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視点

激動の年2020.12.21

「誇り」「自信」持ち適正料金へ

年当初、新型コロナは「対岸の火事」だった。多くの警備業協会が例年と同じように賀詞交歓会を開催、“オリンピックイヤー”の幕開けに期待を膨らませていた。

しかし、1月15日に国内初の感染者が確認されて以降、感染の火の手は瞬く間に足元に広がった。激動の年の始まりである。

オールジャパンの警備JVを組織、万全の準備をしてきた「東京2020」は、五輪史上初めて大会の1年延期が決定した。

4月7日には、初の「緊急事態宣言」が大都市に出された。16日には全都道府県が対象となり、全国の街から人が消えた。

警備員の感染も相次いだ。経済も止まった。感染防止のために各種イベントが自粛や中止となり、多くの人が集まる施設は相次いで閉鎖された。公共工事までもが一時中断に追い込まれ、警備会社の経営にも暗い影を落とした。

そんな中、幾度となく耳にしたのが「エッセンシャルワーク」という耳慣れない言葉だ。緊急事態措置の中にあっても、社会に不可欠なサービスを提供する仕事のことである。国は緊急事態宣言下でも、医療などとともに警備業にも事業継続を求めた。中止となったイベントなど一部を除き、顧客から警備の依頼は続いた。それは感染の「第3波」に襲われている現在も変わらない。

コロナ禍は警備の仕事も変えた。施設警備では、検温や手指の消毒の呼び掛けが業務に加わった。ドライブスルーのPCR検査場での交通誘導警備もある。都内・池袋の繁華街では、以前は「客引き禁止」を呼び掛けて巡回していた警備員が、「マスク着用、手洗い・うがい」も呼び掛ける姿を見かけた。

一時は先行きに不安を抱く警備業経営者も多かったが、今では人手不足も相まって、増える仕事をさばくのに苦労するとの声も聞こえる。

飲食業や宿泊業など一部業種では深刻な事態が続く中、警備業経営者、現場で活躍する警備員ともに「警備業は社会に必要とされている」ことを改めて感じたのではないだろうか。

ダンピングは論外だ

警備業への期待が高まる一方で、“相変わらず”の話も耳にする。得意先の苦境を受け、警備料金を下げるという話だ。長い付き合いの顧客からの要請であれば無下には断れまい。しかし、これが顧客獲得のためのダンピング競争となれば論外だ。

近年上昇を続けてきた公共工事設計労務単価や政府が後押しする適正取引推進などの追い風を受け、「適正料金」獲得へ向けた業界を挙げた取り組みを止めてはならない。現在の警備料金を手にするまでに要した時間と労力は計り知れない。しかし、元に戻るのは一瞬だ。

コロナ禍により他業種では多くの失業者が発生している。行政も失業者の受け入れ先として警備業に期待を寄せるが、その多くは警備業の前を素通りしてしまう。

理由は明白だ。賃金など労働条件の低さである。

警備業の必要性が改めて浮き彫りとなった今こそ、自信と誇りを持って適正料金を求めてほしい。それが待遇改善の原資となる。そのためには、より質の高い警備サービスを提供するという自助努力が不可欠なのは言うまでもない。

【休徳克幸】

成長戦略2020.12.11

カギは経営者の「実践力」

目の前にある課題への対応にとどまらない。警備業界が未来に向け、健全に発展するためには何をなすべきか――全警協が今夏から取り組む「基本問題諮問委員会」(副題・成長戦略を検討する委員会)プロジェクトチームのポリシーだ。

委員会のメンバーには、全国から5人の部会長を含む14人が任命された。いずれ劣らない論客で、実務に明るい経営者だ。次代を担う気鋭の青年部会長4人もメンバーに加わった。

5つの部会のテーマは、「外国人雇用の在り方」「ICT(情報通信技術)などテクノロジーの活用」「成長戦略に役立てる警備業法の見直し」「単価の引き上げ策と経営基盤の強化」「災害時における役割の明確化」である。

これまで各部会は、それぞれに会合して、テーマの論点を協議、検討した。7、9月には全体会議をオンライン会議システムで開催して各部会長から進捗状況が報告された。

今月16日には3回目の全体会議が予定され、テーマごとに踏み込んだ議論を本格化させる。その後も数次の会議を経て、来年の全警協総会を目途に行動プランをまとめる手はずだ。

今、日本は新型コロナ感染拡大「第3波」の渦中にある。暗雲は警備業界にも重くのしかかっている。コロナ禍は経営基盤の脆弱性だけでなく、警備員の雇用と処遇の不安定さを浮き彫りにした。

プロジェクトチームは、現状をいかに打開して、アフターコロナの時代における警備業の未来像をどのように描くのか。コロナの脅威のただ中で立ち上げた成長戦略への取り組みは、ある意味で時宜を得たものと言えるだろう。

実務に寄り添うプランを

以下は言うまでもないことを承知で書きたい。成長戦略の行動プランは、実務に寄り添った現実のあり方に即したものであってほしいということである。チームには英知を結集、少数意見も大事にしながらゴールを目指してもらいたい。

すでに部会長から報告された<<進捗状況の骨子>>には、ポンとひざを打つ項目がいくつか読み取れる。たとえば、外国人の雇用には「特定技能外国人制度の活用」が表記された。ICTでは「効率的、効果的な各種テクノロジーの導入と活用を具体的に検討する」とある。災害時の役割では「災害支援協定の見直し、有償対応の調整方法を考えたい」――といった具合だ。

警備業法の見直しでは、警備業務別に20社近いヒアリングを行い、短・中・長期的な対応について話し合った。課題は10項目を超えたという。単価引き上げと経営基盤の強化は、現状と課題をピックアップ、3回目の全体会議に向けて具体的な取り組み事項や「警備料金の基礎知識(仮称)」について検討した。

5つのテーマは、警察庁、国交省、厚労省など中央省庁の理解と協力が不可欠だ。地方自治体、警視庁をはじめ道府県警察本部も同様であろう。ていねいな説明とコミュニケーションを積み重ねる果断な行動が求められる。業界だけでなく、警備業務の発注者側にも意識の変革を促したい。

そして、問われるべき肝心要は、あまねく経営者がプランを熟知して実践することである。とりわけ、「経営基盤の強化」は、警備員の労働単価の引き上げに直結する。<<警備員ファースト>>に思いが至らない経営者には、意識の改革と実際に行動することを強く望むものである。“馬の耳に風”であってはならないであろう。

プロジェクトチームが目的達成のために汗をかいて集約してまとめるプランの成否は、経営者のモラルのあり方に掛かっている。経営者諸氏は警備業の未来に向けて、チームと同じほどの汗をかいてほしい。 

【六車 護】

労災防止2020.12.01

企業ぐるみで取り組もう

コロナ禍の影響を大きく受けた2020年も、残すところ1か月となった。これから年度末まで公共工事が一斉に増え、2号警備業務は繁忙期を迎える。ここで各社は「労災防止」の意識を強めてほしい。12月はドライバーにとって師走の慌ただしさと、慣れていない道路の積雪や凍結が重なり、交通事故が起こりやすいからだ。

危険を見据え、中央労働災害防止協会は12月から1月にかけて「年末年始無災害運動」を実施して注意を呼び掛ける。運動標語の「きっちり確認 ゆっくり休息 しっかり準備 年末年始無災害」は、そのまま警備業にも当てはめることができ「労災防止標語」として各社で活用できる。

厚生労働省は毎月、労災の発生状況を集計、公表している。11月に発表した今年1〜10月の「速報値」を見ると、全産業における休業4日以上の死傷者数は、前年より増加していることがわかる。今年はコロナ禍により業務の縮小を余儀なくされた業種は多数あるはずだが、労災事故は変わらずに発生している。

全国警備業協会は、加盟6900余社を対象に調査した2019年度の労働災害事故について発表した。事故件数と被災者数は各社の努力で前年より減少したが、油断は禁物。業界をあげて対処すべきポイントが2点あった。

まず、交通災害に遭う警備員が減らないことだ。警察庁によると交通事故の発生件数、死者数ともに毎年減少傾向にあるが、警備業では同様に推移していない。19年度は252人の警備員が交通事故に遭ったが、2年前より12人増加。そのうち道路工事現場で誘導中に死亡した警備員は10人で前年度より2人増えた。

調査結果を詳しく見ると、交通事故は午後2時ごろに最も多く、勤続年数10年以上のベテランの被災が多い。見えてくるのは慣れからくる油断だ。大事故の前には、ヒヤリとする出来事などの“予兆”があるという。

経営者は自ら現場に足を運び、警備員がそうした予兆を感じていないか、耳を傾ける努力を怠ってはならない。立ち位置や資機材の使い方を確認して、潜むリスクを早期に見つけ出すことが重要だ。警備員に定期的な注意喚起を行い、適度な緊張感を持続させることも必要になる。

ポイントの2つ目は、高齢者の事故が多いこと。警備員が被災することが多い事故の「型」は、1位「転倒」、2位「交通事故」の順だが、どちらも事故に遭う年齢は65〜69歳が最も多い。

「転倒」は1号業務では巡回中、2号業務では車両誘導中に起きやすく、確認不足や状況判断ミス、気持ちの焦りなどが引き起こす。体力・注意力・判断力の衰えが事故につながりやすいことは、高齢者が多く勤務する警備業にとって大きな課題だ。労働時間など勤怠管理や休憩を適正にとる健康管理、事例紹介を交えた安全教育などを徹底させ、高齢者が少しでも安全に働ける環境を構築することが求められる。

今年は感染予防のために「労働安全衛生大会」を開催できなかった警備業協会が多い。年に一度、安全意識を再確認し共有する場がなかったことから、各社では例年以上に気持ちを引き締めてほしい。経営者は環境改善や安全教育の徹底、警備員は能力向上や自己管理を図るなど、企業ぐるみで「労災を発生させない」取り組みを進めてもらいたい。

【休徳克幸】