警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

価格転嫁2024.03.21

促進月間、交渉進めよう

3月は「価格交渉促進月間」。2021年9月に始まったもので、国は3月と9月を同月間に定めている。目的は原材料費、エネルギーコストや労務費の上昇分を取引価格に反映させ、中小企業の賃上げ原資を確保すること。“賃上げシーズン”の3月は特に重要な時期だ。

同月間では終了後にフォローアップ調査が行われている。中小企業庁によると、直近の「23年9月」後の調査では中小企業30万社に、発注者(最大3社まで)との価格交渉・転嫁に関するアンケートを送付。約3万6000社から回答を得た。調査結果をみると、発注者からの申し入れで価格交渉が行われたケースは増加しているものの、コスト上昇分の全てが価格転嫁された割合は45.7%。半数に満たず、「23年3月」後調査の47.6%からほほ横ばいだ。

このため、内閣官房と公正取引委員会は23年11月、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費指針)を公表した。背景には原材料費、エネルギーコストに比べ、労務費の価格転嫁が進んでいないことがある。労務費上昇分は自社努力で吸収すべきだという考えが発注者側に根強くあることや、今後の取引関係への懸念から受注者側が言い出しにくいことなどが理由だ。

コストに占める労務費比率は、「ビルメンテナンス・警備業」が業種の中で最も高い62.7%。価格転嫁ができていない発注先はビルメンテンス・警備業、総合工事業、不動産賃貸・管理業が上位となっている。

労務費指針では、取り組まなければならない「12の行動」を示した。行動は受注者、発注者別にあるが、共通のキーワードも見られる。その一つは“参考資料”。受注者には価格交渉でコストアップの根拠として用いることを、発注者には合理的な根拠があるものとして尊重することを求めている。資料には具体的に、公共工事設計労務単価や最低賃金、春闘妥結額などが該当する。

全国警備業協会は労務費指針の公表を受け、価格交渉の場で活用してもらうためのリーフレットを作成した。受注者から言い出しにくい現実があることを踏まえ、「交渉へ行くきっかけにしてほしい」という意図を込めた。

促進月間前の2月、全国の会員警備会社(約7000社)に配布。リーフレットでは「発注者の皆様へ」と題し、適正価格での警備業務実施への理解と協力を呼び掛けるメッセージを盛り込んだほか、指針の要点をまとめ、コストの一覧を掲載した。

一覧には交通誘導警備員(A、B)の公共工事設計労務単価、施設警備員(A、B、C)の建築保全業務労務単価について、それぞれ上昇率を掲載。2019年と23年の比較で平均単価が13.5〜16.6%上がっていることを示し、価格転嫁の必要性を強く印象付けた。引き上げが続く最低賃金やガソリン代の高騰なども併記した。

警備業を含む多くの業界に人手不足が広がっている。そうした中、賃上げは人材確保の上で大きな要素になってきており、「生き残りの条件」といわれている。

価格転嫁による賃上げに向け、国や業界団体の後押しがあることは、立場が強くない中小警備会社にとって心強い。価格交渉で使うことができる“武器”も明確に示されている。機会を逃すことなく、取引先との交渉に臨んでほしい。

【伊部正之】

激動12年2024.03.11

警備業の応援続ける

2012年「3月11日号」からスタートした小紙は、今号で創刊12周年を迎えました。発行号数は397号を数え、節目の400号も目前となりました。

これもひとえに、読者の皆さまのご支援とご協力があればこそ刻むことができた「警備保障タイムズ」の歴史であり、衷心より感謝申し上げます。

編集部一同、今後も創刊以来の編集方針である「鋭敏な感覚で、警備業界に役立つ情報の発信」に努めてまいります。

◇ ◇

小紙が共に歩んできた警備業界の12年間は、激動の歴史でもある。

2012年3月、国土交通省・中央建設業審議会の提言「建設産業における社会保険加入の徹底について」を受け、行政や元・下請け建設会社など建設業界を挙げた取り組みが始まった「社会保険未加入問題」。未加入企業は公共工事から排除されるとあって、同工事で交通誘導警備業務を行う警備業をも巻き込むこととなった。

保険加入というコスト増は、建設会社や交通誘導警備業務を行う警備各社の経営を一時的に圧迫したが、一方で「社保加入促進」を目的に公共工事設計労務単価が13年度は全職種平均で前年度比約15%引き上げられた。その流れは現在も続き、24年度は同約6%増となり、単価引き上げ前の対12年度比では約75%のアップとなる。この単価引き上げを原資に社保加入は大きく進んだ。

しかし、国交省が“主要”と位置付ける職種の警備員だが、有資格者の警備員Aは建設現場で単純作業を行う「軽作業員」と比べ30円余上回るのみ。警備員Bに至っては「とび工」の約半分に過ぎない。警備員の単価引き上げは今後も大きなテーマに変わりない。

警備業の社会的使命の一つである災害支援では、16年4月の「熊本地震」、18年7月の「西日本豪雨」など相次ぐ自然災害が対応のあり方を大きく変えた。

持続的な活動を可能とするための支援有償化へ向けた協定見直し、活動に従事する警備員を守るためのガイドラインの制定など、その取り組みは全国に広がり、大きな実を結びつつある。

一方で、熊本地震に端を発した一部地域での交通誘導警備員不足は、国交省により、建設業者自らが交通誘導を行う「自家警備推奨」という思わぬ事態を招いた。警備業界を挙げた反対活動を受け、国交省と警察庁の「補足通知」で収束したが、人手不足が警備業にもたらす影響を示唆するものとなった。人手不足解消の打開策は今も見つかっていない。

コロナ禍で開催が1年延期された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」の警備は、大規模警備の新たなあり方を示した。

全国の警備会社よる“オールジャパン”の「大会警備共同企業体(警備JV)」は、厳格な警備が求められた同大会を成功に導いた。何よりも、質の高い警備と従事した警備員の立ち居振る舞いは海外メディアからも絶賛され、わが国警備業の名声と警備員の“内なる誇り”を高めた。

小紙が伝えてきた激動12年間の歩みは、取りも直さず警備業発展の軌跡でもある。人材確保、適正警備料金、デジタル化対応など課題は尽きないが、これまで同様に業界の英知を結集して乗り越えていくに違いない。その取り組みを小紙も微力ながら応援していきたい。

【休徳克幸】

警備員確保2024.03.01

多様な人材迎えよう

2022年末時点の全国の警備員の数は警察庁調査「警備業の概況」で、約58万人。前年より約8000人(1.3%)減少し、これまで以上に人材確保が重要課題となっている。人口減少と少子高齢化が進み、人手不足は他業種でも深刻化している。警備業界は従来の取り組みを続けているだけでは人材を確保できなくなる。

高齢の警備員がすでに活躍している警備業界では、人手不足をシニアに救われてきた側面がある。ただ、年代別でみると60〜69歳は毎年減少、70歳以上は増加するという超高齢化の流れは止まらない。高齢人口の中心にいる団塊世代が75歳を超える「2025年問題」は目前だ。定年退職して警備業に再就職する層が減り続ける現象は、業種間の人材獲得競争で警備業が劣勢に立たっていることを端的に表している。

人材確保を達成するためには、他業種で進められている「ダイバーシティ(多様性)人材の登用」を警備業界も取り入れていかなければならない。

ダイバーシティ人材には、性別、年齢、人種・国籍、障害の有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性のほか、職歴や経験、働き方などの多様性も含まれる。すでに業界内で先駆的な取り組みが見られる女性や障害者の雇用は着手しやすいはずだ。

乗り越えなければならない課題もある。例えば、安全対策をはじめ、柔軟な勤務時間の選択、トイレや更衣室の整備、バリアフリー化など職場環境の整備などが挙げられる。現場によっては、取引先との調整も必要だろう。教育内容も個別の特性に配慮していく必要がある。

22年末時点の警備員の男女比率は女性が6.8%の3万9371人。女性が少ないとされる建設業(正社員)は女性比率15.3%だ。全国のハローワークの調べでは、警備業の障害者専用求人による就職件数は22年度、警備員が4681人、事務・その他が392人だった。女性も障害者も全国58万人の警備員の中では少数だが、業界全体で多様な人材を迎える体制を強化していくことは警備業の魅力アップにつながるだろう。

人材確保に苦しむ、ある地方の中小建設会社は、「子育てママが働きやすい職場」をPRした結果、新卒男子学生に対しても多様な人材を受け入れる職場環境を整備している会社だと伝わり、新卒男子の採用がしやすくなったという事例もある。

女性活躍推進法、障害者雇用促進法は賃金格差の是正や雇用機会の創出を推進している。特に障害者雇用では法定雇用率が今年4月から2.5%に引き上げられる一方、雇用義務を25%軽減する「除外率」は25年4月から15%に引き下げられる。ハローワークは募集の準備から職場に定着するまで一貫して支援する「企業向けチーム支援」、職場実習等の支援、相談に応じている。

今年1月に開かれた、ある警備業協会の会合に参加した弁護士が発した一言が「社会的地位とは、業種別賃金ランキングのことです」だったそうだ。145職種中140位だった警備業は従来と同じ取り組みを同じ質・量で取り組んでも状況が打開できないことは、誰もが理解しているはずだ。「多様な人材が活躍する会社」では新たなサービスや需要を掘り起こすことも期待できる。

【木村啓司】