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警備業ヒューマン・インタビュー
――多目的車両開発2020.07.21

柴田智和さん (トスネット 企画開発部 執行役員部長)

高品質警備の「ツール」

<<警備業向け多目的車両「マルチパーパスビークル(MPV)」の開発責任者を務めました>>

「MPV」は昨春に開発をスタートして今春2台が完成しました。車両の装備品についてはこれまでの警備経験からイメージができていましたが、最近は機能性の優れた機器が多く、選ぶのに苦労しました。

<<車両開発の目的は?>>

当社はこれまで、東北6県で大規模な観光事業や祭事、プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルス優勝やフィギアスケート羽生結弦選手の凱旋祝賀パレード、世界から要人が集まる国際会議などの警備に関わり、幹線道路を交通規制してきました。

規制する際には市民に向けて告知が必要です。県警本部では大型電光掲示板を使って対応してきましたが、数が足りない状況でした。当社は多くのイベント警備に携わる中で今後も電光掲示板付きの車両が必要になると判断し、多目的車の開発に踏み切りました。

掲示板は環境に合わせたさまざまな規制告知や、イベント開催時のアピール、犯罪への注意喚起など幅広く活用できます。スマートフォンで設定して、文字やイラストを自在に映し出すことが可能です。

<<災害時には車両から電力供給できます>>

9年前に発生した東日本大震災では当社の隊員1人が殉職しました。被災現場の警備会社として、震災直後から緊急復旧工事や警戒警備に係る業務に携わりました。今回、多機能車を制作する際にも「災害支援」に向けた機能を盛り込むことは、当社の会長と社長をはじめ社員全員の強い思いからでした。

当社のグループ会社「I・C・C インターナショナル」は、低騒音で電気を安定して供給できる電源車を、札幌市・横浜市・宮城県七ヶ浜の営業所に合計56台を所有しています。主にコンサートや野外イベント、テレビ中継、総合病院やインテリジェントビルの停電工事の際に電源供給を行っていますが、昨年は大型台風による千葉県内の大規模停電で緊急出動しました。今後も災害対応の支援に貢献します。

<<特殊車両のほかに多くの製品を扱っています>>

すべての製品に共通しているのは「安全安心」を目的としていることです。製品は自信を持ってお勧めできる高品質な物ばかりですが、ノルマを決めて売り込むような営業活動は行っていません。7月7日に開いた内覧会のような機会に製品を知ってもらい、ニーズがあったときに活用していただければと思っています。

当社の経営理念に「不論勝敗」「論是非」「不争一日」「争千秋」があります。つまり「勝った負けた得した損しただけではなく、やっている仕事が正しかったかどうか、今日良かったとか一年良かっただけではなく、長期計画を持って事にあたる」という視点に立って地域に貢献し、企業価値を高めることを目指しています。

当社は「人」を警備の“要(かなめ)”とし、マンパワー主体の警備事業を展開しています。そこに製品や車両という「ツール」を組み合わせることで、より質の高い警備を展開していきたいと取り組んでいるのです。

<<警備業に関わるようになった経緯は?>>

私の好きな「スポーツ」が業界との“縁”を取り持ちました。私は高校からラグビーを始め、大学でもラグビー部に籍を置きました。1年生のときに地区対抗リーグの全国大会で優勝し、4年生ではニュージーランド代表・オールブラックスの育成チームと対戦する貴重な経験もしました。そのときの“名誉の負傷”が今も顔に残っています。

卒業後は実業団ラグビーに進む道もあったのですが、アルバイト先で当社の社員から「トスネットは長野オリンピックの会場警備を行う。警備業務を通じてスポーツイベントに貢献する機会も多い」との話を聞き、仕事に興味を抱いて就職を決めました。

長野オリンピックの警備は入社直前で関われなかったのですが、県内の総合モータースポーツ施設「スポーツランドSUGO」ではモータースポーツの警備を多数経験しました。

さまざまなプロスポーツイベントの警備に20年以上関わり、得たノウハウは来年に延期された東京五輪・パラリンピックの舞台で活かしたいと思っています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――イメージ向上2020.7.11

長谷川功一さん (システムガードサービス 代表取締役社長)

「制服リサイクル」始めた

<<警備業のイメージを変えるための新会社を設立したそうですね>>

私は以前から警備業は他人の財産や生命を守る崇高で必要不可欠な職業であるのに、重労働などといったイメージがあって人手不足が続いている状況を悔しく思っていました。しかし自分一人で何ができる訳でもないと諦めていたところ、2010年に埼玉県の青年会議所(JC)に入会して考えが変わったのです。JCにいる同年代のさまざまな業界の経営者たちは、手を取り合って自らの業界を良い方向に変えようと奮闘していました。

私も警備業のイメージを向上させ、警備の仕事が子供や求職者の憧れになるように仕向けたいと考えました。まずは自身が行動を起こすために2018年12月に警備ログ(さいたま市)を立ち上げたのです。メンバーは社長である私一人です。

イメージ向上のために行っているのは制服のリサイクル事業です。多くの警備会社は、使用済み制服を産業廃棄物として有料で焼却処分しています。費用が発生する上に、燃やす際に二酸化炭素を排出して地球温暖化を加速させる一因となっていました。

<<どのようにして制服をリサイクルするのですか>>

当社と提携している制服会社の制服を採用してもらい、古くなったものは当社が無料で回収します。それを提携工場で熱処理し、ポリエステル繊維を抽出し原料にして新たな制服を作ります。そうすることで、通常の制服廃棄、新規作製と比較して二酸化炭素の排出量を従来より55パーセント減らすことが可能となります。

警備会社や警備業は地球環境に配慮しているとアピールすることができる上に、制服の価格も通常のものと変わりません。このようにして作られる制服は全業界を通じて少なく、社会から注目されると確信しています。

<<これまでに何件ぐらいの契約がありますか>>

昨年4月の事業開始から多くの問い合わせがあり、現在の契約数は100社ほどです。そのほとんどが建設業や医療関係といった他業界からのものでした。警備業界以外には特に営業活動をしていませんが、新聞や雑誌に取り組みを取材された記事を読んだ方からの問い合わせが多いですね。特に環境問題に敏感な建設業からの引き合いが目立ちます。

大手を中心とした警備会社に提案に行くと、担当者は「良い事業ですね。個人的には賛同します」と言ってくれます。しかし企業として決まった発注先があるため、変更することは難しいといって断られてしまいます。私としては、自らが手掛けることにこだわらず、どの制服会社が同じことを行っても構いません。ただ警備業のイメージを向上させ、人手不足解消や業界の地位向上につなげたいのです。

<<新会社立ち上げに当たり、前社長で代表取締会長の長谷川良友氏の意見は?>>

父でもある会長からは「このような変化が激しい時代だからこそ、挑戦は大切だ」と賛成してくれました。一方で、継続について見極めも大事だとのアドバイスを受けました。

同業の仲間に相談すると「警備業界は閉鎖的だから、なかなか変わらないよ」と心配されやめた方がいいと言われました。しかし最近では趣旨に賛同してくれる仲間ができたり、「いい刺激になる」と言ってくれる同業者もいます。

<<リサイクル事業は理念を賛同してもらえても、取り入れるとなると難しいのですね>>

現時点では特殊ともいえる事業ですが、近い将来には警備会社にとって必須の取り組みになるかもしれません。7月からスーパーマーケットなどでビニール袋が有料化されるなど、環境に対する社会の意識は高まっています。将来、自治体の警備業務の入札において環境に対する取り組み姿勢が評価されることも考えられます。そうでなくとも、未来の社会のために環境に配慮することは必要ではないでしょうか。

私は制服リサイクルだけで、警備業のイメージがすぐに向上するとは思ってはいません。警備料金の上昇や安全衛生の徹底など、警備業界には取り組むべき課題が多くあります。しかし、できることを少しずつやらなければ何も変わりません。警備業界に少しでも貢献するために、これからもチャレンジを続けます。

警備業ヒューマン・インタビュー
――健康経営2020.7.01

阿部充さん (セキュリティ庄内)

万全の体調で能力発揮

<<社員の健康増進を図る「健康経営」に取り組んでいます>>

「健康経営」は、働く人の健康を重要な経営資源と捉えて、病気予防や体調管理など、心と身体の健康づくりを進めることです。

当社は申請を行って今春、経済産業省と日本健康会議から「健康経営優良法人2020・中小規模法人部門」の認定を受けることができました。この部門で認定を受けた山形県内の警備業者は当社だけと聞いています。

社員のうち7割が50歳未満で平均年齢は45歳、交通誘導警備がメインの会社としては比較的若い社員が多いと思います。若者も高齢者も、能力を十分に発揮するため体調を万全に整えてほしいと考えます。そのために、疾病の早期発見、生活習慣病などの予防に会社ぐるみで取り組んでいるのです。社員からは「健康づくりの効果で仕事に集中できる」などの感想が寄せられます。

定期健康診断は、再検査が必要となった時に受診してこそ意味があります。しかし、再検査を受けようとしない社員もいます。再検査を受けることは自分自身と家族のためになる、などと言葉を尽くして説得した結果、再検査の受診率は100パーセントを達成しました。

全社員に無記名での健康アンケートを行って、集計・発表します。食生活の改善や高血圧予防、睡眠時間の確保など、自分の健康に対する意識を高めてもらうことが目的です。コロナ禍の前には、運動施設の回数券を支給して気持ち良く汗をかいてもらい、腰痛予防体操などの社内セミナーも開いて、健康づくりを打ち出してきました。

<<昨今はコロナ対策として経営側が警備員の健康状態に留意することが重要課題となっています>>

健康経営の一環として数年来、インフルエンザやノロウイルスなどに“感染しない、させない”取り組みを続けてきました。社内にアルコール消毒液を置いて、手指の消毒を社員に習慣付けてきたことが今回のコロナ対策に役立っています。インフルエンザ予防接種は、昨年から会社が費用負担して社員に喜ばれました。

健康維持には、メンタルケアも欠かせません。職場のセクハラ・パワハラを防ぐため、社会保険労務士を講師に招いてセミナーを開いています。社員が互いを気遣うことによって、より良い人間関係が生まれると思っています。求職者から安心して選んでもらえる労働環境の整備を進める中で、今回の健康経営優良法人の認定は、新卒者などへの良いアピールになります。

<<健康経営の出発点は、どのようなものでしたか>>

創業者の父(阿部晴男代表取締役会長)は「質の高い業務サービスを、それにふさわしい適正料金で提供すること」に取り組んできました。質の高い業務提供のためには、警備員が誇りを持って働ける環境づくりが大切になります。私と弟(阿部学常務取締役)、社員一丸となって意見やアイデアを出し合い職場環境の改善を進めてきて、その到達点の一つが健康経営なのです。

今夏は警備員の熱中症予防のため、腰のベルトに取り付ける空調ファンを導入しました。小型の高速ファンが外気を取り込んで制服の内側に送風し、汗を気化させて身体の熱を放出する仕組みです。

警備員の制服は、清潔に着られるよう洗い替えの予備を支給し、日焼けして見栄えが悪くなれば速やかに交換します。積雪に備え、冷凍庫作業用の滑りにくい防寒安全長靴を支給するなど、さまざまな取り組みを重ねてきました。

原資となる適正料金、人材確保と処遇改善、職場環境改善、健康経営、こうした全てがリンクして企業は成長できると思っています。

昨今はコロナ禍でイベント警備の中止や施設警備の業務が縮小される中、当社の交通誘導警備は今のところ影響は少ないですが、予断を許さない状況と認識しています。自社の取り組みを着実に進めることが難局の克服につながるに違いありません。

<<山形県警備業協会の青年部会長として予定している活動は>>

春以降、コロナ予防で会合を開けない状況でしたが、活動再開に向けたプランを立てています。昨年は清掃ボランティアを行ってフェイスブックで広報しました。今後は地域貢献活動に加えて、警備業の課題克服や将来像をテーマとする講演会を企画しています。各社の経営者にご理解いただき、新たに仲間となる青年部会員を増やしていきたいと考えています。