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視点

障害者雇用2021.10.21

意欲あれば必ず戦力に

東京2020パラリンピック競技大会は障害者アスリートの活躍が多くの人々に感動を与えた。障害者が社会で健常者同様に活動することが認知される時代になったことを印象付けたのだ。

警備業でも障害者への理解が進んでいる。雇用実績を元に行政から表彰されたり、パラスポーツ分野を支援する企業が出てきた。障害者が抱えるハンディキャップを、警備業は受け入れることができるからだ。

警備員には施設警備、交通誘導警備、雑踏警備など多彩な職務があり、勤務時間も比較的選びやすい。身体的ハンディがあってもできる業務があるし、人とのコミュニケーションが苦手な人も活躍できる場はある。ある障害者団体は「仕事を探す時に警備員を希望する障害者は少なくない」と説明する。

ただ、課題も残る。いまだに散見される障害者への偏見だ。これは警備業に限らず社会全体の問題でもあるが、障害者というだけで能力不足と判断され、不採用となるケースが一部にあるという。

また、ごく少数だが障害者に差別的な発言を行う人がいたり、警備業の研修会や講習会で19年12月以前に欠格条項だった「成年被後見人」「被保佐人」を今も有効と説明する例もあるらしい。

関係法令の理解不足などによるレアケースだと思うが、事実なら一刻も早く改善すべきだ。意識を抜本的に改め、研修会で使うマニュアルやテキストに法改正事項を反映していないならば、すぐ修正しなければならない。警備委託先にも説明し、障害者雇用の理解を得ることも欠かせない。

障害者雇用には経営者も覚悟を持って臨む必要がある。障害者雇用はボランティアではなく、障害者雇用促進法に基づく事業者の義務であることを再認識しなければならない。

民間企業の法定雇用率は2.3%、従業員を常時43.5人以上雇用する事業主には障害者の雇用義務が発生する。義務を負う事業所は工夫とともに先進的な企業の事例も研究すべきではないか。

じっくりと腰据えて

障害者を戦力とするには、健常者の何倍も時間がかかることが多い。障害者雇用で表彰された警備会社も、大半は取り組みを始めてから10年以上の時間を費やしている。

こうした警備会社では、警備員として就職した障害者が長く勤務するケースが少なくない。中には10年、20年務める人もいる。時間はかかるかもしれないが、じっくり腰を据えて働いてもらえるならば取り組む価値は十分にある。

障害者雇用で成果をあげているATUホールディングス(福岡市、岩﨑龍太郎代表取締役)は、障害者が前向きに業務に取り組めるようさまざまな工夫を凝らす。複雑な状況判断が必要な業務よりも作業をシンプルに分解できる業務を担当してもらい、新任教育や現任教育も法定以上の時間をかけてじっくり行っている。

警備員の仕事は簡単にできるものではなく、経験と努力を積み重ね前向きに取り組まないと、健常者でも“プロ”への道は厳しい。

だが、障害者でも意欲があれば必ず戦力になれる。社会全体が多様性を重視し、やる気のある障害者を戦力にできれば人材不足克服にもつながるはずだ。

【豊島佳夫】

withコロナ2021.10.11

教育と人材確保、再始動へ

政府は9月30日、新型コロナの感染拡大で北海道・東京・大阪など19都道府県に出していた「緊急事態宣言」と、宮城・熊本など8県の「まん延防止等重点措置」を解除した。

一時は全国各地で医療ひっ迫などが危惧されたが、ワクチン接種が進んで新規陽性者数が大幅に減少してきたことなどを受け、宣言・措置の解除に踏み切った。

今後、感染の“第6波”も懸念されるが、政府は段階的に各種制限を緩和していく方針だ。コロナ下で社会経済活動を行う「With(ウィズ)コロナ」時代に入ったのである。

宣言・措置の解除により夜の飲食店街や観光地にも徐々に人が戻りつつある。閉ざされた海外との交流も再開すれば、いずれ全国各地に外国人旅行客も姿を現すに違いない。

これまでのコロナ禍、警備業は各種イベントの中止・延期、規模縮小などにより、特に雑踏警備を主体とする警備会社が大きな打撃を受けた。施設警備では、さまざまな施設の休館・閉鎖、企業のテレワークの推進により配置する警備員数を減らされた会社も多い。交通誘導警備も感染拡大当初、全国の多くの建設現場が閉鎖されるなどの事態が生じ、苦境に立たされた。

宣言・措置の解除、その先にあるコロナ収束による経済活動の本格的再開を、待ち望んでいた警備業経営者は多いはずだ。

一方で、コロナ禍により警備業では、これまで警備員特別講習事業センターや都道府県警備業協会が行ってきた特別講習や各種教育・研修が延期や中止となり、警備員教育に遅れが生じている。

検定合格警備員の配置が義務付けられた「配置指定路線」が全国的に増加する中、資格を持つ交通誘導警備員の育成は急を要する。交通誘導警備業務の発注者である建設業は「公共工事の円滑な実施」という責務を負う。警備業が要望に応えられなければ、「自家警備」の再燃もあり得る。

施設警備も然りだ。「東京2020」を機に施設警備でも有資格者の必要性は再認識された。法令の有無にかかわらず、ユーザーの有資格者配置への要望はますます高まるだろう。

警備各社は全国警備業協会が導入を準備する「eラーニング」など多様な教育手法を駆使し、停滞してきた警備員教育に早急に取り組んでほしい。

もう一つ、忘れてならないのが人材確保だ。警備業の「慢性的な人手不足」はコロナ前もコロナ後も変わらない。再び他業種との激しい人材獲得競争が始まることを覚悟しなければならない。

コロナ禍で飲食業などから警備業に転職してきた人も多い。制限解除で飲食業に活況が戻れば、警備業を離れてしまうかもしれない。そうならないためにも雇用労働条件の引き上げや労働災害防止対策の充実など労働環境の改善は欠かせない。その原資は「適正な警備料金」でしか得られない。

コロナ禍や東京2020での全国の警備員の活躍により、警備業は国民生活に欠かせない「エッセンシャルワーク」「安全安心の担い手」としての評価が多くの国民に定着しつつある。警備業経営者は、社会や発注者に声を大にして警備業の必要性を訴えて適正料金を確保し、優秀な人材の育成に取り組んでほしい。

【休徳克幸】

2号料金2021.10.01

「営業の質」を高めよう

「私は、誇りを持ってやっています」――。都内の警備会社に勤務する交通誘導警備員の上野敏夫さん(84)は言った。NHKが放映する「プロフェッショナル仕事の流儀」は“超一流”の仕事人に密着し、その仕事ぶりを掘り下げるドキュメンタリー番組だ。9月21日の放送で紹介された上野さんは、同僚が「右に出るものがいない」と評価する質の高い警備を行う。

警備員がプロ意識を持ち質の高い業務を行うためには、経営者がまず経営基盤の強化を図る必要がある。警備員は、十分な処遇を保証されて初めて全力で仕事に打ち込むことができるからだ。そこで必要になるのは「原資」であり、利益を上げるための営業力が何より重要となる。警備員教育で警備の質向上を図るのと同様、営業教育にもっと力を入れて「営業の質」を高めることが求められる。

宮城県警備業協会は、青年部を中心とした有志のワーキングチームが主催して8月、2号業務を行う営業マンを対象とした座談会を開いた。座談会は昨年6月に仙台市内で初めて開催し、1年余の間に5回開いてきた。その内容は労務単価や積算基準、適正取引に関する「講義」と、警備料金など課題に関する「意見交換」の2部制で行われている。

意見交換は参加した全員が名刺交換を行い“身元”を明らかにした上で、料金交渉の課題や解決策、成功体験、情報交換を本音で行う。営業マンは互いの顔を認識することでライバル心を向ける相手が明確になり、一層、切磋琢磨できるようになるという。

宮城警協は、加盟全社の営業マンに座談会に出席してもらうことを目指し、参加した会社名を協会ホームページに掲載した。座談会の会場は、仙台市内の中央部でスタートして沿岸部や県北部に広げ、今秋には県南部で予定している。県全域の営業マンの意識を“一枚岩”にして悪質なダンピングの撲滅を図る。

各協会の取り組みを支援するために、全国警備業協会では適正料金確保を支援するための方策を加速させている。基本問題諮問委員会アクションプラン5テーマの一つ「経営基盤の強化、単価引き上げ策」では今後、経営者の意識と倫理の改革に向け処遇改善のためのスローガンを設定、経営者教育の実践、ダンピング防止対策の推進などを挙げ、実現に取り組んでいる。営業マンが料金交渉の現場で活用できる“虎の巻”「警備料金の基礎知識(簡易版)」の製作も進められている。

2号警備料金の“核”ともいえる公共工事設計労務単価は上昇傾向にあるが、51業種中最低レベルの状況は続き、業界の大きな課題だ。労務単価は20年ほど前、全国平均で7000円代まで落ち込んだ。その要因はダンピング競争のほか、担当者の理解不足による書類不備、対応のまずさにあった。各警備会社で今月行われる労務費調査は、来年度の労務単価設定の参考となるもので、適切に対応しなければならない。

これから年度末に向けて公共工事の受注数が増え、警備員の需要が増す「繁忙期」を迎える。人手不足に拍車が掛かることから、各警備会社では交渉次第で警備料金を上げるチャンスとなる。営業マンを育成し原資を確保することは、人手不足や高齢化、社会的地位など業界に山積する多くの課題解決につながる。

【瀬戸雅彦】