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警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑧2021.03.21

山本昇一さん 原口健さん 吉田和彦さん(にしけい)

消火器連射、延焼防ぐ

山本昇一さんと原口健さん、吉田和彦さんの3人は2019年11月28日、福岡市内でイベント警備中に店舗の火災を発見。119番通報後、初期消火を行い消防車を誘導、見物客を整理して二次災害発生を防いだ。

<<全警協会長から模範警備員表彰を受け、博多消防署長から感謝状が贈られました。おめでとうございます>>

山本 ありがとうございます。上司や同僚から「この3人ならば的確な対処ができて当然だ」と身に余る言葉をいただき、恐縮しています。

原口 延焼を防ぐことができ、けが人が出なくてホッとしています。

吉田 母と息子が「社会のために働いて評価を受け、誇らしい」と言ってくれて、感無量でした。

<<消火活動はどのように行ったのですか>>

山本 私たち警備隊40人は当日、博多区内の川端通商店街で行われるクラッシックカーラリーのイベント警備に従事しており、私は警備隊長を務めていました。いよいよイベントがスタートする時に、原口隊員から「商店街の店から白煙が上がっている」との報告を受けました。

原口 3人で消火器を手にして現場に駆け付けるとステーキ店内から火の手が上がっており、店舗従業員の方が客を店外に避難させ消火活動中でした。私と吉田隊員は消火器を噴射して消火活動を行いました。山本警備隊長の指示で、応援に駆け付けた警備員5人がハンドマイクを使った通行人の整理や消防車の誘導を行いました。

吉田 火の手は強かったのですが、イベント警備のために消火器を多数用意していたことが幸いしました。本部から十数本を取り寄せ、消火剤が尽きたら次の消火器を噴射することを繰り返し、消防車の到着前に鎮火できました。

<<イベント開催中で、人出は多かったのでは?>>

山本 当社はイベント警備を多く手掛けているため、こうした状況を想定した訓練には力を入れています。火災現場に到着してすぐに、消火活動と群衆整理、消防車の誘導が必要と判断しました。動揺することなく、警備員に的確な指示ができました。私は2005年の「福岡県西方沖地震」で、福岡市内の百貨店で避難誘導を行った経験も生きました。

原口 警備員一人ひとりが日ごろの訓練から緊急時への対処方法を理解しており、火災現場でも各々が役割を分担しスムーズに対処できました。買い物客や見物に集まった人が誘導指示に従ってもらえたのは、警備員の“制服の力”も大きかったと思います。

吉田 川端商店街は多くの観光客や買い物客でにぎわう中洲地区に位置しており、当日も多くの人が行き交っていました。負傷者が出なくてよかったです。

<<商店街組合からも感謝されたと聞きました>>

山本 商店街では2010年に飲食店からの出火によって、8棟10店舗が焼失する惨事がありました。商店街の代表からは「延焼することなく鎮火でき、負傷者がいなかったことに胸をなでおろしている。ありがとうございました」との言葉をいただきました。

原口 クラッシックカーのイベントは予定通り開催できました。契約先であるイベント主催者からは「火災の被害がもう少し大きければ中止も検討した」との話もありました。

<<今回の経験を今後の業務にどのように生かしますか>>

山本 業務以外の緊急事案に的確に対応することの重要性を改めて実感しました。後輩たちには「常に周囲に注意して異常を見逃さず、事件事故が発生した場合は敏速かつ的確に対処するよう心掛けてほしい」と伝えます。

原口 火災現場に立ち会ったのは初めてでした。煙に覆われると息ができないことは知っていましたが、その恐ろしさを実感しました。私は普段は施設警備の警備員教育を行っているため、指導に活用します。

吉田 警備業は人の身体と財産を守る業務であることを再認識しました。また火災現場では、周囲にいる人が警備員の一挙手一投足に注目していると感じました。常に人から見られている職業だと肝に銘じ、業務中だけでなく日常の言動にも気を配ります。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑦2021.03.01

川野稱一郎さん 荒木昭人さん (アンゼンサービス警備)

コンビニで包丁男「脇固め」

川野稱一郎さんと荒木昭人さんは2019年11月、鹿児島県薩摩川内(せんだい)市内のコンビニエンスストアに包丁を持って入店しようとした男を2人で取り押さえ、警察に通報して身柄を引き渡した。

<<全国警備業協会から模範警備員表彰を受け、鹿児島県警備業協会と薩摩川内警察署からは感謝状が贈られました。おめでとうございます>>

川野 ありがとうございます。無意識に対処した結果をこのように評価していただき、恐縮しています。

荒木 立派な表彰状を手にして、今まで以上に真摯に業務を遂行していこうと気持ちが引き締まりました。

<<死傷者が出てもおかしくない、間一髪の状況でした>>

川野 その日はコンビニの新装オープンで、大勢のお客さまが来店されていました。駐車場の出入り口で交通誘導警備を行っていたところ、20代ぐらいの男性が右手に刃渡り約15センチの包丁を持ち、私の近くを通って店舗の方向に歩いていきました。

私は「お客さま」と呼び止めましたが、男は振り向きもせず無言で入り口に歩いていきます。店内には女性や高齢者などたくさんのお客さまがいましたから、男が包丁を振り回すと取り返しがつかない事態となります。「入店を阻止しないと大変なことになる」と強く思いました。

<<包丁を持った男を相手にすることは怖くなかったですか>>

川野 私は元警察官で9年前に定年を迎えました。現役時代にはこうした状況を想定し現行犯人を制圧・拘束するための「逮捕術」を学んでいました。

警察官であれば警棒を使うところですが、そのときは誘導灯のグリップ部分を当てて包丁をはたき落としました。そして相手の片腕を自分の脇に入れて肘を極める「脇固め」で駐車場に倒し込みました。

荒木 私は川野さんと反対側の駐車場出入口で交通誘導業務を行っていました。川野さんが男性を制したのを見て「何事ですか!」と走っていきました。包丁が落ちているのを見て状況を把握し、男が再び手にしないよう包丁を遠くへ蹴り飛ばして、川野さんに加勢し男を押さえ込みました。

川野さんは携帯電話で警察に通報しました。男は終始無言でしたが、若くて力がありそうでした。いつ立ち上がって私を振りほどき、包丁を拾って向かってくるかわかりません。緊張しながら精一杯の力で男を押さえ続けました。警察官が到着するまで10分ほどだったそうですが、私には果てしなく長く感じました。パトカーのサイレンが聞こえてきた時は、正直ホッとしました。

<<店内は、騒然となっていたでしょう>>

川野 男の制圧に必死で、周囲を見渡す余裕はありませんでした。こうした経験は警備員になってから初めてのことで、警察官時代にもありません。

荒木 私も初めてです。あとで聞いた話では男は「誰でもいいから刺したかった」と供述していたそうです。当社の現任教育や検定資格試験でこうした状況の対処については学んでいますが、けが人が出なくてよかったです。

<<ご家族や周囲からはどのような声がありましたか>>

川野 女房から「あまり無茶してケガしないでください」と心配されました。当社社長からはわれわれ2人に“金一封”をいただきました。

荒木 今回の事件を通じて妻には改めて、社会の安全安心を守る警備業の仕事について知ってもらうことができました。「何事もなくて本当によかった」と言ってくれました。

<<今、事件を振り返って感じていることは?>>

川野 昔、朝礼時や寒稽古で反復練習してきた逮捕術が、今ごろ役に立ちました。警備員は本来、自分の身を守ることを第一に考えなければいけません。しかし、もし男があのまま入店していたら大変な事態になっていました。状況をみて判断し、適切な対応がとれるよう常にシミュレーションすることが大事と思います。

荒木 不審な行動を察知する目と、冷静な対処が必要だと感じました。業務内容にかかわらず「いつ何時、何が起こるかわからない」という心構えで配置につくことが重要です。