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警備業ヒューマン・インタビュー
――静岡警協新会長2021.07.21
立川勝彦さん(静岡警備保障 代表取締役社長)
教育通じて底上げ図る
<<静岡県警備業協会の会長就任早々に熱海の土石流災害が起きました>>
亡くなられた方やご遺族の方々にはお悔やみ申し上げます。従業員を含め会員企業に被害はありませんでしたが、発生2日目に義援金を贈ることを決めました。被災現場近くの「伊豆山神社」には毎年参拝していたので、「こんな近くで」と驚くばかりです。
<<異業種から警備業界に転身されました>>
大学を卒業後、大手IT企業で働きました。当時はまだサーバー以前の汎用機(大型コンピューター)の時代でしたから、コンピューターの基盤プログラム(OS)を作るプログラマーとして7、8年働きました。
当時、私が担当したのはJAXA(宇宙航空研究開発機構)や銀行などで、組織が大きすぎて自分の仕事がどう受け止められているかが分かりませんでした。
もちろん、社外の誰とも会わず、毎日機械と向き合って保守を繰り返す仕事だということは理解していました。一方で、定年まで勤め上げる人が社内にほとんどいなかったので、「このままずっと働き続けられる仕事ではないかもしれない」――そんな疑念にとらわれるようにもなりました。
その頃、両親が警備業を営んでいて、働くことに悩んでいた私に「手伝わないか」と父である社長が声を掛けてくれたのが私の転機です。1995年に転職しました。
転職後、仕事で必要だったため「交通2級」を受けに行きましたが、当時講師だった前島秀規全国警備業協会研修センター長や徳田和人前会長(大静警備保障)にそこで初めてお会いしました。なぜかその時、お二人の目に私が留まったらしく、「講師をやってみないか」と声を掛けてもらったのを鮮明に覚えています。今思うとその時が特別講習講師になったきっかけです。
特別講習講師になった理由はもう一つあります。88年に創業した父の警備会社には私より若い社員が一人もおらず、最も近くても10歳以上離れていたので、「親子の縁で入社してきた若造」のようにしか思われていなかったのではないでしょうか。そうした見方を跳ね返したい気持ちもあり、「講師になりたい」と社長に相談し、教育者の道に踏み出しました。
<<「特別講習講師」経験者の会長就任です>>
当警協は歴代会長が「教育重視」のスタンスです。初代の村松隆会長(日月警備保障静岡)の時に特別講習制度が始まり、全国で第1回目の特別講習は静岡県で開催されました。以降、有能な講師が次々に輩出される中、「資格者を育てることで業界全体のレベルを上げる」という感覚が協会内で育まれてきたのです。徳田前会長、渡辺安秋前々会長(静岡帝国警備保障)も講師出身です。
<<複数の社会活動に取り組んでいると聞いています>>
自治会長とその活動の中で取り組む自主防犯組織の会長、また住んでいる地域のスポーツ協会会長です。4月に任期満了で退任しましたが、地元の沼津警察署協議会委員や警察から委嘱される少年補導員の活動も行っています。学生時代に熱中したバドミントンの人脈が社会活動の起点です。
社会的な活動に従事すると会社以外の人とのつながりが生まれます。今回会長を引き受けたのも、「任期で退任するから代わりに協会を引っ張ってほしい」と徳田前会長から依頼されたことが大きな理由です。
人から何かを頼まれた際、応えられる状態であるならなるべく応えようと常々思っています。自分自身が気付けていない何かよい部分を自分の中に見つけ出してくれたと思うからです。そのようなスタンスは人生でも仕事でも重要だと考えています。
<<今後力を入れて取り組みたいことは何ですか>>
前会長の時に、会員全員がいずれかの部会に所属する形に協会の枠組みを変えました。協会全体の活性化が目的です。まずはその定着と実効性を確保します。
教育事業も当然外せません。特別講習はある意味「ライバル社のスタッフを育てている」とも言えますが、「情けは人のためならず」です。県全体が底上げされれば最終的には会員各社の経営に好影響を与えます。そう考え、引き続き講師をバックアップします。
<<警備業のイメージが若者を中心になかなか上向きません>>
ドラマや映画が「落ちぶれた生活(人)」を表現するとき、警備員や清掃員を使い過ぎです。あれを見た若者が警備業に夢を持てるはずがありません。業界全体でイメージアップに取り組むことが必要です。
警備業ヒューマン・インタビュー
――石川警協新会長2021.07.11
上田紘詩さん(東洋警備保障 代表取締役)
女性活躍は企業の強み
<<石川県警備業協会の理事を23年務めて会長に就任されました>>
この20年余り、警備業は大いに成長を遂げてきましたが、一方で慢性的な警備員不足や適正料金確保などの課題を抱えています。
当協会が掲げる重点目標は、優秀な人材の確保です。処遇改善や職場環境の改善とともに、求職者や地域社会に向けてイメージアップを図ることが重要と考えます。
過去には“3K”のマイナスな印象が警備員に付いて回りましたが、昨今は「エッセンシャルワーカー」との認識が広がり、イメージをより高めていくチャンスです。
私は40年前、当社「東洋警備保障」に入社した時に“警備業は高齢者の職場”といった世間一般のイメージを変えたいと考えて取り組んできました。
<<お父さまが創業しました>>
父の上田浩嗣会長は、工業用ゴム製品の商社経営が本業ですが、52年前に警備業の経験者を含む複数の友人と当社を設立しました。90歳を過ぎて健在です。
学生時代は、商社と警備会社を営む父の後ろ姿を見て“会社経営は苦労が多いようだ”と思いました。世界をまたぐ貿易業に憧れて大学卒業後に米国へ渡り、老舗の線香メーカー「日本香堂」ロサンゼルス支店で営業職に就きました。
ロス市内で見かける警備員は、拳銃を携帯して業務を行っており、日本とは権限も社会的ステータスも違うと感じたものです。3年ほど勤務するうち、故郷で経営に携わりたいとの思いが生まれ、当社を継ぐため帰国しました。
入社時の警備員は80人で、平均年齢は60歳を超えており、女性はわずか2人でした。
高齢男性だけでなく若者も女性も集まって、いきいきと活躍する職業であってほしい、それが企業の発展につながると強く思いました。新規顧客の開拓と警備品質の向上、人材確保に取り組んだのです。
女性の集まる企業には男性も集まるに違いないと考えて、女性警備員の雇用を広げました。現在、警備員249人のうち女性は32人です。
<<警備業の課題の一つである女性活躍をどのように推進してきましたか>>
以前は、女性警備員を採用しても定着につながらない悩みがありました。そこで女性社員による雇用推進委員会を立ち上げ、女性のニーズが高い配属先の調査研究などを行いました。
現在、商業施設の警備やプール監視業務、機械警備の管制センターなどで女性が活躍中です。営業所長などの管理職に4人の女性社員が就いています。子育てや介護を抱えた男女社員の事情に合わせた柔軟な勤務シフトは大切です。
2017年には女性だけの警備員チーム「TLIP(トリップ)24」を編成し、各種施設やイベントの警備を行っています。女性活躍推進は企業の強みとなり“ブランド力”を高めるものです。
こうした経営面では、関西の商家で生まれ育ち他業種で経営者の経験もあった母の影響を受けたと思っています。経費の無駄を省く、周囲への気配りを忘れない、「より良い仕事をして当社のファンを増やそう」という心構えなどです。
<<昨年、社内に陸上競技部を立ち上げました>>
県内で陸上部を持つ企業は、当社が初めてのようです。学生時代に陸上競技を経験した社員の発案で発足し、部員6人が日本陸連に登録して県大会などに出場しました。社会人になっても陸上を続けたいという求職者が当社ホームページを見て入社し、人材確保に結び付いています。
<<警備業が一層のイメージアップを図る上で何が必要でしょう>>
前提として職業の魅力づくりが大切になります。社員が幸福になってこそ、会社の存在意義があると思います。より多くの警備員が結婚してマイホームを建てることができるように、業界一丸で適正料金確保と待遇改善を促進しなければなりません。今まで以上に魅力ある職場であることをPRするのです。
また、警備業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むことで、社会的な信頼とイメージを高めます。「健康」「教育」「雇用」など17の分野があり、社員の健康増進や労働環境の整備、地域貢献活動など、方法は多様です。
当協会の青年部会は、警備業のイメージアップを視野にSDGsについて調査研究をスタートしました。次世代の業界発展を担う若手経営者・経営幹部が、青年部活動を通じて成長してほしいと思います。
AI、5Gなど技術革新が著しい時代にあって、社員が団結力を高め、テクノロジーとマンパワーを結合させることで「100年企業」が構築できると考えています。
警備業ヒューマン・インタビュー
――女性新会長2021.07.01
田﨑真弓さん(高草木警備保障 代表取締役社長)
22歳で警備会社起こす
<<福井県警備業協会の新会長に就任されました。現職では山口県の豊島貴子さんに次いで2人目の女性会長です>>
会長として力を入れたいことが2つあります。まず「適正な警備料金の確保」です。経営基盤確立のためには原資が必要で、それは警備員の処遇や業界の大きな課題である人手不足の改善にもつながります。県内の警備会社が歩調を合わせる必要があり、加盟各社にご協力をお願いしたいです。
もう一つは「女性活躍の推進」です。女性警備員が働きやすい職場環境の整備を進めたいと思っています。私もかつて警備員として現場で勤務した経験がありますが、特に交通誘導警備業務では女性が使用できるトイレの確保など、多くの課題があります。
女性警備員の拡大は、人手不足対策のほかに業界のイメージアップ、現場の雰囲気が和むことでコミュニケーションの広がりなどにもつながりますから現状を改善していきたいです。
<<22歳のときに高草木警備保障を立ち上げたそうですね>>
高校を卒業して金融関係の仕事に就いたあと、警備会社に入社して1年半ぐらい警備員を経験しました。業務にやりがいを感じたことと、時代に関係なく求められる「安全安心」を提供するところに将来性を感じました。小さなアパートの一室からのスタートでしたが、協会や加盟会員の方々に支えられて四半世紀にわたって続けることができました。
社名は当初、「TAKAKUSAKI」とローマ字表記でした。高草木克典さんという方と一緒に創業したからで、私の名字「TASAKI」も含まれています。しかし25年前はローマ字の社名は一般的ではなく、「高草木」に改めました。高草木さんは10年ほど前に胃がんで亡くなりましたが、皆さまに認知いただいている社名で私自身も気に入っており、今後も変えるつもりはありません。
<<主な警備業務は「列車見張」です>>
ご承知のように列車見張は、鉄道車両の接近を確実に把握し、工事管理者に伝え、作業者の安全と列車の安全運行を確保することが業務の目的です。
当社が列車見張業務を行うようになったきっかけは開業時にさかのぼります。当時はまだ工事作業者が列車見張員を兼任する現場が多く、作業に夢中になってしまうことから列車と接触する事故が発生していました。ある大手保線業者が列車見張を専任で行う警備会社を探していて、当社を訪ねてくださいました。県内唯一の「列車見張が主業務の警備会社」として取り組むことにしました。
高い技術と集中力が求められる業務であることから、警備員教育には力を入れています。新任教育は法定の20時間ではとても足りず工事管理者に「見極め」をもらうまで、約1か月間の現場教育をマンツーマンで行います。
<<会社の取り組みとして、ホームページに月ごとの警備員の空き人数と、請求する警備料金を表示しています>>
表示を始めたのは3年前からです。県内のほかの警備会社にも勧めており、掲示する会社は少しずつ増えています。
繁忙期など警備員が不足する時期には特に、空き人数を新たに書き込むとすぐに依頼の電話を頂きます。発注者も各社で準備できる警備員数が一目でわかりますし、警備料金は各社が適正金額を明示することで、ダンピング防止にもつながります。当社のホームページはおかげさまで毎月約1万アクセスを超えています。
<<ホームページには「平均年齢34.71歳」とあります。若い警備員を採用する秘訣は何でしょう>>
警備員からは入社前に「適正な警備料金を明示していることで、一定の処遇が保障されている」と感じたことを聞きました。社内行事など若者たちの楽しそうな画像に魅かれたという声もあります。若い人が多い職場は若い人を呼び込むようです。
日々心掛けていることは、社員の悩みを早期に見つけて声を掛け、解決することです。経営者自らが警備員一人ひとりと本音で向き合う必要があることから、会社の規模を拡大しない方針で続けてきました。
<<経営者に協会会長としての任務が加わり、さらに急がしい毎日になりました>>
もう一つ“母親”の顔もあります。現在、主人・13歳の息子と3人で暮らしています。主人は自営でコンサートなどの舞台照明の仕事をしており、土日祝日の勤務です。息子は障がいがあるのですが、私と主人のどちらかがそばにいてあげることができます。