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クローズUP

「価格転嫁」「広報」柱に2024.04.11

全警協 24年度事業計画

全国警備業協会(中山泰男会長)の2024年度事業計画が、3月28日に開かれた理事会で承認された。警備員の人材確保、処遇改善が依然として課題になっている中、価格転嫁と広報を「二本柱」に位置付け、取り組みの推進を図る。6月5日の総会で事業計画を報告する。

全警協は労務費の価格転嫁に向けたリーフレットを作成し、2月に加盟会社へ配布した。4月からウェブで行う自主行動計画のフォローアップ調査では、価格転嫁の状況を項目に追加する。実態をより把握するため、これまでの2倍に当たる約1000社を調査対象とし、5月中に結果を取りまとめる。

価格転嫁の環境整備として発注元業界団体へ働き掛けを続ける。

広報の取り組みでは、警備業のイメージアップを図る若年層向け「プロモーション動画」を制作する。昨年設置したプロジェクトチームで引き続き検討を行い、遅くとも11月1日(警備の日)までに完成させる。

「警備の仕事」をアピールする書籍も作る。配布先は全国の小学校や公立図書館を予定。書籍には漫画を取り入れ、親しみやすく、分かりやすいものにする。

警備員不足を踏まえ「在留資格」による外国人雇用の検討も継続する。ニーズ把握のアンケートをウェブで行う。実施に当たり警備業が未指定の特定技能や、技能実習から移行予定の「育成就労」に関する説明資料を添付。加盟社の本社を対象に4月末までに回答してもらう。結果は警察庁に報告し、外国人雇用について連携して検討を進める。

全国建設業協会との意見交換や、受傷事故防止対策マニュアルのセミナーなども計画に盛り込んだ。

特集ワイド 急ごう「BCP」策定2024.04.11

支援メニューさまざま

台風や地震などの天災、感染症の大流行、テロ、サイバー攻撃、物流の途絶、原子力災害…と最近の日本はさまざまな「危機」に襲われてきた。企業が被害を最小化し、いち早く事業を再開するためには事業継続計画(BCP)の策定が急がれている。しかし、中小企業の対応は低調だ。警備会社の策定事例とともにBCP策定の意義とメリットを取材した。

能登半島地震の発生から3か月が経過し、被害の大きかった石川県七尾市では4月4日、市内全域の水道水が飲めるようになり、復旧作業が加速している。

同市内が断水していた1月2日の段階でお産を行った民間総合病院がある。同院は当初の予定通り4日から外来診療を開始した。その病院では東日本大震災を踏まえBCPを策定し、改訂を重ね対策を講じてきた。BCPが、新しく生まれてくる命を守り、いち早い業務再開を実現した。

介護業界では全ての施設・事業所を対象に4月1日からBCPの策定が義務付られた。厚生労働省は義務化にあたり、事業者向けにBCP作成の研修セミナーを開催し、その動画を公開し策定を後押しした。

中小企業庁は中小企業のBCP策定を推進するため「事業継続力強化計画」の認定制度を設けている。認定を受けると、ロゴマークが使用できるほか、税制措置や金融支援、補助金の加点など、別項のような支援策を受けられる。

警備業では、全国警備業協会が昨年9月、ウェブサイトに「警備業者としての事業継続計画(BCP)」を公開した。上書き編集可能なひな形ファイルとしてアップしている。ファイルは中企庁の中小企業BCP策定運用指針に基づき、ライフラインの復旧に72時間を要する災害を想定し、警備会社向けに作成された。ひな形は「BCPの基本方針」「策定・運用体制」「従業員携帯カード」「主要顧客情報」「更新履歴票」などの文書ファイルで構成されている。各社の実情に合わせて定期的な改訂、加筆修正により実効性を高めていくことが求められている。

策定がゴールではない

日本連合警備(大阪市西区、木元香織社長)は23年度の「事業継続力強化計画」の認定を取得した。地元金融機関が開いた勉強会で企業のリスクマネジメントを学んだ際、同計画の認定企業になると、税制優遇措置などが受けられると知ったことがきっかけ。認定を目指して23年のうちに策定した。ノウハウはなかったが、講師の指導を仰ぎながら完成させた。

講師からは「いきなりBCPを策定しようとすると難しく、ひな形文書に穴埋めしただけの形骸化したBCPになりがち。実践できるBCPを策定するために、事業継続力強化計画を理解し、それぞれの会社に落とし込むことでBCPは策定しやすくなる」との助言があった。

BCPは策定がゴールではない。従業員の生命と仕事を守り、社内外に適切に周知を図り、リスクに対し取り組んでいる警備事業者であることを発信し、企業価値をさらに高めていくことが当面の課題だという。

HPや名刺で周知図る

信用警備保障(三重県桑名市、近藤釼二社長)は機械警備、常駐警備、交通誘導警備を手掛けている。事業継続力強化計画の認定企業の優遇について保険代理店から紹介されたことが策定のきっかけだ。

近藤宝石ともし取締役は「会社で使っている教育の資料などをベースに策定しましたが、随時改訂して実効性を高めていきたい」と話す。いつ起きるかわからない南海トラフ巨大地震、桑名市で犠牲者が出た伊勢湾台風級の風水害などを想定しBCPを策定した。約40人の従業員の安否確認や会社への自主参集、機械警備の復旧、顧客や地域住民の安全確保などを盛り込んだという。今後は認定企業であることをホームページや名刺に記載して周知を図る方針だ。

改訂は12回、ウェブで公開

北陽警備保障(松江市、松本泰由社長)は東日本大震災の翌年、12年6月にBCPを策定し、これまで12回の改訂を重ね、内容の見直し・改善を図っている。直近の改訂では、目標復旧時間とそのレベル、事業継続戦略の見直した。

コロナ禍を踏まえ、今後発生しうる新たな感染症への危機管理対策(エッセンシャルワーカーとしての事業継続)を想定し「感染症等へ対応するBCP災害対策シート」を作成した。

同社はBCPの概要をウェブ公開している。機械警備を主業とする同社は、BCPを公開することで、企業力の向上と信頼を確保するとともに、他の企業への警鐘などのメリットがあるとみている。

ほかに危機管理対策として、機械警備業務の基地局を昨年10月、本社(松江市)以外3営業所(出雲市、鳥取県米子市、同倉吉市)に基地局設置を届出し、基地局移転・分散管理を可能とした。

これまでは異常情報を本社警備部統制指令室で一元管理してきたが、松江で大規模な事件・事故・災害が発生することを想定し、基地局機能を維持できる体制を構築した。

実態調査

内閣府の「企業の事業継続および防災の取り組みに関する実態調査」によると、業種別のBCP策定状況は21年、金融・保険業以外は6割を下回り、警備業を含むサービス業は4割台だった。同調査の「サービス業」は、資本金5千万円超かつ常用雇用者101人以上、または同1億円超かつ同100人以下の企業が対象で、中小企業の実態は分からない。帝国データバンク(DB)が実施しているBCPに対する企業の意識調査では中小企業の策定率は2割に届いていない。

帝国DBの調査(23年)ではBCPを策定しない理由の上位は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(42%、複数回答・以下同)、「策定する人材を確保できない」(30.8%)、「策定する時間を確保できない」(26.8%)だった。また、中小企業では「必要性を感じない」が21.6%で、大企業より7.2ポイント高かった。

なるべく策定の負担を減らす工夫や、策定のメリットを平時から受けられる施策も行われている。

中企庁は、BCP策定のためのマニュアルを公開しているほか、策定を支援するセミナーの開催、相談窓口も開設している。

中企庁の「事業継続力強化計画」では認定企業にロゴマークを使用でき、社名が公表される上、資本金5千万円以下または常用従業員数100人以下のサービス業の場合、各種経済的支援が受けられる。

【金融支援】日本政策金融公庫による低利融資など

【中小企業防災・減災投資促進税制】BCPに記載された対象設備を取得し事業に使った場合などに特別償却18%(4月現在)が適用

【予算事業における加点】認定事業者が予算事業で加点措置を受けられる。「IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)」「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業・専門家活用事業)」など