警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

適正契約2019.8.21

実行への環境は整った

警備料金に改善の兆しが見られるようになってきた。首都圏の2号警備では、東京五輪の関連工事とその波及効果で警備需要が増加しているため、契約料金が上昇している。施設警備の契約料金も、株式上場している大手警備会社によると上昇傾向だという。

焦点は中小の動向だった。東京都が業務委託する施設警備業務では、2月と3月の落札結果40件のうち、前年と比較できる33件中21件で落札額が上昇した。上昇額で落札した多くが中小の警備会社だった。喜ばしい状況だ。

契約料金上昇の要因は警備需要増加に加え、4月からの「働き方改革」で、年次有給休暇の取得に関する原資が必要となったことが挙げられる。発注主は、警備会社の経費が従来よりも増えるのであれば契約料金が上がるのはやむなしと理解を示している。

警備会社は警備需要が多い好機を逃すべきではない。今のうちに、発注主に適正契約を求める企業体質となるべきである。

追い風も吹いている。国土交通省は2月に発表した公共工事設計労務単価の報道資料に、下請け代金から必要経費を値引くことは不当行為だと赤色文字で強調した。このようなことは初めてで、国が「警備会社では必要経費である法定福利費や労務管理費が上昇しているため、契約料金は上がる。発注主は値上げを了解するように」と警告したと受け止められている。

5月には、警察庁と国交省が連名で、全国の建設業団体に警備会社との取引に当たり適正契約を要請する文書を発送した。契約内容を明確にすることや実質的な値引きにつながる不当な要求をしないように求めている。文書には全警協が作成した見積関係書類記載例を添付し、適正取引の参考にするように求めた。

7月31日に発表された「最低賃金」でも東京と神奈川で初めて1000円を超えた。

警備会社が発注主と適正な契約を結ぼうとする時には、全警協が6月に作成した「自主行動計画」の改訂版が参考になる。改訂版では、警備会社が行うべき取り組み事項に「警備業者の価格交渉力の向上」を追加した。契約に当たり、適正な契約を結ぶための注意点を紹介している。更には年内をめどに、警備会社の営業担当者向けに価格交渉のための営業ハンドブックを完成させる予定だ。

警備需要の増加と国からの後押しに加え全警協のバックアップがあるなど、契約内容を明確化させて適正な契約を結ぶ条件は十分に整備された。未だに一部では契約後に値引きを要求されたり、キャンセル時の料金を払ってもらえないという不適正な事例もあるが、即刻なくすべきである。発注主との関係が悪化することを恐れて、「契約料金が上がっているのだから、少しぐらいの契約外業務の無償提供や時間外手当を払ってもらえないことには目をつむろう」と考える警備会社経営者は態度を改めてほしい。

全ては警備会社の対応と決断次第である。契約内容に変更があった場合の費用が支払われなかったり、契約外業務の無償提供を強いられることに理路整然と異を唱えることだ。そうすることによって発注主との適正契約が実現して、強固な経営基盤を確立することができる。

環境は整った。あとは適正契約に向けて実行あるのみだ。

【長嶺義隆】

あと1年2019.8.01

さらなる高みへ「2020」

東京2020オリンピック競技大会の開催まで、あと1年となった。7月24日には都内で「1年前セレモニー」が開催、安倍晋三首相やトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長などが参加し、あらためて大会の成功を誓った。

当初は、膨れ上がる大会費用やエンブレム盗作疑惑などの問題が続発、メイン会場の新国立競技場建設が大会に間に合うのかさえ疑問視された。

しかし、1年前となった現在、東京・神宮外苑には巨大なスタジアムが姿を現した。いくつかの会場を見て回ったIOC・バッハ会長は「東京ほど準備ができている都市を見たことがない」と感想を漏らしたという。各種競技でも、「テスト大会」などの開催が相次ぎ、2020大会代表選手が続々と決定している。否が応でも大会への機運は盛り上がる。

警備業に目を転じれば、イギリス・ロンドン、ブラジル・リオの両前回大会での警備失敗を教訓に、五輪史上初めて民間警備会社による共同企業体(JV)が結成された。大会スポンサーのセコム、ALSOKを中心に1都3県、さらには全国の意欲ある警備会社がJVに参画する。取材先でも「五輪警備に協力するんです」と、誇らしげに語る経営者や警備員に会う機会が多くなった。

今秋には全国警備業協会が五輪組織委の委託を受けて「eラーニング」を活用した大会従事警備員の教育を開始する。五輪教育を機に整備されるeラーニングの教育インフラと蓄積される教育ノウハウは今後、警察庁の警備業法施行規則の改正を受けて、“五輪レガシー”として新任・現任の警備員教育でのeラーニング導入に生かされていく。

一方で、警備業の足元を揺るがす課題も山積する。

出口の見えない人手不足、他産業と比べて見劣りする雇用労働条件、全警協の自主行動計画によって改めて浮き彫りとなった不適正取引の数々――などだ。

解決策として、例えば人手不足には、女性や高齢者が働きやすい勤務シフトの提供や警備資機材を活用した省人化などがある。何よりも若手やベテランが離職しない待遇の見直しは欠かせない。

待遇見直しに不可欠な原資は、警備料金アップで得るしかないが、発注者を納得させられる“武器”が必要だ。なかには、最低賃金や働き方改革による年次有給休暇取得義務化への対応を理由とする経営者もいる。しかし、裏を返せば従前の「最賃ぎりぎりの賃金」「年休なし」を白状しているようなもの。本来の待遇改善にはほど遠く、本質的な解決にはならない。

警備会社にとっての武器は、商品の価値を高めること。すなわち、他社が真似できない質の高い警備に他ならない。そんな警備が提供できる警備会社が発注者の良きパートナーとなり、不適正取引をなくしていく。

1年後にやって来る東京2020大会は、警備業の活躍や役割の大きさを世に訴える絶好の機会である。1964年の東京五輪は警備業飛躍のきっかけとなった。2020年は警備業がさらなる高みを掴むチャンスでもある。そのためには各社が警備の質を高め、大会を成功に導くしかない。

何もせずに「2020大会で一儲け」と、考えているような経営者は、早々に警備業からの退場を願いたい。

【休徳克幸】