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警備業ヒューマン・インタビュー
――IT企業と連携2022.05.21

藤井義久(AndSecurity)

えっ、身売り!?でもよかった

<<AndSecurityは来年設立50周年を迎えます。新たな船出を前に、IT企業と連携していく道を選択しました>>

当社は交通誘導警備や列車見張り警備を中心に業績を伸ばしてきました。10年ほど前に売上高はピークを迎えましたが、その後下り坂をたどります。仕事量はあったのですが警備員を募集しても応募者が集まらず、受注を増やせない状況に陥ったのです。

低迷が長期化し、鈴木一法前社長は外部の力を借りて事態を打開すると決断します。当時副社長だった私は「えっ、身売りするのか」と驚きました。非常に悩みましたが、現状を打破するにはやむを得ないと納得しました。私は手を組んでよかったと思います。

<<ITを活用した経営改革が順調に進んでいるからですね>>

2020年12月、警備業向けIT関連サービスを手掛けるAIK(アイク・東京都千代田区、宮宗唯社長)の100%子会社となりましたが、当初はコロナ禍で業績が伸び悩みました。しかし、昨年後半からは上向きつつあります。AIKが提供する警備会社と依頼者のマッチングシステム「AIKorder」を通じて新規受注が増え、IT力を生かした提案には手応えがあります。

顧客への提案だけでなく、あらゆる業務でデジタル化を推進しているところです。情報共有ツールを使い社内のやり取りを合理化したほか、会議もウェブで行い時間を有効活用しています。

営業管理の面では、担当者任せだった顧客アポイントの件数や受注見込み数をきめ細かく記録・報告するやり方に変え、会社全体の営業の流れを「見える化」して全員が把握できるようにしました。

<<AIKグループ入りを社員はどのように受け止めましたか>>

私が抱いた「青天のへきれき」という感情は、多くの社員も同じだったと思います。「業績は下がったが自力再建できる」という社員もいました。反対意見がある中で経営幹部が何度も話し合い「余力があるうちにAIKのIT力を使い、デジタル化などの抜本的対策を打たないと手遅れになる」との結論に達しました。

その後、180人の従業員に公表したのですが「業務内容は従来と変わらない。雇用も維持される」と伝えると反対意見は全くありませんでした。誰1人辞めることなく、ついてきてくれることを了承してくれました。

<<M&Aには複数の企業が名乗りを上げたのですか>>

AIKと警備会社、建設会社の3社です。警備会社と建設会社の提案は「想定の範囲内」でしたが、AIKはあらゆる業務をデジタル化するやり方を示すなど斬新な内容が印象的でした。それでも警備の対極にあると考えていたIT業界の会社と手を結び一緒にやっていくことはイメージできませんでした。

ところが鈴木前社長はAIKの力を借りて改革することを決定します。AIKは株式取得費用に6億円、アドバイザー料として5000万円の価値があると算定してくれました。

<<改革の姿勢を鮮明にするため社名も変更しました>>

昨年10月、警備業界に新たな価値を加えていく思いを込めた「And」に安心を提供して得られる「安堵」を掛け合わせてネーミングした新社名に変更しました。英語の社名としたのは、若者の関心を引き採用を増やしたい狙いがあります。AIKの助言で人材紹介会社を利用した採用も始めました。求人を出して応募を待つよりも、入社の意思がある人を確実に採用できるようになりました。

M&Aの後、鈴木前社長が退任の意向を示し次期社長はAIKから派遣されると想像していました。ところがAIKは私を社長に指名したのです。「警備業の経験豊富な人にトップを務めてほしい」ことが理由でした。

私は学生時代のアルバイトがきっかけで入社し、交通誘導警備員を5年ほど勤めて内勤に移り、管制業務を約30年担当してきました。警備業のことはよく分かっているつもりですし、今の当社に足りない部分も承知しています。まずは営業強化が最重要課題と考えテコ入れしているところです。

<<取引先や同業他社の反応はいかがですか>>

「(IT企業と組み)どうなの?」とよく聞かれます。同情されたり批判されることもありますが、AIKは当社に判断の多くを任せてくれますし自主性も尊重してもらえます。

もし、ほかの警備会社の傘下に入っていたら従来のやり方や考え方を全て否定され、退職者が相次ぎモチベーションが大幅に低下する状況を招いたかもしれません。AIKとは協力しながら適度な距離感を保てる「よい関係」になっています。

警備業ヒューマン・インタビュー
――健康経営2022.05.01

三上葉月(美警)

全社員128人のカルテ作成

<<3月9日、経済産業省が認定する「健康経営優良法人2022」中小規模法人部門で、上位500社の「ブライト500」に選ばれました。警備業で12社、「けい」は2年連続です>>

健康経営は、社員の健康を経営資源の一つと考えて健康増進を図る取り組みです。当社は、健康診断の結果をもとに行政のサービスも活用し社員128人全員の「健康カルテ」を作成しています。

健康カルテは、血圧や血糖値、既往症、食事の偏りなどを記載します。以前は、検診結果は本人に渡すだけでしたが、2020年から釧路市役所健康推進課の保健師に検診結果を分析してもらい、留意点などを健康カルテに落とし込みます。社内の担当者は、社員一人ひとりと個別に面談して食事や睡眠、メンタル、健康全般について話し、通院治療を促すこともあります。

60歳以上の腫瘍マーカー検査、ウォーキングの推奨、地場産の野菜を豊富に使う食事イベントの定期開催なども重ねてきました。偏らない食事と日々の運動を心掛けて10キログラム以上減量した社員が昨年は5人、血圧や血糖値を改善した社員も複数います。

警備員からは「食事や生活習慣を気遣われ、会社から大切にされていると感じる」という声を聞きます。警備員の間で、健康管理は関心の高い共通の話題となっています。

<<どのような思いで健康経営に取り組んでいますか>>

皆が元気に、より長く働いてほしいという思いです。社員のうち警備員は87人で、3分の1は60歳以上です。交通誘導警備のベテラン隊員が生活習慣病の悪化によって、まだまだ働きたいのに心ならずも離職した時は、残念でなりませんでした。警備先の安全安心、社員の健康、どちらも努力することなしには実現できないもの、会社一丸で獲得するものと考えています。

こうした思いを共有し実践する管理職の存在は重要です。陸上自衛隊の駐屯地で糧食を担当した元自衛官が2年前に入社し、健康経営に関連する実務全般に携わり、バランスの良い食事を社内に広めたことは警備員の健康増進につながっています。

<<4月に創業35周年を迎えました>>

当社は私の父・三上弘信が創業しました。警察官だった父は、退職後に地域社会の安全に寄与しようと社員3人でスタートし、私は創業13年目に総務・経理担当として入社しました。

父は昔気質で器用でなく、社員にそっけない態度をとることも多々ありました。そんな父の背中を見て「もっと社員に労いの言葉を掛けて親しみを持ってもらえば、職場は明るくなるのに」と思ったものです。私は“男性社会”の警備会社を継承したいとは考えませんでした。

19年前、父は70歳で急病のため他界しました。元気だったのに突然の別れとなって、「この会社を継がなければ」と考えました。社業発展を目指しながら志半ばで世を去った父の無念を思っての決断でした。

当時警備員は50人ほどで、私が代表に就任したことに社内の反発もありましたが、多くの方々に支えられ経営の舵を取りました。交通誘導警備の需要は伸び社員も増える中で、労災事故や不祥事も経験し「教育・訓練に全力を注いで質の高い業務を提供しよう、明るく働きやすい職場をつくろう」との思いで走り続けてきました。

<<お父さまから受け継いだものは何でしょう>>

父が残した社訓は「無事出社 無事帰社」。素朴な言葉ですが、これは警備員だけでなく現場を通行する全ての人や車両の「無事」を意味し、警備のプロの決意が込められています。コロナ禍で警備員の体調管理に万全を期す日々が続いて、社訓の意味を改めて噛みしめました。

私が健康経営を進める源には、父の社訓があるように思います。質の高い警備業務の原点となるのは、手厚い教育とともに日々の健康維持なのです。

当社は「赤」を基調とする警備服を導入して8年目になります。赤は視認性が高く、いち早くドライバーに注意喚起する効果があります。“赤い警備服は女性経営者の感性ですね”と言われたこともありますが、事故を予防し「無事帰社」するためです。

新卒採用を行って10年になります。健康経営優良法人の認定は、求職者に対する企業のイメージアップにつながるものです。新たなアイデアも考えて、より健康な職場づくりを進めていきます。