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視点

環境変化2022.04.21

先を読み、チャレンジ

社名ロゴを冠した輸送用車両に屈強な警備員2人が乗り込み、ATM(現金自動預け払い機)への現金補充や現金運搬を行っている姿は、街角でよく見かける光景だ。一般市民が警備会社に抱くイメージの代表例と言えるだろう。

現金輸送警備は、現金を狙った犯罪者に襲撃されるリスクがあるなどの理由から、警備料金が高めに設定されることが多い。優秀な警備員を配置ししっかりした教育を行い、自社の「花形部門」と位置付ける警備会社もある。

ATMは、金融機関で設置台数が減っているが、コンビニエンスストアでは順調に伸び、2021年の設置数は約18万台(主要金融機関とコンビニ大手3社の合計)と10年前から5000台程度増えた。スーパーや小売店、飲食店の釣銭配金・売上金回収業務も底堅く推移しているようだ。

その一方で環境変化の波も押し寄せている。キャッシュレス決済の増加だ。日本のキャッシュレス決済比率は19年時点で26.8%、政府は25年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高める目標を掲げており、急ピッチで拡大するとみられる。

ATMの利用件数はコロナ禍もあり20年度は金融機関、コンビニともに減少した。キャッシュレス化が進めばATM離れはさらに加速するだろう。一挙に現金流通量が減ることはないだろうが、5年後、10年後には現金輸送警備を取り巻く環境が現在とは一変している可能性もある。

環境変化への対応は事前の対策が必要だ。情勢が変わり始めてから動き出すのではなく、現金流通量が安定している今から備えなくてはいけない。キャッシュレス化の主流になっていくQRコード決済の管理機能を売上金回収サービスに取り込んだり、釣銭配金・売上金回収サービスを利用していない飲食店や小売店の潜在需要を掘り起こす取り組みが求められる。

嗅覚、俊敏性養う

事業環境の変化に対する備えは、現金輸送警備に限った話ではない。施設警備や交通誘導警備でも同様だ。施設警備の警備ロボット、交通誘導警備のAIを活用した交通規制システムなどは、人手不足への対応や業務の合理化、品質向上、コストダウンなど警備業が抱える課題の解決につながる。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備が残したレガシー(遺産)も有効活用していきたい。ウェアラブル(身体装着)カメラや上番・下番報告システムなど、導入すれば大きな効果を得られるレガシーは多い。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使った若者の採用、情報発信も環境変化に対応した新しいやり方だ。若者がコミュニティー手段として活発に利用するSNSに対応するだけでなく、趣味やグルメなど若者の興味を引くような内容を中心にしていけば、警備業のアピールだけだった従来型の情報発信スタイルを変えていくことができる。

将来の変化を見据えた取り組みを警備業界全体に広げていくためには、変化の先を読む嗅覚、迅速に対応する俊敏性も養っていくことが重要となる。環境変化への対応は、ある意味で骨の折れる作業だ。しかし、的確に対応できれば新たな警備業の姿を創出する可能性も出てくる。変化にチャレンジする姿勢が必要だ。

【豊島佳夫】

新入社員2022.04.11

生涯託せる警備業に

新入社員の皆さん、ようこそ警備業へ。新型コロナのために十分な“就活”もままならなかったにもかかわらず、数多くの仕事の中から警備業を選んでくれてありがとう。

4月も中旬になろうとする今ごろは、新任教育や新入社員研修も終わり、上司や先輩の指導を受けながら警備や営業、事務などそれぞれの担当業務に就いている人も多いのではないでしょうか。

昨年開催された「東京2020」では、全国の警備会社553社が五輪史上初めて共同企業体(JV)を編成、全国から駆け付けた警察官とともに警備を担い、大会を成功に導きました。JVに参加しなかった全国の警備会社も、それぞれの現場でテロ防止などに目を光らせ、「縁の下の力持ち」として大会を支えました。

炎天下、競技会場やその周辺で、きびきびとした動作を行いつつも笑顔で業務に当たった警備員には、多くの海外メディアから賞賛の声が寄せられ、わが国警備業の質の高さを世界に知らしめることができました。

皆さんが仲間入りした警備業界では現在、全国約1万を超える警備会社と約58万人の警備員が、交通誘導警備や施設警備、現金をはじめとする貴重品運搬警備など、さまざまな警備業務を行っています。道路工事現場では、適切な交通誘導警備がなければ車両も歩行者も安全が保てません。オフィスビルや商業施設などでは、出入りする人のチェックや巡回警備がなければ、その中で安心して仕事や買い物はできません。毎日の確実な現金輸送が滞れば、銀行やコンビニのATMは、たちまち空っぽになってしまいます。

このように、私たちの日常生活の多くの部分を、今では警備業が担っています。警備業が「生活安全産業」と言われる理由です。その一翼を担うようになったことに誇りを持ってください。

より多くの人々に警備業が頼りにされ、産業としてさらに発展できるか否かは、新入社員の皆さんの今後の取り組みにかかっています。活躍を期待しています。

若者の夢・希望に応える

労働力人口の減少が叫ばれて久しい中、これまで主流だった中途採用さえ困難となってきたこともあり、全国の警備業では新卒者の定期採用に取り組む企業が増えている。若年者に体系的な教育を行って定着を図るとともに、将来の経営幹部として育成するためだ。今春採用された新入社員には、各社のそんな強い期待が込められているに違いない。

一方の入社した社員の多くは、夢や希望、将来への展望を抱いて警備各社にやって来た。その思いに、各社はもとより、業界としても何とか応えたい。

しかし、他業種に比べ大きく劣ると指摘される賃金水準、人手不足に伴う慢性的な長時間労働、発生率では危険作業の多い建設業と変わらない労働災害――などの現実は、果たして若者の目にどのように映るのだろうか。「仕方ない」「我慢して」では無責任のそしりを免れない。

企業や業界の将来の担い手として、新入社員への期待は大きい。彼らが警備という仕事や会社に失望することなく、安心して生涯を託せる魅力ある会社や業界となるためには今、何をなすべきなのか――。希望に満ち溢れた若者の姿を見ながら、警備業経営者には再度考えてほしい。

【休徳克幸】

地震大国2022.04.01

災害支援、備え進めよう

3月16日深夜、突然の揺れに起こされた。震源は福島県沖でマグニチュード7.4、最大200万戸を超える大規模停電、東北新幹線の脱線事故など多くの被害があった。日本は、世界の大地震の約2割が発生する「地震大国」。社会の安全安心を担う警備業には災害時の対応が求められている。

警備業が初めて災害時の支援活動を行ったのは27年前、阪神淡路大震災のときだ。被災地に空き巣などの犯罪が増えてパトロール強化の声が高まり、兵庫・大阪の2警協は数か月にわたるパトロール活動を実施。警察庁から感謝状を贈られるなど高く評価され、災害時における警備業の活動に期待が寄せられるようになった。

これを機に都道府県警備業協会は、自治体や警察本部と災害支援協定を締結。しかし必要な条項が明記されてなかったことなどから、その後約20年にわたり災害支援協定に基づく活動は行われなかった。東日本大震災や豪雨災害で各協会会員が出動したが、全てボランティアだった。

警備業が初めて支援協定に基づく活動を実現したのは、2017年の西日本豪雨のときだ。岡山警協は県警本部から要請を受け、被災地に警備員を配置。前例がないため手探り状態で県・県警本部と協議を繰り返し、3者合意の上で支援協定に基づき警備員を出動させることができた。

岡山警協・松尾浩三会長はこの時の経験を踏まえ、全国警備業協会・基本問題諮問委員会「災害時における警備業の役割の明確化」作業部会長として議論を重ねた。その成果として「災害支援協定書」と「覚書」、警備員の安全を確保するための「安全ガイドライン」を作成。都道府県協会が警察本部を通じて策定する際の見本となるもので2月に開かれた全警協の防災委員会で報告された。

災害支援協定書のポイントは、警備業の役割を明確にしたこと。そして費用負担や出動した警備員が負傷した際の補償、警備員が損害を与えた場合の賠償などを明示した。これを“標準”とし、各協会の実状に合わせて修正し完成させる内容となっている。

安全ガイドラインは「警備業法の見直し作業部会」(首藤洋一部会長)と協議して作成したもの。激甚災害発生時の警備員の安全確保や避難する判断の基準などについて定めてある。警備員は「レベル4(避難指示)」の情報を受信したり、現場の状況から生命の危険を感じた時には自らの判断で避難するよう周知する必要がある。一瞬の遅れが重大な結果を招くためで、西日本豪雨で警備員2人が避難の遅れから濁流に飲まれた死亡事故を繰り返してはならない。

首都直下、南海トラフ

首都直下型地震や南海トラフ地震は今後30年以内に70%の確立で発生するといわれ、いつ起きてもおかしくない。警備業は自治体からの出動要請を警察本部を通じて受けた時、円滑で確実な対応が求められる。各協会では災害支援協定の再締結を進めるとともに、講師や青年部会などが中心となって災害支援要員の組織作りに取り組むことが必要となる。連絡網のチェックや定期的な防災訓練の実施も欠かせない。

業界全体で意識を共有し、災害への備えを進めてほしい。それは会員各社の業容拡大、付加価値を創成し経営基盤強化を図ることにもつながる。

【瀬戸雅彦】