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警備業ヒューマン・インタビュー
――VR研修2024.04.21

田中一善さん(なのはな警備 代表取締役)

自信を持って現場に立てる

<<交通誘導警備の仮想空間を体験できるVR(バーチャル・リアリティー)を開発しました>>

「トラフィックコンダクター」という商品名で、2023年11月から販売しています。全国の警備会社で警備員の研修などに活用してもらっているところです。

専用ゴーグルを付けることで、臨場感ある片側交互通行の現場が目前に展開されます。実際に手に持つコントローラーは仮想空間上では誘導灯となります。室内で交通誘導警備を疑似体験することで、現場の実地教育に不安なく移ることができるのです。

以前は警備の発注元からクレームを受けたとき、警備員の業務のどこに問題があったか確認することができませんでした。そこでまず警備員のヘルメット横にウェアラブルカメラを設置し確認しようとしました。しかし仕事を監視されるようで、モチベーションの低下につながります。それより研修をしっかり行い、警備員が自信を持って現場に立てるようにすることが大切と考え直しました。

<<開発経緯を教えてください>>

テレビ番組でVRのドライブシミュレーションを見て「警備員研修用のVRができないだろうか」と感じたことです。早速VRの展示会に足を運んだところ、他業種では既に研修に活用する取り組みが始まっており「警備業でのVR活用は可能」と確信しました。すぐに制作会社と提携し開発を進めました。

警備員は初めて交通誘導警備の現場に立つとき、恐怖心を感じるものです。「自分には無理だ」と退職する人も少なくないと聞きます。現場に出る前に疑似体験をすることで恐怖心が薄らぎ事故も回避できるのです。

新規採用者の離職防止やSNS、求人広告での紹介、学生向け職場体験など、研修以外でもさまざまな用途で活用されており、高い費用対効果が望めます。

<<使用料はいくらですか>>

ゴーグル本体とアプリは買い取り制で、1年間の使用料とレクチャー費用を含め税込み55万円、2年目から月額税込み1万9800円です。今後は販売協力してもらえる会社も募っていきたいです。在庫を持つ必要がありませんし、十分な報酬額をご提示します。

国内人口は減少傾向にあります。警備員に定着してもらい労働環境改善のためにはDX化が必要です。省人化と教育水準向上、そして若い求職者を呼び込む業界イメージアップのため、警備関係者の皆さまに導入してほしいです。

<<自社の労働環境改善には、どう取り組んでいますか>>

従業員目線を大切に、働きやすい職場環境作りを続けています。年次有給休暇は、従業員全員に100%取得してもらっています。

夏季は熱中症を防止するために空調服を4年前から導入し警備員全員に着てもらいました。冬季は警備業務が終電後に終わる現場には、社用車で通ってもらっています。私も経験がありますが、屋外で始発電車を待つ時間は寒く、つらいものです。社用車は乗り合いで使ってもらうことで親睦が深まり、離職防止の効果もあります。

<<警備会社経営のほかに、障害者の福祉事業もしています>>

知り合いに親が高齢な障害者の方がいて、一人でも不安なく暮らせる場が必要と感じました。2021年6月から「グループホームなのはな」の名称で2棟をスタートさせ運営しています。

グループホームは、障害者の皆さんがスタッフのサポートを受けながら共同で暮らす住まいです。現在は10人の方が暮らしており、将来は30人ぐらいが生活できる規模になればと計画しています。

他には人材派遣業や倉庫業、不動産仲介業、輸入品・卸売業などを営むグループ会社があり、私や親族で経営しています。

<<田中社長は卒業してすぐ警備業に就いたのですか>>

実は警備会社に入社するまで、私は4回も転職してきました。一つのことを続ける根気がなく、多くの人に迷惑をかけたことを反省しています。今は「警備業が天職だった」と感じ、腰を据えて取り組んでいます。

私は子供の頃、たいへん病弱でした。特に小学生の時は入退院を繰り返し、体育の授業は6年間で一度も参加していません。今は健康で暮らせることに感謝し、毎日を大切に生きています。つらい時期もありましたが「過去があったから今がある」と肯定的に捉えています。

自分自身を変えるきっかけとなったのは「実践項目20」を設定し、自分に課してやり続けたことでした。例えば朝一番に出勤してトイレ掃除をする、本を月に10冊読む、などです。今では仕事で新しいことに挑戦し、ワクワクしながら妻・中学生の息子と暮らしています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑧2024.04.11

田辺亮一さん(セコム)

学校侵入者と会話続けた

セコム大和支社(神奈川県大和市)のBE(ビートエンジニア=緊急対処員)田辺亮一氏は、2022年12月19日午後7時過ぎ、機械警備の対象先である横浜市内の高校から侵入警報を受信し、基地局から現場へ急行した。校門を開けて敷地内に入ると男(当時20歳)を発見。言動が不審であるため警察が到着するまで会話を続け、駆け付けた警察に身柄を引き渡した。建造物侵入の現行犯逮捕に協力したとして神奈川県警瀬谷署から感謝状が贈られた。

<<侵入警報を受信してからの迅速な対応が犯人逮捕につながりました。不審者を発見した時の状況は>>

支社で待機中、侵入警報を受信し、私は基地局から現場の学校に向かいました。到着後にコントロールセンターに報告すると、警察がこちらに向かっていることが確認できました。施錠された校門を開けて敷地内に入り、校舎に無施錠の箇所はないか、ガラスは割られていないかなど異常の有無を確認しましたが、特に異変はありませんでした。しかし建物内複数のセンサーが時間差で反応しているので、何らかの方法で侵入した誰かが敷地内を徘徊していることは疑いありません。

12月の午後7時で、辺りは真っ暗です。校門と校舎の間のスペースにある駐車場の奥から「すみませーん。閉じ込められちゃいまして」という若い男の声が聞こえました。声はだんだん近づいてきて「学校の関係者なんですけど」と言います。学校の先生にしては若い印象でした。

<<学校関係者が閉じ込められたと話している時点で怪しいです。不審者であるとどの辺りで確信したのでしょう>>

「どうされました?」と声を掛けると『自分は在校生の兄で、弟の忘れ物を取りに車で来たら、校門が施錠されてしまい閉じ込められてしまった』と言うのです。

校門が開いている時間帯なら車で敷地に入ることは可能ですが、弟が在校生なのかはその場では確認できません。そこで質問を続けました。

 「弟さんのクラスは何年何組ですか」。

 「覚えていないんです」。

 「クラスが分からないのにどうやって忘れ物を取ってくることができるんですか?忘れ物は見つかったのですか?」。

 「見つからなかったです。もしかするとこの高校じゃなかったかもしれない」。

<<内容に無理があります>>

そこで、話の矛盾点は追及せず「弟さんの代わりに忘れ物を取りに来てあげるなんて優しいお兄さんですね」などと警察が到着するまで会話を続け、男を引き留めておこうと考えました。仮に男が逃げたとしても人相や服装を証言すればよいのですし、駐車場に車を置いて逃げれば車から個人を特定することもできるはずです。

危険を冒してまで対峙することはないと判断し、会話の継続を試みていると、警察が到着。状況を説明して身柄を引き渡しました。

<<警察は男を、女子更衣室を物色するなどの目的で学校に侵入した疑いで逮捕しました>>

犯人逮捕に貢献できたことは、契約しているお客さまに対して「セコムに入っていて良かった」という安全・安心に貢献できたということであり、満足しています。

<<警報を受信し現場で対処するときに心がけていることは>>

不審者に対しては対応マニュアルに基づいて人物・資格・必要性を確認することを徹底しています。自分の臆病な性格がBEの仕事に向いているのかもしれません。臆病だからこそ、念入りに確認をします。警報のうち一定数は誤報ですが、私が現場で「誤報」と判断したケースが、実は私が異変を見落としていた「真報」のケースだったらどうしようという恐れを常に抱いて慎重に点検しています。気は休まりませんが、おかげで見落としはありません。

<<仕事がオフの時、どのようにリフレッシュしていますか>>

妻と買い物に出掛けたり、野球とサッカーを観戦したりして仕事を忘れる時間を作ることにしています。結婚して10年がたちますが、新婚旅行に行く機会を逃したので、夫婦で「北海道日本ハムファイターズの新球場に行こうか」などと話しています。野球観戦とおいしい食事を楽しんでみたいです。

<<BEの仕事を長く続けていくために健康面ではどのようなケアをしていますか>>

BEが着用する「オペレーションベスト」は防刃仕様になっていて重量があります。長く着用していると腰痛持ちの私にはそれなりの負担があります。ストレッチをしたり、整骨院に通ったりして体をほぐすようにしています。

※「全警協表彰警備員」は今回で終了します。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑦2024.04.01

石井大さん(綜合警備保障)

刺股で対峙、逮捕に協力

綜合警備保障(ALSOK)佐原営業所(千葉県香取市)の石井大さん(30)は2022年7月3日午前4時頃、機械警備先のコンビニエンスストアからの警報を受け、現場に駆け付けた。店内を確認すると、暴れている男(20代)と警察官がいた。石井さんはその場にあった刺股を使い、警察官と共に男と対峙し、逮捕に協力。香取警察署長から感謝状の贈呈を受けた。

<<明け方の緊急対応でした>>

その日は夜勤でした。別の対応があって事務所に戻ると、契約先のコンビニから非常通報があり、車で急いで現地に行きました。記憶では5分ほどで着いたと思います。警察の方が既に到着していて、男が暴れ回っていました。

店内では商品が散乱していて、床が赤くなっていました。一瞬、「血かな」と思いましたが、割られた赤ワインでした。男が乗ってきた自転車や、持ってきた小さいクワのようなものが店の中にあって、レジやATMは壊されていました。

男は細身で私より若い印象。お酒に酔っている感じはなく、意識はしっかりしていましたが、切羽詰まっているような感じを受けました。男が、持っていたライターを商品のカップ麺に近付けて、「爆発するぞ」と言っていたことを覚えています。

<<駆け付けた時には警察官2人がいたそうですね>>

応援を呼ぶために警察官の1人がパトカーに戻った時、刺股を置いていったので、「借りていいですか」と聞きました。持っていった警戒棒よりリーチが長いですし、会社の護身術研修で刺股の使い方を教わっていたので、使わせてもらうことにしました。

私は現場の状況を確認するだけで、警察の方に任せておけば良かったのかもしれませんが、「何かしなきゃいけない。力になりたい」という思いがあったのです。もう1人の警察官と一緒に刺股を構え、男と向き合いました。

途中から警告のため、警察官が拳銃を構えた時は緊張感が増しました。テレビドラマでしか見たことがなかったので。その後、応援の警察官が到着して、男を取り押さえて連行していきました。

店員の方は近くのガソリンスタンドに逃げることができたとのことで、無事を確認したときは本当にほっとしました。

<<今回の対応で警察から感謝状が贈呈されました>>

ありがたいことです。今思うと、すごい場面でしたが、その時はアドレナリンが出ていたのか分かりませんが、集中していました。警察の方がいたので、「何かあってもどうにかできる」と思っていました。

犯人と遭遇したのは初めてのことです。過去に窓ガラスが割られレジが壊されていたり、フェンスが破られ銅線が盗まれていたりした現場に駆け付けたことはありましたが…。もしかすると車で現場に向かっている途中に、逃走した犯人の車とすれ違っていたのかもしれないと思い、悔しかったことを覚えています。

妻からは「けががなくて本当に良かった。無理しないで」と言われました。

<<新卒でALSOKに入社して以来、一貫して機械警備隊の業務に携わっています>>

街の人の身近な存在として、人の役に立ちたいと思って入社しました。学生時代、警備員の方を目にする機会が多かったこともきっかけでした。

現地に行った時、お客さまから「来てくれてありがとう」「ALSOKと契約していて良かった」と言っていただけると、この仕事をやっていて良かったと思います。

また入社以来、「ALSOKあんしん教室」(出前授業)で小学校へ行っています。犯罪から身を守るために覚えてほしいことを伝えていますが、子供たちから「かっこいい」と言われたりすると、うれしさがあります。

昨年4月、後輩を指導する立場の副隊長になりました。知識を蓄えて、行動で隊を引っ張っていきたいです。知識は、人に教えられるまで理解しなければいけないと思っています。

<<リフレッシュはどのようにしていますか>>

体を動かして汗をかくとリフレッシュできます。父親が柔道教室の先生をしている関係で、物心ついた頃から柔道をやっていて、社会人になっても市民大会やALSOKの大会に出ています。呼ばれて、野球に行くこともありますね。

子供(4歳と生後3か月)がまだ小さいので、休みの日は家で面倒を見たり、公園に遊びに行ったりしています。回転ずしなど、家族で外食をすることもあって、子供や妻が笑っているのを見ると「仕事を頑張って良かった」「これからも健康で頑張ろう」と思えます。