視点
残業上限規制2020.3.21
料金改定で人材確保へ
「働き方改革」の第2弾として、4月から中小・小規模企業への「時間外労働(残業)の上限規制」が始まる。企業は月45時間・年間360時間の“残業時間”の上限規制に取り組まなければならない。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、残業時間は年720時間以内に制限されるほか、残業時間と休日労働の合計は月100時間未満などとなる。違反した場合は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が課せられる。
深刻な人手不足が続いている警備業にとっては困難な課題である。警備会社の中には昨年4月に始まった「働き方改革」による年次有給休暇5日の取得義務化に対応するため、休暇を取った警備員の代わりに別の警備員が時間外労働をすることで補っているところもある。警備員が見つからない場合は、警備員の手配や総務などに従事する内勤者が代わりを務める警備会社もある。常に警備員が不足しているため、内勤者にも新任教育と現任教育を受けてもらい、いつでも警備業務現場に出られるようにしている。
都内の警備会社経営者に4月からの対応策を聞いたところ「残業時間の上限規制が始まれば、休暇を取った人の代わりに誰かに残業してもらうといった方法では違法になるケースも出るでしょう。どのようにして年次有給休暇の取得義務と時間外労働の上限規制に対応しようかと毎日考えています」と悩ましげに語った。
「働き方改革」への対応に不安を感じているのは警備員も同じだ。給料だけでは家族を養えず、残業代を稼がなければ生活が苦しいという人も多いためである。中には長時間の残業をさせてくれなければ会社を辞めると訴える警備員もいるという。
しかしこれからは決められた上限時間を超える残業をさせることはできない。悪質な違反を繰り返した場合は罰金に加えて企業名が公表され、イメージの悪化は避けられない。違反することで入札に参加できなくなる恐れもある。
企業が取るべき解決策は人を増やすことだが、建設やマンション管理など人材採用で競合する業界でも人手不足が続いている。増員を図りたければ、求職者が魅力に感じる賃金額を提示しなければならない。そのための原資は業務単価の値上げに尽きる。
契約料金を改定して警備員の賃金を上昇させれば人材不足は解決する。長時間の残業をしなくても一家を養うことができる警備会社には、人が集まってくる。警備員は無理なく働くことができるため、勤続年数も長くなる。
そんなに簡単に、発注主に対して料金値上げを切り出せないという意見もあるだろう。値上げを切り出すと仕事を切られてしまう心配があることも否定できない。しかし人材を集めることができなければ、人手不足で業務を受けることができず会社経営は行き詰まってしまう。建設現場での交通誘導警備業務に関しては2024年3月末まで猶予されるため、しばらく様子を見るという経営者もいるが、適用直前から取り組むのでは遅い。
今後も労働人口の減少が確実視されており、年を追うごとに人手不足への対応は難しくなる。「働き方改革」への対応として発注者の理解を得られやすい今こそ、人材を確保するための料金改定に取り組むべきである。
【長嶺義隆】
3・112020.03.11
苦痛は続く原発被災者
「フレコンバッグ」――はて?と首をかしげる向きも多いのではないか。
放射能の除染で出た汚染土を詰め込む円筒形の黒い大型ポリエチレン袋である。東日本大震災で福島の原発事故がなければ、筆者も知ることがなかった一語だった。
上部にはループ状の吊りベルトが付いていて、ショベルカーのアームの先で吊り上げ下げしてダンプカーなどに積荷、移動するのに使われるバッグだ。過日、友人・A氏から聞かされた「フレコンバッグ目撃談」には寒気立つ思いだった。
彼は一昨年の初夏、自家用車で宮城県を2人連れで訪れた帰路、福島県の浜通りを南北に走る一般国道6号線を南下することにした。「3・11」後の復興ぶりを車中から見たかったからだという。
同線は福島第1原発の事故現場に近い。廃炉作業、汚染土運搬など関係車両の通行のため自動車に限って一般車も自由走行が可能となっていた。A氏の目撃談はこうだ。
「思い返すと、帰還困難区域の双葉町と大熊町あたりだったのだろうね。道沿いの空き地に大きな黒い袋がぎっしりと所狭しに置かれているのが目に飛び込んできた。“何だ、あれ!”と声を出したのを覚えている。異様としか言いようがなかった。あれがフレコンバッグだったんだね」。
友人が目にしたのは汚染土の充満したフレコンバッグを大量集積した仮置き場だったのだ。原発事故後に除染作業ではぎ取られた土は、汚染土として県内各地の空き地だけでなく校庭や公園にも置かれた。その数はピーク時で約15万か所に及んだという。
政府と東京電力は、溜まる一方の汚染土をまとめて保管する施設の建設を迫られた。それが双葉、大熊両町にまたがり事故原発を囲むように建設された「中間貯蔵施設」なのだ。広さは東京ドームの約340倍という。
汚染土は、ふるい機にかけられ、遮水シートの張られた巨大な穴に埋められる。法律では30年以内に再び福島県外に持ち出すことになっているが「最終処分」の場所と方法は何一つ決まっていない。
光と影の聖火リレー
「あの日」から9年目である。小紙では今年も創刊号(平成24年3月11日)から継続する恒例企画「警備業・被災地ルポ」に取り組んだ。同僚記者が訪ねたのは岩手、宮城、福島3県の若手経営者だ。
希望を込めて復興を担う若者をテーマにしたルポ記事とともに、無粋なフレコンバッグにスポットをあてたのには訳がある。東京五輪の聖火リレーの鮮やかなオレンジ色の炎と黒い袋がオーバーラップしたからだ。
3月26日、全国のトップを切って聖火リレーの出発地点に選ばれたのは原発事故の対応拠点となり、昨春に再開したスポーツ施設「Jヴィレッジ」だった。この決定に異論は微塵もない。テーマは「希望の道を、つなごう」だという。これもまたしかり、である。
出発地の北にある大熊町も聖火リレーのルートに選ばれた。新庁舎が移築、再建された町役場の近くを回るという。復興のシンボルとして、五輪の祝祭ムードを盛り上げたい思惑が見て取れる。
無理を承知で、ある思いが浮かんだ。避難が解除された安全な6号線のどこか、今も点在するフレコンバッグの仮置き場近くを少しでもルートに加えることは出来なかっただろうかということだった。
原発の是非を問うなどという大上段に構えるつもりはない。聖火の光とフレコンバッグの影を対比することで、復興には遠い道のりがあることを知ってもらうこともあってよかったのでないか。
「3・11」は、文字通り未曾有の惨禍だった。とりわけ、中間貯蔵施設の周辺からの避難者は、数十年にわたって帰還できないと言われる。避難地で苦痛な日々が続く人たちにとって、「風化」という言葉は永遠にないであろう。
【六車護】
新型肺炎2020.03.01
警備員の感染、防ごう
警備業に新型コロナウイルスの感染者が出た。
千葉県は、県内に勤務する60代の男性警備員が感染したことを発表した。感染経路は不明だが勤務地が建設現場ということから、年度末の繁忙期で疲労がたまり免疫力の低下が感染につながったのかもしれない。経営者には、これ以上感染者が出ないよう、警備員の感染を防ぐ対策が求められる。
感染防止に向けて全国警備業協会が各都道府県協会に通知した文書には「発熱などの風邪症状が見られるときは会社を休み外出を控えること。そのためには職場の理解が必要で、休みやすい環境の整備が重要」とある。業務を行う上では、マスクを着用する咳エチケットやこまめな手洗いが欠かせない。しかし市場では、マスクや消毒液が品薄で購入できない状況が続いている。
横浜市内では、開店前のドラッグストアで行列する客同士が取っ組み合いのけんかとなった。福岡市内の地下鉄では、乗客がマスクをせずに咳をしていたことを理由に、車内の非常通報ボタンが押される事案も発生した。こうした状況の中で、警備業では“自作”の取り組みが始まった。
都内のある警備会社は、マスクが市場で手に入らないことから、女性従業員がガーゼを材料に300枚を自作し、警備員に配布している。経営者は「当社は65歳以上の警備員が約150人勤務しているので感染したときの重篤化が心配です」と取り組みを語る。
また中国地区の警備会社では、消毒液が品薄のため、薬局でアルコールを購入して精製水で薄め、廉価の小分けスプレーボトルに入れて200本を自作し現場に持たせている。経営者は「社会の安全安心を守るのは警備員の務めだが、警備員を守るのは警備会社だ」と話す。
「イベント自粛」影響心配
一方、3月3〜6日に千葉市内で予定されていた「SECURITY SHOW」が中止となった。本紙が前号で紹介したように、大手警備会社2社をはじめ153のセキュリティー企業が先進技術を活用した“これからの警備”を展示する予定だった。
厚生労働省はイベント主催者に向けて「安全を考慮し、イベント開催の必要性を改めて検討してほしい」というメッセージを発表。多くの人が集まるイベントを自粛する動きが全国に広がっている。
3月1日に行われる「東京マラソン」は、一般参加者のエントリーを取りやめ、大会規模を大幅に縮小した。主催側は、沿道の応援や観戦も自粛するよう呼び掛けている。入社式期日の延期を決めたり、従業員にセミナーなどへの参加禁止を求める企業もある。
イベントや行事の中止は経済損失を生み、被害は会場警備を予定していた警備会社にも及ぶ。自粛は主催者判断で明確なガイドラインがなく、いつまで自粛期間が続くか予測が立っていない。春は各地で恒例イベントが多く、業界への影響が心配される。
世界最大規模の国際イベント「東京2020」まで150日を切った。IOCには「開催するかどうか」の判断期限を5月末とする声もある。政府の基本方針では3月上旬を「感染抑制への重要な時期」としており、その期間は感染しやすい環境に行くことを極力避けるなどして、感染の広がりを抑えたい。
【瀬戸雅彦】