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視点

災害対応2022.09.21

地域との連携も不可欠

「記録的豪雨」「命を守る行動」「レベル5」――。今夏、いく度となく耳にした言葉だ。テレビのニュースには、濁流が住宅に流れ込む様子や河川が堤防を超える様子が繰り返し映し出された。

筆者は2016年9月、同年4月に発生した熊本地震後も自然災害が相次いでいたことから、本欄で物理学者であり随筆家の寺田寅彦が関東大震災の風化を警告した言葉「天災は忘れた頃にやって来る」を言い換えて、「災害は次々とやって来る」と記した。今もなお頻発する台風や豪雨、火山噴火、地震などの自然災害を見るにつけ、その思いは強まるばかりだ。

9月1日の「防災の日」の前後、全国で防災訓練が行われた。コロナ禍で中止や規模縮小が相次いでいた同訓練も「ウィズ・コロナ」の世となり、規模・内容ともにコロナ前の状況に戻りつつある。

参加した都道府県警備業協会もそれぞれが組織する「災害支援隊」を中心に、住民の避難誘導や避難所の警戒警備、復旧・復興工事での交通誘導警備といった災害支援活動に磨きをかけた。

しかし、近年の自然災害の被害は大規模・甚大化し、各警協の災害支援隊の体制拡充はもとより、隣接する近県との連携など災害対応への課題は山積する。

全警協2つの取り組み

全国警備業協会は、自然災害への対応で出動した警備員の労働災害防止を目的に、警備員の安全確保のための「ガイドライン」を策定中だ。近く都道府県警備業協会を通じ、全加盟社に通知する。

ガイドライン作成のきっかけは、2018年に発生した「西日本豪雨災害」。災害対応のために出動した警備員が濁流にのまれ、2人が亡くなったことだ。悲劇を繰り返さないためにも警備員を守る“指針”としてのガイドラインへの期待は高まる。

一方で、警備という業務の特殊性から、台風襲来など自然災害発生時にも契約先に警備員を派遣する警備会社は多い。同ガイドラインによって、「警備員を守る」という視点に立った、警備会社の災害対応での新たな行動指針が確立されることが望まれる。

ガイドラインに加え全警協は、都道府県警備業協会が県などの自治体や警察と結ぶ災害支援協定を見直す際の「ひな型」も作成した。

現行の災害支援協定でも「費用負担」について明記しているものの、具体的な積算法などが定められておらず、各警協の災害支援活動の大半が“ボランティア”となっていた。

しかし、「西日本豪雨災害」では岡山県警備業協会(松尾浩三会長)が県や県警との協議を重ね、初めて“有償”での警備業の災害支援を実現した。同取り組みは“岡山モデル”として、後に行われた長野や宮城での警備業の災害支援活動に活かされた。

近年の自然災害による被害の多くは広範囲に及び、その支援も広域化・長期化する傾向にある。持続可能な災害支援を可能とするためには“活動の有償化”は不可欠だ。全警協の「ひな型」も岡山での取り組みを参考としたもので、今後の全国への広がりを期待したい。

一方で、被害を伴う自然災害が発生した際には、市町村などの地域の自治体が初動対応を行う。警備業も同自治体や地元建設業との連携が不可欠だ。地域の安全安心を担う警備業としての体制整備を進めてほしい。

【休徳克幸】

価格転嫁2022.09.11

業界こぞって「料金交渉」を

「価格転嫁」という言葉をよく耳にするようになった。受注者が労務費や原材料費、燃料費の上昇分を発注者に負担してもらうことだ。そこには中小企業の賃上げを実現させる目的がある。

厚生労働省の統計調査によると、警備員の平均賃金は調査対象145職種の135番目。「低賃金」は、人手不足問題にも直結する警備業最大の課題だ。社会に必要不可欠なエッセンシャルワーカーがなぜ世間並みの報酬を得られないのか。昨年末に首相官邸で開かれた「価値創造のための転嫁円滑化会議」で全警協の中山泰男会長がワーキングプアの現状を訴えたことは記憶に新しい。

政府は今年、中小企業の賃上げ環境整備に向けて、さまざまな取り組みをスタートさせた。経済産業省と中小企業庁による「発注元と下請けの年1回以上の価格交渉を求める基準案提示」、国土交通省による「建設工事の取引適正化のための下請取引の実態調査」などだ。いずれも警備業にとって心強い後押しとなる。

全警協が2019年に策定した「適正取引推進に向けた自主行動計画」もまた「発注元と交渉して適正な利益を得てほしい」という官邸の意向を反映させたものだった。直近のフォローアップ調査の結果を落とし込んだ自主行動計画“第4版”は今秋、公表される。各省庁の動きを盛り込んだ新たな指針が示されるだろう。

これまでのフォローアップ調査によると、自主行動計画は不適切な取引事例や警察庁生活安全局長の言葉などを発注元に見てもらうことで適正取引への効果を上げている。しかし一方では、調査対象社の約3分の1は発注元との交渉を全く行っていない実態も判明した。そこには「交渉すると取引を断られるのではないか?」という懸念がうかがえる。全警協や国の取り組みは、各社が交渉を行って初めて後押しとなる。そして多くの企業が一丸となって取り組んでこそ効果が上がるものだ。

全警協のホームページには「顧客との交渉の好事例」が紹介されている。その一つに最低賃金改定を機に交渉した成功例がある。受注者は発注担当者が上司に説明しやすいように所管省庁が公開している資料も提示した。一定期間をおいて根気強く折衝を続けたことも功を奏した。こうした具体例は各社の参考になるはずだ。

政府は価格交渉がひんぱんに行われる9月を「価格交渉促進月間」と定めている。そのポスターには受注者と発注者が握手する写真に「価格転嫁を実現し、未来へ続く関係を」のキャッチコピーが載っている。促進月間を前にした8月末、岸田首相は官邸のホームページで動画メッセージを配信。「下請けGメン(取引調査員)の倍増や、10万社に緊急調査を行い価格交渉の実体把握などの取り組みを進めている」と報告した。

こうした流れの中、警備業でも「取引先とよい関係を築こう」という気運が広がっている。その一つに経産省が進める「パートナーシップ構築宣言」の取り組みがある。企業規模に関わらず代表者が適正取引による“共存共栄”の関係構築を宣言するものだ。専門サイトには宣言した警備会社名が掲載されており、その数は100社近くに上る。

さまざまな追い風を受けながら、今こそ業界がこぞって料金交渉を行い、経営基盤強化を実現してほしい。

【瀬戸雅彦】

事業継続計画2022.09.01

高めよう「非常時」対応力

企業は今、さまざまなリスクに取り巻かれている。首都直下地震や南海トラフ地震、豪雨などの自然災害に加え、火災や大規模事故、サイバー攻撃も起こり得る。天然痘に似た症状の感染症「サル痘」は世界中に広がっている。無差別テロに巻き込まれる恐れもある。

非常事態に直面した企業が、被害・影響を抑えて自社業務の早期復旧を図る対策は「事業継続計画(Business Continuity Plan=BCP)」と呼ばれる。組織が危機を乗り越え生き残る経営戦略である。欧米の災害復旧計画などが起源とされ、近年は国内でも知られるようになった。

しかし、企業への普及は途上にあるようだ。帝国データバンクが今年5月に実施した企業に対する意識調査(有効回答1万1605社)によると、BCPを策定している大企業は33.7%、中小企業では14.7%に過ぎなかった。策定しない理由は「必要なノウハウがない」「策定する人材・時間を確保できない」などの回答が多くを占めた。

警備業は社会を支えるエッセンシャルワークだ。経営基盤の強化と併行して、非常時を想定し対応力を高める取り組みを進めなければならない。

災害などで社業が中断を余儀なくされた場合、早期復旧・存続を実現するためにはBCPに基づく社員の対応力が問われる。いざという時、会社のために行動しようとする原動力となるのは職業上の義務感・責任感とともに、日頃から自社に感じている愛着、誇りではないか。より多くの社員から愛される企業は、非常時の対応力も高まることだろう。

中小企業庁はBPC策定運用指針を定めており、同庁ホームページで見ることができる。これによると策定の基本は▽自社の事業のうち優先して復旧を図る「中核事業」を特定しておく▽復旧までの「目標時間」を定める▽緊急時に提供できる業務について顧客と協議しておく▽従業員全員と事業継続についてのコニュニケーションを図る――などだ。

BCPは自社の業務の特性を考慮して作成することが重要になる。災害時の通信手段確保と連絡体制の整備、指揮系統の明確化、さらに営業情報や警備員教育記録などデータのバックアップも欠かせない。

BCPの取り組みについて、情報開示の一環として自社ホームページで公開している警備会社がある。北陽警備保障(島根県松江市、幡好明代表取締役社長)は、非常時の最優先事項として「社員・顧客の安全確保、安否確認」を挙げたうえで、機械警備業務など7つの中核事業について、目標とする復旧時間・復旧レベルなどを掲げる。

同社は、東日本大震災の翌年・2012年にBCPを策定以来、各種リスクの事例や情報をもとに内容の見直しを随時行って更新し実効性を高めるよう努めているという。同社の担当者は「BCPは経営幹部だけのものではなく、社員が日頃から共有して理解を深め、教育訓練を重ねることが社内の危機管理意識を高めることにつながると考えます」と話した。

事業継続に強い会社づくりは、顧客の信頼度向上に結び付くはずだ。リスクに備え対応力を磨く取り組みが警備各社に広がることで、警備業界に対する社会の信頼は高まるに違いない。

【都築孝史】