視点
カスハラ2023.11.21
「従業員を守る」が基本だ
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、従業員に対し顧客などが過剰なクレームを付ける、理不尽な要求を繰り返す、暴言を吐くなどの悪質行為だ。
厚生労働省は9月1日、労働災害の認定基準を改正し、カスタマーハラスメントを追加した。「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」場合の項目が、業務による心理的負荷の「評価表」に加わった。人格を否定する言動などで強度のストレスを受け、会社に相談しても状況が改善されず、うつ病などを発症すれば労災に認定される可能性がある。働く人のメンタルヘルス、労働災害防止の一環として企業のカスハラ対策は欠かせないものとなった。
警備員は、不特定多数の人々に協力を求める立場だ。交通規制に伴う迂回のお願い、空港保安の手荷物・身体検査、施設内やイベント会場での行動制限などで、不機嫌な相手からの罵声や侮辱的な言葉を浴びることがある。
建設現場の警備員が、工事に反感を持つ近隣住民から執拗に難癖を付けられ精神的に追い込まれた事例や、ユーザーの建設業者から日常的に暴言を受ける警備員を見かねた同僚が自社に知らせたケースもある。警備員の落ち度をとがめ土下座を要求した“クレーマー”もいる。現場の個人に任せるのでなく、組織でカスハラ対策を重要視することが求められている。
厚労省が作成し同省の専用サイトで公開している企業向けの対策マニュアルによると、カスハラに対処するポイントは▽経営トップが、従業員を守る基本方針を示す▽1人でなく複数で対応▽被害を受けた従業員が相談しやすい窓口を設ける▽迷惑行為、悪質クレームへの適切な対応について社内教育を行う――などだ。
自社の警備現場で過去にあったカスハラ事例や起こり得るケースも踏まえ対応方法を決め、警備員が共有し、いざという時は必要に応じ管理職が駆け付ける、相手がユーザー関係者なら経営幹部からユーザーに申し入れを行うなどの体制を整えることは大切だ。
一方で、クレームには、業務の向上につながる意見、ヒントが含まれることがある。真摯に聞き取って事実を確認し、落ち度があれば改善する取り組みは欠かせない。しかし、警備員が度を越した抗議にさらされ、メンタルの不調や離職につながる事態は食い止めなければならない。
今年3月、秋田県の地方紙に掲載された一つの意見広告が話題になった。「その苦情、行き過ぎじゃありませんか?カスタマーハラスメントについて」と題するもので、広告主は「第一観光バス」(秋田県能代市)。社員は22人(4月現在)でバスやタクシーを運行している。意見広告では従業員に非がないクレームに毅然と対応することを表明し、こう記した。「弊社は、ご利用者様に安全な移動を提供するとともに、社員を守ることも大切だと思っています。お客様と社員は対等の立場であるべきで、お客様は神様ではありません」。
従業員が会社から大切にしてもらっていると実感すれば、自信と安心感を深めて業務に取り組み、万一言いがかりを付けられても落ち着いて対応できることだろう。
警備員の業務に対する社会の理解がより広がり、経営者が警備員を今まで以上に大切にすることは、警備員の地位向上に結び付くに違いない。
【都築孝史】
広報強化2023.11.11
「#警備の日」もれなく
警備業について市民に理解を深めてもらうための広報活動が活発だ。全国警備業協会は10月に「広報プロジェクトチーム(PT)会議」を初めて開いた。
中山泰男全警協会長と、地域で広報活動に取り組む青年部会長ら9人が、現在の活動状況を報告し合い課題を洗い出した。
警備員不足など課題が山積みの警備業を取り巻く状況を改善するために「広報活動を1丁目1番地にしなければならない」と中山会長は強調した。PTのメンバーからは広報の目的と手段、効果の関係性を踏まえて活動する必要があるのではないかといった趣旨の指摘も上がっていた。
広報活動の“旗印”となっているのが、「警備の日」だ。全警協によると、警備の日は「社会の安全・安心への関心が高まる中で役割がますます重要になっている警備業への理解と信頼を高めること」を目的に、2015年に定められた。
以来、都道府県警恊の広報活動もこの前後に展開するのが通例となっている。今後はPTで各地の活動における課題やノウハウを共有することで、解決策が見つけやすくなり、広報活動の水平展開もしやすくなる。
1丁目1番地に位置付けられた活動をさらに活発化させていくには、これまで以上の工夫が求められる。
ヒトもカネも時間も有限の資源だから、PTには同じ負担で効果を増幅させる、スマートな作戦が求められる。併せてこれまでの広報活動が伝えたい人々にしっかり伝わっていたのか検証し、必要があれば修正すればよいだろう。
警備会社を含む一般企業がPR手段として使い慣れているだろう「X(旧ツイッター)」や、「ユーチューブ」などを、さらに「警備の日」のPR手段として活用してみてはどうか。差し当たって追加の負担が生じない範囲で行える取り組みとして、「ハッシュタグ(#)投稿の励行」が考えられる。
全警協加盟事業者や勤務している隊員に警備関連の投稿をする際には「“#警備の日”をもれなく記載する」という、簡単なルールを設けて発信すればよいのではないか。各社の投稿担当者が日々発信している投稿メッセージに「#警備の日」を加えるだけ。5文字分、入力の手間は増えるが。
ハッシュタグ投稿は、誰でもできる特徴を生かし、警備業関係者以外も自由に参加できる。街頭での広報活動で着ぐるみの「ガードくん」を活用する場合、ガードくん記念撮影した人にハッシュタグ投稿への協力を呼び掛け、応じてくれた投稿を見つけたら、さりげなく「いいね」を送れば投稿者に感謝の気持ちは伝わるだろう。
11月1日午後7時。Xのトレンドワードに「警備の日」は見当たらなかった。Xで「#警備の日」を検索すると、当日の投稿(ポスト)は100件弱。うち業界関係者の投稿は30件ほど。事業者数1万件時代に全警協加盟企業が本気で息を合わせれば、瞬間的に話題になっている単語のランキング「トレンド入り」も可能だろう。
日本記念日協会が認定する11月1日の記念日は、警備の日以外に37件ある。人材確保も記念日も警備業にはライバルが多い。
来年11月1日、一般市民も参加して「警備の日」がトレンド入りすれば、警備業への関心が集まるのではないか。
【木村啓司】
警備の日2023.11.01
生涯託せる警備業PR
11月1日は「警備の日」――。1972年11月1日の警備業法施行にちなみ、2015年3月に「警備業への理解促進と信頼を高める」を目的に全国警備業協会が制定した。同年4月には日本記念日協会から11月1日が記念日「警備の日」として正式に登録された。
それ以前は、大阪府警備業協会を中心とした近畿地区のみで警備業PRとして用いられていたが、制定を機にわが国警備業の共通の「記念日」となった。
制定の翌16年には全警協が初の「警備の日・全国大会」を開催。今年も11月2日に都内で8回目の全国大会が開かれる。
都道府県警備業協会も同制定を受け、全国各地でさまざまなPR活動を開始した。
「11月1日は警備の日」と記された“のぼり旗”を掲げ、制服警備員や協会役員が駅頭や大型商業施設などでポケットティッシュなどの啓発品を配布する光景は、今では地域の「秋の風物詩」ともなった。特に近年は「警備の日」に加え、後を絶たない特殊詐欺被害防止も呼び掛けるなど、生活安全産業「警備業」を広報する絶好の機会にもなっている。
取り組み内容も多種多彩だ。今年は制服・装備の着用体験(北海道)、全警協と県警のマスコット(着ぐるみ)によるチラシ配布(山形)、地域の子供たちに参加を呼び掛けた書道展(群馬)、セーフティフォーラム(労働安全衛生大会)の開催(千葉)――など趣向を凝らした取り組みも多い。その担い手も当初の協会役員や事務局から青年部会にバトンタッチ、さらなる工夫や展開に期待が寄せられる。
警備員減少の理由
コロナ禍でも“エッセンシャルワーカー”として現場でさまざまな警備業務を行ってきた警備業。ワクチン集団接種会場では来場者を安全に誘導、感染者隔離用ホテルでは人の出入りを逐一監視、オフィスビルや商業施設では検温器片手に発熱者の出入りに目を光らせてきた。
全国で相次ぐ凶悪事件では、警備業への期待はこれまでになく高まっている。政府も昨年、9年ぶりに閣議決定した「『世界一安全な日本』創造のための新戦略」で警備業に言及、生活安全産業「警備業」を明記した。
全国各地で行われる「警備の日」活動を見て、そんな警備業の姿を思い出し、期待を新たにする人も多いに違いない。
一方で、警察庁の調べでは、22年に警備員が前年に比べ約8000人減少したことが分かった。
全警協・中山泰男会長は9月の理事会で「もっと減少する恐れがある。その始まりに過ぎない可能性がある」と述べ、強い危機感を示した。背景には、労働力人口減少により産業間での人材獲得競争が激化する中、全業種中でも下位をさまよう警備業の低賃金などへの危惧があるに違いない。
この払しょくのためには、各社が警備の質を高めて適正料金を確保、これを原資に警備員の処遇改善の取り組みが欠かせない。幸い、今は政府の価格転嫁推奨や適正取引推進への各種支援もある。
警備業がやりがいのある魅力ある仕事であることは、これまでも「警備の日」でPRしてきた。今後は「安心して生涯を託せる企業・業界」であることもPRできる「警備の日」でありたい。
【休徳克幸】