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視点

団体保険2022.07.21

勇気を持って取り組もう

全国警備業協会は、加盟員を対象とした「警備業者賠償責任保険団体制度(団体保険)」の導入を6月からスタートさせた。警備業は人の労働に頼る割合が大きい労働集約型産業だ。警備業者は、警備員の判断ミスや不注意から対人・対物事故が発生し損害賠償を請求される危険性があることを常に想定しておかなければならない。

実際に起こった事例として、工場の施設警備で夜間巡回中出火に気付くのが遅れて火災が発生し甚大な被害が出た、交通誘導警備でT字路を右折する乗用車の右折中に右方から直進してきたバイクと衝突した――などがある。どちらの事故も警備業者に約2000万円の損害賠償義務が生じた。

こうした不測の事態に備え、賠償責任保険に加入している警備業者は多い。大手保険会社3社の調べでは約4000〜4500社が加入しており、他の保険会社と合わせるとさらに多くの警備業者が加入していると考えられる。

団体保険は団体のスケールメリットを活かし一般の保険と比べて加入者に得な契約内容となることから、建設業など多くの業界で活用されている。全警協は保険会社数社の提案を受けて昨年3月から団体保険導入の検討を開始し、10月の理事会で承認を得た。全警協の黒子晋也庶務・経理担当次長は、各警協の定時総会や研修会など加盟員が集まる機会に招かれ、団体保険の内容やメリットについて説明してきた。

団体保険に加入するメリットは2つある。まず保険料が安くなること。保険会社によると一般契約と比べて約35%の削減が可能だ。その理由として団体加入により保険会社が営業を行う必要がなくなることなどが挙げられる。

2点目は一般の賠償責任保険では対象にならない警備業務以外の付随業務が補償の対象となることだ。発注者からの要請を断り切れずに行う休憩所の清掃やトラックの洗車などの作業中に万が一事故が起こった場合、保険でカバーできる。警備現場のマスターキーを紛失したときの錠前交換やマスターキー作成費用もオプションで補償対象となる。

団体保険は全警協が保険契約者となる。加盟員は全警協に保険料を支払い、保険契約や事故受付は保険会社の代理店が担う。全警協への問い合わせで多いのは「団体保険に加入したとき、今契約している代理店との付き合いはどうなりますか」という質問だ。取り扱い会社は現在、三井住友海上火災など3社に限られている。全警協は今後、他の大手保険会社にも参入を促していく。取り扱い会社が多いほど加盟員は代理店を変えずに済み加入しやすくなる。間口の広がりに期待したい。

全警協によると現在、加盟員119社が団体保険に加入し、見積り依頼が1020件という状況だ。団体保険はあくまで任意加入が前提だが、各社のリスク管理が進み経費削減にもつながることから一考に値する。

リスクは日本語で「悪いことが起こる可能性」の意味で使われるが、語源であるラテン語の「riscarea(リズカーレ)」は「悪いことが起こる可能性を覚悟の上で勇気を持って試みる」意味だという。エッセンシャルワーカーである警備業はリスクに可能な限りの備えを講じ、勇気を持って安全安心に向けた取り組みを進めることが求められている。

【瀬戸雅彦】

カスハラ2022.07.11

警備員を守る適切な対応を

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、働く人に対する顧客からの暴言、悪質なクレーム、嫌がらせなどだ。離職やメンタル不調に追い込まれる事例もあり社会問題としてクローズアップされている。

厚生労働省は企業向けのカスハラ対策マニュアルを作成し、周知を図っている。同マニュアルは「社員一人に問題を抱え込ませない組織的な対応」を強調し、被害があった場合に相談できる社内窓口を設置することや、迷惑行為への対処方法についての社員教育を奨励する。セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)対策と同様に、企業はカスハラから従業員を守る取り組みが求められている。

警備員は不特定多数の人々に対し、交通の規制、入場制限、手荷物検査などで協力を求める際に、苛立った相手から暴言を吐かれる場合がある。6月15日に都内で開かれた東京・京都・千葉の3都府県警備業協会青年部会の交流会では「警備業におけるカスタマーハラスメント」がグループ討議の議題にのぼった。

参加した青年部会員は、主に交通誘導警備の現場で発生した事例、自身の体験をそれぞれ打ち明けた。「ドライバーから罵声を浴びせられた。たばこの吸い殻、空き缶を投げ付けられたこともある」「建設現場の近隣住民が、工事の騒音などに対する不満から警備員に嫌がらせを繰り返した」「難癖をつけられ土下座を強要された」などがあった。

新たに警備業界に入ってくる人には同じ経験をさせたくない、管理職としてカスハラによる離職を防がなければならない――そうした切実な思いがにじむ討議だった。「警備員に対するハラスメント事例を全国的に集めれば、防止策に活用できるのではないか」との声もあった。意見のまとめとして「事案が起きた時、管理職が現場に駆け付けて対応するなど、警備員を守る体制の整備を進める必要がある。現任教育の中でクレーム対応、嫌がらせへの対処方法を指導することも大切になる」と報告された。これは厚労省の対策マニュアルの骨子に重なるものだ。

警備員は現場への直行直帰が多い。管理職は、巡察や面談の際に、暴言や嫌がらせを受けていないか聞き取りを行って、被害があれば相談に乗り会社としてフォローすることが欠かせない。

ハラスメント事案は、ドライバーや通行人に限らず発注者と警備員の間にも発生する。ユーザー関係者による警備員への侮辱、度が過ぎるクレーム、女性警備員へのセクハラなどが起きた時、経営者の姿勢が問われる。先方に事実確認や再発防止を毅然と申し入れるなら、警備員は自社への信頼を深めて定着促進に結び付くだろう。逆に、相談しても泣き寝入りを強いられるなら警備員の心は会社から離れるのではないか。

警備員に寄せられるクレームの中には、業務の改善・向上につながる意見が含まれることもある。会社として漏れなく聞き取り、内容の妥当性を確かめて適切に対応することは重要だ。

経営者が、働く人のメンタルヘルスを守る方針を掲げてハラスメント対策に取り組めば、従業員に安心感が生まれ、業務への意欲はさらに高まるはず。警備員が現場の安全安心を、経営者が警備員の安全安心を、それぞれ守り抜くことで社業は一層発展するに違いない。

【都築孝史】

災害支援協定2022.07.01

「有償出動」の実現を急ごう

各地で開催されていた都道府県協会の定時総会と地区連合会の会長会議は、6月23日の愛知と三重の県総会、四国地区連会議で全日程が終了した。会議の会場で、役員諸氏と話す機会があった。そのとき、何度か口の端に掛かったのが「災害支援協定」だった。

5月末の中部地区連の会長会議では、6県に共通する問題を話し合う討議のコーナーで「災害時における警備業務の実施に関する協定の現状と運用上の課題」をテーマに取り上げて論じ合った。

各地の協会でも災害支援の有償出動を基本とする協定の改定やバックアップ体制の備えに向けた気運が高まっている。歓迎すべきことである。そうした中、「難題ではあるけれど、近隣の自治体との連携も考えなければならない」との声も聞いた。

大規模災害は一つの自治体を越えて近隣の都府県にまたがる広域被害が想定される。単県での対応が困難なことも視野に入れておきたい、というのである。地域における“共助”である。手を携えてチャレンジしてもらいたい。

成果が期待されるのが全警協の作業部会の取り組みだ。基本問題諮問委員会が5テーマの一つに掲げた「災害時における警備業の役割の明確化」である。部会はこれまで数次の会合を開き、協定や覚書に関わる文案、安全確保のためのガイドライン、今後のロードマップなどについて協議を続けている。さらには警備業法との整合性も検討中だ。

作業に携わるメンバーは「協定は国の災害対策基本法に則った内容に見直さなければならない。分かりやすく、ていねいな作業を第一に心掛けている」という。

警備業の災害支援の来歴を振り返ってみたい。その始まりは1995年の「阪神・淡路大震災」までさかのぼる。大阪、兵庫両県の警協が被災地で行った防犯パトロールに関わる取り決めである。

これがきっかけとなって、47都道府県の協会が相次いで警察や自治体と災害支援協定を結ぶ動きとなった。ただし、協定の内容に「有償」を明確に規定したものはなかった。被災地の空巣防止などを目的に行ったパトロールが主な業務で、あくまでボランティア活動にとどまった。

協会の中には、協定書に有償の出動を織り込みたいとの意向もあったというが、具体的な本格交渉には至らなかったのが実情だった。

無償から対価の確保へ

警備業が災害支援活動に参加したとき、「有償出動」とする協定に先鞭をつけたのは岡山警協だ。4年前の2018年初夏にあった西日本豪雨のときである。九州、中国地方を中心に中部地方や北海道までも含めて発生した台風と線状降水帯による10日間にも及ぶ集中豪雨に襲われた。岡山県では倉敷市などが甚大な被災地となった。

県警協は業務の対価として適正料金を確保する仕組みを念頭に、労務単価の積算、警備料金の支払い方法などを具体的に明記した協定を県当局と検討した。作業は文字通り手探り状態で進め、全国で初めて災害支援協定に基づく有償出動を実現した。

近年の自然災害で顕著になっているのが線状降水帯による大雨被害だ。気象庁は6月1日、難しいとされる予測を始めると発表した。バックアップ体制は、平常時にこそ衆知を集めて対応策を実現したい。

警備業は社会に必須のエッセンシャルワーカーを目指している。災害支援の活動を通じ、被災地に寄り添うことは、その地歩をより確かなものにしていくだろう。

【六車 護】