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視点

高齢警備員2021.01.21

採用、定着は安全確保から

定年を70歳までとすることを企業の努力義務にした改正高年齢者雇用安定法(昨年3月成立)が4月1日から施行される。少子化で労働人口が減少する中で、定年年齢を延長して高齢者にも働き手となってもらうことが政府の狙いだ。

多くの企業で定年が引き上げられれば、就労意欲のあるシニア層が活躍できるようになり、社会全体としては喜ばしい。だが、その一方で高齢の求職者が減少することになる。ほかの業種と比べてシニア層への依存度が高い警備業にとって、人手不足がさらに深刻化する恐れがある。

警察庁が昨夏発表した「令和元年における警備業の概況」によると、全国の警備員の45パーセントは60歳以上で、70歳以上は15パーセントとなっている。高齢者が集まらなければ業務を行えない警備会社もある。それらの企業がこれからも事業を続けるためには、高齢者に選ばれ、入社後は長く働いてもらうことが必須の条件である。

そのために欠かせないのは安全の確保だ。就業に関する相談や支援を行っている東京しごと財団によると、主催しているいくつかのシニア向け職業訓練コースの中で、警備業コースのみが毎回のように定員を下回っているという。理由は、高齢者にとって警備の業務は危険で事故に遭うことが多いという印象を持たれているためだ。

実際は、全国警備業協会がまとめた2019年度の加盟員の労働災害における60歳以上の割合は39パーセントとなっており、とりわけ高くはない。

人は年齢を重ねるとともに身体能力が低下し事故に遭いやすくなるため、警備会社は安全に業務を行えるように職場環境の整備に力を入れて労災を防ぐ努力をしている。体への負担に配慮して午前や午後のみなどの短時間勤務を採り入れている企業もある。警備業は、それらの取り組みを求職者に積極的にアピールして入社を促進してほしい。

さらに、改正高年齢者雇用安定法施行後の高齢者採用の獲得競争に備えて、これまで以上に安全で健康的な職場を整備して高齢労働者を迎え入れることが必要だ。

ガイドラインを参考に

そのための参考となるのが、厚生労働省が昨年3月に公開した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」だ。「安全衛生管理体制の確立」「職場環境の改善」「高年齢労働者の健康や体力把握」「高年齢労働者の健康や体力に応じた対応」「安全衛生教育」の5項目について事細かに説明している。

「職場環境の改善」では、転倒を防ぐために視力や明暗差への対応力が低下することを前提に職場の照度を確保することや、熱中症対策として管理者による始業時の体調確認と報告体制などを求めている。ガイドラインは同省ホームページで閲覧できる。

安全で健康的な職場をつくるための取り組みは、経営者自らが指揮を執ることで企業の隅々にまで理念が浸透して、より効果が上がるだろう。

コロナ禍でこれまで以上に安全や健康への意識が高まっている中で、そのような職場であれば高齢者は安心して働くことができる。同法施行まで2か月余しかないが、できることを積極的に取り組んでほしい。

【長嶺 義隆】

謹賀新年2021.01.01

警備の新たな地平を開こう

新しい年は「コロナ禍・第3波」の中で明けました。収束への道筋はなお見通せない状況にあります。日本でもワクチン接種が現実味を帯びてきました。おだやかな日々が一日も早くやってくることを願うものです。

旧年を振り返れば、皆さま方におかれましては、経営にご苦労を強いられながらも、小紙の発行を支える取材・購読・広告出稿などにおいて例年と変わらないご支援を賜りました。衷心より感謝申し上げます。

夏には仕切り直しの<東京2020>です。世界の人があまねく「やってよかった」と実感する大会であってほしいものです。「安全・安心」の担い手である警備業にとって、コロナ後の地平を開く舞台となるでしょう。

私たちも心を新たに、警備業界の更なる発展の一助となりますよう、社会の変転に鋭敏な感覚で対応し、役立つ情報の発信に力を尽くす所存であります。

警備保障タイムズ」は今春の「3・11号」で創刊9周年を迎えます。本年もご支援とご協力を、どうぞよろしくお願い致します。

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未曾有の災厄に息苦しさを覚えながら、安寧の日が来る日に思いをはせるとき、一つの歴史に残る言葉が脳裏をかすめました。それは現代にも当てはまるリスク管理の要諦と言えるでしょう。

「予期せぬことと予期したくないことが起こると予期して備えよ」――東ローマ帝国ユスティニアヌス王朝の皇帝、マウリキウスの言葉です。戦場で部下に「このあとどうなるでしょう」と聞かれて答えたと伝わっています。

災いの魔は、思い至らない個所からのほころびに付け込み、壊滅的な危機をもたらすことがある。そのことは、後になって破られるべくして破られた防御策だったと分かる。マウリキウスは全知全能を結集して予期したくないことにも備えよ、と戒めたのです。

今となって政権の危機管理の脆弱性をあげつらう気はありません。確かなことは、すべての国民に寄り添い、リスク管理の認識を共有して、自分の言葉で話しかけるという思いがあってほしいということです。

<東京2020>が延期されたとき、前首相は「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として五輪を成功させたい」と、まことに勇ましいメッセージを発しました。現首相も同じ言い回しをそのまま継承しています。

思うに五輪は「打ち勝った証」より、安全と安心を得たという実感の下で開いてこそ世界が祝福する祭典になると考えるのです。五輪の警備に携わる人たちにとって、そんな舞台での成功こそ、社会に不可欠な存在を確固とする好機ではないでしょうか。

もう一つ故事を引けば、「カドメイアの勝利」ということわざがあります。ギリシャ神話に由来するもので、勝つには勝ったが負けたのに等しい代償を支払って得た勝ち方のことです。五輪は決して、そんな状況の下での開催であってはならないでしょう。

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今号と次号では、警備業界リーダーの皆さんに恒例となっている「年頭所感」「トップメッセージ」を寄稿していただきました。各位は、もれなくコロナに言及、難局を乗り越え、安全安心な社会づくりに貢献する強い決意を記してくれました。

その一つ、セコムの創業者で最高顧問の飯田亮さんは、まさに今、人々が心すべき行動は、「うつらない、うつさない」という感染拡大防止の原点を徹底すべきである、と書きしるされています。筆者は、氏の言説に込めた真意に思いを巡らせました。

飯田さんは<互いの命と生活を守り合う意志を分かち持つことである>と伝えたかったのではないでしょうか。

皆さん、どうかご自愛を。

【六車 護】