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警備業ヒューマン・インタビュー
――教育功労者表彰2022.04.21

福田博さん(東京警備保障)

講師人生、毎朝の情報収集

東京警備保障の福田博さんは昨年11月、全国警備業協会会長・警察庁長官の連名で警備業教育関係等功労者表彰を受けた。1999年に特別講習講師として全警協から委嘱を受け19年余にわたって教育活動に尽力。2001年から警備員指導教育責任者講習講師、10年からはセキュリティプランナー講習講師として業界の発展に貢献している。

<<警備業で長く教育に尽力した功績が、高く評価されました>>

多くの人たちとの出会いがあり支援を受けながら、講師を務めてきました。身に余る評価を受け、感謝の気持ちで一杯です。

私は東京警備保障に入社して茨城県のつくば支社に配属となりました。その翌年に指導教育責任者講習を受講したときに、ある講師の講義を受けて感銘を受け「自分も講師を志したい」と強く思ったのです。

<<どういうところに感銘を受けたのですか>>

講師の人を引き付ける話法に圧倒されました。受講者が話をどのぐらい理解しているか確認しながら講義を進めていく姿勢も見事でした。

後に学んだことですが、能楽の役者であり作者でもあるは、自分の視点と他者からの視点の両方を持ち、客観的にかんして全体を見ることの重要さを説いたそうです。これを「けんけん」といいますが、優れた講師は無意識のうちにそれを実践していると思います。

施設警備の前身である「常駐警備」の検定が1999年にできて特別講習が始まり、私は「講師募集」の案内を目にする機会がありました。即座に「応募しよう」と思い、茨城県警備業協会の推薦をいただいて委嘱を受けることができました。常駐警備に続いて「交通誘導警備」「貴重品運搬警備」などの特別講習の講師も担当するようになりました。

公安委員会から依頼をいただいて指導教育責任者講習の講師を務めることになり、私がかつて感銘を受けた講師と同じ教壇に立てたときは感無量でした。

<<入社2年目に受けた講義が、講師人生の原点となりました>>

茨城警協のさまざまな研修会でも何度か講演を行う機会に恵まれ、そこで新しい気付きがありました。それは講習と講演では違いがあるということです。

講習は「検定資格取得」などの目的があるので受講者は“聞く姿勢”で講義に臨みます。しかし講演は論題に合わせて聴講者自身に、それぞれの立場に合わせて考えさせなければならないという点で、講師の力が真に試されることを知りました。「我見と離見」が一層求められるのです。

<<警備員教育の新たな取り組みとして、今月から「全警協eラーニング」がスタートしました>>

2019年の警備業法一部改正を受けて、全警協が取り組むeラーニング導入は画期的です。インターネットの環境がある場所であれば、時間を選ばず質の高い教育を均一に、安く受講することが可能だからです。新卒の人や他の業界にいた人など、警備業の知識がない新任教育用としては特に優れた方法と思います。

全警協eラーニングは現在、施設警備業務編と交通誘導・雑踏警備業務編が提供されています。新任教育用10時間、現任教育用6時間のコースですから警備業法で定める警備員教育時間の100%をカバーするわけではありません。残りの時間は警備員の業務や各社の方針に応じて必要な知識や実技を習得させる必要があります。eラーニングと対面式の教育を組み合わせることで、効果的な警備員教育を実現できると思います。

<<東京警備保障は設立57年を迎えて「伝統と革新の融合」の理念を掲げ、最新テクノロジーを活用した警備業務を進めています>>

今後の警備業務で、先進技術の活用が広がることは間違いありません。他の業界がセキュリティーシステムを提案し参入してくることも考えられ、業界の枠を超えた企業競争が始まる可能性も考えられるでしょう。新時代のシステムであっても管理・運用するオペレーターが必要になり、警備の費用対効果を考えたときに顧客から見て魅力的な提案ができるかがポイントになるかと思います。

警備を取り巻く環境は日々変化していることから、講師は常に新しい情報をインプットすることが求められます。私は毎朝最低30分を情報収集の時間に充てています。先輩からの教示を受けて、国が発行する機関紙「官報」を見て法令公布などのチェックを日課にしています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑫2022.04.11

前川章さん(セコム兵庫本部)

火事場に突入、人命救助

セコム兵庫本部の前川章さんは、機械警備業務に従事していた2020年12月16日、コントロールセンターからの指示で向かった契約先マンションの一室で火事を消し止め、住んでいた高齢女性を避難させた。到着があと少し遅ければ、火の手が広がった可能性が高かった。

<<消防よりも早く火災現場に駆け付けたそうですね>>

仕事の途中、会社の車で信号待ちをしていた午後7時過ぎ頃、業務用の携帯電話が鳴りました。「異常発報を確認。急行せよ」とコントロールセンターから指示があり、2キロメートルほど先にある契約先マンションに向かいました。

到着後、管理人室で鳴り響いていた監視用機材の警報音を止め、その部屋のインターホンで異常を検知した部屋に連絡しました。ところが反応がなく、10階建てマンションの7階の部屋までエレベーターで上がり、玄関先のチャイムを鳴らしたりドアを強く叩いたりしましたが一向に中から応答がありません。ドアポストのふたを開け内側をうかがおうとした瞬間でした、ポストの穴から「白い煙」が出てくるではありませんか。

<<部屋にいた人は大丈夫でしたか>>

火の手が上がっていることが分かったので、コントロールセンターに通報し消防の手配を依頼しました。玄関の扉には鍵が掛かっていなかったので中に入ると、1メートルほど奥の壁際に80歳くらいのやや腰の曲がった小柄なお婆さんが煙の中でただ呆然と立っているのです。「早く外へ出ましょう」と何回も促しましたが火を見てびっくりしてしまったのでしょう、全く受け答えができません。何とか自力で歩ける様子だったので彼女の腕を握り、体を支えて玄関の外に避難させました。

「とりあえず煙を外に逃がさなければ」と思い、もう一度部屋に入って煙を払いながら手探りで進みました。すると左側の部屋で高さ1.5メートルほどの火柱が上がっていました。目を凝らすと「電気ストーブ」があることも分かり、周辺の絨毯に火が移っているのです。「これはまずい」と思いました。電気ストーブの近くには「布団」も見えたので、あと少し遅れていたら延焼を免れなかったかもしれません。

<<会社でも訓練をしていたと思いますが、消火作業は手際よく行えましたか>>

廊下の「消火器」を取って部屋に戻り、ピンを抜いてストーブ目掛けて放ちました。実際の火事の現場で使ったのはこの時が初めてです。およそ10秒で消火剤が空になることは研修を通じて知っていたので無駄なく火元に撒き、消し切ることに専念しました。

いま振り返ると「視界ほぼゼロ」の部屋の中によく入って行ったなと我ながら思います。火元のそばにあった布団もそうですが、煮炊き用のカセットボンベなどが近くにあったら大変でした。

消火器の扱い方は「ピンを抜くだけ」と簡単ですが、いざという場面で使えるかどうか、一度でも扱った経験があるかないかで違うでしょう。今回スムーズに初期消火できたのは会社で研修を受けていたからです。一人で消火できたことで自信につながりました。今後同じような場面に遭遇しても冷静に対処できると思います。

<<複数の表彰を受けましたね。家族も喜んだでしょう>>

おかげさまで「灘消防署」「兵庫県警備業協会」「全国警備業協会」から表彰されました。課長や同僚は「よくやったな」と声を掛けてくれましたが、両親からは心配されてしまいました。

入社する時、警備業という仕事について説明はしたので、ある程度理解してくれていたと思います。しかし、実際に起きている火事の現場に、それも煙の中に入っていくとは思っていなかったようです。ただ、人命救助で役立てたことはとても喜んでくれ、気を付けて頑張るよう励まされました。

当社で働く前は、デスクワークが肌に合わないため、県内の建設会社で現場監督をしていました。その後、警備業に再就職することになりましたが、外で体を動かせることや人と話したりできることが警備業を選んだ理由です。会社のネームバリューや福利厚生の良さに引かれた面もありますが、多くの顧客にさまざまな提案ができる今の仕事にとても魅力を感じています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――全警協表彰警備員⑪2022.04.01

大木愛太さん 村上湧基さん(コアズ千葉支店)

格闘のちコロナ濃厚接触

コアズ千葉支社の大木愛太さんと村上湧基さんは2020年8月20日、警備を担当していた千葉県佐倉市の大型商業施設で暴力行為を働いた男を取り押さえ、駆け付けた警察官に引き渡した。

<<不審な男が施設内で迷惑行為を繰り返し、その後暴力行為にも及ぶなど一時は騒然となりました>>

村上 巡回中の警察官から防災センターに、「施設の駐車場に不審な男がいる」と通報があったのですが、その時に私は館内巡回中で、防災センターから連絡を受け施設の管理担当者と2人で駐車場に急行しました。マスクもせず奇声を発し駐車場内で喫煙していたため、止めるよう注意しましたが全く聞き入れませんでした。その後、男は施設の西棟2階に移動したので後を追いました。

男は30代後半で身長が180センチ以上ある大柄な体格でした。言葉はほとんど意味不明で買物客に体当たりするような仕草もみせたのです。強い口調で注意しましたが「うるせえ!」などと言い、敵意をむき出しにしてきました。

さらに私に殴り掛かってきました。とっさに避けましたが男の手が左頬をかすめました。施設の管理担当者にも殴り掛かったので、私は男の体に体当たりし横倒しにしました。

大木 警察官から通報があった時は監視モニターで館内を監視中でした。その後も事態を見守っていたのですが、男が村上隊員に殴り掛かるのを見て「このままでは買物客にも被害が及んでしまう」と直感し、応援に向かいました。話が通じないなら力で押さえ付けるしかないと覚悟を決めました。

到着時は村上隊員と施設の管理担当者が格闘中でした。男は力が強く3人で体をうつ伏せにして押さえ付け、最終的に施設の管理担当者があと2人加わり計5人で対応しました。

<<凶器を持っているとは思わなかったのですか>>

村上 最初は凶器を持っているかどうか分からず、常に2〜3メートルの距離を保ち警戒を怠りませんでした。ただ、時間が経過しても凶器を出す様子がなかったので「おそらく凶器は持っていない」と判断したのですが、押さえ付ける時は十分注意しました。取り押さえてから約20分後に警察官が到着し身柄を引き渡しました。

大木 言動や態度から男は酔っ払いや薬物中毒ではないかと思ったのですが、逮捕後に精神疾患があったと分かりました。買物客に被害が及ばなかったことは何よりです。

<<男を警察官に引き渡して一件落着でしたね>>

大木 いえ、思いがけないことが待っていました。男は警察署に留置中、新型コロナウイルスに感染していたことが分かったのです。

男を押さえ付けるため20分くらい密着していましたから、対応した全員が濃厚接触者となってしまいました。男は大声でわめき続けていたため、飛まつも大量に飛んでいたと思います。私と村上隊員は14日間の自宅待機を強いられました。出勤はもちろん外出もできずつらかったです。幸い2人とも感染は免れることができました。

村上 当時はワクチンもまだ接種しておらず、感染の恐怖が押し寄せてきたのを覚えています。当時交際中で後に結婚した妻からは「災難だったね」といたわりの言葉をかけてもらいました。

<<勇敢な行動を評価され表彰されました>>

大木 会社、佐倉警察署、千葉県警備業協会と「警備の日」全国大会の計4回で会社から金一封もいただきました。

村上 表彰は光栄でしたが今回の件で改めて確認できたことがあります。再び同じような出来事に遭遇した場合、防護できるものを携行するなど凶器に対する備えを忘れてはならないということです。

<<警備という仕事の重要性を再認識したのではないでしょうか>>

村上 困っている買物客を助けた時など「人の役に立てた」ことを実感できます。お礼の言葉を言われた時はやりがいも感じます。私は以前飲食店に勤務していましたが、5年前に警備員になりました。警備員を続けているのは自分に合っているからです。

大木 私は建設関係の仕事をしていました。建設現場は天候に左右され仕事の波がありました。天候の影響を受けない施設警備員に転職して約12年になります。警備員を始めた頃と違い、今は機械化・自動化がかなり進みました。今後も機械化・自動化がさらに進むと思いますので、変化に対応できるよう能力を高めていきたいと思います。