の自粛要請により外出を控える人が増えほとんどのイベントが中止となっているが、警備業は施設や店舗内で長時間の勤務を行うため日常的に「3密」の危機を抱えている。

念されるのは、これから雨季を迎えて豪雨や土砂崩れなどの自然災害が発生しやすくなることだ。千葉県内では13日、大雨による土砂災害警戒情報を発表し、自治体は避難所を設置して住民に避難勧告を出した。避難所は3密によるクラスター(集団感染)が起こりやすいと危惧されており、被災地の防犯パトロールに出動する警備員は感染リスクを十分警戒しなければならない。

被災後の復旧・復興作業では、作業員やボランティアはアスベストなどの粉塵吸入を防ぐ防塵マスクを着用する。しかし家庭用や医療用マスクと同様に防塵マスクも市場に不足しており、各自治体では十分な数を確保することが課題となっている。

こうした需要の高まりの中、警備業ではマスク不足対策の取り組みが始まっている。警備服の開発・販売を行う金星は、不繊布マスクの販売を開始した。自社工場で布マスクを生産することも検討中だ。さらに布マスクの抗菌性やフィルター効果を上げる商品も現在、開発中とのことだ。

札幌市内の警備会社は、マスクの内側に入れて使う特殊シートを販売している。富山県内の防護盾・ヘルメットのインナーなどを扱う企業が開発したもので、セラミックを配合しているため高い消臭効果がある。この警備会社は、新型インフルエンザの感染が広がった2009年からこのシートの販売を始めた。シート以外に消毒用の次亜塩素酸水も販売しており、警備業務の枠を超えて広く安全安心に貢献している。

マスクを自作する取り組みは、多くの警備会社に浸透してきた。中国地区の警備会社では、研修会を開いて会場で自分用にマスクを作らせ、業務に使用させている。大型商業施設など多くの視線があり外見が重要視される現場では市販のマスクを使うなど、使い分けを指導している。

マスクが入手困難になって2か月経つが、ドラッグストアなどの店舗ではいまだに品薄の状況が続く。全国警備業協会は3月、関係省庁などに新型コロナウイルス対策についての要望書を提出した。その中で警備員の感染防止や健康管理を図るため「マスクや消毒液の優先的確保」を訴えている。

警備員は最前線の現場でウイルスという“見えない敵”との闘いを日々、強いられている。警備会社は情報共有しながらマスクを確保し、警備員が安全に業務を続けられるよう健康管理の徹底を図らなければならない。

【瀬戸雅彦】

コロナ犯罪2020.04.11

不審メールからPC守る

新型コロナウイルスの感染拡大に便乗する悪質な「サイバー攻撃メール」が増加し、厚生労働省や自治体などがホームページで注意を呼び掛けている。

その電子メールは、保健所などの名前で、新型コロナウイルスに関する情報を装って、ファイルが添付されている。受信者がファイルを開くとコンピューターウイルスに感染し、パソコンに保管してあるデータは遠隔操作により流出してしまう。

さらに、複数の有害プログラムがパソコンに侵入し、ネットワークでつながる組織内のデータまで盗み取られる恐れがある。インターネットで情報窃取や詐欺、不正を行う「サイバー犯罪者」の仕業だ。不審なメールの添付ファイルを絶対に開いてはならない。

IT活用が不可欠な時代に、サイバー攻撃対策は企業の課題の一つだ。東京都警備業協会は先頃、サイバー攻撃の現状と対策をテーマに研修会を開いた。

講師を務めた警視庁サイバーセキュリティ対策本部の担当官は「攻撃の対象となるのは行政機関や大企業に限らず、中小企業も狙われる。特に警備業者は、警備計画など社外秘の重要情報が流出することのないよう細心の注意が欠かせない」と指摘した。併せて、感染力の強いコンピューターウイルス「エモテット」に対する警戒を呼び掛けた。

エモテットは、文書ファイルとしてメールに添付され送られてくる。欧米で流行し、昨年末からは国内でも感染が急増。都内の大学教員のパソコンから1万8000件のメール情報が流出する被害があった。経済産業省の委託先の機関によると感染した国内の組織は、3200に上るという。

保健所など実在の組織を装うメールのほか、受信者が過去にメールをやりとりした相手の名前とメールアドレスを使って「返信」の形式で送られてくる場合がある。これは、エモテットがコンピューターから盗み取ったメールアドレスを悪用して攻撃メールを拡散する手口だ。たとえ差出人が知り合いの名前であっても、“なりすましメール”の可能性があるので油断はできない。

添付ファイル開かない

昨今、警備各社では新型コロナウイルスに関連して、予定していた業務や行事の中止・変更が相次いでいる。また、内勤者のテレワーク(在宅勤務)も広がりつつある。こうした状況でパソコンを扱う担当者が、予定変更の連絡などに追われる中、受信したメールの本文を確認する前に、つい慌てて添付ファイルを開いてしまうことが懸念される。

マスクの品薄状態につけ込み「マスクの販売広告」を装って、偽サイトに誘導して個人情報を盗もうとする手口もある。そのメールに記載されたURLを決してクリックしないことだ。現場の警備員が着用するためのマスクを入手しようと苦労している担当者は、改めて用心してほしい。

“コロナ禍”に乗じた攻撃メールを警備会社はブロックし、自社や顧客に関する情報を守り抜くことが求められる。新たに届いた不審なメールの特徴などについて社内で情報共有し、一層の注意喚起を図ることが大切になる。

パソコンを扱う社員一人ひとりが「自社の情報を守る」との意識をより高めて、サイバー犯罪者に対し隙を見せてはならない。

【都築孝史】

五輪延期2020.04.01

警備業直撃、支援策活用を

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、大方の予想通り「東京2020」の延期が決定した。安倍晋三首相は3月24日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長との電話会談で「おおむね1年程度の延期」を提案。五輪は来年7月23日、パラリンピックは同8月24日に、それぞれ開幕することで決定した。何を根拠に「1年程度延期」となったのかは不明だが、中止にならなかっただけましだろう。

今年1月に行われた東京や近隣3県の警備業協会主催の「新年賀詞交歓会」では、行く先々で「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体(大会警備JV)」の担当者を目にした。約半年後に迫った大会警備への再度の協力依頼のためだ。会場での高揚感にあふれた彼らの姿。今の心境を思うと胸が痛む。

大会延期は、3月26日に「復興五輪」の象徴として福島・Jヴィレッジからスタートする予定だった聖火リレーも延期にした。すでに全国の自治体では地元警備会社に聖火リレー警備を依頼、その準備が進められていただけに、地域警備業への影響も計り知れない。

大会を延期に追いやった新型コロナウイルス感染症は、多くの人々の不安をあざ笑うかのように勢いを増している。その猛威は今や全世界に広がり、死亡者数も3万人を超えそうだ。

日本でも全国各地で感染者が発生、その数は日ごとに増加している。特に東京では、不思議なことに東京2020延期決定直後から感染者数が激増。小池百合子都知事は、都市封鎖「ロックダウン」の可能性まで口にした。

感染拡大は、わが国経済にも暗い影を落としている。相次ぐイベントの中止や施設の閉鎖、公共工事の延期などは、警備業を直撃している。さらに、東京2020やこれに伴う警備需要増加を期待し、人員拡充を図った警備会社も多い。4月1日からスタートした「時間外労働の上限規制」への対応として、人を増やした中小警備会社もある。これら企業での今後の経営への影響が危惧される。

このため全国警備業協会は3月5日、関係省庁などに警備業への支援を要望した。25日には要望の“第2弾”も行った。要望事項は初回をはるかに上回り、影響が警備業全体にまで広がっていることを物語っている。

一方、新型コロナウイルス感染症の経済活動への深刻な影響を受け、政府は各種支援策を打ち出した。中小企業への初の「危機関連保証」の発動や実質的に無利子の融資などの各種金融支援、雇用を維持したまま従業員の休業を余儀なくされる企業への「雇用調整助成金」の拡充――などだ。さらに今後、リーマンショックや東日本大震災の時を上回る各種経済対策を実施する予定だ。

政府や自治体が行う支援策で警備業が活用できるものは多い。これらをフル活用しない手はない。

警備業界内においても、不本意ながら解雇せざるを得なくなった警備員を、同業他社で再雇用するなどの対応を進め、警備業の“財産”である警備員の業界外への流失防止を図ってほしい。

今は試練の時。しかし、「わが国の安全安心を担うのは警備業」という強い使命感と誇りを支えに、各種支援策の活用と業界の知恵を結集し、この難局を克服することを期待したい。

【休徳克幸】