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視点

労務単価2021.02.21

追い風止み、質へシフトを

国土交通省が新年度の「公共工事設計労務単価」を決定・公表する時期がやって来た。

昨年度は全国・全職種平均で過去最高値を更新、初めて2万円台の大台を突破した。人手不足に伴う労働市場の実勢価格、働き方改革の一環である「年次有給休暇の5日取得(付与)義務」のための費用も反映した結果だ。それでも、伸び率は前年度の4.1パーセント増を下回る2.5パーセント増にとどまった。警備業に至っては、検定合格者の「警備員A」、A以外の「警備員B」ともに全国・全職種平均を下回った。

国交省は、13年度から単価の大幅アップを行ってきた。初年度の増加率は15.1パーセント増。その後も7パーセントや5パーセントの引き上げを行ってきた。理由は、建設業での社会保険加入促進だ。

同省が定めた社保加入促進期間を終えた17年以降は単価の増加率を抑え、約3パーセント台で推移。一昨年度は4パーセント台と若干上昇したものの、この傾向は今後も続くだろう。単価上昇への「追い風」は完全に止んだのだ。

一方、警備業は13年度以降、建設業を対象とした単価アップの“恩恵”を享受、警備員労務単価とともに社保加入率も上がった。しかし、「他力本願」で単価が上がる時期は終わったことを警備業も自覚しなければならない。

市場原理が働かない

昨年11月に開かれた「警備業の更なる発展を応援する議員連盟」(会長=竹本直一衆院議員)の会合では、全国警備業協会の中山泰男会長や全国警備業連盟の青山幸恭理事長が、公共工事設計労務単価の一層のアップを国交省に求めた。これに対し同省担当者は、「単価は毎年秋に行われる労務費調査の結果を基に決定している」と述べるにとどまった。出席した国会議員からは「警備業は人手不足と聞く。需要と供給の関係で言えば警備員の労務単価はもっと上がるはずだ」と疑問を呈する意見も寄せられた。

正常な市場原理が働けば、警備員不足が続くと建設会社による警備員の取り合いが生じて警備料金は上昇する。警備員の賃金もアップし、賃金実態を反映した国の労務単価も上昇するはずだ。

しかし、警備業界では過去の経験からか、警備料金アップによる顧客離れをおそれ、料金引き上げをためらってしまう警備会社が多いことも事実だ。その結果、建設会社の「言い値」での受注=ダンピングとなり、労務単価はいつまでも上がらない。

一方で、こんな事例もある。

東北地方のある警備会社は、現状打破のために警備料金引き上げを得意先の建設会社に提示した。“案の定”いくつかの建設会社が契約解除を通告してきた。しかし、半年も経たないうちに多くの建設会社が再契約を求めてきたという。当然、料金は当初提示した額の満額回答だ。

同社は警備員教育に以前から注力し、質の高い警備サービスを提供。また、協力会社のネットワークを構築し、客先からの突然の業務依頼や警備員増員にも対応してきたことなどが、低料金だけで勝負してきた他社との大きな差となった。

「価格」から「警備の質」への競争にシフトした同社の取り組みは、今後の警備業のあり方を示唆している。警備業経営者の“英断”を期待したい。

 【休徳克幸】

災害支援2021.02.11

対価確保、仕組み広げよう

日本海側はこの冬、記録的な大雪に見舞われた。新潟県内では一時、除雪が追いつかないほどの降雪を記録。年末の関越自動車道、年明けの北陸自動車道では1500台以上の車が立ち往生する事態となった。

“災害列島”日本は一年を通じ自然災害が発生しやすい国土を持つ。台風や集中豪雨による河川の氾濫は毎年のように起きている。一方、首都直下型地震と南海トラフ巨大地震は30年以内に70パーセントの確率で発生が予測されている。

こうした不測の事態に備えるため、全国警備業協会の基本問題諮問委員会は「災害時における警備業の役割の明確化」を5テーマのひとつに挙げた。作業部会で議論した成果はアクションプラン・提言として来年度の全警協定時総会をめどに策定される。

警備業の災害支援の歴史を振り返ると1995年の「阪神淡路大震災」にさかのぼる。大阪警協と兵庫警協が被災地で行った防犯パトロールがきっかけとなり、47都道府県の協会が相次いで警察・自治体と災害支援協定を締結した。

しかし広島、茨城、愛媛などの警協が、被災地の空き巣防止などを目的に行ったパトロール活動は、協定内容に有償の取りきめがなかったためボランティアにとどまった。活動は警備業の社会貢献という意義があったが、人件費や必要経費などはすべて警備会社の負担となった。

有事に向けて警備業が急がなければならないことは「業務の対価として適正料金を確保する仕組み作り」だった。先陣を切ったのは岡山警協で、2018年の西日本豪雨では倉敷市などが甚大な水害に遭い、全国で初めて災害支援協定に基づく有償出動を果たした。前例がない取り組みのためすべて手探り状態で進め、労務単価の積算方法や警備料金の支払い方法などを県と検討。最新の公共工事設計労務単価を適用した適正料金で警備業務を行うことができた。

協定に基づく業務終了後には倉敷市教育委員会からの要請で、市内の警備会社が被災地の仮設住宅で暮らす子どもを支援する通学バスの交通誘導警備を2年にわたり行った。被災した小学校の授業が再開された昨年2月、子どもたちから警備員に感謝のメッセージが届けられた。「ありがとうございます。そのしごとをしてくださっているから、あんぜんにがっこうへいけます」(一年生)などの言葉がつづられてあった。

一方、広島警協は協定の見直しを行い、昨年3月に新たな災害支援協定を県・警察との3者で締結。新協定のポイントは「警備料金は受益者が負担する」と明記されたことだ。締結後は協会内に作業部会を立ち上げ、実際に運用するための規程作りを行った。

警察署の管轄区域を基準に県内を11地区に分割。各地区の会員社に向けてアンケートを行い、支援活動に同意する参加意志を4段階に分類。その結果により「どの警備会社に声掛けをすればよいか」が明確になり、迅速な出動が可能になった。協会事務局によるとアンケートには加盟社のほとんどが回答し、各社の災害対応への関心の高さがわかったという。

社会に必要不可欠なエッセンシャルワークである警備業は、災害支援にも期待が寄せられている。有償活動や協定見直しを実現させた警協から資料を取り寄せ助言を受けて知見を共有し、有償化に向けた取り組みを業界全体に広げてほしい。

【瀬戸雅彦】

講習延期2021.02.01

「待ち時間」生かそう

都道府県警備業協会が1月に予定していた特別講習は、2度目の緊急事態宣言を受け、16のうち11が中止・延期された。警備員が各警備業務の国家資格取得を目指して受講する特別講習は、質の高い業務を提供する基盤であり、憂慮すべき状況だ。

警備員特別講習事業センターによると、2020年1月から12月に実施された特別講習の修了考査(合否判定)の回数は245回で、受講者は1万1354人だった。コロナ禍の影響により前の年と比べて91回も少なく、6351人の減少、合格者は8114人を数え、前年よりも4161人減った。

交通誘導警備を手掛ける警備会社にとって、「指定路線」で業務を行うために資格者の増員は切実な課題だ。毎年、交通誘導警備2級の特別講習は、業務が繁忙期を迎える年度末を避けて4〜5月に多く開催されるが、昨年はまさにその時期に緊急事態宣言が発せられた。

資格者を増やせないことで、各社の有資格者に業務の負担が掛かるようになった。会員から交通2級の講習を切望する声が高まり、各警協は、新たな会場を確保するなどして感染予防対策に万全を期して開催に務めた。

昨年の特別講習(全業務1・2級)の合格率は71.5パーセントで2.2ポイント上昇した。コロナ禍の中で特別講習講師ら関係者が、より多くの資格者輩出を目指して取り組んだ成果だ。

愛媛警協は、4月に開催予定だった交通2級の特別講習を延期して11月に開催、合格率は64.3パーセントだった。前年に比べて4ポイント余りのアップとなり、同2級の全国平均63.5パーセントを上回った。

主任講師の鈴木智一氏(セキュリティエヒメ)は、合格率上昇の一因として、半年余りにわたる“待ち”の期間に多くの受講者が意欲を高めながら予習などの取り組みを続けたことを挙げる。

「若者も高齢の人も皆ひたむきな印象だった。特別講習に先立つ事前講習の模擬試験では、高得点を挙げる受講者が、例年よりも明らかに増えた。『必ず合格する』という意気込みを保って、教本や問題集で繰り返し学んできた結果が出たのだと思います」と話し、継続の大切さを強調した。

今年1月に予定され延期となった施設・交通誘導・雑踏警備業務の特別講習の多くは、3月以降に行われる。“待ち”を余儀なくされた時、目標を見据えて努力を重ねることが好結果につながる。

「待ち時間」をどう生かすか。それは特別講習の受講者だけでなく、企業も同様であろう。コロナ禍の収束は見通せず、春の恒例イベントの中止は広がり、警備業界の需要回復に影を落としている。こうした中でも警備会社は、新規案件の発注や縮小された業務の再開などを待つ間に、教育・訓練の充実、警備員の処遇改善や職場環境の改善など自社の基盤を強める取り組みをどれだけ推進できるかが問われている。

特別講習は、受講費用を会社が負担して出勤扱いで受講する警備員もいれば、私費で休暇を取って自主的にチャレンジする警備員もいる。受講者の所属する会社は、自主的に受講する警備員に対しても座学と実技の「送り出し教育」に力を注いで一層応援してほしい。資格者の増員は、厳しい経営環境にあっても新たな活路を開く鍵となる。

【都築孝史】