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視点

定時総会2023.06.21

「人手不足」対応急ごう

都道府県警備業協会の2023年度定時総会が、16日の宮崎での総会を最後に終了した。昨年までのコロナ禍での開催とうって変わり、今年はまさに「コロナ明け」を実感させるものとなった。

コロナの感染症区分2類から5類移行を受け、総会への各社の出席人員の制限もなくなり、受付の検温器も姿を消した。総会後には飲食を提供する意見交換会や懇親会を開催する協会も相次いだ。

会場では、久しぶりの再会を喜ぶ会員、全国各地から伝えられる花火大会など各種イベントの「再開」の知らせによる今後の警備需要増大への期待など、多くの会場で高揚感が漂っていた。

協会運営にも新たな風が吹きつつある。今年度総会では、全国で13人の専務理事が交代、役員や理事に青年部会員が登用される協会があるなど、協会活動の活性化や新たな展開も期待される。

一方で、各会長の総会あいさつには「適正警備料金の確保」「警備員の処遇改善」「人手不足への対応」――などコロナ前と同じ言葉が続いた。それは取りも直さずこれら課題が、警備業にとって如何に困難な問題であるかを如実に物語っている。

しかし、現在の状況はこれまでと少々異なるようだ。

公共工事設計労務単価や建築保全業務労務単価の大幅な引き上げ、人件費や原材料費の高騰分の価格転嫁推奨、さらには適正取引推進へ向けた「自主行動計画」支援など、政府の強い後押しという追い風が吹いているからだ。

近く厚生労働省の審議会で始まる「最低賃金」の見直しでは、政府目標「23年度内に全国加重平均1000円」の実現が大きなテーマとなりそうだ。

警備各社には、これら価格転嫁や最賃引き上げなどを、警備員の処遇改善の原資となる適正料金確保の“好機”と捉え、積極的な警備料金見直しを期待したい。

手遅れになる前に

総会取材で各地を訪れると、多くの外国人旅行客を見掛けるようになった。一方で、コロナ禍で緩和していたように見えた人手不足も再燃しつつある。

全国警備業協会の中山泰男会長が、全警協総会や各種会合で再三指摘しているように今後、業種間の人材獲得競争はさらに熾烈となるだろう。同会長の言う通り、「今後数年の間に手を打たなければ、手遅れになる」ことになりかねない。

刑法犯認知件数は、02年をピークに減少を続けてきたが、21年に20年ぶりに増加に転じた。「闇バイト強盗」など全国では白昼堂々の強盗事件も頻発している。わが国の実体治安や体感治安は大きく揺らいでいる。そのような中、警備ニーズは今後さらに高まり、国民の期待も大きくなるだろう。

そんな期待を寄せられる警備業を、これまで根底で支えてきたのは質の高い警備員であることは言うまでもない。

自動車業界では、電気自動車の登場により、業界にIT企業や電機メーカーが参入、いずれは自動車メーカーの存在を脅かすことが予想されている。

警備業界も優秀な警備員を確保できなくなれば、現在の警備手法が他の手法に取って代わられる。いずれIT企業など他業界の参入により、警備会社の存立さえ危うくなるかもしれない。

【休徳克幸】

万引き対策2023.06.11

学ぼう「科学保安警備」

店内で業務中の保安警備員が万引き犯から暴行を受ける事件が相次いでいる。犯行現場はいずれもスーパーで、3月に千葉県野田市、4月には愛知県蒲郡市と長野市で、犯罪を制止しようとした際に犯人に殴られるなどの被害に遭った。

通称「万引きGメン」と呼ばれる保安警備員は、犯人と対峙するための高度な技術や十分な法知識の習得が必要だ。それらが万全でも、逃走を図る犯人から暴力を受けるリスクがある。

保安警備業務には警備業法で定める検定資格制度がない。社内教育を受け現場で捕捉経験を重ねることでスキルを磨いていく。ある保安警備員は「現場で初めて万引き行為を発見したときは、声をかけて『盗んでいません』と返されたらどうしようと思い、足がすくみました」と話していた。

全国万引犯罪防止機構によると、万引き犯の確保は警備員が78.1%、従業員は11.7%と警備員が圧倒的に多い。店舗が安定した収益を確保し、来店客は安心して買物を楽しむため、警備業に寄せられる期待は大きい。

日本万引防止システム協会(JEAS)は6月2日、都内で定時総会を開いた。稲本義範会長は「万引き犯罪は2022年、全犯罪認知件数の13.7%を占めた」と報告。刑法犯認知件数は2002年をピークに減少傾向にあるが、万引きの認知件数は減っていないため、全犯罪に占める万引き認知件数の比率は年々上昇している。

万引きはかつて「青少年の健全な育成を阻害する社会問題」といわれていた。近年では高齢者や外国人による万引きが増加傾向にある。さらにインターネット上のフリーマーケットを利用した盗品の転売や、下見・見張り・商品持ち去り・逃走用車両の運転など役割を分担する組織的窃盗や、導入が進むセルフレジの悪用など、犯罪が多様化・複雑化している。

最近は顔認証技術を活用した対策が進められており、JEASは21年に「科学保安委員会」を設置した。科学保安とは、JEASが厳しい審査により認定する各メーカーの「顔認証システム」に、万引き常習者や転売目的、大量・高額盗難などの犯人の画像を登録。店舗出入口に設置した監視カメラで検知した際に、警備員や従業員のスマートフォンに通知することで情報共有する取り組みだ。

科学保安警備のメリットとして、多くの目で警戒することで犯罪を未然に防止できることが挙げられる。また顔認証システムの運用を理解していれば警備員が変わっても同じ効果を出すことができ、一度登録すれば長期間が経過したあとでも正確な対応をとることができる。

科学保安委員会は毎秋「科学保安講習会」を開催している。顔認証システムをフル活用できる警備員の育成が目的で、今年で3回目を数える。委員会の日本保安・青柳秀夫リーダーは総会で「今年の講習会は11月に都内会場とオンラインで予定している」と発表。全国警備業協会が発行する教本「保安警備業務の手引き」を使用して基礎知識を確認する「事前講習」を10月に行うことも報告した。

保安警備は今後、警備の精度と効率を高め警備員の安全を守るため、個人情報保護など専門家のアドバイスを受けながら「人的警備と先進技術の連携」が進む。それを機に、長年続く社会問題である万引き犯罪の認知件数減少を加速させたい。

【瀬戸雅彦】

シニア活躍2023.06.01

広げよう、資格取得の輪

「2025年問題」が迫っている。2年後に「団塊の世代」800万人が75歳以上となり、国民の4人に1人は後期高齢者となることで次のような問題が生じるという。

労働人口は減少し人手不足は深刻化する。社会保障費が増大し、現役世代の負担は、さらに増す。事業の後継者不足、老老介護などだ。未曾有の超高齢社会にあってシニア層が、より長く働き続けることのできる職場づくりは社会・企業の大きな課題となっている。

警備業はどうか――。警備員は年齢に関係なく資格者をめざし、スキルアップすることができる。静岡県浜松市の「ドリーム」に勤務する警備員・永田ていさんは、91歳で交通誘導警備業務2級に合格した(2月11日号4面既報)。その後、複数の一般紙、テレビ、インターネット番組にも取り上げられ「警備員は国家資格の取得にトライする」ことが広く紹介された。

永田さんは67歳で警備業に入って交通誘導警備一筋に24年、“もっと技能を磨きたい”と資格取得を決意。勤務の後に試験の問題集を解き、上司からは実技の丁寧な指導を受けるなど半年にわたり努力を重ねた。「元気なうちは外に出て働いて、その日の務めを果たしたいのです」と、資格者配置路線の警備に従事している。

還暦を過ぎて入社した人材が、検定合格の目標を持てば業務への意欲はより高まるはずだ。企業は、手厚い「送り出し教育」を行って資格取得を応援する体制づくりを進めるとともに、処遇改善の一環となる「資格手当」などの充実を図ることは大切だ。資格取得の輪が広がって、多くのシニア警備員がいきいきと働くことは、顧客の信頼を高め、自社と業界の発展に結び付くに違いない。

安全対策の徹底を

全国の警備員約59万人のうち60歳以上は45%を占め、70歳以上は18%だ(警察庁「警備業の概況」2021年)。他の業種の手本となるような高齢者活躍の推進が警備業界に求められている。企業がシニア警備員の活躍を進めるうえで、産業医と密に連携したきめ細かな健康管理は欠かせない。

高齢者の労働災害では、若年層に比べ「転倒」などの発生率が高く、休業も長期化する傾向がある。厚生労働省が策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を踏まえ、それぞれの警備現場で安全対策の再徹底が求められる。

午前のみ、午後のみなど短時間勤務の導入は、シニアの疲労蓄積を防いで、無理をせずに働き続けることを促進するだろう。

近年、「警備報告書」のデジタル化により警備員はスマホが必須となる場合がある。ある警備会社は、スマホを使い慣れないシニア警備員のために使い方の講習会を開いて応援している。

資格取得のバックアップ、労災事故防止活動や働きやすさへの配慮などで“会社から大切にしてもらっている”と警備員が感じれば資格者をめざす意欲は一層高まるのではないか。

働く人を大切にする職場は、高齢者にとどまらず女性、若者にとっても魅力がある。多くの老若男女が集まって資格取得、スキルアップに励む企業が増えることは、警備業発展と超高齢社会の活力につながっていくことだろう。

【都築孝史】