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視点

年休5日 働き方改革〝壁〟越えよう2019.02.21

4割超が「働き方改革関連法」の内容を知らない――。日本商工会議所の調査で、中小企業の驚くべき実態が明らかとなった。労働基準法など働き方改革関連法の施行が目前の4月に迫ったにも関わらずだ。

同関連法の中核をなす「年次有給休暇の取得義務化」や「残業時間の上限規制」などは、中小企業が圧倒的多数を占め、さらに人手不足に苦しむに警備業にとって、経営を左右する重要課題となっている。特に悩ましいのが年休の取得義務化だろう。

10日以上の年休を持つ従業員には、5日の年休取得が義務付けられる。会社から見れば年休の“付与義務化”に他ならない。企業規模に関係なく、今年4月から施行される。違反企業にはペナルティーが待っている。

一方で、「警備業に年休はそぐわない」「警備員も年休は取りたがらない」などと不満を口にする経営者もいるだろう。しかし、果たしてそうだろうか。

“仕事に出てなんぼ”という日給月給制の多い警備員にとって、休みは即給料に跳ね返ってくる。「休みたくても休めない」のが本音。たとえ年休を持つ警備員であっても、会社や仲間への遠慮からか、自身の病気や身内の突発的出来事など“いざという時”のために、年休を軽々には使えなかったのが実情だろう。

しかし、働き方改革による年休の半ば強制的な取得(付与)は、警備員の年休に対する考え方を大きく変えるに違いない。「休んでも給料は変わらない」「年休は働く人の権利」だと。

しかも、年休は5日だけではない。勤務年数によって増加する。「年休は使わなければ損」という意識が広がっていくことは容易に予想される。

なかには、年休による影響を最小限に抑えようと、夏休みや正月休みに年休を振り替えようという会社もあるかもしれない。しかし、厚労省は「法改正の趣旨に反する」と否定的だ。既に有給としている休日に年休を振り替えるなど言語道断だ。

年休取得を見越して賃下げを画策する動きも出てくるかもしれない。しかし、深刻な人手不足で時給高騰の昨今、賃下げは新規入職者からソッポを向かれるだけでなく、今いる警備員の離職にも拍車をかける。

この「年休」という大きな“壁”を乗り越えるには、新たな人手を確保するしかない。そのためには「料金値上げ」による原資は欠かせない。

つい最近までの「社会保険加入のための料金値上げ」では、既に社保が当たり前となっている客先からは“何を今さら”という冷たい視線もあった。

しかし、働き方改革は、わが国全ての企業に突き付けられた課題。相手の理解も得られやすい。幸いなことに全国警備業協会が策定した「自主行動計画」という武器もある。

警備業界は働き方改革を、これまで請負業という弱みに付け込まれてきた不適正取引を排除する好機、魅力ある産業に脱却するためのステップと捉えてほしい。

さらに付け加えるならば、不適正取引は外部要因だけではない。今でも散見される、従業員の犠牲の上に立ったダンピングなどは、自らの不適正取引だ。

試練を伴う「働き方改革」だが、その先の輝かしい未来を期待したい。

【休徳克幸】

分離発注 警備は下請け仕事ではない2019.02.11

「このままでは警備会社は、入札に参加することができません」――。「賀詞交歓会」の席で、ある経営者は嘆息をもらした。新年の挨拶を交わす晴れやかな場にそぐわない深刻な表情でこう続けた。

「当社の地元では、施設警備の入札は『警備業務』と『清掃など警備以外の業務』が一体となって発注されるケースが多い。警備会社は、落札したビル管理会社の下請けとして警備業務を安い金額で請け負うしかないのです」。

警備を専業とする会社は“一括発注”で落札した建物管理会社から安い料金で委託を受け(下請け)、業務を行っている。また一部では、警備服を着ているが十分な警備員教育を受けていない建物管理会社の従業員を配置することもあるという。これでは警備会社が適正な収益を得られないばかりか、施設の安全が十分に守られていないことになる。

この経営者は「入札案件にもよりますが、基本的に『警備』をほかの業務と切り離した“分離発注”にしてもらいたい。警備の質が上がることは、納税者である国民へのサービス向上につながるからです」と主張した。

筆者はその訴えを聞きながら、かつて交通誘導警備を主業務とする別の経営者から聞いた話を思い出していた。その経営者は「交通誘導警備の最大の問題点は、予算が建設工事費と別に計上されていないことにある」と指摘していた。

「交通誘導警備を業務とする会社は全国で6000社を超えます。しかしその労働環境は心身ともに厳しく、警備員が暴走車による交通事故で死亡する可能性もあります。それほどリスクが高い業務に就く警備員の労働価値は『建設工事に付随する』ような低いものでしょうか」。

さらに「警備費が建設工事費に包括されていることが交通誘導警備の課題の根源にあります。警備業へ分離発注することは警備業界にとって利益になるだけでなく、納税者であるドライバーや歩行者、近隣住民など国民に対して、真の安全安心を提供することにつながるのです」と述べた。

2人の経営者は「施設警備」と「交通誘導警備」で主業務は異なるが意見は一致している。それは「発注形態は一括発注ではなく警備専業の分離発注にしてほしい。それにより顧客は納税者の“国民”であることが明確になり、国民が求めるサービスを提供する」という主張だ。中間搾取がない適正料金を確保することで、会社の経営基盤と業界の産業基盤の強化を図ることができる。

警備業は警備業法により研修を実施しプロの警備員を育成することが義務づけられている。総務省が公表する「日本産業標準分類」をみても「警備業」は専門業種として明示されているにもかかわらず、契約形態は他の業種に含まれることが多いのは何故だろうか。

「イベント警備」でも同じような状況がある。国や市町村など自治体は、大規模イベントや会議をイベント業者や旅行会社に一括発注し、そこから警備業務のみを警備会社に委託しているのが現状だ。警備業は業界内の努力だけでは解決しきれない“構造的な問題”を抱えている。

低い警備料金→慢性的な人手不足→自家警備の波及→国民へのサービス低下と警備業存亡の危機。こうした負の連鎖を断ち切るために知恵を絞るときだ。

【瀬戸雅彦】

職場環境 ハラスメントから守ろう2019.02.01

厚生労働省は、企業が職場でのパワーハラスメント防止に取り組むことを義務付ける法案の作成に入り、近く国会に提出を予定している。都道府県労働局や労働基準監督署に寄せられる職場でのいじめ、暴言、嫌がらせなどの相談件数が増加し、社会問題化する中での対策強化だ。

パワハラは、職務上の地位や人間関係の優位性を背景に、業務の範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為と定義される。社員の突然の離職やメンタルヘルスを損なう原因となる。訴訟に発展するケースもあり、企業の信用損失につながるリスクをはらむ。

経営側は、社員が被害者・加害者になることを防がなければならない。警備業の課題である労働環境改善に向けた具体的な方策の一つとして、上司と部下、経験者と新人などの間でパワハラ行為を起こさせないための取り組みは重要だ。

防止策は、経営トップが「当社はハラスメントを許さない」という明確なメッセージを打ち出して社員に浸透させるとともに、社内に相談窓口を設けることや、防ぐ研修を行うことである。

業務の中で、指導とパワハラの線引きは難しい面もある。中小企業で1号、2号警備の隊員50人を担当する指導教育責任者は「隊員を注意する際、相手を傷つけかねない荒い言葉を思わず使いそうになる時がある。しかし配慮が必要だと思う。『○○さん(相手の名)、今から話すことを聞いてほしい』と前置きし、一拍置いて、適切な言葉を選ぶよう心掛けている」と語る。経営側は職場で、部下や新人に苦痛を与える行為はないか、再点検すべきだ。

ハラスメントの問題は、ユーザー側と警備員の間にも発生する。例えば2号警備の現場などで、ユーザー関係者が警備員に侮辱的な言葉を浴びせ、悪質な嫌がらせをする事例がある。女性警備員に対するセクシュアルハラスメントも起こる。

200人の社員を抱えるある警備会社の経営者は、警備先でハラスメント事案が起きると、聞き取りを行って当時の状況や被害を受けた警備員の心情をレポート形式にまとめ、先方の責任者に渡して事実確認や改善を求める。

「かつては、警備員は理不尽な嫌がらせを受けても我慢することが多かった。しかし今は警備業の地位向上を意識して、会社として相手側にしっかりと申し入れを行うべきだ」と経営者は指摘し、「隊員に対する不当な扱いが続くなら、以後は業務を受注しないという毅然とした対応がハラスメントを防ぐと実感する」と話した。

現場ごとに対策を

警備員は現場への直行直帰が多く、対策は現場ごとに必要だ。ユーザー関係者の暴言を繰り返し受けた隊員が会社に報告せずに耐え、見かねた別の隊員が会社に知らせて明るみに出たケースもある。管理職は、巡察や面談、アンケートを行って“現場の声”を丁寧に吸い上げる取り組みが大切になる。労災事故の未然防止と同じく、パワハラ、セクハラを予防して警備員の心身の健康維持を図ることが求められる。

警備業は「守り」のプロフェッショナルだ。経営側が、社内外で起こりうるハラスメントから警備員を守ることで、より働きやすい職場づくりにつなげたい。

【都築孝史】