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視点

eラーニング2021.11.21

利点は多い、取り組もう

全国警備業協会は、「全警協eラーニング」を半年延期して来年4月から導入する。法定教育の新任教育と現任教育の双方を対象とする「非対面型」教育で、パソコンやタブレット、スマートフォンさえあれば会社にいながら受講が可能になる。警備業に不可欠な「教育」を効率よく実施できる手段として注目度が高く、各地の警備業協会は希望する会社が取り組める環境整備が欠かせない。

導入の背景をおさらいすると、警備員教育の「講義の方法」の一つに「電気通信回線を使用して行うもの」を追加した2019年の改正警備業法施行規則がeラーニングの法的根拠となっている。

「全警協eラーニング」は、インターネット上に用意したテキストと録画された講師の講習を組み合わせた内容で、「基本教育」「交通誘導警備」「施設警備」のそれぞれ5時間からスタートする。準備が整い次第、他の警備業務も追加していく予定で、会員受講料は年間契約3300円(ともに税込み)。受講する場所は原則「各社の施設」というものだ。

eラーニングの導入メリットは、全国統一的な教育が実現することで、従来から指摘のある「講師の質の違いに基づく教育効果のばらつき」の問題が解消できることが大きい。学習した記録を「データ」の形で残せることも利点となる。当局が立ち入り検査を行う際に提出が求められる「教育実施簿」も簡単に作れるようになる。事務作業が大幅に軽減されるため、他の生産的業務に人手を回せる余地が生まれる効果が期待できよう。また、教育が実施される場所まで足を運ばなくても済むようになり、事前に決められている教育日程に、日々の業務で忙しい警備員の都合を何とかやり繰りして合わせる手間も不要になる。

さらに“ウィズコロナ”の時代にふさわしい教育法でもある。これまでのような一か所に集まり、顔を合わせて行われてきた「集合型」「対面型」ではない教育がeラーニングの大きな特徴であるためだ。1人でパソコン画面に向き合う受講スタイルは「密」とはかけ離れており、感染予防の観点でうってつけの教育と言える。

ただ、課題もある。なかでもパソコンなど情報通信機器を扱う能力面の問題だ。PC操作を抜きには成り立たないeラーニングが、それを苦手とする高齢者の多い警備業でどこまで浸透するか、今後、実際に運用していく中で必ず直面するだろう。

導入当初こそITに馴染んだ若手の協力を得ながら進めるとしても、自らも仕事を抱える若手が高齢者へのアドバイスのために時間を割いてばかりもいられまい。「勉強して」の一言で済む簡単なことではない。高齢警備員が1人でeラーニングに向き合えるようになるため、警備業協会、個別企業は何らかの支援を用意してもらいたい。

先に挙げた複数の導入メリットを考えると、今後eラーニングを避けて通ることは難しい。コロナの感染者数は下火になり、緊急事態宣言下で苦境に陥った飲食業界などから警備業に流れてきた働き手が、最近逆流しはじめているとの声も聞かれる。警備業の人手不足に拍車がかかりそうな情勢であり、経営効率を上げるeラーニングに早急に取り掛かるべきである。

【福本晃士】

模範警備員2021.11.11

活躍支える環境づくりを

6回目を数える「警備の日」全国大会で「人命救助、初期消火、容疑者の確保等の顕著な功労があった模範となる警備員」の表彰が行われた。

模範警備員は、すでに警察、消防、自治体などの表彰を受けた全国の警備員の中から特に選ばれた人たちだ。昨年までに計50人が表彰された。今年は14人が、都道府県警備業協会から全国警備業協会に報告された58人の中から選ばれた。模範警備員の表彰事例は、日常の安全安心を守る「エッセンシャルワーカー」をさらに力付けるものだ。

警備員は、ベテランも新人も誰もが突然、非常事態に直面して対応を迫られる可能性がある。日ごろから胸骨圧迫やAEDなどの心肺蘇生法、初期消火、護身術などの訓練を重ね、いざという時に最善の行動が取れるよう対応力を高めることが重要だ。

今回の表彰者のうち、都内の銀行で立哨していた警備員は、来店した男に要件を聞いたところ相手は刃物を取り出し、金を要求。とっさに距離をとり、相手を冷静に観察し、隙を突いて取り押さえ「私人逮捕」した。

奈良市内を社用車で移動していた警備員は、中型バイクと車の事故現場に遭遇、バイクの運転者を救護しようとしてエンジン付近の出火を発見した。“惨事につながる恐れがある”と判断、社用車の消火器を使って消し止め、交通誘導を行って二次災害を防いだ。他の表彰者も、それぞれの局面で的確に判断し迅速に行動した。

全警協ウェブサイトの「警備の日」ページには、これまでに表彰された模範警備員の方々の写真と功労の概要が掲載されている。こうした表彰事例は、業界の共有財産といえる。警備会社の教育担当者は、警備員に表彰内容の周知を図り、非常時の対応に認識を深めることが大切だ。

もし表彰事例のような緊迫した状況に直面した場合、どのような行動をとって他人と自分の安全確保を図るか。シミュレーションを行って実技訓練に励むことは、業務の質を高めることに結び付く。

模範警備員の方々に本紙は例年、インタビューを重ねてきた。どの方からも共通して伝わってきたのは、他人の生命を守ろうとするプロフェッショナルとしての使命感、スキルアップに取り組む向上心、加えて上司・同僚との信頼関係、職場への愛着であった。

2018年に表彰された列車見張業務に従事する模範警備員は、その朝、遮断器が降りた踏切内でベビーカーの母子が転倒するのを見て接近中の列車を停止させて助け、同じ日の午後には、踏切内に閉じ込められた車を助けた。「素早い判断と行動が必要であり、身体感覚を鋭敏に保つため体調管理は必須です」と振り返った。

警備員の活躍を支えるために会社は、訓練の充実を図るとともに、疲労で身体感覚が鈍ることのないよう過重労働を解消し十分な休憩時間や交代要員を確保することが欠かせない。自社に愛着をより深め、いきいきと業務に取り組める環境づくりが大切になる。

新型コロナ感染者の数は減少に向かい、感染対策を継続しながら社会・経済活動が再開されつつある。警備業の需要も増えていく中で<明日の模範警備員>が自社から生まれることを念頭に技能向上を促進し職場環境の整備を進める取り組みが広がれば、警備業界のさらなるレベルアップにつながるに違いない。

【都築孝史】

五輪遺産2021.11.01

業界みんなで役立てよう

伝え聞くところによると、じかに謝辞を述べることは、本人のたっての所望でセットされたという。過日あった全警協・理事会における米村敏朗氏のあいさつである。

「東京2020」の組織委でチーフ・セキュリティ・オフィサー(CSO)を務めた米村さんは、大会の安全を支えた警備JVチームに対し、自分の言葉で労をねぎらいたい強い思いに駆られたのだろう。

治安にかけてはプロ中のプロを自他ともに認めるこの人は、「想像と準備」のフレーズを織り込みながら、「警備業の皆さんには大会の安全を支えていただいた」と、およそ30分間にわたる熱弁で謝意を伝えた。当初は15分間ほどの予定だったそうな。

全警協の中山泰男会長は、挨拶で「五輪遺産(レガシー)」について具体的に言及、質の高い警備内容をたたえた。中でもITシステムの利用、適正な契約締結と単価獲得は、これからの警備業界の発展に欠くことのできないキーポイントになると評価した。

中山さんが指摘したITシステムが最大限に効果を発揮した一つが、交代制の勤務開始、終了の「上番(じょうばん)下番(かばん)」を詳記した速報体制だ。組織委推進のeラーニングとリモート研修で習得した初のシステムは、業務管理の正確さに加え、迅速な警備料金とキャンセル料金の支払いに貢献したという。

この背景には、警備JVが組織委、参加組合員と交わした詳細な契約条項が生かされた。大会は1年延期、無観客となったが、キャンセル料は規定どおりに支払われた。適正な警備単価の契約は質の高い警備業務につながった。米村さん言うところの「想像と準備」のたまものであろう。

9月初めのことだった。仙台市に本社を置き、全国展開する経営者から聞いた話が思い出される。次のようなものだ(9月1日号の当欄から引用)。

「五輪の準備には費用が掛かったけど、念には念を入れてやりましたよ。社員は頑張ってくれました。誇らしい思いです。会社の遺産として今後に生かしたい」

警備JVに参加したのは553社。各社の「東京2020」での経験は、ハード、ソフトの両面で、これからの社業の発展に役立つであろうことは論を()たない。

筆者は今、前出の理事会での両氏の言葉と経営者の声を思い出すにつけ、強く感じることがある。それは、五輪の遺産がJV参画会社だけでなく、全国の警備会社すべてが後々の活動に役立つものとして取り入れ、活用してもらいたいということである。

リーフレットで周知を

警備JV事務局では、「東京2020」にまつわる全記録をまとめているという。思い付くのは、これとは別に簡潔なリーフレットの作成だ。参考になるのは全警協が業界発展のバイブルと位置付けて平成30年に策定した「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」だ。別途配布した3つ折り6ページのリーフレットは、分かりやすいと好評だった。

この例に習えば、表紙タイトルは『五輪レガシーの活用』とし、加盟全社に向けて、さまざまなノウハウをイラスト入りで伝えるのはいかがであろう。項目はITシステムを利用した上番下番、契約条項のポイント、キャンセル料の規定、eラーニング教育の手法などだ。あまねく警備会社がレガシーの内容と実例を共有して実践するというものである。

五輪遺産の活用は、成長戦略を検討する委員会の「ICT・テクノロジーの活用」、「経営基盤の強化、単価引き上げ策」など5つのテーマを推進する一助になるはずだ。更には、業界が目標とするエッセンシャルワーカーとしての地歩を固め、体感治安の向上に寄与すると思われる。

【六車 護】