警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

就職支援2020.11.21

〝氷河期世代〟を戦力に

「警備員になろう」。これは、全国警備業協会が厚生労働省からの委託事業として行う“就職氷河期世代”への支援事業をPRするサイトの名称だ。

対象となるのは、バブル崩壊後、景気が長期低迷した中で正社員として希望通りの就職が困難だった35歳から54歳の非正規雇用や無職の人だ。統計によると35歳から44歳の働き盛りで非正規雇用の人は50万人以上、長期間働いていない人は40万人以上にのぼる。就職氷河期世代の就業支援は、社会の課題となっている。

今回の支援事業「短期資格取得等コース」のメリットは、施設警備業務2級、交通誘導警備業務2級の国家資格が無料で取得できることだ。参加者は、講習の受講から警備会社への就業までサポートされる。

10月23日、愛知県を皮切りにスタートした施設警備業務2級コースには、非正規社員と無職の人が参加した。東京都では11月20日から同コースが始まり、年度内には、埼玉県で交通誘導警備業務2級が、北海道、大阪府、京都府で施設警備業務2級のコースがそれぞれ開催される。2021年度には全国11会場で12回、22年度も12回の開催が予定されている。

警備業界は数年来、慢性的な人手不足に悩み続けてきた。一方、各業種の非正規労働者の中には、自分の能力を発揮できる職場、働きがいを実感できる職業を探している人は少なくないはずだ。そうした人を雇用して磨き上げ、自社の戦力とし、業務品質の向上に結びつける――。今回の支援事業は、より多くの氷河期世代が警備員として活躍する“呼び水”となることが期待される。

不安定な雇用、不十分な処遇で苦労してきた人たちに、安心できる職場を提供することが重要になる。これまで業界は、社会保険の加入促進、処遇改善、年次有給休暇の取得促進など働きやすい環境の整備、労災事故防止の取り組みなどを重ねて、より良い職場づくりを進めてきた。こうした流れを強化していくことが欠かせない。

警備員という職業は、警備業務検定を取得すれば、何歳からでもキャリアアップを図ることができる。施設警備も交通誘導警備も、不特定多数の人に接する仕事であり、人生経験を活かすことができる。手厚い教育・訓練により氷河期世代を戦力化することは、警備業にとって人材確保と社会貢献につながるものだ。

資格取得の応援を

今回の支援事業「資格取得」は、警備会社が人材確保と育成を行う際、一つのモデルケースになるのではないか。

まず、求職者に対し「警備業は、努力して国家資格を取ることで自分を高めることができます」と訴える。資格取得で活躍の場が広がることを説明し、特別講習の受講費用や受験勉強については、会社が積極的に応援することを約束する。これはスキルアップしたいという“向上心”を強く持つ求職者の琴線に触れるに違いない。このような取り組みの輪が業界全体に広がれば“警備業は資格取得で活躍できる業界”といった好印象も世の中に広まっていくはずだ。

意欲ある人材を確保し育成する取り組みが社業発展の切り札となる。

【都築孝史】

青年部会2020.11.11

地域貢献活動の〝核〟に

今年も各地で11月1日の「警備の日」イベントが開かれた。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で中止や縮小を迫られた地域もあったが、活動を行った警備業協会は工夫を凝らして警備業をアピールした。

それらの多くは協会の青年部会が企画や運営を担った。業務が多忙な中で打ち合わせを重ね、警備業を周知するために知恵を絞り、現場では汗をかいた。全国の青年部会は3年前の17団体から29団体まで増えており、「警備の日」のほかにも、警備業のイメージアップや人手不足といった業界が抱える課題の解決に挑んでいる。

最近増えているのが、地域住民の不安を解消するための活動だ。登校時の児童の見守りや、特殊詐欺被害防止を呼び掛けるキャンペーンなどが各地で行われている。これらは子供や高齢者が事故や犯罪の被害に遭うことを防ぐだけでなく、警察やPTA(社会教育関係団体)などと連携して実施するため、警備業が生活安全産業として社会に貢献していることを地域にPRする効果が高い。

熊本県警備業協会の青年部会は今年8月から9月にかけて、「令和2年7月豪雨」被災地で無償の防犯パトロール活動を行った。被災者からは不安な生活を送る中で心強い活動だったと感謝され、当初は1回のみの参加予定だったが、休暇を利用してプライベートで複数回活動した警備員もいた。10月には県警生活安全部から部会に対して感謝状が贈られた。

無償での地域貢献活動を行う上で最大の課題となるのは、業務との兼ね合いだ。各地の青年部会員からは、警備業は深刻な人手不足が続いているため、ボランティア活動に参加することを上司に申請できないという声が聞かれる。実際にボランティア活動に参加するのは経営者や経営幹部などがほとんどで、警備員が参加することは多くはない。

業務レベルアップに

そんな中で熊本で防犯パトロールに参加した延べ37人の青年部会員は、多数が実際に警備員として警備業務を行っている人たちだった。所属する企業は、県下全域で復旧工事が行われて警備業務の需要が高まっている中で、快く送り出した。彼らは活動終了後、事務局に「警備業としてどのように地域に貢献するべきかを考えるきっかけになりました」や「この経験を生かし、これからも多くの人に安心と安全を提供したい」などの感想を寄せたという。

被災地を支援して警備業をアピールしただけでなく、自らの警備業への熱意や意識を高めたのだ。

やりがいを強く持ったことで、個々の業務の質もレベルアップしたに違いない。

このように警備員が被災地などで活動することは、自社にとってもメリットがある。全国の警備会社の経営者は難しいことだとは思うが、ローテーションをやりくりするなどして一般社員が活動しやすいように裏から支えてはどうだろうか。

更には地域貢献活動は青年部会のメンバーだけに留まらず、多くの警備会社を巻き込んで層の厚い活動にすることが望ましい。規模が広がることで、より多くの効果が期待できるからだ。青年部会はその“核”として活動ノウハウの紹介や、運営上での課題解決などにリーダーシップを発揮してほしい。

【長嶺義隆】

最高裁判決2020.11.01

急げ〝2つの格差〟是正

最高裁は10月、アルバイトなど“非正規”社員が正社員との待遇差是正を求める5件の訴訟で判決を出した。争点は「賞与」「退職金」「手当」。今後の雇用形態による格差是正「同一労働同一賃金」にも大きな影響を与えるものとして注目された。

「賞与」と「退職金」について1審地裁は、非正規社員の訴えを退けた。しかし、2審高裁は一転、「待遇差は不合理だ」と判断。賞与は正社員の約6割を、退職金は正社員の4分の1を、それぞれ非正規社員に支払うよう会社に命じた。

同判決に対し最高裁は「非正規社員と正社員とでは業務内容が違う」「正社員には人事異動があった」「非正規社員にも正社員登用の制度があった」など待遇差を認める理由を挙げた。また、賞与・退職金は「長期雇用を期待する正社員へのインセンティブ(優遇措置)」とする「有為人材確保論」を展開。再び非正規社員への賞与・退職金の支払いを退けた。

「手当」は、東京・大阪・佐賀で起こされた訴訟への判断。1審地裁、2審の3高裁での判断が分かれたことから統一的見解が示された。

最高裁は、2018年の同種裁判での判決を踏襲、手当の主旨・目的ごとに判断した。3高裁いずれかが認めなかった「年末年始勤務手当」「扶養(家族)手当」「有給の病気休暇」「夏期・冬期休暇」「祝日給」について、非正規社員と正社員との待遇差を不合理と断じた。

判決は、金額の大きな賞与・退職金は会社側、比較的少額な手当は非正規社員側、それぞれに有利な結果となった。判決後、非正規社員側弁護団の一人は「最高裁はバランスを取った」と述べた。9月に行われた「弁論」後に同弁護団が指摘、危惧していた「(経済の大きな落ち込みを受け)コロナに忖度するのではないか」は現実のものとなった。しかし、判決文を読むと、最高裁の苦渋の跡がうかがえる。コロナ禍がなければ「もしかしたら…」と思わせる。今後同様の裁判が続けば、今回とは違う結果が出ることも予想される。

「手当」見直し待ったなし

警察庁の調査によれば、19年末時点でアルバイトなど非正規雇用と思われる「臨時警備員」は約5万5000人。警備員総数の約1割を占める。実際には、それ以上の非正規警備員が存在することは明らかだ。

最高裁判決により、警備各社にも正社員と非正規社員との待遇差是正は“待ったなし”となった。特に今回の判決で「待遇差は不合理」と明確に判断された「手当」については、「損害賠償」という訴訟リスクも伴うだけに速やかな是正が求められる。

さらに、近い将来、待遇差是正が求められるに違いない賞与・退職金についても、今から積立金など準備を進めていくことが必要だ。

しかし、警備業では、雇用形態による待遇差の是正に加え、全産業平均に比べ月10万円以上、年収では100万円以上とも指摘される「賃金格差」の是正も忘れてはならない。放置は人材離れを加速させ、産業としての存続を危うくする。

いずれの格差是正にも不可欠なのは“原資”。適正警備料金の確保は避けて通れない課題だ。この実現こそが、待遇と賃金の2つの格差是正の成否を左右する。

【休徳克幸】