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警備業ヒューマン・インタビュー
――長官会長連名表彰2023.08.21

吉野修司さん(北陸綜合警備保障 警備部統制指令室長)

特別講習で〝模擬爆発〟

<<特別講習講師を27年にわたり務め、6月に警察庁長官・全国警備業協会会長連名表彰を受賞されました>>

身に余る賞をいただき身が引き締まる思いです。私は「北陸綜合警備保障」の魚津営業所(富山県魚津市)に勤務し富山県警備業協会の特別講習講師を17年務めました。10年前に石川県金沢市の警送事業所へ異動してからは石川県警備業協会で同じく講師を務めています。

特別講習は、受講生一人ひとりが主役です。年齢や経歴、受講の動機もそれぞれ異なる受講生の能力、意欲を引き出すことが講師に求められます。私は学生時代に退屈な授業を聞いているのが大の苦手でしたので“分かりやすく記憶に残る講義”をめざしてきました。

難解な法律などを説明する時は、身近に感じられるよう警備現場での事例や時事ネタも織りまぜ、受講生の理解の度合いを確かめながら進めます。受講生をほめることは、能力と意欲を引き出すうえで有効だと思います。緊張している受講生は、ほめられると自信が生まれ、より前向きになるものです。特に実技などで良い点を積極的に見つけ、言葉を掛けるよう心掛けています。

自作した教材も活用します。施設警備で不審な段ボール箱を発見した時、どう対応するか。箱を警備室に持ち帰り、うかつに開けるのは危険だと意識付けるため、パーティー用のクラッカーを使い“箱を開けると模擬爆発”を体験してもらいます。微量ながら火薬が爆(は)ぜる音と匂いは、聴覚も嗅覚も刺激し印象に残るはずです。実際に警備現場で不審物を発見した場合、適切な対応ができることを願っての教材です。

交通誘導警備の講義では、複数のミニカーをマグネットでホワイトボードに貼り付けて道路の状況が一目で分かるようにして説明します。ポイントを強調する時は身振り手振りを交えメリハリを付けた話し方を心掛けています。

<<講師活動の原点にあるものは何でしょう>>

先輩方の取り組みを初めて知った時の驚きと感動です。

27年ほど前、私は勤続10年目で交通誘導警備2級や警備員指導教育責任者などの資格を取得し業務に励む一方で“警備の仕事は本当に自分に合っているか”といった疑問も感じていました。

そうした時、特別講習講師の方々と実技訓練を行う機会がありました。講師陣は会社の垣根を越えた「ワン・チーム」として受講生の合格率アップ、業界発展を目標に取り組んでいます。より効果的な指導方法を討議し、実技のデモンストレーションに汗を流す姿を見て「この理想に燃える純粋な集団は何なのだ」という驚きと感動で、心に火が灯る思いでした。

上司から「全国の講師候補者が集まる研修会に参加してはどうか」と背中を押していただき、都内で行われた厳しくも充実した研修を体験する中で「警備員の技能を高め警備業の社会的な地位向上をめざす」という教育関係者の理念に共鳴し、講師活動がスタートしたのでした。

講師になった当初は“難しいことを難しく”説明し、年配の受講生に向かって強い口調で指導していましたが、これは経験が浅く自信がないことの裏返しだったと恥ずかしく思います。

先輩・後輩の講師と交流を深め率直に意見を交わし、より良い講義の方法を模索する過程で数々の“気付き”がありました。講師仲間と切磋琢磨することで成長できたと感謝しています。

<<多忙な社業と併行して講師活動を続けてこられました>>

当社の機械警備部門をはじめ各種警備業務、営業など幅広く携わり、講師だからこそ社業で良い結果を出すのだという信念で励んできました。

2021年に開催された大規模国際イベントでは、多くの警備会社が協力し資格者を含む多数の警備員が安全を守りました。私も警備に従事する中で、特別講習講師として積み重ねた経験の意義を改めて実感したものです。

警備業のニーズは高まっていますが地位向上は課題です。私たち講師は、指導教育に情熱を注ぎ、多くの警備員の知識技能の向上を図ることが、警備員に対する世間の評価を高めていくと考えます。

<<特別講習講師を目指す方にどのような言葉を贈りますか>>

社業と講師活動の両立は、それが許される環境にいる人に限られるものです。受講生の心を開いて能力を引き出すには人としての魅力を磨くことが大切と思います。

以前、講習会場で修了考査を終えた受講生から、こんな言葉を掛けてもらいました。「吉野先生の講義を受けて、警備の仕事に夢と希望を持つことができました」。あの時の受講生の目の輝き、笑顔は心に焼き付いています。講師だからこそ体験できる感動をあなたも味わってみませんか。ともに頑張りましょう。

警備業ヒューマン・インタビュー
――父子で協会活動2023.08.01

前島順二さん(エス・エム・ティ・ガードシステム 代表取締役社長)

「制服への思い」強く

<<社名の「エス・エム・ティ」にはどのような意味が込められているのでしょう>>

会社設立に携わった、私の父・前島二郎(91)ら3人のイニシャル「S・M・T」にちなんだものです。

父は埼玉県警本部捜査一課長を経て、越谷警察署長を務め、58歳で定年退職し、埼玉県警備業協会常務理事として2年間、事務局運営に従事しました。警協を退職後、同志3人で警備会社を興しました。ただ、設立後に2人がそれぞれの事情で会社を離れ、父1人で経営することになりました。

当時の私は第二地方銀行に勤めていましたが、孤軍奮闘する父を支えようと決断し、96年に転職しました。2008年から私が代表取締役に就き、この7月に設立30周年を迎えました。

<<節目の年に、埼玉県警備業協会の副会長に就任しました>>

埼玉警協ではこれまで、災害対策委員を6年、県東支部長を3期6年務めました。支部長を兼ねながら災害対策委員長として埼玉県エリアで実施される「九都県市合同防災訓練」にも携わってきました。埼玉警協は現在、春・秋の交通安全運動などボランティア活動にも力を入れ、地域社会との結び付きを強めています。

協会活動を通じ、警備業は公共性を帯びた職業だと再認識しています。会員286社が協会の一員として、本業に注ぐエネルギーの一部を社会に振り向けることで、警備業の社会的なステータスや信頼が向上するという思いで副会長の職務を果たしていきます。

防災訓練などに参加すると、警備員は民間でありながら、いかに周囲から公共性の高い存在だとみなされているかと実感します。その公共性の根源は、警備員の「制服」だと思います。そのような考え方は、官と民で制服の仕事に携わってきた父の背中を見てきたためかもしれません。

<<交通誘導警備がメイン業務とのことですが、この30年でどのような変化がありましたか>>

当社は設立以来、もっぱら道路舗装などの工事現場の交通誘導を担当してきました。以前は公共工事の現場での交通誘導が多く、従業員数もピーク時は50人近くいた時期もあります。

しかし、公共工事の現場での交通誘導業務は、下半期に発注が偏りがちで、仕事量の季節変動が激しく不安定です。また、ある道路舗装の大手から公共工事の警備を受注した際、契約に基づいて算出した請求額と入金額が合わないということがありました。入金手数料分の誤差では済まない金額です。問い合わせると、先方は「単価の計算方法が違う」などとはぐらかし、支払う意思がありません。法的手段に出て回収しようとすれば、時間や労力を消耗し、かえって不採算なので結局“泣き寝入り”です。「この業界ではよくあること」と受け入れる下請事業者もいるようですが、その会社と当社は取り引きしていません。

近年は、ガス会社からの配管工事の現場での交通誘導や道路の側溝の清掃作業時における交通誘導など、民間の仕事を中心に受けています。従業員数も16人と少数です。うち5人は創業当時から勤める熟練者です。

<<警備員の処遇改善や採用活動については?>>

今春、平均6%の賃上げを実施しました。物価上昇が続いていますし、さらに賃上げする必要があります。そのためにも警備料金の改定が必要で、9月に引き上げる予定です。

値上げによって取引先が離れるとか、受注できなくなるとか心配しても始まりません。公共工事が増える下半期になれば、警備員不足は今より深刻になるので、値上げしても十分需要はあると見ています。

<<警備員不足には、何か対策を講じていますか>>

ハローワークや紙媒体の広告、ウェブサイトを駆使して募集してはいますが、そう簡単には集まりません。

そこで、いま働いている従業員の「働きがい」や「満足度」のアップに注力することにしました。現場でいきいき働く当社の警備員を見て、働く意欲を持った経験者に来てもらいたいのです。

その一環として、30周年の節目にロゴマークの制定や制服のデザイン変更、ウェブサイトの改修も進める予定です。

制服はデザインだけでなく、従業員の声を聴きながら実用性も兼ね備えたものにしたいです。警備員経験者であれば、機能面に着目して当社に興味を持ってくれるのではないでしょうか。制服を清潔に着る警備員は、仕事の質が向上し、社会から信頼されると確信しています。