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視点

分離発注2020.08.21

「入札への参加」主張しよう

警備業界の課題のひとつに「入札の発注方式」がある。公共事業の入札案件は、警備以外の業務を含めて発注する「一括発注」と、警備と警備以外の業務を分けて発注する「分離発注」の2つがある。例えばイベント警備で一括発注の場合、資機材の準備や会場設営などを含めて発注され、警備会社は入札に参加することが難しい。発注元は窓口を一本化でき責任の所在を一元化できるため、大規模なイベントは一括発注のケースが多い。地域によっては業務の規模に限らず大多数が一括発注という所もある。

イベント事業を落札したイベント会社や旅行会社など“元請け”は警備業務のみを警備会社に再委託する。警備会社は“下請け”の立場となり警備料金が低価格に抑制されるため、警備員に適正な賃金・処遇を保障できる料金を確保できない。こうした警備業に不利益な状況が続いている。

岐阜県内で今春予定されていた聖火リレー警備の入札は警備業界にとって好事例となった。案件は当初、警備以外の業務を含めた一括発注で、警備会社は入札に参加できず不調に終わった。岐阜県警備業協会(幾田弘文会長)に意見を求めた県の担当者に幾田会長は「警備業務のみの分離発注にすること」を提案し理解を得た。

岐阜警協は以前にも同様の主張を行っている。2013年「ぎふ清流国体」の入札で、県は大手旅行会社に一括発注し、警備会社に再委託する計画だった。同会長はこのときも「それでは大会の安全を担保できない」と訴え、県が案件を分離発注として仕切り直したいきさつがあった。

一括発注は「低価格競争」を生む要因にもなる。一括発注の入札に参加できない多くの警備会社は分離発注の案件に集中し、自社の雇用体制を維持するため「最低賃金以下の安値でも落札しよう」と低価格競争が起こりやすい。

茨城県警備業協会(島村宏会長)は、低い料金で落札できないよう「最低制限価格の設定」を自治体に働き掛けてきた。同警協は昨年11月、県知事にこれを記した要望書を提出。今年1月、施設警備の入札で実現させた。

最近は発注元である自治体担当者の考えが少しずつ変わってきている。低料金で落札した警備会社では“安かろう悪かろう”で警備料金が「警備の質」に影響するという考え方が広がっている。

宮城県内の自治体は昨年、選挙投票所で交通誘導警備業務を行った警備員が誘導に不慣れだったことから多くの苦情が寄せられた。自治体から「適正業務を遂行してもらう警備会社の選び方」を相談された宮城県警備業協会(氏家仁会長)は、青年部会と検討を重ねて「ガイドライン」を策定。そこに“入札3条件”として、見積りに積算基準の明細を記載する、最低制限価格を設定しそれに満たない見積りは無効とする、最低制限価格の80パーセント未満の見積りは失格とし再入札に参加させない――の3事項を明記、全県での活用を働き掛けている。

警備業は警備業法により研修を行い、プロの警備員を育成することが義務づけられている。安全は警備会社がプロの立場で計画・実施してこそ遂行されるものだ。警備業への要望が高まり適正業務を求められている今こそ警備の入札に警備会社が直接参加できる「分離発注」を主張し、適正料金を確保して強固な経営基盤を作るときだ。

【瀬戸雅彦】

続くコロナ禍2020.08.01

「不可欠な仕事」自覚を

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化している。あらゆる警備現場で感染防止対策の徹底が求められる状況は長引きそうだ。

警備員が感染への不安から離職につながることを防ぐため、手厚い対策が必要だ。感染予防策は当然のことながら、メンタルケアも重要になる。感染リスクと向き合いながら病院で出入管理や巡回を行う警備員が退職を申し出るケースがある。直行直帰が多い警備員の声を経営側が丁寧に吸い上げることが大事だ。

職場では、感染予防のため会社に出勤せず自宅で仕事をするテレワークが普及する一方、感染の可能性と隣合わせで働く人々「エッセンシャル・ワーカー」に注目が集まっている。エッセンシャルは“必要不可欠な、非常に重要な”という意味の英語だ。社会生活を継続するために必須の仕事に携わる人々――医療従事者をはじめとして、スーパーの従業員、宅配便の配達員、清掃員、保育士、介護職、ドライバー、そして警備員も入る。これらの日常生活の維持を担う人々に対する感謝のメッセージは、SNSなどで世界各国に広がっている。

全国警備業協会の定時総会では、中山泰男会長が「警備業はコロナ禍の中で、なくてはならない存在、エッセンシャル・ワークとして再認識され、メディアの注目度も高まっている」と指摘した。

「エッセンシャル・ワーク(ワーカー)、社会に不可欠な警備員」は、警備業の重要さを端的に表す言葉だ。フランスのマカロン大統領も先頃、演説の中で「社会生活が続くことを可能にしてくれた職業の一つ」として警備員を賞賛した。注目される重要な職業であることを警備員一人ひとりが改めて自覚してほしい。安全を守り安心を与える業務を着実に遂行することで社会やユーザーの信頼や評価はさらに高まっていく。

警備員の仕事の大切さに人々が理解を深めることは、長年の課題である警備業の地位向上に結び付くものだ。質の高い警備業務と信頼とが相乗効果となって、地位の向上が図られる。

警備員の地位向上へ

エッセンシャル・ワーカーとしての警備員が注目を集める一方で、その待遇や労働環境の改善も欠かせない。コロナ禍が長丁場となる様相をみせる中で、警備員がより安心して長く働くことができるための環境整備は、経営者の責務である。警備業界は数年来、適正取引の推進を軸として、警備員の処遇改善や働きやすい職場づくりに力を入れてきた。こうした取り組みを、コロナの影響で止めないことが大切になる。

その取り組みの原資となる適正料金の確保に向けては、感染対策を取り入れた警備のニーズの高まりも見逃せない。非接触で体温を検知するサーマルカメラと警備員2人がパッケージとなって施設警備を行う新サービスも登場した。感染予防の付加価値を与えることで事業の機会を広げ、利益を還元して処遇改善を進めることだ。

“警備業は、エッセンシャル・ワーカーを大切にする業界”として認知を広めてこそ、地位が一層高まるに違いない。警備員がより活躍する業界、より大切にされる業界を目指す時だ。

【都築孝史】