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視点

ダンピング2022.08.21

2年続き「3.5兆円割れ」

これは「越えられない3.5兆円の壁」が到来した証なのだろうか?。

警察庁が公表した「2021年の警備業概況」によると、全国の認定警備業者は1万359社。前年より246社の増で、2年続いて1万社を超える過去最多を更新した。ちなみに、全警協に加盟しているのは7114社だ(6月末現在)。

それでは全体の売上高はどうなったか。誰しも増収を思いつくだろう。ところが、さにあらず。前年の3兆4734億円から200億円余り下回り、3兆4537億円だったのだ。2年連続の<3.5兆円割れ>である。

売上高は全警協が警察庁の委託を受けて調査するもの。回答したのは全警協未加盟を含む9098社。おおよそ、全体の売上高を表示しているものと考えられる。透けて見えるのは、業者数の増加が1社あたりの売上高を引き下げているということであろう。

昨年の警備業界を振り返ってみると、前年からのコロナ禍による受注の減少が暗い影を落としたことは否めない。今夏も新型コロナの第7波が全国で猛威を振るっている。そこに新しい警備業者の参入である。

どのようにして売り上げを確保するか。受注の減少に手をこまねいてはいられない。負の側面に思いを巡らせると、手っ取り早い手立てに思い至る。あってはならない<低価格受注>である。いわゆるダンピングだ。

全警協、都道府県協会は、警備業の更なる発展を目指し、「警備業における適正取引の推進」を旗印に「自主行動計画」の実現に心血を注いだ。警備の質の向上への取組みも相まって、警備の発注者サイドに意識の変化をもたらしたと思う。適正料金への理解である。

こんな話を聞いた。その経営者は、契約交渉の段階で、自主行動計画に沿った採算ラインを考慮してはじき出したぎりぎりの額を提示した。すると、発注者は「この価格で大丈夫なのか?」といぶかしんだ。経営者は、もっと上乗せしてもよいのか、との思いを感じ取った。

「もっと値下げしますよ」

結果はどうなったか。正式契約のため再訪すると「申し訳ないが、あの話はなかったことに」と断られた。受注契約をしたのは別の警備会社だった。後で分かったことだが、その会社は「わが社は、もっと値下げして安い料金で警備しますよ」と申し出ていたのだ。

警備業者数の増加と売上高の減少で記憶に鮮明な言葉がある。6月下旬、福岡市で開催された九州地区連会長会議の席上、鹿児島県の上拾石秀一会長が発した一言である。

「全国的に警備会社が増えている背景には、警備業への参入障壁の低さがあるのではないか。モラルの低い業者参入によるダンピングに懸念を抱いている」

それは、参会者の胸に響く“寸鉄人を刺す”と言ってよい警句だった。

会議に出席した全警協の中山泰男会長は、これを受けて「警備業全体の売上高は3.5兆円から増えておらず、会社増で1社あたりの売上高は減少している。これは業界の発展とは言えない」と、上拾石氏の懸念に同意した。

昨今、警備業の全体を見渡せば、各方面で業界の発展と活性化に向けた前向きな活動が勢いを増している。弊紙の先号、8月1日合併号に掲載されただけでも、テクノロジー活用のための研修会、2号警備の正しい料金請求法を学ぶ講演会開催、就職氷河期世代の支援報道などが記載されている。さらに次代を担う青年部、女性部会の活動内容の詳報もある。

知恵と工夫と気概を発揮して「3.5兆円の壁」を乗り越え、成長のためのモメンタム(方向性や勢い)を確固としたものにしてほしい。

【六車 護】

最低賃金2022.08.01

料金引き上げ、積極的に

今秋から全国の職場に適用される「最低賃金」の引き上げの目安額が近く決定する。昨年に続き今回も引き上げ額のアップが予想され、これにより全国加重平均の最賃額も過去最高額となるだろう。

6月28日に始まった今年度の最賃を検討する審議会の冒頭、後藤茂之厚労相は、政府が6月7日に閣議決定した「新しい資本主義グランドデザイン」と同実行計画、経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針)への“配慮”を求めた。

新しい資本主義グランドデザインは最賃について「物価が上昇する中、官民が協力して引き上げを図る」、骨太方針は「中小企業への支援や取引適正化などに取り組み、地域間格差にも配慮しながら早期に全国加重平均1000円以上を目指す」と明記、それぞれ最賃引き上げを後押ししている。

社会経済情勢も最賃引き上げの追い風となっている。ロシアによるウクライナ侵略に対する世界各国の経済制裁に伴う原油や小麦などの価格高騰による物価高。欧米各国では、これに伴うインフレ抑制のために金利引き上げが行われているが、わが国では日銀が依然低金利政策を続けているために円安が進行、輸入品の価格高騰による商品値上げが相次いでいる。このため賃上げを求める声は日に日に大きくなっている。

日本商工会議所などの中小企業団体は、近年の政府主導による3%台の最賃の大幅な引き上げが続いていることに対し「中小の経営実態を反映していない」と反発しているが、最賃引き上げを跳ね返すまでには至っていない。

最賃順守は企業の義務

最賃は最低賃金法に規定された企業に課せられた義務であり、違反すれば同法に基づき罰則が科される。何よりも「最賃違反の企業」としてマスコミで報じられたりSNSで拡散されたら、その企業は人材確保の道を閉ざされこととなるのは必至だ。

警備各社でも自社の時給が、日給や月給を時給に換算した額が、それぞれの地域の最賃を下回ることのないよう再確認が求められる。

一方で、AIなど科学技術の進展が目覚ましいとはいえ、依然として警備業は個々の警備員に頼らざるを得ないのが実情。最賃引き上げは人件費アップとして企業経営に重くのしかかる。

警備各社には今後、さまざまな経営合理化が求められるが、最賃をクリアするためには、警備料金を引き上げて「原資」を確保するしか他に手立てはない。

幸い、その“追い風”も吹いている。

岸田政権は昨年12月に「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化会議」を設置、中小企業が労務費や原材料費のアップを価格に転嫁できる環境整備に乗り出した。同初会議には全国警備業協会の中山泰男会長も出席を求められ、警備業の課題として「低賃金の是正」を訴えた。

政府を挙げた「適正取引推進」の取り組みもある。全警協は「適正取引推進に向けた自主行動計画」を近く改定するとしており、その取り組みはさらに加速・強化されるに違いない。

企業経営にとっては悩ましい最賃アップだが、業界の悲願である警備料金引き上げの好機と捉え積極的に取り組んでほしい。

【休徳克幸】