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視点

新入社員2023.03.21

「熱い思い」に応えよう

もうすぐ4月。新卒者を迎える企業では、入社式や新人研修の準備に余念がないことだろう。本紙編集部にも、東京近郊の警備業協会から「新入社員合同入社式」の案内が届いた。今年は協会加盟4社から21人の新入社員が合同入社式に参加、協会会長や先輩警備員から激励を受けるという。

以前は大手警備会社が中心だった新卒者の定期採用だが、いまでは全国の中小警備会社にまで広がりつつある。そこには、将来の経営幹部や現場の“要”となる若い人材を採用・育成し、社業発展を担ってほしいという経営者の思いがある。

一方で、以前は「中途採用」にのみ人材確保を頼っていた企業でも、急速に進む少子高齢化に伴う労働力減少期を迎え、人集めに苦労している。「いっそのこと若者を採用し、長く定着してもらおう」という思いから新卒採用に踏み切った企業も多いと聞く。

いずれにしろ、若者が高齢化が進む警備業界入りすることは、産業の活性化にもつながり喜ばしいことだ。特に近年、政府が主導して急ピッチで進む「デジタル化」や、AIやICTの進展などにより警備現場も大きく変わろうとしている。幼少期からスマホやパソコンを自在に操ってきた若者の警備業界入りは、業界や各社のデジタル化の担い手として否が応でも期待が集まる。

さらに、「東京オリ・パラ」での警備員の活躍ぶりや、コロナ禍で改めて見直された警備業のエッセンシャルワークとしての有用性・重要性を間近で見てきた若者は、警備業にある種の使命感などを抱いてやって来てくれるに違いない。その熱い思いに応えることが、既に警備業に身を置く者の務めでもある。

誇りを持てる仕事に

一方で、工事現場で交通誘導警備に従事する警備員の中には、自身の住む場所から遠い場所での勤務を希望する人もいるという。「警備業で働いている姿を近所の人から見られたくない」のが理由である。希望に満ちて業界入りしてくれる若者たちに将来、そんな思いを抱かせてはならない。

それでは、誇りを持って働ける魅力ある警備業のためには何が必要なのか――。

まずは、業界の長年の課題である処遇改善は喫緊の課題だ。幸い、国土交通省が公共工事設計労務単価や建築保全業務の労務単価を大幅に引き上げるなど追い風が吹いている。処遇改善の原資となる警備料金のさらなるアップへ向けた業界を挙げた取り組みが望まれる。

当然、料金アップを実現するための警備品質向上などの自助努力は欠かせない。現行の検定資格に加え、以前から業界の多くの関係者が指摘してきた「新たな警備資格」の制度化にも早急に取り組む必要があろう。

処遇改善は賃金アップだけではない。企業に従業員への付与を義務付けられた年5日の年次有給休暇、育児や介護のために会社に気兼ねなく休暇を取得できる制度の整備、他の業種に比べて多発する熱中症など労働災害防止対策の徹底など、魅力ある警備業づくりへ向けた課題は多い。

期待と希望を抱いてやって来る若者に応えられる警備業とは、魅力ある警備業とは――。入社式を前に今一度考えてほしい。

【休徳克幸】

労務単価2023.03.11

今こそ「処遇改善」の時

「公共工事設計労務単価」が改訂され、今月から適用されている。検定合格者の交通誘導警備員Aは1万5967円で前年度比7.1%増と過去最大の伸び率、A以外の交通誘導警備員Bも1万3814円で6.3%増だ。公表された51職種の中で交通誘導警備員Aは最大の伸び率となった。

今回の大幅な労務単価引き上げは、国から警備業へ送られたメッセージである。「社会に必要不可欠なエッセンシャルワーカーである警備業には労務単価を上げた分、しっかり原資を確保して労働環境の改善を図り、求職者に選ばれる業界になってもらいたい」というエールなのだ。

国土交通省のサイトでは「単価設定のポイント」として「最近の労働市場の実勢価格、必要な法定福利費相当額、義務化された有給休暇取得の費用、時間外労働時間を短縮するために必要な費用などを反映させた」と説明している。

それを具体的に書き直すと「物価高や人手不足対策として各社で『賃上げ』を検討してください。従業員を社会保険に確実に加入させてください。義務化されている『年5日の年次有給休暇』は確実に取らせてほしい。時間外労働は月45時間、年360時間が原則で、業務の効率化を図り残業を減らしてもらいたい。4月から中小企業に適用される『月60時間以上の割増賃金率引き上げ』をお願いします」となる。

交通誘導警備員の労務単価問題は1997年に始まった。その前年まで単価が「普通作業員」の項目に含まれていたのは当時、現場作業員が交通誘導警備員を兼任することが多かったからだ。「交通誘導員」として別項目に定めることが決まってから単価は下落を続けた。2004年には7960円と、現在の「交通誘導警備員A」の半額まで落ち込んだ。全警協は「交通誘導警備労務単価研究会」を立ち上げ、対応策を検討。各都道府県協会や会員各社の尽力や、東日本大震災の復興支援、社会保険の加入促進などの「国策」で11年連続上昇している。

今回の労務単価改訂で、51職種で最低金額だった交通誘導警備員は、ようやく「A」が「軽作業員」を上回った。しかし本来「A」と比較するべき「普通作業員」とは、まだ4695円もの開きがある。10月に行われる労務費調査では、年5日間の年次有給休暇を盛り込むなど正確な記載が求められる。各社の努力で適正料金を得ることで市場の実勢価格を上げてもらいたい。

国交省のサイトには「労務単価には必要経費は含まれおらず、下請代金にそれを計上しないことは不当行為になる」と赤い文字で目立つように明記されている。今月は政府が定めた「価格交渉促進月間」である。国の後押しを受けて各社は新労務単価で積算した警備料金を発注元に提示し料金交渉に臨んでほしい。

交渉の場では「積算根拠」を明確に示すことが重要だ。大都市や夏の酷暑など作業効率が悪い現場環境に適用される「補正係数」の上乗せも必要となる。国交省サイトの労務単価表に付いている「資料」が参考になる。そこには労務単価に加えるべき必要経費の内訳などがわかりやすく解説してある。

気運が高まっている今こそ適正料金を得て各社の働き方改革推進と処遇改善を実現し、若者が働きたくなる業界にするため、業界が一丸となるときだ。

【瀬戸雅彦】

犯罪対策2023.03.01

「顧客を守る」「自身も守る」

市民生活の重要課題として「犯罪対策」がクローズアップされている。

1月に東京・狛江市の民家で90歳の女性が強盗グループに殺害される事件が発生し、都府県をまたいで犯行を繰り返す「広域連続強盗」の存在が明るみに出た。特殊詐欺で60億円を荒稼ぎしてきた組織の首謀者は、インターネットで“闇バイト”と称し強盗の実行犯を多数募った。宅配業者を装って、あるいは窓ガラスを破壊して侵入する強盗・窃盗を50件以上も重ねた疑いが連日報道され、侵入者・不審者対策に人々の関心が高まっている。

こうした中、警備各社の担当者が複数のメディアに“安全安心のプロ”として登場し、防犯のポイントを説明する機会が大いに増えた。警備員が非常時に駆け付けるホームセキュリティーなどについて警備会社に寄せられる問い合わせは、事件前の3〜5倍にのぼるという。自宅を留守にする時の侵入被害に加え、在宅時に押し入られることを危惧しての防犯相談が増えている。

警備業は社会のニーズに応えて、ホームセキュリティーなど顧客の生命・財産を守る業務のさらなる普及推進を図ることが求められる。

経営幹部は、非常警報を受信し駆け付ける警備員の一層のスキルアップに取り組むとともに、受傷防止に万全を期してほしい。

警備員は家屋、オフィス、物流倉庫など駆け付け先で、侵入者・暴漢に遭遇するリスクがある。顧客の生命・財産を守り、自分自身の命も守らなければならない。防刃ベスト、警戒棒などの護身用具を改めて点検し、装備品の充実・強化を図る取り組みは不可欠だ。

近年は、体に装着する「ウェアラブルカメラ」がイベント警備や空港・駅・新幹線の警備、ホームセキュリティーなどに導入されている。カメラの映像はオンラインで送信され、警備本部・管制は現場の光景を警備員の目線で確認することができる。

こうしたツールを活用し警備員のバックアップにつなげてほしい。最前線の警備員と、社内から指示を出す上司・内勤者がリアルタイムで情報共有すれば、より的確に業務が遂行され非常事態への対応力はさらに向上するはずだ。

臨場した先では、何が待ち受けるか分からない。人命救助、初期消火活動、侵入犯の逮捕協力などを行う場合がある一方で、深夜のオフィスに入り込んだ人物が“身分証は携帯していないが、社員です”などと名乗る状況もある。その際は相手の身元を慎重に確認し、一瞬も油断せず判断することが求められる。

常に緊張して駆け付ける警備員が、疲労の蓄積から判断や体の動きが鈍ることのないよう、十分な休憩時間を確保し、職場環境の整備を進めることは重要だ。

20年にわたり減少が続いた刑法犯認知件数は、2022年は60万1000件余りで前年を上回った。自転車盗、暴行、傷害などの「街頭犯罪」が増え、特殊詐欺の件数・被害額も増加。警察庁は「わが国の犯罪情勢は厳しい状況にある」と注意喚起している。

人々は、今まで以上に確実な安全を獲得したいと対価を払って警備業に期待を寄せる。ホームセキュリティーなど各種業務の顧客開拓、警察はじめ関係機関と連携した防犯啓発活動の積み重ねによって地域社会の安全安心はより確かなものとなる。

【都築孝史】