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視点

女性活躍2023.10.21

働きやすい環境整える

10月1日、北海道警備業協会(長尾昭会長)の女性部会「木蓮会」が部会員10人でスタートした。

幡優子部会長(テックサプライ代表取締役)は「より魅力ある警備業界づくりを視野に積極的な広報活動、情報発信を行いたい」などの意気込みを語っている。

警備業界は近年、青年部会の設立が相次ぎ、39都道府県に広がった。一方、女性部会は木蓮会が全国で5番目、2018年の岐阜警協以来5年ぶりとなった。

毎年開かれる「全国青年部会長・女性部会長等会議」では昨年、業界の現状についての討議の中で“女性部会の発足は、なぜ進まないのか。立ち上げの動きが頓挫してしまった例もあるらしい”ことが議題にのぼっていた。木蓮会の発足と今後の活動に全国の関係者の注目が集まることだろう。

組織に新たな部会が新設されるには、準備期間が大切になる。北海道警協では、昨年10月に女性経営者4人による「設立発起人会」を立ち上げ、「女性経営者・経営幹部が自己研鑽(さん)を図り、業界発展を見据え新たな視点で活動を行う」との趣旨で事業計画案を練り、会則を定めた。今年3月の理事会審議を経て、5月から6月にかけて部会員を募り、9月に設立総会が開かれた。協会関係者の理解と応援こそ女性部スタートに欠かせないものだ。

警備業界における女性活躍の意義を、長尾会長は設立総会で次のように言い表した。

「より多くの女性が活躍できる警備業をめざすことは、男女を問わず働きやすい産業になることです。労働環境が整えば、警備業は一層魅力的な産業になり、就職する女性、活躍する女性が増える『好循環』が導き出されます」。

労働人口の減少を背景として、各業界で女性の雇用拡大は課題となっている。警備業は経営者も警備員も、女性は少数派にとどまる。アフターコロナを迎え、より多くの人材を確保し顧客ニーズに対応していくためには、業界・企業に女性の活躍を一層広げる取り組みが求められている。

東京警協「すみれ会」(五十嵐和代部会長=五十嵐商会代表取締役社長)は、発足時から「女性警備員のスキルアップ」を活動目的の一つに掲げてきた。9月29日には警備業務検定や指導教育責任者などの資格を持つ女性警備員の「ブラッシュアップ研修会」を開いた。

25人の参加者は、特別講習講師から「負傷者の搬送」「護身術」などの指導を受けて知識を深めた後、グループで討議し、それぞれの体験をもとに次のような意見を発表した。

「夜勤など一部の業務を男性だけが任される状況を、私たちは悔しいと感じています。資格にトライし技能を高めたいとの意欲を持つ女性警備員は少なくないはずです」「女性の管理職が少ない中で、上司に悩みを相談しやすい社内環境が整えば離職防止に結び付くと考えます」。より良い職場環境づくりは定着と活躍を支える大事な要素となることをアピールする機会となった。

それぞれの女性部会の活動は多様化している。各種テーマの研修会のほか、業界外の人に警備業への親しみを持ってもらうためSNSによる情報発信も行われている。老若男女がいきいきと働く警備業界の実現に向かって、女性部会の新たな活動が今まで以上に広がってほしい。

【都築孝史】

事業継続2023.10.11

「災害対応力」を強めよう

「危機管理産業展(RISCONTOKYO)2023」が10月11日から13日まで東京ビッグサイトで開催されている。「RISCON」とはリスクとコントロールから成る造語だ。リスクは完全に回避することはできないが、可能な限りコントロールして被害を最小限に食い止めることが重要である。

リスク対策の一環として、企業の間ではBCP(事業継続計画)への関心が高まっている。BCPは企業が自然災害やテロ攻撃、パンデミックなどの緊急事態に陥った時に、被害を最小限にとどめながら事業を継続し早期復旧を果たすための計画だ。

全国警備業協会は9月に「警備業者に向けたBCP(ひな形)」を策定した。内容は基本方針、運用体制、復旧目標、事前計画、発動時のポイント(行動フロー、避難計画、従業員への連絡、顧客情報、防災用具)、自己診断、訓練方法――など、災害時に的確に判断・行動するため取り決めておくべき備えが示されている。警備業に特化した内容で加盟会社にとっておおいに参考になるはずだ。

警備業の災害対応の取り組みは、ここ数年で大きく進展した。全警協基本問題諮問委員会の「災害時における警備業の役割の明確化」部会(松尾浩三部会長)がまとめたアクションプランをもとに、出動時の実行性を高めた「災害支援協定・細目協定ひな形」、警備員の命を守る「自然災害発生時における警備員の安全確保のためのガイドライン」、そして今回の「警備業者に向けたBCPひな形」を策定、警備業“防災3部作”が完成した。

多様な取り組み進む

BCPについては、警備会社が多様な取り組みを進めている。CGSコーポレーション(山口県岩国市、豊島貴子社長)は2022年、3階建ての保管施設「BCPセンター」を岩国市内に建設した。自社とグループ会社の制服・装備品のほかに、自然災害発生などの非常事態に備えて、社員と近隣地域のための備蓄用食料や保温用アルミシートなどレスキュー用品を保管している。

セコム山陰(松江市、浅中靖作社長)は2008年と早期から「BCP構築コンサルティング」のサービス提供を開始。島根・鳥取両県を中心に中小企業のBCP策定を支援するとともに、策定済みBCPの診断と改善、計画書に基づく訓練の企画・運用支援などを行う。今年3月時点で民間企業のほか自治体、公共施設など300超社・団体に提供済みだ。

北関東綜合警備保障(宇都宮市、青木靖典社長)は9月に行った防災訓練で災害発生時の初動対応を確認した。遠隔会議システムを活用して自社とグループ会社など各所の状況と安否の確認を行った。同社では震度5以上の地震が発生した際に安否確認メールが全社員に自動的に配信される。社員がメールに記した設問に答えることで、状況を迅速に把握できる。

こうした好事例の反面、BCPに重きを置く警備会社は残念ながら一部に限られる。災害時でも業務を続ける必要があることから来年4月、全ての介護事業者にBCP策定が義務付けられる。警備業も同様に社会に必要不可欠なエッセンシャルワーカーとしてBCPが必要だ。社員や施設などの企業財産を守り事業を切れ目なく継続するために、各社の「災害対応力」を強化してほしい。

【瀬戸雅彦】

料金引き上げ2023.10.01

経営者の決断と交渉力

10月から改定される最低賃金、一方ではさまざまな物価の高騰――警備料金の引き上げは一刻を争う。

厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、7月の現金給与総額は1人当たり約38万円。前年同月比で1.1%の増だが、消費者物価指数(CPI)との関係で表す「実質賃金」は16か月連続で前年同月比マイナスだ。7月のCPIは3.9。額面(名目)で4%以上の賃上げが行われなければ、労働者が賃上げを実感できない。

そんな中、警備業界に実質賃金がプラスになる6%以上の賃上げに加え空調機能の付いた夏服と電熱機能の付いた冬服の購入で処遇改善を実践した経営者がいる。

この経営者は10月から警備料金を10%アップした。7月以降、取引先に「料金改定のお知らせ」を送った。値上げを1通の文書で通知するとは、取り引きが打ち切られるリスクがありそうだが、意外と受け入れられた。「さすがに大口の取引先には口頭でも説明しましたが、このご時世ですから、取引先は値上げに理解を示してくれました。ただ、10%という上げ幅には引っ掛かっている会社もありました」と話す。

取引先が離れるリスクを恐れて料金を据え置いていては、処遇が改善しないため警備員が離れ、他社より魅力ある求人情報も示せない。人こそが資源の警備業において、人材離れは致命傷だ。政府が中小企業の持続的な賃上げを後押ししている今こそ警備料金引き上げの絶好機だと言える。

料金を引き上げたいのに近隣の同業他社の動向を見て話を進められない小規模経営者がいる。その経営者が参加した会合で同規模の経営者と値上げの話題で盛り上がったときのこと。「でもね」という声が規模の大きな会社の経営者から挙がり潮が引いたという。大きな会社は、安い単価で仕事を受けて人繰りがつかない場合、小規模企業が穴を埋めている。「人手不足だからと“応援”を頼まれても、あまりに安すぎるので断らざるを得ない」と経営者は憤る。

なぜ、人手不足なのに大きな会社は安い金額で受注し、規模の小さな会社に“応援”を要請するのか。その経営者は「うちより多くの警備員を抱えていて稼働率を上げるために、安くても仕事を受けてしまうのではないか」と見ている。そんなことでは警備の質は担保できないし警備業の社会的ステータス向上は夢のまた夢だ。

2022年の職種別の平均賃金で警備業は145職種中140位で、前年より5位順位を落とした。全国警備業協会の中山泰男会長は6月の定時総会で「ショッキングな現実」と断じ、警備員の処遇改善を呼び掛けた。

全警協が6月から7月にかけて実施した「自主行動計画フォローアップ調査」では、約5割が同計画を活用して改善したと回答した一方、活用していない理由には「協議の手法が分からない」「取引解消の懸念」が挙がっている。

同計画を活用しても改善されなかった理由に47.2%が「立場が弱いため強く言えない」と回答した。国も全警協もこうした事業者に対し支援策を打ち出している。料金引き上げへ追い風が吹いているのに、「でもね」の声によって小規模業者に追い風が届きにくいのが現実なのだ。

警備業の社会的ステータス向上には経営者の自主的な行動力が求められている。決断と交渉力を求めたい。

【木村啓司】