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視点

発想の転換2021.04.21

コロナ、負けていられない

爽やかな風が吹き抜ける新緑の候、間もなく大型連休である。心浮き立つ季節の到来というのに、コロナ禍は収束どころか第4波の襲来が鮮明になった。あれこれ考えると不安は尽きない。

――感染力が強い変異ウイルスの実態調査と対策は? 先進国の中で圧倒的に遅いワクチンの供給と接種は大雑把な見通しばかり、先の見える具体的なスケジュールは? まん延防止重点措置による飲食店の1時間の早じまいと科料にいかほどの効果があるのか? いつまで忍耐すれば安心のときを迎えられるの? etc――。

息苦しさがつのる日々である。そんな折、コロナによる業務の縮小という災禍を、逆に変革のチャンスと捉え、チャレンジする会社があることを知った。若手社員を中心に新たなプロジェクトを立ち上げたという。

山口県のCGSコーポレーションである。コロナに負けていられない。その意気やよし。ここは発想の転換と作業チームの進捗状況を聞かなければならない。豊島貴子社長に電話した。

「そんなに大それたことではないのですが、萎縮するばかりでは面白くないじゃありませんか。これまで積み残していた課題を点検し3つの企画を提起しました。

創業40周年の社史の編集、人材を育て機材を開発する知識の向上、新しい企業広報です。メンバーは20、30代の若者ばかり16人ほど。みんなワクワクドキドキしながら参加してくれていますよ」

共通するキーワードはICT(情報通信技術)を取り入れた‹見える化›だった。先ごろ社史が完成した。旧来の文字と写真の冊子ではない。映像をパソコン画面で取り出せるのだ。

2019年の暮れに竣工した研修施設・CGSトレーニングセンターでの訓練風景、11年の山口国民体育大会での警備員の活躍ぶりなどがアップできる。

「制作の過程で、とっても嬉しい副産物があったのです。国体は10年前のこと。入社していないメンバーも多くいました。当時の模様を体験者に“取材”することで、若者と年配社員が心を通わせることができたのです。

役員の何人かは、チームを食事に誘ったりしたと聞きました。社史づくりは世代間のコミニュケーション・ツールとして役立ちましたね」

機材の開発と広報の新しい企画は、労力と時間を必要とする。ここでのキーワードも、社史と同様にICTを活用しての‹システム化›である。

警備業界だけでなく、他業種の成功事例を学習しながら、既存の役立つものを生かし、5年のスパンで取り組みたいという。

未来創る若者育てたい

警備業発足から間もなく60年。業界は第1世代から第2世代、そして第3世代のとば口に差し掛かっている。

「この業界には先達が築いてくれた多くの財産があります。私は昭和生まれの第2世代です。第3世代には、その財産を有効活用できるように知恵を提供していきたいと考えています。

若者に、‹今までこうだった›ばかりを語っていては、“足かせ”にこそなれ、未来を創る手助けにはならないのではないでしょうか。私、アナログ人間自覚満載ですからね」

豊島さんは、そう言って笑った。爽やかな一陣の風を感じるひとときの会話だった。

【六車 護】

新入社員2021.04.11

魅力ある企業めざそう

新年度に入り、真新しいスーツ姿の若者を見かけるようになった。近所の住宅建築現場では、ヘルメットに小さな「若葉マーク」のシールを貼った若い警備員を目にした。

人手不足が叫ばれて久しい警備業では、かつては大手が中心だった新卒者の定期採用に、中小警備会社も取り組むようになってきた。他産業や同業者との競争が厳しい中途採用を諦め、新卒者採用に活路を見出そうという試みである。多様化する警備ニーズに柔軟に対応できる若者を、将来の現場の要や経営幹部に育てたいという会社の期待もある。

そんな取り組みは今や全国に広がりつつある。大学や高校のインターンシップ生を受け入れて警備業や自社の魅力を訴える、採用実績のある高校の進路指導担当教諭の下に採用担当者を足繁く通わせる――などである。

採用決定後も入社辞退や、入社後すぐに辞めてしまわないような工夫も見られる。内定者対象のユニークな研修の実施、入社1〜2年の社員を「メンター」として新卒者に張り付け仕事や仕事以外の悩み相談にも乗るなどの取り組みだ。

一方で、多くの警備会社では依然として中途採用者や臨時採用者に依存せざるを得ない現実もある。年間を通して業務に繁閑がある「受注産業の宿命」と言ってしまえばそれまでだが、場当たり的な人材確保・育成では産業の真の担い手は育たない。

さらに、これまで多くの警備会社が中途採用の対象として期待を寄せてきた他産業での定年退職者を取り巻く環境が大きく変化した。4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法である。

企業の努力義務ではあるが、これまで65歳までだった従業員の雇用確保措置が70歳まで引き上げられた。今後、高齢の求職者は減少していくに違いない。

加速する労働人口の減少も相まって、今後は若年者・高齢者ともに、警備業が確保するためのハードルは一層高くなるだろう。

課題解決の歩み進める時

若年者や高齢者に限らず、人材を確保するために欠かせないのは魅力ある企業づくりであることは言うまでもない。

他産業に比べ月収で約10万円、年収で約100万円低いと指摘される賃金、過労死が発生するほどの長時間労働。さらには、高い足場上での作業など多くの危険作業がある建設業よりも高い労働災害の発生率や毎年のように死亡者が発生する熱中症――など警備業の雇用労働条件や労働環境には改善すべき課題が山積している。

業界を挙げた長年の取り組みやコロナ禍により、建設工事には警備員が欠かせないことや経済社会を運営していくためにはエッセンシャルワークとして警備業が不可欠であることが多くの国民に理解されつつある。この機会を活かし、適正警備料金の確保など警備業の課題解決のための歩みをさらに進めてほしい。

いずれコロナ禍が収束して経済が復調すれば、熾烈な人材獲得競争が再燃するのは火を見るより明らかだ。いまだに散見される「ダンピング」や「引き抜き」など言語道断である。

魅力ある企業や業界づくりを怠り担い手を確保できなかった産業は、いずれ衰退して消えてなくなる。それは歴史が証明している。

【休徳克幸】

宣言解除2021.04.01

ガイドライン徹底しよう

年末年始のコロナ感染急増を受けて発令された2回目の「緊急事態宣言」は、3月21日に全都道府県で解除された。政府は飲食店の営業時間短縮や出勤者7割削減が目標のテレワーク、不要不急の外出自粛、イベントの開催制限などの取り組みは、状況が好転するまで続けるとしている。

宣言解除後、感染者のリバウンドが地方都市で発生している。宮城県と山形県では「県独自の緊急事態宣言」が出され、専門家は国内全域が“クラスター予備軍”と指摘。感染力が強い「変異種」は増加傾向にある。

1回目の緊急事態宣言が発令されたのは、昨年4月7日のことだった。まだウイルスの特性が未知数であった恐怖心から、多くの人が外出を控え、手指を入念に洗浄し、マスクの買いだめは社会問題になった。あれから1年、国民の多くはすっかり“コロナ慣れ”に陥ってしまった。

警備業は、これまで学んできた「基本的な感染予防策が何より重要」という教訓を、業界全体で改めて共有し徹底させるときだ。全国警備業協会が策定した「感染予防対策ガイドライン」に沿って業務を行っているか確認する必要がある。

ガイドラインには予防策が細かく紹介されてある。例えばマスクの扱い方は「マスクの表面に触れないようにゴムヒモを外し、表面に触れないようにゴムヒモを持って捨てる。マスクのズレを直すときもできるだけ端をつまんで直すようにする」と図を併用して説明してある。

マスクの着用は、高温多湿の夏場には熱中症にかかるリスクが高まることから、交通誘導警備の現場など屋外で2メートル以上の十分な距離が確保できるときは外すことを認めている。その場合、契約先や作業員など周囲の理解を得ておくことが不可欠だ。

経営トップは、こうした備品の扱いのほか、警備員の健康管理や意識向上などガイドラインの内容を確実に実践して警備員を守ってほしい。現場からの意見も集め、各社に合った対策をたててもらいたい。

「密」が増える4月

4月は春の陽気からくる開放感や入社式・歓迎会などの行事で人が集まる機会が多い。

都内の桜は、例年より12日早く満開の時期を迎えた。宣言が解除されて最初の週末、上野公園や目黒川沿いなどの名所は多くの花見客でにぎわった。都は「宴会なしで静かに散策しながら花を愛でる」よう呼び掛けたが、一部で「密」の状況となった。

約1万人がトーチをつなぎ全国を巡る東京五輪聖火リレーも、観客が密集することが不安視される。大会組織委員会は、肩が触れ合ったり前後に十分な間隔がない状況になったりしないよう呼び掛けた。過度に密集したときはリレーを中断して先の地点から再開すると警告している。沿道に立つ警備員は感染者を出さないように、「密」の状態を作らない誘導や声援を控える広報が必要になる。

警備業は安全安心を司る、社会になくてはならない「エッセンシャルワーカー」としてコロナ禍でも現場で勤務を続けることが求められている。宣言は解除されたが、パンデミックの緊急事態は今なお続くことから、各警備会社は契約先と連携しながら予防対策を強化してほしい。 

【瀬戸雅彦】