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「人材確保と定着」我が社の取り組み⑲2016.11.21
杉田敦さん (国際パトロール 常務取締役)
休みをちゃんと取る
――最近の採用実績は。
高卒と大卒を合わせて毎年新卒を10人程度採用しています。うち1~2人が女性です。採用のピークは平成20~23年で多くの方が入社しましたが、最近は大学等への進学率が高まり、高卒の就職希望者が減少、また県外への就職率が高くなり、苦戦しています。
新卒の採用を始めて約20年になります。きっかけは「警備は人なり」「良質な警備の提供」を企業理念とし、若い力を借りて地元のために地元の人が活躍できることを目指していたからです。また、地方での人口流出に少しでも貢献できればと新卒採用をスタートしました。
継続的な新卒採用により、当社の社員構成比は30歳までが30%、30歳以上50歳未満が30%、その他の年齢が30%と、バランスのいい年齢構成となっています。また、営業所の所長など管理職の大半が新卒採用者です。
――定着のためには何を。
最近は福利厚生に力を入れています。スポーツ大会やバーベキュー大会等の「レクリエーション」を行い、若い社員の心の引き止め、結束力を高めることに役立てています。また、募集要項にも「各種レクリエーションを実施しています」と書いていますが、応募者からは「最近、レクリエーションをしている会社はあまり見かけない。そんな環境のある会社は信用できる」と、採用にも効果があるようです。
――社会保険についてはいかがですか。
社会保険は、会社設立当初から原則全員加入です。現在は、アルバイト社員6%を除き、全ての社員が社保に加入しています。
当社の社保加入率をお客さまも知っているため、多くの発注が寄せられています。社保にはお金がかかりますが、加入率が高まることで仕事の幅が広がることは間違いないと思います。人手不足の昨今、社保加入率、検定合格者率が高い会社を、お客さまが大切にしていると感じます。その中で、良い取引ができ、給与が上がり、定着につながり、更に良い人材が集まる。そのようなスパイラルになりつつあるのではないでしょうか。しかし、まだ他の業種に比べて賃金が低く、社員の賃金が上がるための努力は必要だと考えます。
――社内に「男女イキイキ職場推進部会」の設置や「女性メンター制」を導入しています。
警備業は空港保安業務を除き、特に2号業務では絶対的に女性が少ない状況です。せっかく入ってきた女性が辞めてしまう要因の一つに「相談の窓口がない」ということがあります。そこで、何でも相談できる人を「メンター」として営業所などに配置しています。
メンターには、若い社員が話しやすい中間管理職が当たり、さまざまな悩みの相談相手になっています。例えば、女性への外部からのセクハラやパワハラへの対応方法など、女性ならではの相談にも乗っています。
――女性がいることの利点は。
女性社員が全くいない状況から現在22人になりました。当社に女性警備員がいることをお客さまも知るようになり、「こうした現場、場面では女性を使いたい」という声も多くなっています。当社は、竿燈祭りや大曲の花火、駅伝など県内で行われる主だった催事の警備を担当していますが、「女性を」という現場は間違いなく増えてきています。
――社内制度の整備も必要です。
制度整備は万全です。育休は現在、男性社員が取得しています。
女性社員に「辞めないで勤めてもらう」ためには体制整備は不可欠です。育休などを取得する・しないかは次の段階です。まずは制度をきちっと作ることが必要だと考えます。
――労働時間については。
原則週休2日制です。しかし、ユーザーの事情で常に休みがとれる訳ではありません。そこで、管理職には社員が休みを取得できているかを管理させています。
具体的には、勤務予定表に稼働と休暇の日数を両方示すようにしています。そのため、休暇を取れていない社員がいれば「休みをちゃんと取らせなさい」と、管理職は本社から厳しく指導されます。
また、受注管理も週間、月間、半年、年間で行い、日曜日稼働もあるため1日当たり80%の稼働率を目安とし、週休2日制を実践しています。各営業所についても、稼働率は毎月報告させ、出勤が多い社員と少ない社員のそれぞれの理由についても報告させています。何よりも今は、休みがしっかりしていないと人は集まりませんから。
「人材確保と定着」我が社の取り組み⑱2016.11.1
天間惠美子さん(エム・エフ・ティ 代表取締役)
希望聞き勤務シフト調整
――近年の採用状況を聞かせて下さい。
東日本大震災の前年(平成22年)には高校の新卒50人が入社しました。リーマンショックの影響で就職氷河期と言われた頃です。しかし、ここ数年は5人から10人ほどです。警備業を志望する新卒者を大手警備会社が確保する傾向が、特に強まっていると感じます。
私は高校や専門学校を訪問して就職担当の先生とよく話しますが、警備業界と介護業界の求人難は強く実感されます。しかし採用した人を大事に育てることで学校関係者の信用が高まり、求人に協力してもらえると思います。
――毎年3月下旬から4月上旬にかけて新入社員が、入社2、3年目の先輩社員とともに「合宿研修」を行っています。
約2週間、寝食をともにする中で新人が社会人の自覚を持ち、先輩と良い人間関係を結ぶことが目的です。
人的警備は、人を大切に思う気持ちがなければできません。人を大切に思う原点には感謝の気持ちがあると考えます。そこで就職の節目に、親や周囲への感謝の気持ちを新たにしてほしいと考えて合宿研修を企画しました。震災の年以外は毎年続けています。
――合宿中は4、5人の相部屋で、清掃ボランティアと3キロのマラソンを行い、座学と武道、グループディスカッションを体験します。
携帯電話は持ち込み禁止にして仲間同士で対話させます。この合宿の様子はプロのスタッフが撮影し、音楽とナレーションを入れてドキュメンタリーDVDに仕上げ、高校に持っていきます。
DVDを見て興味を持ってくれた生徒さんには、弊社の営業所を見学してもらって業務の説明を行っています。入社前に会社の雰囲気を知ってもらうことは大切です。
――警備員の定着のために必要なことは。
私は経理が専門でしたが、ご縁があって弊社の経営を決意し、まず“警備員の生活向上”を打ち出しました。
言うまでもないことですが経営者は社員とその家族に対する責任があり、社会保険加入は当然の義務です。昇給、資格など各種の手当、福利厚生の充実を図ることは不可欠です。
定着と言えば昨今は <介護離職>が社会問題になっています。私は、警備の仕事が好きなら辞めてほしくありません。同時に、後悔しないように介護することは非常に大切です。
先日は、自宅で両親の介護をしている社員と話し合って希望を聞き、介護にあてる時間を増やすために勤務を週5日から4日にしました。希望に応じて勤務シフトを調整することで働き続けることができます。介護や子育てを会社として応援する上で“柔軟さ”が重要になります。
「育休」は7年ほど前から導入しました。出産した女性警備員が職場復帰する場合は、勤務時間の融通がきいて体力の負担が少ないように、まずは内勤に配属します。雇用体制の整備と人材育成は、10年計画を立てる中で検証しながら取り組んでいるところです。
また、高齢の隊員に活躍してもらうためには健康管理が不可欠です。年に2回の健康診断に加えて、結果に応じて必ず再検査を受けさせたりフォローアップに力を入れています。弊社には親子、夫婦で長く勤めている隊員もいます。
――適正料金の確保について聞かせて下さい。
見積書は細かく作成し、料金の根拠を丁寧に説明して理解を得ています。お客さまと良いパートナー関係を続けていくためには、きちんと主張することです。料金が高くても、より確かな安全安心を求めて警備を <質>で選ぶお客さまは確実に増えています。
質の高い警備を行うためには、技能とプライドを持つ隊員を一人でも多く育てることです。人材育成には経費がかかり、原資となるのは適正料金です。低価格競争からは安全も発展も生まれません。
2号警備で、雨天中止や先方の都合で中止になる場合は、話し合って相応の料金を確保するようにしています。自社と警備員を守るためには絶対に必要なことです。
――近年は都内などで国際的なイベントの警備も行っています。
若い警備員にとって新しい経験は良い刺激になり、モチベーションが上がるようです。
これは警備業に限りませんが、一つの仕事を長く続けて技能を向上させるためには、刺激を取り入れたり視野を広げることが重要です。視野を広げる機会を社員に与えることは、経営者の役割と考えています。