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視点

テロ防止2020.02.21

不審な行動、見逃さない

東京五輪・パラリンピックが迫る中、各地の警備業協会でテロ対策をテーマとする研修会が相次いで開かれている。

千葉警協は会員の警備員に座学と実技教育を行った。京都警協は警察本部の担当官を招いて国際テロの現状を説明した。群馬警協は医学博士が講師を務め化学テロを解説、危機管理を呼び掛けた。警備現場での対策強化、不審物に対処する知識の周知徹底が求められている。

テロは大都市だけでなく地方都市でも発生が懸念される。公共交通機関や観光地、イベント会場、商業施設などのソフトターゲットが狙われやすい。近年の特徴であるローンウルフ(一匹狼)型のテロは、組織に所属せず、単独や少人数で犯行に及ぶ。

犯行手口は、銃の乱射や爆弾の使用に限らない。英国では昨年11月、イスラム過激派の男が観光名所のロンドン橋で刃物2本を使って通行人5人を殺傷した。2月2日にもロンドン南部の繁華街で、通行人3人が襲われる同種のテロが発生している。フランスやドイツでは人混みにトラックが突入する事件があった。刃物や車を凶器とし、身近な場所で襲撃が起こるのだ。

空港や大型施設の警備では、金属探知機やX線検査装置によるスクリーニングが行われ、AIなど先端技術も活用される。こうした警戒が厳重な場所ではなく、例えば繁華街のショッピングモールなど誰もが自由に出入りできる場所で、テロ行為が起こる可能性がある。

警視庁ホームページの「テロ対策東京パートナーシップ」で公開中の啓発動画は大いに参考になる。テロを未然に食い止めるための第一歩は、不自然な動きをする人物や放置された不審物に、警備員が鋭敏に気付くことだ。不審者の特徴は「下見のため同じ場所を何度も往復する」「警備員の配置や防犯カメラの方向を確認する」「服の下に何かを隠して動作が不自然」などだ。

こうした動きを見逃さないためには、教育を通じて<国際テロは身近な場所で起こり得る>との危機意識を現場の警備員が共有し、それぞれが注意力、観察力を発揮することが重要になる。

不審物の中には動かすと振動に反応し爆発、あるいは化学物質を拡散させる物がある。前記の啓発動画などによれば<触るな、踏むな、蹴飛ばすな>が原則だ。特徴は「発見されにくいよう物陰に隠して置いてある」「にじみ出た液体、粉による汚れ」など。警備員は、通報し警察官が到着するまでの間、一般の人が不審物に触れることを防がなければならない。

“まさか”を想定する

万一の非常事態に備えて、警備現場の対応力を高めなければならない。商業施設などで警備員や店舗の従業員が参加して行う実地訓練は有意義だが、複数の想定のもとに何度も実施するのは難しい。

そこで、主な関係者が集まり机上訓練を重ねることは対策の一つになる。“まさか”という襲撃方法まで想定して、対処のシナリオを練ることができるという。銃や刃物、爆発、放火、化学剤など状況ごとに初期対応や避難誘導の経路、警備員自身の受傷防止などを検討し、マニュアル化しておくのだ。いざという時、警備員がそのマニュアルに則して適切に行動できるためには、教育・指導の充実が欠かせない。

【都築孝史】

新型肺炎2020.02.11

警備員に正しい知識を

新型肺炎(新型コロナウイルス感染症)が世界的規模で広がっている。

厚生労働省が2月4日午前9時現在で取りまとめた国内外の発生状況によれば、感染者数は2万599人。うち426人が死亡した。各種報道では、この数を大きく上回っていることからも、感染は急速に広がりつつある。日本では16人の感染者が見つかっているが、「人から人」への感染も確認されており、予断を許さない状況だ。

事態を受けて政府は、1月30日に首相を本部長、内閣官房長官と厚生労働相を副本部長、全閣僚を本部員とする対策本部を設置した。厚労省は「国民の皆様へ」と題するメッセージで、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様、咳エチケットや手洗いなどが感染症対策には重要だとPRしている。今後は家庭や職場で、これら対策の徹底が望まれる。

警備業では、不特定多数の人が通行・滞留する駅や商業施設などでの警備業務中の感染が危惧される。業務中のマスク着用や手洗い、うがいなどが可能となるよう、業務発注者との早急な協議や対策実施が待たれる。

警備各社では、自社警備員の体調管理・確認はもとより、感染症に対する正しい知識の教育、マスクや手洗い用消毒液の配布・使用などの対策が必要だ。万が一、感染が確認された場合には、保健所や自治体の相談窓口に連絡の上、これら機関の指示に従い医療機関での早期受診に努めてほしい。発見が遅れて感染を拡大させてしまうなど、国民生活の安全安心を担う警備業として、あってはならないことだ。

一方で、これからの時期、感染症以外の対策も忘れてはいけない。年度末の繁忙期への対応である。特に交通誘導警備業務を主体とする警備会社には不可欠だ。

公共工事の“平準発注”が叫ばれて久しいが、依然として年度末には工事が集中する。特に近年の人手不足の中、普段から警備員の“やり繰り”に苦労している会社は多い。1人の警備員が昼夜連続して現場で交通誘導警備に当たるという話はよく聞く。

長時間にわたる無理な勤務は、集中力の欠如や体調不良を招きやすい。結果として労働災害の引き金となる。

「建設工事に伴う交通誘導警備は時間外労働の上限規制の対象外」と弁解したところで、労災が起きてしまえば労働基準監督署は黙っていない。「長時間労働で労災」となれば、即、ブラック企業のレッテルが貼られ、瞬く間にSNSで“拡散”する。

そうならないためにも、一部の警備員に業務が偏っていないか、労働時間の管理は適切に行われているか、休日・休憩が確保できているのか。さらには、現場の資機材は適正・充足しているのか、安全な作業計画が作成されているのか――などについても、今一度確認してほしい。

東京2020大会を約半年後に控え、何かと準備に追われる中で発生した新型肺炎による混乱。加えて、人手不足により一層の拍車がかかる年度末の繁忙。今、警備各社に問われているのは、危機管理能力であり、従業員を大切にできるのかという企業姿勢に他ならない。この難局を乗り切った企業には「顧客からの信頼」や「魅力ある会社」という社会の評価が待っているに違いない。

【休徳克幸】

青年部会2020.02.01

業界の未来、託された

警備業協会の青年部会が全国の半数に当たる23団体に増えた。部会活動は年を追うごとに活発さを増しており、昨年10月には福岡市で九州地区の青年部会と青年部会未成立県の代表者が一堂に会した「青年部G8会議」が、同12月には東北地区でも同様の会議が開催されるなど地域を超えた交流も盛んだ。

G8会議では活動に関する情報や意見の交換が活発に行われ、参加者からは部会活動を更に活性化させたいと望む声が上がった。毎年3月に東京で開かれる全国青年部会長・女性部会長会議は、部会数の増加に伴って会場を変更することとなった。

青年部会の役割は若手リーダーによる斬新な発想と強い行動力を発揮し、人手不足や警備員の高齢化といった課題を克服して警備業界の未来をつくることだ。ハローワークでの求職者に向けた業務内容の説明や、「警備の日」に街頭でキャンペーン活動を行うなど求職者や若年層に向けた警備業のピーアール、イメージアップ活動に取り組んでいる。

それらの活動はすぐに効果が表れるものではない。手法には正解といったものはなく、試行錯誤が必要である。当事者である青年部会員はすぐに結果が出なくとも焦ることはない。一方、部会を抱える警備業協会は長い目で活動を見守ってほしい。

「東京2020」後の業界には大きな変化が訪れると予想されている。それらへの対応も青年部の重要な仕事である。その一つは大会警備で採用される顔認証や画像解析といった最新技術の普及だ。近い将来、最新技術と警備員を組み合わせた警備業務のスタイルを採り入れることが求められるだろう。それは若い経営者を中心とした青年部会員が実行することになり、そのための体制づくりへ、調査研究は欠かせない。

青年部会が取り組んでいるものは、これまで警備業界が経験しなかった深刻な人手不足と少子化への対処に加え、新たな警備業務への挑戦という難題だ。警協は業界の未来を託すという心構えで青年部を物心ともに支援して、十分に活動できる環境を整えるべきである。費用を気にするあまり思い切った活動ができないようでは結果を望むことはできまい。

青年部会としても活動の効果を高めるために知恵を絞り、汗をかいてほしい。熊本警協の青年部(松本智行部会長=トラスト熊本)は昨年11月、部会を開いて2か月ごとの年金支給日に振り込め詐欺被害防止を呼び掛けるキャンペーンを行うことを決めた。部会単独でできることは限られているため熊本県警察本部との合同開催を立案。松本部会長を始めとする部会メンバーと協会専務理事が県警に足を運んで趣旨を説明、協力を求めた。

県警は合同開催を快諾しただけでなく、昨年12月から今年12月までのキャンペーン会場となる銀行との調整や、参加する警察署の手配までを行った。昨年12月に行った第1回のキャンペーンは地元のテレビ局や新聞に取り上げられ、警備業界の社会貢献活動を大いにアピールすることができた。警察とマスコミと協力して効果を高めたのだ。

青年部会は警備業界の未来をつくるという大きな課題に挑戦している。明るい未来が訪れるか否かは部会の取り組みと周りの支援が鍵となる。

【長嶺義隆】