警備保障タイムズ下層イメージ画像

視点

災害支援2024.01.21

今できることを考える

能登半島地震で被害に遭われた皆さまに心からお見舞い申し上げます。早期の復旧・復興をお祈りします。

発災から1週間もたたぬうちに中部地区警備業協会連合会の有志13人が、被災地・七尾市で避難所の夜間防犯パトロールをボランティアで実施した。現地入りのタイミング、隊の編成規模、活動手法など現状取れる最善策で挑んだと言えるのではないか。

中部地区連は事務局を愛知警協に置き、岐阜、三重、富山、石川、福井の計6警協からなる。エリアは管区警察局の管轄と一致する。災害時には各警協が相互に支援する関係を構築している。今回は日本海側の石川が被災したのだから太平洋側3警協が助ける側だと、岐阜警協の幾田弘文会長の発案でミッションが動き出した。

目的地は石川警協が七尾市と調整を図り、複数の避難所を車で移動しながら警備することにした。七尾への移動手段は愛知警協が手配した2台のレンタカー。物資を多く積めるステーションワゴンを採用した。

前半の3夜は愛知隊が3人一組で分乗し、後半の3夜は三重隊、岐阜隊の2班に分かれて活動した。車体側面に各警協の災害支援隊のマグネットステッカーを貼った。もちろん災害支援隊の制服を着用している。道路は緊急車両が優先で、不要不急の一般車両が能登方面に向かうことを警察が規制している局面だ。

交通誘導警備に用いる赤色の停止棒をはじめ拡声器、三角コーン、コーンをつなぐバー、ヘッドライト、非常用バッテリーといった資器材に加え、水、アルファ米、乾電池、カセットコンロ等を積み込んだ。避難所の水や食料に手を付けず自己完結することがボランティアの大前提だ。

支援隊は午後5時から翌朝8時までのパトロールを終えると、金沢市内の宿泊可能なスーパー銭湯でつかの間の休息。次のパトロールに向けて再び七尾に向かうサイクルで、昼夜逆転、2泊3日の活動を完遂した。

12日午後、岐阜隊が無事帰還した頃合いを計り、幾田会長に電話で話を聞かせていただいた。その声には現地の状況をしっかり伝えなければという気迫が籠っている気がした。

印象的だったのは、延々と同じ話を繰り返す男性の話を幾田会長がひとしきり聞いてあげたという話だ。「聞いてあげることで安心されたならそれでいい」とさっぱりしているが、避難者には心身の疲労が蓄積し、状況は切迫しているという。

今回の支援隊は、自治体の要望に応え、避難所の夜間パトロールを無償で実施した。理想は、災害支援協定に基づく有償業務だが、派遣要請を待っている間にも災害関連死の犠牲が増えかねない。近県の有志が小規模ながらも、防犯面に不安を抱える施設を守り、被災者の不安を取り除いたことが何よりの成果だったのではないか。そのタイミングでできる最大限の活動を果たしたのだと思う。

中部地区連の取り組みは、ほかの地方でも発災初期のごく短期的な局面では応用できる点があるはずだ。災害の多い国で警備業を営むには、どこで起きた災害も「自分ごと」に置き換えて想定していく必要もある。被災地に向けてできる支援は何があるかを考えることと同様に、既存ルールの範囲でも知恵と工夫で乗り切る術を身に付けていきたい。

【木村啓司】

謹賀新年2024.01.01

警備業のさらなる発展を

昨年5月のコロナ感染症区分「第5類」移行を受け、経済社会の歯車が再び大きく動き出した。警備業界にも暗い影を落としていた“コロナ禍”も過去のものとなりつつある。

各地の観光地には外国人観光客や日本人旅行客が溢れ、地元住民が日常生活に支障を来す「オーバーツーリズム」問題も再燃した。

警備業においても需要が大幅に増えているが、一方で人手不足にも拍車を掛けている。

年末の会合で隣り合った警備会社のある経営者は「(人はいないのに仕事の)引き合いが多くて断っている。人さえいれば儲かる仕事なのに」と口惜しそうに愚痴をこぼしていた。同様の思いを抱いている経営者は、全国に多くいるに違いない。

小紙の新春恒例企画「年頭の辞」「年頭にあたって」は本1月1日号で、「トップメッセージ」は同21日号で、それぞれお届けする。

1日号では全国警備業協会の中山泰男会長をはじめ、大手警備会社の経営者、全国の警備業協会連合会会長など業界トップの皆さんに寄稿いただいた。

それぞれ所属や立場が違えども、社業や業界のさらなる飛躍へ向け力強い決意を語っている。

その中で多く登場するのが「人手不足」「適正料金」「価格転嫁」などの言葉だ。

人手不足については、警察庁公表データにより全国の警備員数が一昨年、減少に転じたことが明らかになった。今年6月にも公表される新たなデータ(2023年末の状況)次第では、業界を挙げた新たな取り組みが求められよう。

適正料金と価格転嫁は、相互に密接に関連する。政府の「価格転嫁推奨」という追い風に乗り、人件費高騰の影響を大きく受ける警備業にあっては、労務費を適切に警備料金に転嫁することが不可欠だ。内閣官房や公取委も、同取り組みを促進のための指針を策定、公表している。

国民の期待に応える

昨年来全国で相次いだ凶悪強盗事件など、わが国の体感治安は大きく揺らいだ。一方で、安全安心な日常を求める多くの国民が、これまで以上の期待を警備業に抱いている。

この期待に応えるためにも、業界を挙げた充実した教育で警備員の能力向上に取り組み、より質の高い警備サービスを提供しなければならない。国民の期待に応えられなければ、警備業はAIなど新たな技術を自在に操るIT企業などに取って代わられるかもしれない。新たな年が警備業のさらなる発展につながることを切に期待したい。

【休徳克幸】